始まりの場所、約束の意味

bluestar

文字の大きさ
上 下
5 / 38
2.繰り返すあの夏に、聞こえた合図は

朝一番に見る顔

しおりを挟む
「おい、起きろって」
白川…?
「それっ」
光る朝日と涼しい風が部屋に舞い込む。
「分かったってば」
こんな起こし方は一人しかいない。けれど、神田の時よりも目覚めがいい。澄んだ空気をいっぱいに吸い込むと彼を見る。
「何だよ…」
「いや、別に。それより怜……」
昨日話をしていて、余計に誰が本物なのか分からなくなっていった。白川のいたずらしていた時の顔は涼に似ていて、時折見せてくれた笑顔は流生に似ている。冒険を探し求めていた姿は翔矢と重なるし…。
でも、一番似てるのは怜だと思うんだよね、なんとなくだけど。
だけど全員が八年前の白川と名乗っているのだから、そう簡単に「白川」とは呼べない。それ以上にこの屋敷で「白川」なんて呼べばどうなるかなんて容易に想像できた。
「ねえ、それってうちの制服じゃない?」
怜の格好を上から下へと眺めた。
私の通う私立咲坂学院は幼稚園から大学、大学院までの一貫校で、皆揃いに揃ったお嬢様ばかり。よって彼女たちの護衛兼執事や見習い執事専用のクラスも設けられている。だから、執事クラスにもちゃんと咲坂指定の制服がある。
てことは、怜たちこっちに通うの?
当たり前か…ここから双海は遠すぎる。

昨日分かったことは上から、流生、涼、怜、翔矢。そして、大学二年、大学一年、間があって高二、中三。

そっか、今日から咲坂の執事なのか。
ん…今日から?
「今日……。あ~! 今、今何時っ?」
怜が神田から貰ったたくさんの目覚まし時計を持ち上げてみせる。顔が青ざめていくのが自分でもはっきりと分かった。
「やっばい!」
勢いよくベッドから飛び出す。
「怜、お願い。朝食は車の中で摂れるようにしておいて!」
クローゼットから引っ張り出すように制服を出し、おかげでハンガーが見事に額に当たる。
「聞いてる?」と半分苛立ちから口調が強くなった。慌ただしい朝はいつもこんな感じ。
応答のない怜を「ちょっと」と振り返る。すると彼は窓の外に顔を出して肩を小刻みに震わせていた。
「ど、どうしたの?」
駆け寄る私を待っていたかのように、怜はこちらを向いた。
な…っ。
そこには大爆笑の後であろう涙目の怜がいた。
「悪い。ちょっとおもしろ半分で」
そう言って自分の腕時計を見せる。
五時半…?
神田から貰った目覚まし時計は全て七時五十分で、本鈴まで残り二十分。まあ、だからこそ焦ったんだけど。
「ほら、神田さんからとわは目覚めが悪いって聞いてたし。……びっくりした時は目覚めがいい」
なんだ、そういうこと。
興味本位のいたずらだとしても怜はちゃんと考えてくれている。そういう部分が白川と似ているんだと思う。
「怜、ありがと」 
彼に朝一の笑顔を送る。怜も返すように時計に目を向けながらも笑い、部屋中の時計を直し歩いた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

