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4.別れの言葉は誰のため?
さよなら
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「悠里が待っています」
あの話し合いから二日が経ち、白川の希望であの図書室で会えることになった。
翠澪の皆が帰るのは明日の昼。
あの日、結局沙良のお化け屋敷にも行かず、咲坂・翠澪合同学園祭は幕を閉じた。
沙良からはなにかと文句を言われたものの、私の様子を察してか、「しかたないなあ、もういいよ」とそれだけで済ませてくれた。
「白川?」
大きな図書室にはあまりにも声が小さすぎた。それでも、興奮と多少の不安で声が震えているのを白川に知られたくなくて、その声のまま奥へ進む。
共有スペースとされているテーブルが並べられているところで一人の姿を見つけた。
白川だ──。
この機会が設けられたのはありがたかったが、言えば少し怖さもあった。
他人行儀に振る舞われること。
それがなにより辛くて。
でも今は、ちゃんと話せることへの興奮が勝っているのかもしれない。
どう声かけよっかな……。
一度出直したほうがいいのかもしれない。
そう思って一旦本棚の陰に隠れる。
おはよう、とか?
久しぶりだね……?
って言ってもこの間会ってるしなあ。
ううん、違うよね。
素直になればいいんだ。素直に「会いたかった」とでも「ずっと待ってたんだよ」とでも。私は私のまま、変わらずにいればいい。
意を決して、本棚の陰から飛び出す。
「あれ?」
白川がいな──
「わっ」
いきなり後ろから肩を叩かれた。
「わあっ」
パッと後ろを振り返る。
「白川──」
「久し振り、とわ」
そう言って彼は──白川は笑った。
また……笑ってくれたの?
「お、泣く?泣くか?子どもになったな、とわは。あの頃はいっつも我慢してたのに。俺の兄弟たちに甘やかされたんだろ」
「な、泣いてなんかないし。てか、おっきくなったんだからっ」
そうか~?、そう笑って私を席につかせた。
そしてその向かえに彼自身も腰を下ろすと、私たちはただひたすらに共に過ごせなかった八年の時間を埋めるように会話した。
「さてと」
そう話に区切りをつけたのは白川だった。
「本当はこんな話じゃないよな」
私は静かに頷いた。
話さなければいけないのはこれじゃない。計画が始まった理由や、白川の想い。
「八年前、私たちは約束を交わしたよね」
今度こそは白川も頷いた。
「あの約束を私は今でも待ってた。「必ず迎えに行くから」ってそう誓ってくれたんだもん。私は信じていいんだよね?」
白川は何も言わず私を見つめた。
けれどその口が何かを告げそうになると私は白川の返事が怖くなって、彼の返事を遮るようにまた続けた。
「私ね、気づいたの。流生や怜たちが気づかせてくれたんだ。あのね、私ね白川に恋してたんだよ。だから、八年もの間待っていられた。それを伝えたかったんだよ」
「そっか」
そう言って白川は微笑んだ。
そして口を開く。
「とわ、俺も今日伝えに来たんだ」
「……何を?」
「あのさ、八年前確かに俺らは出会ったけど、あの日約束を交わしたのは俺じゃないんだ」
何を……言い始めるの?
「ごめん、本当はあの日父さんに呼ばれて昼間に俺、帰ったんだよ。でもとわが帰るのは明日だし……って。それで急きょ呼んだんだ」
もう一度「ごめんな」と言ってから白川は言ったんだ。
──あの日のあの場所で約束を交わしたのは怜なんだよ。
涙が止まらなかった。
どうしてそんな嘘をつくの?
分かってるのに。あの日約束を交わしたのは、紛れもなく白川、あなたとだったよ。
それでも……ね、あなたがそこまでこの嘘を貫き通そうとするなら、私はもう何も言わないよ。
だってそんなに切なそうに笑われたんじゃ何も言えないじゃない。
「うん」
白川、あなたがこの嘘に何を込めたかなんて今の私には分からないけど、それでもこの答えが正しいとされるならそういうことなんだろう。
「分かった」
私の答えに白川は目を閉じるとただ静かに頷いた。
そしてもう一度彼が目を開けたとき、私は出来るだけの笑顔を送る。
これが今の私出来ること。
「さよなら、とわ」
白川は私と会わないという選択を選んだ。それでも今ここにいてくれている。
だから、「またね」はきっともうないんでしょ?
