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1.始まりはいつも夏の日に
白川…?
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「おい」
ん…誰?
「起きろよ、おーい。ダメだ……」
声の主は少し遠ざかった。そして、シャーと滑るカーテンの軽快な音と共に眩しい光が顔に直撃する。
「うわ、眩し……」
光に慣れない目で目の前の顔を見る。
神田じゃない──あ。
「白川?」
脳がひとつの思考に辿り着く。もう眩しさなんて関係なかった。
焦点がしっかりと合い、彼の顔を見つめる。面影はあるものの、やっぱり八年は大きかったのだろう。背丈も体格もあの頃とはまるで違う。
「おはよう、とわ」
彼の顔を見ただけで満たされるようで、やっぱり安心する。
白川はやっと起きたか、と言うように、ハァとため息をついた。そして窓に寄って全開にする。
「これで目、覚めるだろ」
「ありがと……」
朝の涼しい風が部屋に流れ込んだ。
慣れない会話。当たり前か──いくら分かり合っていたからとはいえ、離れていた時間はやっぱり大きすぎたのだから。
でもさ~…表情、固くない?それにさっきからそっぽ向いてるし。
「ねえ、白か──」
そう言いかけた時、
「おーい、怜。とわ起きた?」
声と共に誰かが顔を出した。
あれ?何か知ってるような……。
見えた顔はパッと笑顔に変わった。
「とわ、久しぶり!」
え…?どういうこと?
怜と呼ばれた彼を見る。目が合ったがすぐに逸らされた。私の戸惑いなど知らないこの笑顔の彼は「ようやく起きたの?」なんて楽しそうに笑う。
でも、さっき「とわ」って言ったよね?
白川家の執事とは白川と白川の父親にしか会っていないのだから、必然的に「とわ」と呼ぶのは一人だけ。
あれ…もしかして、この人が白川?でも、じゃあ…。
笑顔の彼とそっぽを向く彼とを交互に見つめる。
「あのぉ…」
「兄ちゃんたち、とわ起きたの?流生兄が待ってるよ」
今度は誰っ?
走る足音が私の部屋の前で止まった。
「あっ」
足音の主は部屋に入ってくるなり、私を見ると目を見開き、そしてキラキラした目を私に向けた。私の前まで来るとそっとひざまずく。
「ずっと会いたかったよ、とわ。この八年間ずっとこの日を待っていたんだ」
え…この子は?
ん、待って。
ねえ、この子今「八年間」って言ったよね。
いやいやっ、その前に!多くないか?
その時、昨日抱いた疑問が脳裏を横切る。神田によって遮られてしまったけれど…
「執事たち」って言ってたよねぇ。
でも、これじゃあ誰が白川なんのか、分かんな──
「涼兄、よろしく」
「うん、任せて」
二人のかけ声が聞こえたかと思うと、私の体は持ち上げられた。
「ちょっ…、ねえ!」
涼兄と呼ばれた私を抱き上げている彼は、またも綺麗な笑顔を見せる。
「朝食だよ。流生兄が待ってる」
そして私は運ばれるがまま、テーブルの前まで来た。テーブルには素敵な朝食が並んでいる。もちろん神田のだって好きだけれど、食材の使い方や盛り付けが全然違う。
「とわ」
後ろから声がする。
振り返ると部屋にいた三人ではなかった。もう一人、そう四人目。
「久しぶりだね。ずっと待たせて悪かった。でもこれからは一緒にいられる」
そう言って私の頬にキスを一つ。
今度は王子キャラかっ!
「ちょっと待ってよっ」
私は四人を見回す。
待たせたって何?久しぶり?
そ・の・ま・え・に!「とわ」ってどうしてその呼び方を?
「名前は別にいいんだけど、本物の白川は誰?」
すると、本物の白川ねえ、と涼が口を開いた。
「だって俺、白川涼。白川家の執事だよ。てか、あの夏一緒にいたのになあ~。もう忘れちゃったの?」
え?
「俺は白川流生。八年なんて、俺には昨日のことみたいだよ。ねえとわ、あの夏以上の思い出、作ろうね」
今度は王子。え、ちょっと…。
すると、「待ってよ」と一人。
「ちょっと!その台詞は俺のだよ。俺は白川翔矢。涼兄も流生兄も嘘はやめてよね。八年前のあの夏、一緒にいたのは俺なんだよ」
どういうことよ、と言わんばかりに私はもう一人に目を向ける。ずっと逸らされていた彼と目が合った。
「俺は白川怜。……そういえば、あの時も部屋、隣だったよな」
ふと昨日の夜の札を思い浮かべる。表情一つ変わらない彼が私を見つめていた。
「もおっ!これは何かの悪い遊び?私が八年間待っていたのは一体誰なの?」
涼が笑う。
「誰って、白川でしょ」
そして、四人の視線が私に集まる。
『それは──俺だよ』
四人の口が同じ様に動いた。
「……え?」
ん…誰?