王子妃だった記憶はもう消えました。

cyaru
恋愛
記憶を失った第二王子妃シルヴェーヌ。シルヴェーヌに寄り添う騎士クロヴィス。 元々は王太子であるセレスタンの婚約者だったにも関わらず、嫁いだのは第二王子ディオンの元だった。 実家の公爵家にも疎まれ、夫となった第二王子ディオンには愛する人がいる。 記憶が戻っても自分に居場所はあるのだろうかと悩むシルヴェーヌだった。 記憶を取り戻そうと動き始めたシルヴェーヌを支えるものと、邪魔するものが居る。 記憶が戻った時、それは、それまでの日常が崩れる時だった。 ★1話目の文末に時間的流れの追記をしました(7月26日) ●ゆっくりめの更新です(ちょっと本業とダブルヘッダーなので) ●ルビ多め。鬱陶しく感じる方もいるかも知れませんがご了承ください。  敢えて常用漢字などの読み方を変えている部分もあります。 ●作中の通貨単位はケラ。1ケラ=1円くらいの感じです。 ♡注意事項~この話を読む前に~♡ ※異世界の創作話です。時代設定、史実に基づいた話ではありません。リアルな世界の常識と混同されないようお願いします。 ※心拍数や血圧の上昇、高血糖、アドレナリンの過剰分泌に責任はおえません。 ※外道な作者の妄想で作られたガチなフィクションの上、ご都合主義です。 ※架空のお話です。現実世界の話ではありません。登場人物、場所全て架空です。 ※価値観や言葉使いなど現実世界とは異なります(似てるモノ、同じものもあります) ※誤字脱字結構多い作者です(ごめんなさい)コメント欄より教えて頂けると非常に助かります。

心の声が聞こえる私は、婚約者から嫌われていることを知っている。

木山楽斗
恋愛
人の心の声が聞こえるカルミアは、婚約者が自分のことを嫌っていることを知っていた。 そんな婚約者といつまでも一緒にいるつもりはない。そう思っていたカルミアは、彼といつか婚約破棄すると決めていた。 ある時、カルミアは婚約者が浮気していることを心の声によって知った。 そこで、カルミアは、友人のロウィードに協力してもらい、浮気の証拠を集めて、婚約者に突きつけたのである。 こうして、カルミアは婚約破棄して、自分を嫌っている婚約者から解放されるのだった。

この度、仮面夫婦の妊婦妻になりまして。

天織 みお
恋愛
「おめでとうございます。奥様はご懐妊されています」 目が覚めたらいきなり知らない老人に言われた私。どうやら私、妊娠していたらしい。 「だが!彼女と子供が出来るような心当たりは一度しかないんだぞ!!」 そして、子供を作ったイケメン王太子様との仲はあまり良くないようで――? そこに私の元婚約者らしい隣国の王太子様とそのお妃様まで新婚旅行でやって来た! っていうか、私ただの女子高生なんですけど、いつの間に結婚していたの?!ファーストキスすらまだなんだけど!! っていうか、ここどこ?! ※完結まで毎日2話更新予定でしたが、3話に変更しました ※他サイトにも掲載中

懐妊を告げずに家を出ます。最愛のあなた、どうかお幸せに。

梅雨の人
恋愛
最愛の夫、ブラッド。 あなたと共に、人生が終わるその時まで互いに慈しみ、愛情に溢れる時を過ごしていけると信じていた。 その時までは。 どうか、幸せになってね。 愛しい人。 さようなら。

最近様子のおかしい夫と女の密会現場をおさえてやった

家紋武範
恋愛
 最近夫の行動が怪しく見える。ひょっとしたら浮気ではないかと、出掛ける後をつけてみると、そこには女がいた──。

結構な性欲で

ヘロディア
恋愛
美人の二十代の人妻である会社の先輩の一晩を独占することになった主人公。 執拗に責めまくるのであった。 彼女の喘ぎ声は官能的で…

王子を身籠りました

青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。 王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。 再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。

さよなら私の愛しい人

ペン子
恋愛
由緒正しき大店の一人娘ミラは、結婚して3年となる夫エドモンに毛嫌いされている。二人は親によって決められた政略結婚だったが、ミラは彼を愛してしまったのだ。邪険に扱われる事に慣れてしまったある日、エドモンの口にした一言によって、崩壊寸前の心はいとも簡単に砕け散った。「お前のような役立たずは、死んでしまえ」そしてミラは、自らの最期に向けて動き出していく。 ※5月30日無事完結しました。応援ありがとうございます! ※小説家になろう様にも別名義で掲載してます。

処理中です...