28 / 38
4.別れの言葉は誰のため?
覚えてる?
しおりを挟む
えっと……確かここら辺にティータイムでの作法の本とかあったんじゃないっけ。
なんて言っても本とかあまり読まないしなあ。
沙良に聞いたほうが早かったかも。
「それにしても広いな」
ランニング出来るんじゃない?って思うくらい。先生の案内で一度来ただけで、全てを見たわけではなかった。
ちょっとだけ……
皆のこともあるけど、ちゃんと本持っていくからさ、ちょっとだけ冒険するのを許してください!
そして聞こえるはずのない許しの声に頷いてから私は走り出した。
・・・
ひ、広い……
さすがお嬢様学校。
息を吐いてぐるっと見渡す。
走りながら一応本がないか探していたんだけど、それらしい本はどこにもない。
ふとはしごが目に留まった。
あの上、探したっけ?
まだ息が完全に整ってないまま、はしごに手をかけ上る。
あとちょっ──
「わっ」
足を滑らせた。そんなのは一瞬で分かった。それからは全てがスローモーションに見えて……。
落ちるっ!
「危ないっ!」
え?
その声と同時に私の体は宙に浮いた。正確に言ったら、支えられたんだ。
でも、この声──
「大丈夫ですか?」
白川──
「怪我はないですか?」
私の顔を覗き込んで、そう言った。
やっと……。
「白か──」
「何となく転んだり、落ちたりって予想はしていたんですけど……。ほんとに落ちちゃうとは。元気なお嬢様ですね」
何でそう……他人行儀なの?
私の顔を見てか、彼はいきなり慌て始めた。
「あ、すみません。悪く受け取らないでください。私はいい意味で言ったんです。私のお嬢様には見られない光景でしたので」
私のお嬢様、か。
そうやって白川は私との間の線をはっきりさせるんだ。
それは遠回しにもう私の執事なんかじゃないって、E・Bの資格だって私のためじゃないって、そう言ってるんでしょ?
そう思うと涙が出てくる。
人前で泣くなんて好きじゃない。
でも、それでも悲しくて……。
「どうしましたか。私、そんなに失礼なことを」
「白川、もういいよ」
「え?」
私は白川に精一杯の笑顔を送る。
ひきつってないよね?
「私ね、今でも約束を信じて待ってた。でもそれがあなたの重りになっていたんだね。白川、あなたが引いた線を無理矢理越えたりなんかしないから」
白川は何か考えているようだった。
それでもこれだけは聞いておきたくて。
「ねえ、あの日の約束を今でも覚えてる?」
何も反応がない。
もう分かったよ。
もう一度彼を見つめ直す。
「なんて……。約束、忘れちゃったんでしょ?」
違うか、いらないと捨てたのか。
白川がそんなことするはずないって知ってるのに。いや、それこそ私の勝手な思い込みか。
八年はやっぱり大きかったんだ。
それまで何も話さなかった彼がようやく口を開いた。
「忘れた……?」
そう呟いてから、はっと目を見開き私を見た。
──?
・・・
「おかえりなさい」
「ごめんね、ちょっと探すのに時間かかっちゃって」
はい、と本を渡す。
あのあと、彼は何事もなかったように「何を探しに来たのですか?」と尋ね、一緒に探し始めた。
彼の気持ちは分からないけど、これだけははっきりしている。
もう、私たちの間には何の繋がりもない。
「あ、そういえばさっき涼さんが来てとわ様のこと探してらしたわ」
「涼が?」
「ええ」
何か用があったんだろうか。
「あととわ様は休憩に入ってください」
「あ、はーい」
いってらっしゃいませ、という声を背に私は教室を出た。
でも、行くとこないし……。
暇だし、皆のとこ行こっかな。
・・・
一番近い怜のクラスに入ろうと思った──んだけど。
「だよねぇ」
やっぱりお嬢様方が群がっている。多分翠澪の子達だろうな。
ってことは皆一緒か。
翔矢の所にも行ったけれど、やっぱり状況は同じで。「とわっ」と翔矢の声が聞こえたものの、どこにいるのか全然分からなかった。
あとは涼と流生のとこか。
遠いなあ。
涼と流生は大学生だから、あっちに行くまで時間がかかる。
周りの足早に歩くお嬢様たちもきっと涼や流生のとこに行くんだろうな。
:::
やっと着いたのはいいんだけどさ。それに予想もしてたけどさっ。
「人、多いなあ」
それをかき分けて涼のクラスまで進む。
「ここかあ」
涼たちのクラスはカフェらしい。
でも怜たちほどの人の出入りは見られなく、落ち着ける場所みたい。
あ、涼だ。
「入りますか?」
「はい」
あ、でも……
今にも「一名入ります」と叫びそうな彼を止める。
「涼を驚かせたいの。だから、内緒で」
「あ、花沢様でしたか。分かりました。裏からでも入ります?」
「いいの?」
ええ、と笑うと私を裏に通してくれた。
翠澪の執事かな?