「さいごにこれだけは言っておくね。最高のお嬢様だよ、とわは」
ありがとう。
白川も、ね。
「さよなら、とわ」
「うん。さよなら……白川」
図書室の扉を閉めたとたん、たくさんの感情が溢れ出して、立つことも出来なかった。
あなたのついた嘘をずっと、忘れないよ。
いつかきっと当ててみせるから。そこに込められた本当の想いを。
嘘の意味を──。
「とわ」
顔をあげると、目の前には手が差し伸べられていた。
あのとき、白川が怜の名前を出したことにも何か意味があるはずで、ならば任せてみよう。
「怜」
その手を取り、名前を呼ぶ。
決めたよ、誰を選ぶか。
任せてみようと思うんだ、あなたに。
私の一生を。
あの話し合いから二日が経ち、白川の希望であの図書室で会えることになった。
翠澪の皆が帰るのは明日の昼。
あの日、結局沙良のお化け屋敷にも行かず、咲坂・翠澪合同学園祭は幕を閉じた。
沙良からはなにかと文句を言われたものの、私の様子を察してか、「しかたないなあ、もういいよ」とそれだけで済ませてくれた。
「白川?」
大きな図書室にはあまりにも声が小さすぎた。それでも、興奮と多少の不安で声が震えているのを白川に知られたくなくて、その声のまま奥へ進む。
共有スペースとされているテーブルが並べられているところで一人の姿を見つけた。
白川だ──。
この機会が設けられたのはありがたかったが、言えば少し怖さもあった。
他人行儀に振る舞われること。
それがなにより辛くて。
でも今は、ちゃんと話せることへの興奮が勝っているのかもしれない。
どう声かけよっかな……。
一度出直したほうがいいのかもしれない。
そう思って一旦本棚の陰に隠れる。
おはよう、とか?
久しぶりだね……?
って言ってもこの間会ってるしなあ。
ううん、違うよね。
素直になればいいんだ。素直に「会いたかった」とでも「ずっと待ってたんだよ」とでも。私は私のまま、変わらずにいればいい。
意を決して、本棚の陰から飛び出す。
「あれ?」
白川がいな──
「わっ」
いきなり後ろから肩を叩かれた。
「わあっ」
パッと後ろを振り返る。
「白川──」
「久し振り、とわ」
そう言って彼は──白川は笑った。
また……笑ってくれたの?
「お、泣く?泣くか?子どもになったな、とわは。あの頃はいっつも我慢してたのに。俺の兄弟たちに甘やかされたんだろ」
「な、泣いてなんかないし。てか、おっきくなったんだからっ」
そうか~?、そう笑って私を席につかせた。
そしてその向かえに彼自身も腰を下ろすと、私たちはただひたすらに共に過ごせなかった八年の時間を埋めるように会話した。
「さてと」
そう話に区切りをつけたのは白川だった。
「本当はこんな話じゃないよな」
私は静かに頷いた。
話さなければいけないのはこれじゃない。計画が始まった理由や、白川の想い。
「八年前、私たちは約束を交わしたよね」
今度こそは白川も頷いた。
「あの約束を私は今でも待ってた。「必ず迎えに行くから」ってそう誓ってくれたんだもん。私は信じていいんだよね?」
白川は何も言わず私を見つめた。
けれどその口が何かを告げそうになると私は白川の返事が怖くなって、彼の返事を遮るようにまた続けた。
「私ね、気づいたの。流生や怜たちが気づかせてくれたんだ。あのね、私ね白川に恋してたんだよ。だから、八年もの間待っていられた。それを伝えたかったんだよ」
「そっか」
そう言って白川は微笑んだ。
そして口を開く。
「とわ、俺も今日伝えに来たんだ」
「……何を?」
「あのさ、八年前確かに俺らは出会ったけど、あの日約束を交わしたのは俺じゃないんだ」
何を……言い始めるの?
「ごめん、本当はあの日父さんに呼ばれて昼間に俺、帰ったんだよ。でもとわが帰るのは明日だし……って。それで急きょ呼んだんだ」
もう一度「ごめんな」と言ってから白川は言ったんだ。
──あの日のあの場所で約束を交わしたのは怜なんだよ。
涙が止まらなかった。
どうしてそんな嘘をつくの?
分かってるのに。あの日約束を交わしたのは、紛れもなく白川、あなたとだったよ。
それでも……ね、あなたがそこまでこの嘘を貫き通そうとするなら、私はもう何も言わないよ。
だってそんなに切なそうに笑われたんじゃ何も言えないじゃない。
「うん」
白川、あなたがこの嘘に何を込めたかなんて今の私には分からないけど、それでもこの答えが正しいとされるならそういうことなんだろう。
「分かった」
私の答えに白川は目を閉じるとただ静かに頷いた。
そしてもう一度彼が目を開けたとき、私は出来るだけの笑顔を送る。
これが今の私出来ること。
「さよなら、とわ」
白川は私と会わないという選択を選んだ。それでも今ここにいてくれている。
だから、「またね」はきっともうないんでしょ?
「さいごにこれだけは言っておくね。最高のお嬢様だよ、とわは」
ありがとう。
白川も、ね。
「さよなら、とわ」
「うん。さよなら……白川」
図書室の扉を閉めたとたん、たくさんの感情が溢れ出して、立つことも出来なかった。
あなたのついた嘘をずっと、忘れないよ。
いつかきっと当ててみせるから。そこに込められた本当の想いを。
嘘の意味を──。
「とわ」
顔をあげると、目の前には手が差し伸べられていた。
あのとき、白川が怜の名前を出したことにも何か意味があるはずで、ならば任せてみよう。
「怜」
その手を取り、名前を呼ぶ。
決めたよ、誰を選ぶか。
任せてみようと思うんだ、あなたに。
私の一生を。
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