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2.繰り返すあの夏に、聞こえた合図は
朝一番に見る顔
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「おい、起きろって」
白川…?
「それっ」
光る朝日と涼しい風が部屋に舞い込む。
「分かったってば」
こんな起こし方は一人しかいない。けれど、神田の時よりも目覚めがいい。澄んだ空気をいっぱいに吸い込むと彼を見る。
「何だよ…」
「いや、別に。それより怜……」
昨日話をしていて、余計に誰が本物なのか分からなくなっていった。白川のいたずらしていた時の顔は涼に似ていて、時折見せてくれた笑顔は流生に似ている。冒険を探し求めていた姿は翔矢と重なるし…。
でも、一番似てるのは怜だと思うんだよね、なんとなくだけど。
だけど全員が八年前の白川と名乗っているのだから、そう簡単に「白川」とは呼べない。それ以上にこの屋敷で「白川」なんて呼べばどうなるかなんて容易に想像できた。
「ねえ、それってうちの制服じゃない?」
怜の格好を上から下へと眺めた。
私の通う私立咲坂学院は幼稚園から大学、大学院までの一貫校で、皆揃いに揃ったお嬢様ばかり。よって彼女たちの護衛兼執事や見習い執事専用のクラスも設けられている。だから、執事クラスにもちゃんと咲坂指定の制服がある。
てことは、怜たちこっちに通うの?
当たり前か…ここから双海は遠すぎる。
昨日分かったことは上から、流生、涼、怜、翔矢。そして、大学二年、大学一年、間があって高二、中三。
そっか、今日から咲坂の執事なのか。
ん…今日から?
「今日……。あ~! 今、今何時っ?」
怜が神田から貰ったたくさんの目覚まし時計を持ち上げてみせる。顔が青ざめていくのが自分でもはっきりと分かった。
「やっばい!」
勢いよくベッドから飛び出す。
「怜、お願い。朝食は車の中で摂れるようにしておいて!」
クローゼットから引っ張り出すように制服を出し、おかげでハンガーが見事に額に当たる。
「聞いてる?」と半分苛立ちから口調が強くなった。慌ただしい朝はいつもこんな感じ。
応答のない怜を「ちょっと」と振り返る。すると彼は窓の外に顔を出して肩を小刻みに震わせていた。
「ど、どうしたの?」
駆け寄る私を待っていたかのように、怜はこちらを向いた。
な…っ。
そこには大爆笑の後であろう涙目の怜がいた。
「悪い。ちょっとおもしろ半分で」
そう言って自分の腕時計を見せる。
五時半…?
神田から貰った目覚まし時計は全て七時五十分で、本鈴まで残り二十分。まあ、だからこそ焦ったんだけど。
「ほら、神田さんからとわは目覚めが悪いって聞いてたし。……びっくりした時は目覚めがいい」
なんだ、そういうこと。
興味本位のいたずらだとしても怜はちゃんと考えてくれている。そういう部分が白川と似ているんだと思う。
「怜、ありがと」
彼に朝一の笑顔を送る。怜も返すように時計に目を向けながらも笑い、部屋中の時計を直し歩いた。
白川…?
「それっ」
光る朝日と涼しい風が部屋に舞い込む。
「分かったってば」
こんな起こし方は一人しかいない。けれど、神田の時よりも目覚めがいい。澄んだ空気をいっぱいに吸い込むと彼を見る。
「何だよ…」
「いや、別に。それより怜……」
昨日話をしていて、余計に誰が本物なのか分からなくなっていった。白川のいたずらしていた時の顔は涼に似ていて、時折見せてくれた笑顔は流生に似ている。冒険を探し求めていた姿は翔矢と重なるし…。
でも、一番似てるのは怜だと思うんだよね、なんとなくだけど。
だけど全員が八年前の白川と名乗っているのだから、そう簡単に「白川」とは呼べない。それ以上にこの屋敷で「白川」なんて呼べばどうなるかなんて容易に想像できた。
「ねえ、それってうちの制服じゃない?」
怜の格好を上から下へと眺めた。
私の通う私立咲坂学院は幼稚園から大学、大学院までの一貫校で、皆揃いに揃ったお嬢様ばかり。よって彼女たちの護衛兼執事や見習い執事専用のクラスも設けられている。だから、執事クラスにもちゃんと咲坂指定の制服がある。
てことは、怜たちこっちに通うの?
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昨日分かったことは上から、流生、涼、怜、翔矢。そして、大学二年、大学一年、間があって高二、中三。
そっか、今日から咲坂の執事なのか。
ん…今日から?
「今日……。あ~! 今、今何時っ?」
怜が神田から貰ったたくさんの目覚まし時計を持ち上げてみせる。顔が青ざめていくのが自分でもはっきりと分かった。
「やっばい!」
勢いよくベッドから飛び出す。
「怜、お願い。朝食は車の中で摂れるようにしておいて!」
クローゼットから引っ張り出すように制服を出し、おかげでハンガーが見事に額に当たる。
「聞いてる?」と半分苛立ちから口調が強くなった。慌ただしい朝はいつもこんな感じ。
応答のない怜を「ちょっと」と振り返る。すると彼は窓の外に顔を出して肩を小刻みに震わせていた。
「ど、どうしたの?」
駆け寄る私を待っていたかのように、怜はこちらを向いた。
な…っ。
そこには大爆笑の後であろう涙目の怜がいた。
「悪い。ちょっとおもしろ半分で」
そう言って自分の腕時計を見せる。
五時半…?
神田から貰った目覚まし時計は全て七時五十分で、本鈴まで残り二十分。まあ、だからこそ焦ったんだけど。
「ほら、神田さんからとわは目覚めが悪いって聞いてたし。……びっくりした時は目覚めがいい」
なんだ、そういうこと。
興味本位のいたずらだとしても怜はちゃんと考えてくれている。そういう部分が白川と似ているんだと思う。
「怜、ありがと」
彼に朝一の笑顔を送る。怜も返すように時計に目を向けながらも笑い、部屋中の時計を直し歩いた。
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