涼は楽しそうに話している。
もうちょっと近づいて……。
十分に驚かせられる場所まで来た。
「んで、どうなんだよお嬢様は」
「うん、変わらなかったよ」
私……?
「良かったな。あれだけ望んでたんだもんな」
「まあね。でもやっぱり悠里には叶わないよ。それにとわ様は俺のこと覚えてないしね」
「大丈夫だって。悠里のことは好きだけど、好きだけどもっ。お前のことも応援してるから」
「ありがとう」
「ま、がんばれよ、神田」
え──?
なんて言っても本とかあまり読まないしなあ。
沙良に聞いたほうが早かったかも。
「それにしても広いな」
ランニング出来るんじゃない?って思うくらい。先生の案内で一度来ただけで、全てを見たわけではなかった。
ちょっとだけ……
皆のこともあるけど、ちゃんと本持っていくからさ、ちょっとだけ冒険するのを許してください!
そして聞こえるはずのない許しの声に頷いてから私は走り出した。
・・・
ひ、広い……
さすがお嬢様学校。
息を吐いてぐるっと見渡す。
走りながら一応本がないか探していたんだけど、それらしい本はどこにもない。
ふとはしごが目に留まった。
あの上、探したっけ?
まだ息が完全に整ってないまま、はしごに手をかけ上る。
あとちょっ──
「わっ」
足を滑らせた。そんなのは一瞬で分かった。それからは全てがスローモーションに見えて……。
落ちるっ!
「危ないっ!」
え?
その声と同時に私の体は宙に浮いた。正確に言ったら、支えられたんだ。
でも、この声──
「大丈夫ですか?」
白川──
「怪我はないですか?」
私の顔を覗き込んで、そう言った。
やっと……。
「白か──」
「何となく転んだり、落ちたりって予想はしていたんですけど……。ほんとに落ちちゃうとは。元気なお嬢様ですね」
何でそう……他人行儀なの?
私の顔を見てか、彼はいきなり慌て始めた。
「あ、すみません。悪く受け取らないでください。私はいい意味で言ったんです。私のお嬢様には見られない光景でしたので」
私のお嬢様、か。
そうやって白川は私との間の線をはっきりさせるんだ。
それは遠回しにもう私の執事なんかじゃないって、E・Bの資格だって私のためじゃないって、そう言ってるんでしょ?
そう思うと涙が出てくる。
人前で泣くなんて好きじゃない。
でも、それでも悲しくて……。
「どうしましたか。私、そんなに失礼なことを」
「白川、もういいよ」
「え?」
私は白川に精一杯の笑顔を送る。
ひきつってないよね?
「私ね、今でも約束を信じて待ってた。でもそれがあなたの重りになっていたんだね。白川、あなたが引いた線を無理矢理越えたりなんかしないから」
白川は何か考えているようだった。
それでもこれだけは聞いておきたくて。
「ねえ、あの日の約束を今でも覚えてる?」
何も反応がない。
もう分かったよ。
もう一度彼を見つめ直す。
「なんて……。約束、忘れちゃったんでしょ?」
違うか、いらないと捨てたのか。
白川がそんなことするはずないって知ってるのに。いや、それこそ私の勝手な思い込みか。
八年はやっぱり大きかったんだ。
それまで何も話さなかった彼がようやく口を開いた。
「忘れた……?」
そう呟いてから、はっと目を見開き私を見た。
──?