「起きろよ、おーい。ダメだ……」
声の主は少し遠ざかった。そして、シャーと滑るカーテンの軽快な音と共に眩しい光が顔に直撃する。
「うわ、眩し……」
光に慣れない目で目の前の顔を見る。
神田じゃない──あ。
「白川?」
脳がひとつの思考に辿り着く。もう眩しさなんて関係なかった。
焦点がしっかりと合い、彼の顔を見つめる。面影はあるものの、やっぱり八年は大きかったのだろう。背丈も体格もあの頃とはまるで違う。
「おはよう、とわ」
彼の顔を見ただけで満たされるようで、やっぱり安心する。
白川はやっと起きたか、と言うように、ハァとため息をついた。そして窓に寄って全開にする。
「これで目、覚めるだろ」
「ありがと……」
朝の涼しい風が部屋に流れ込んだ。
慣れない会話。当たり前か──いくら分かり合っていたからとはいえ、離れていた時間はやっぱり大きすぎたのだから。
でもさ~…表情、固くない?それにさっきからそっぽ向いてるし。
「ねえ、白か──」
そう言いかけた時、
「おーい、怜。とわ起きた?」
声と共に誰かが顔を出した。
あれ?何か知ってるような……。
見えた顔はパッと笑顔に変わった。
「とわ、久しぶり!」
え…?どういうこと?
怜と呼ばれた彼を見る。目が合ったがすぐに逸らされた。私の戸惑いなど知らないこの笑顔の彼は「ようやく起きたの?」なんて楽しそうに笑う。
でも、さっき「とわ」って言ったよね?
白川家の執事とは白川と白川の父親にしか会っていないのだから、必然的に「とわ」と呼ぶのは一人だけ。
あれ…もしかして、この人が白川?でも、じゃあ…。
笑顔の彼とそっぽを向く彼とを交互に見つめる。
「あのぉ…」
「兄ちゃんたち、とわ起きたの?流生兄が待ってるよ」
今度は誰っ?
走る足音が私の部屋の前で止まった。
「あっ」
足音の主は部屋に入ってくるなり、私を見ると目を見開き、そしてキラキラした目を私に向けた。私の前まで来るとそっとひざまずく。
「ずっと会いたかったよ、とわ。この八年間ずっとこの日を待っていたんだ」
え…この子は?
ん、待って。
ねえ、この子今「八年間」って言ったよね。
いやいやっ、その前に!多くないか?
その時、昨日抱いた疑問が脳裏を横切る。神田によって遮られてしまったけれど…
「執事たち」って言ってたよねぇ。
でも、これじゃあ誰が白川なんのか、分かんな──
「涼兄、よろしく」
「うん、任せて」
二人のかけ声が聞こえたかと思うと、私の体は持ち上げられた。
「ちょっ…、ねえ!」
涼兄と呼ばれた私を抱き上げている彼は、またも綺麗な笑顔を見せる。
「朝食だよ。流生兄が待ってる」
そして私は運ばれるがまま、テーブルの前まで来た。テーブルには素敵な朝食が並んでいる。もちろん神田のだって好きだけれど、食材の使い方や盛り付けが全然違う。
「とわ」
後ろから声がする。
振り返ると部屋にいた三人ではなかった。もう一人、そう四人目。
「久しぶりだね。ずっと待たせて悪かった。でもこれからは一緒にいられる」
そう言って私の頬にキスを一つ。
今度は王子キャラかっ!
「ちょっと待ってよっ」
私は四人を見回す。
待たせたって何?久しぶり?
そ・の・ま・え・に!「とわ」ってどうしてその呼び方を?
「名前は別にいいんだけど、本物の白川は誰?」
すると、本物の白川ねえ、と涼が口を開いた。
「だって俺、白川涼。白川家の執事だよ。てか、あの夏一緒にいたのになあ~。もう忘れちゃったの?」
え?
「俺は白川流生。八年なんて、俺には昨日のことみたいだよ。ねえとわ、あの夏以上の思い出、作ろうね」
今度は王子。え、ちょっと…。
すると、「待ってよ」と一人。
「ちょっと!その台詞は俺のだよ。俺は白川翔矢。涼兄も流生兄も嘘はやめてよね。八年前のあの夏、一緒にいたのは俺なんだよ」
どういうことよ、と言わんばかりに私はもう一人に目を向ける。ずっと逸らされていた彼と目が合った。
「俺は白川怜。……そういえば、あの時も部屋、隣だったよな」
ふと昨日の夜の札を思い浮かべる。表情一つ変わらない彼が私を見つめていた。
「もおっ!これは何かの悪い遊び?私が八年間待っていたのは一体誰なの?」
涼が笑う。
「誰って、白川でしょ」
そして、四人の視線が私に集まる。
『それは──俺だよ』
四人の口が同じ様に動いた。
「……え?」
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