始まりの場所、約束の意味

bluestar

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4.別れの言葉は誰のため?

覚えてる?

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えっと……確かここら辺にティータイムでの作法の本とかあったんじゃないっけ。
なんて言っても本とかあまり読まないしなあ。
沙良に聞いたほうが早かったかも。
「それにしても広いな」
ランニング出来るんじゃない?って思うくらい。先生の案内で一度来ただけで、全てを見たわけではなかった。

ちょっとだけ……

皆のこともあるけど、ちゃんと本持っていくからさ、ちょっとだけ冒険するのを許してください!
そして聞こえるはずのない許しの声に頷いてから私は走り出した。

・・・

ひ、広い……
さすがお嬢様学校。
息を吐いてぐるっと見渡す。
走りながら一応本がないか探していたんだけど、それらしい本はどこにもない。
ふとはしごが目に留まった。
あの上、探したっけ?
まだ息が完全に整ってないまま、はしごに手をかけ上る。

あとちょっ──

「わっ」
足を滑らせた。そんなのは一瞬で分かった。それからは全てがスローモーションに見えて……。

落ちるっ!

「危ないっ!」



え?



その声と同時に私の体は宙に浮いた。正確に言ったら、支えられたんだ。
でも、この声──

「大丈夫ですか?」




白川──




「怪我はないですか?」
私の顔を覗き込んで、そう言った。

やっと……。

「白か──」
「何となく転んだり、落ちたりって予想はしていたんですけど……。ほんとに落ちちゃうとは。元気なお嬢様ですね」

何でそう……他人行儀なの?

私の顔を見てか、彼はいきなり慌て始めた。
「あ、すみません。悪く受け取らないでください。私はいい意味で言ったんです。私のお嬢様には見られない光景でしたので」


私のお嬢様、か。


そうやって白川は私との間の線をはっきりさせるんだ。
それは遠回しにもう私の執事なんかじゃないって、E・Bの資格だって私のためじゃないって、そう言ってるんでしょ?

そう思うと涙が出てくる。
人前で泣くなんて好きじゃない。
でも、それでも悲しくて……。
「どうしましたか。私、そんなに失礼なことを」
「白川、もういいよ」
「え?」
私は白川に精一杯の笑顔を送る。
ひきつってないよね?
「私ね、今でも約束を信じて待ってた。でもそれがあなたの重りになっていたんだね。白川、あなたが引いた線を無理矢理越えたりなんかしないから」
白川は何か考えているようだった。
それでもこれだけは聞いておきたくて。


「ねえ、あの日の約束を今でも覚えてる?」


何も反応がない。
もう分かったよ。
もう一度彼を見つめ直す。

「なんて……。約束、忘れちゃったんでしょ?」

違うか、いらないと捨てたのか。
白川がそんなことするはずないって知ってるのに。いや、それこそ私の勝手な思い込みか。
八年はやっぱり大きかったんだ。

それまで何も話さなかった彼がようやく口を開いた。


「忘れた……?」


そう呟いてから、はっと目を見開き私を見た。

──?

・・・

「おかえりなさい」
「ごめんね、ちょっと探すのに時間かかっちゃって」
はい、と本を渡す。

あのあと、彼は何事もなかったように「何を探しに来たのですか?」と尋ね、一緒に探し始めた。

彼の気持ちは分からないけど、これだけははっきりしている。
もう、私たちの間には何の繋がりもない。

「あ、そういえばさっき涼さんが来てとわ様のこと探してらしたわ」
「涼が?」
「ええ」
何か用があったんだろうか。
「あととわ様は休憩に入ってください」
「あ、はーい」

いってらっしゃいませ、という声を背に私は教室を出た。

でも、行くとこないし……。
暇だし、皆のとこ行こっかな。

・・・

一番近い怜のクラスに入ろうと思った──んだけど。
「だよねぇ」
やっぱりお嬢様方が群がっている。多分翠澪の子達だろうな。
ってことは皆一緒か。

翔矢の所にも行ったけれど、やっぱり状況は同じで。「とわっ」と翔矢の声が聞こえたものの、どこにいるのか全然分からなかった。
あとは涼と流生のとこか。

遠いなあ。
涼と流生は大学生だから、あっちに行くまで時間がかかる。
周りの足早に歩くお嬢様たちもきっと涼や流生のとこに行くんだろうな。

:::

やっと着いたのはいいんだけどさ。それに予想もしてたけどさっ。
「人、多いなあ」
それをかき分けて涼のクラスまで進む。

「ここかあ」
涼たちのクラスはカフェらしい。
でも怜たちほどの人の出入りは見られなく、落ち着ける場所みたい。

あ、涼だ。

「入りますか?」
「はい」
あ、でも……
今にも「一名入ります」と叫びそうな彼を止める。
「涼を驚かせたいの。だから、内緒で」
「あ、花沢様でしたか。分かりました。裏からでも入ります?」
「いいの?」
ええ、と笑うと私を裏に通してくれた。

翠澪の執事かな?
涼は楽しそうに話している。
もうちょっと近づいて……。
十分に驚かせられる場所まで来た。

「んで、どうなんだよお嬢様は」
「うん、変わらなかったよ」

私……?

「良かったな。あれだけ望んでたんだもんな」
「まあね。でもやっぱり悠里には叶わないよ。それにとわ様は俺のこと覚えてないしね」
「大丈夫だって。悠里のことは好きだけど、好きだけどもっ。お前のことも応援してるから」
「ありがとう」




「ま、がんばれよ、神田」




え──?
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