・・・
「おかえりなさい」
「ごめんね、ちょっと探すのに時間かかっちゃって」
はい、と本を渡す。
あのあと、彼は何事もなかったように「何を探しに来たのですか?」と尋ね、一緒に探し始めた。
彼の気持ちは分からないけど、これだけははっきりしている。
もう、私たちの間には何の繋がりもない。
「あ、そういえばさっき涼さんが来てとわ様のこと探してらしたわ」
「涼が?」
「ええ」
何か用があったんだろうか。
「あととわ様は休憩に入ってください」
「あ、はーい」
いってらっしゃいませ、という声を背に私は教室を出た。
でも、行くとこないし……。
暇だし、皆のとこ行こっかな。
・・・
一番近い怜のクラスに入ろうと思った──んだけど。
「だよねぇ」
やっぱりお嬢様方が群がっている。多分翠澪の子達だろうな。
ってことは皆一緒か。
翔矢の所にも行ったけれど、やっぱり状況は同じで。「とわっ」と翔矢の声が聞こえたものの、どこにいるのか全然分からなかった。
あとは涼と流生のとこか。
遠いなあ。
涼と流生は大学生だから、あっちに行くまで時間がかかる。
周りの足早に歩くお嬢様たちもきっと涼や流生のとこに行くんだろうな。
:::
やっと着いたのはいいんだけどさ。それに予想もしてたけどさっ。
「人、多いなあ」
それをかき分けて涼のクラスまで進む。
「ここかあ」
涼たちのクラスはカフェらしい。
でも怜たちほどの人の出入りは見られなく、落ち着ける場所みたい。
あ、涼だ。
「入りますか?」
「はい」
あ、でも……
今にも「一名入ります」と叫びそうな彼を止める。
「涼を驚かせたいの。だから、内緒で」
「あ、花沢様でしたか。分かりました。裏からでも入ります?」
「いいの?」
ええ、と笑うと私を裏に通してくれた。
翠澪の執事かな?
涼は楽しそうに話している。
もうちょっと近づいて……。
十分に驚かせられる場所まで来た。
「んで、どうなんだよお嬢様は」
「うん、変わらなかったよ」
私……?
「良かったな。あれだけ望んでたんだもんな」
「まあね。でもやっぱり悠里には叶わないよ。それにとわ様は俺のこと覚えてないしね」
「大丈夫だって。悠里のことは好きだけど、好きだけどもっ。お前のことも応援してるから」
「ありがとう」
「ま、がんばれよ、神田」
え──?
0
お気に入りに追加
10
あなたにおすすめの小説
この度、仮面夫婦の妊婦妻になりまして。
天織 みお
恋愛
「おめでとうございます。奥様はご懐妊されています」
目が覚めたらいきなり知らない老人に言われた私。どうやら私、妊娠していたらしい。
「だが!彼女と子供が出来るような心当たりは一度しかないんだぞ!!」
そして、子供を作ったイケメン王太子様との仲はあまり良くないようで――?
そこに私の元婚約者らしい隣国の王太子様とそのお妃様まで新婚旅行でやって来た!
っていうか、私ただの女子高生なんですけど、いつの間に結婚していたの?!ファーストキスすらまだなんだけど!!
っていうか、ここどこ?!
※完結まで毎日2話更新予定でしたが、3話に変更しました
※他サイトにも掲載中
懐妊を告げずに家を出ます。最愛のあなた、どうかお幸せに。
梅雨の人
恋愛
最愛の夫、ブラッド。
あなたと共に、人生が終わるその時まで互いに慈しみ、愛情に溢れる時を過ごしていけると信じていた。
その時までは。
どうか、幸せになってね。
愛しい人。
さようなら。
仲の良かったはずの婚約者に一年無視され続け、婚約解消を決意しましたが
ゆらゆらぎ
恋愛
エルヴィラ・ランヴァルドは第二王子アランの幼い頃からの婚約者である。仲睦まじいと評判だったふたりは、今では社交界でも有名な冷えきった仲となっていた。
定例であるはずの茶会もなく、婚約者の義務であるはずのファーストダンスも踊らない
そんな日々が一年と続いたエルヴィラは遂に解消を決意するが──
王子を身籠りました
青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。
王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。
再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。
さよなら私の愛しい人
ペン子
恋愛
由緒正しき大店の一人娘ミラは、結婚して3年となる夫エドモンに毛嫌いされている。二人は親によって決められた政略結婚だったが、ミラは彼を愛してしまったのだ。邪険に扱われる事に慣れてしまったある日、エドモンの口にした一言によって、崩壊寸前の心はいとも簡単に砕け散った。「お前のような役立たずは、死んでしまえ」そしてミラは、自らの最期に向けて動き出していく。
※5月30日無事完結しました。応援ありがとうございます!
※小説家になろう様にも別名義で掲載してます。
完結 そんなにその方が大切ならば身を引きます、さようなら。
音爽(ネソウ)
恋愛
相思相愛で結ばれたクリステルとジョルジュ。
だが、新婚初夜は泥酔してお預けに、その後も余所余所しい態度で一向に寝室に現れない。不審に思った彼女は眠れない日々を送る。
そして、ある晩に玄関ドアが開く音に気が付いた。使われていない離れに彼は通っていたのだ。
そこには匿われていた美少年が棲んでいて……
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる