上 下
49 / 51

49. あたしつらたん

しおりを挟む
49. あたしつらたん



 私たちはロデンブルグの北にある魔物の巣にたどり着く。そして今は戦闘中だ。

「おい!アサシンの嬢ちゃん前に行きすぎだ!オレが攻撃できねぇだろ!」

「えぇ~?エドガーのおじさんが避けて攻撃してよ。騎士団の隊長なんだから!」

「ああ?おいゲイル!お前の仲間は礼儀がなってねぇぞ!」

「うるせぇ。よそ見するなよ。オレが戦うことになるだろ?腰が痛いんだから、キルマリアの言う通りにしろよ」

 なんか不当な理由を突きつけられてるエドガー隊長。少しは同情するかも。

「まぁいいや。あたしが全部倒すから!」

「はっ!言ってろ。オレの方が速いんだぜ?」

「あたしの方が強いもんね!最強美少女アサシンのキルマリアちゃんに勝てるかな?」

「ああ!?アリシアにいい格好できねぇだろ!邪魔だどけ!」

 キルマリアとエドガー隊長は言い合いながらも戦い続ける。なんか……この2人は息がピッタリ?ちなみに私はというと、そんな2人の援護をしつつ、周りを警戒している。

「あーもう!こんなんじゃ全然スリルがないじゃんか!」

「うわっと!あぶねぇじゃねえか!急に飛びかかってくるんじゃねぇ!」

「おじさん遅いんだよ!ほらほら!早く倒さないと全滅しちゃうよ!」

 草。2人とも楽しそう……。って呑気に見てる場合じゃないよね。

「エドガー隊長!右です!」

「おう!任せとけ!」

 エドガー隊長が剣で切り裂く。その瞬間後ろから襲い掛かろうとしていた魔物の動きが止まる。そしてそのまま倒れた。

「ふぅ……。これで最後か?」

「はい。大丈夫だと思います。さっきのが最後の1体だったようですね」

「それにしても何なんだこいつらは?まるで統率されてるみてぇに動き回ってたな……」

 エルランドの時と同じ。やはり魔物の巣には何かある。それがなんなのか分からないけど、気を引き締めないと。

「とりあえず巣の中心に向かいましょう。レミーナさん、みんなにポーションを」

「え?エステル姉さん。あたしまだ大丈夫だけど?」

「ダメよ。あなたさっき左腕に攻撃を受けたでしょ。いいから飲んでおきなさい。」

「え……見えてたの?もしかしてエステル姉さんってアサシン?」

 私は『スカウト』だ。目の良さなら誰にも負けない自信がある。というより、一番心配なのはキルマリアだから他の人より見ているだけだ。仕方がない。

「はいはい。お喋りはそれくらいにしておいてね。それじゃ行くわよ」

 私たちは巣の中心部に向かって移動を始めた。途中何度か魔物に襲われたが、特に問題なく進んでいった。そしてついに中心部へとたどり着くと、天井が吹き抜けになっており光が差し込んでいる。すると奥の方からこちらを睨む2つの光が見えた。それは次第に大きくなり、その姿を露にする。

「エステル。あいつはグリフォンだ。しかもかなりデカイ。」

「へぇ~。珍しいね。初めて見たかも!首折れるかなぁ?」

 リーゼの言葉通り、私たちの前にいるのはかなり大きなグリフォンだった。その翼を広げれば10メートルはあるかもしれない。あんなのに攻撃されたらひとたまりもない。あれが魔物の巣を守る番人だったということだろうか? 私たちは警戒しながら様子を伺っていると、突然飛び上がった。そして上空から急降下してくる。これはまずい!

「散開!急いで!」

 ドォーン!という音と共に地面が大きく揺れる。私達はなんとか避けることができたが、衝撃の余波で飛ばされてしまう。

 くっ!油断した!でもこの程度ではダメージはない!すぐに体勢を整えないと!私が顔を上げるとそこには巨大な爪が迫っていた。避けられない! ガキィィン!!ギリギリのところでゲイルさんの剣が間に合ったみたい。

「おいおい。いきなりかよ!くそ腰が痛ぇ~……エドガーと若いの!レミーナを連れて離脱しろ!」

「ああ?」

「守るのは騎士団の仕事だろ?」

「ちっ……分かったよ!いくぞロイ!オレが先導する」

「はい!」

 2人がレミーナさんを連れて入り口に向かっていく。よかった。あの2人にレミーナさんを守ってもらえるなら安心だ。

「さてと。エステル。これが本番だ。」

 グリフォンは上空を旋回すると再びこちらへ向かってきた。今度はさっきよりも速い!ゲイルさんが受け止めるが、あまり長くは持たないだろう。

 しかも厄介なのはグリフォンは上空に逃げられること。これではこちらの攻撃が当たらない。そして防戦一方だ。

「あたしの技をくらえグリフォン!暗殺術・『スナイプアロー』!」

 キルマリアが短剣を放つが、グリフォンはヒラリとかわしてしまう。

「速すぎwww」

 だからキルマリア笑ってる場合じゃないわよ……。

「どうしようエステルちゃん!」

「落ちついてリーゼ。グリフォンの弱点は眉間。そこを狙えば倒せるはず。問題はどうやってそこに攻撃をするか……」

 空中にいる敵を倒す方法なんてそう多くない。例えば弓や銃などの遠距離武器や魔法を使うとか。武器は弓矢や銃ではないし、ましてや魔法なんか使えない。

「ゲイルさん」

「ああ?なんだ?」

「あの……ゲイルさんの斬擊を飛ばす技で何とかなりませんか?」

「……お前が決めろ。言ったろ?オレはそれに従うだけだ。」

 私は自分の考えを伝えると、ゲイルさんはニヤッと笑った。確かにそうだ。私が指揮するんだから。

「ねぇキルマリア?」

「どしたのエステル姉さん?」

「高いところ好き?」

「え?そりゃまぁ……」

「じゃあお願いがあるんだけど……」

 グリフォンが急降下して攻撃を仕掛けてくる。それをゲイルが剣で受ける。だが、先ほどとは威力が違うのか、徐々に押されていく。

「くそっ!エステル!オレの腰が持たんぞ!」

「……という作戦。出来るよねキルマリア?たまには私の言うことを聞いて?それしかグリフォンを倒すことできないから。拒否権はないわ!」

「なんかエステル姉さんがマスターみたいに怖い……あたしつらたん!」

「あ?なんか言ったかしら?」

「なにも言ってないよ!」

 たまには言うことを聞いてほしいものだ。結構無茶な作戦だけど、これしかグリフォンを倒す方法がない。こうしてグリフォンとの戦闘は最終局面を迎えるのだった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

拝啓、私を追い出した皆様 いかがお過ごしですか?私はとても幸せです。

香木あかり
恋愛
拝啓、懐かしのお父様、お母様、妹のアニー 私を追い出してから、一年が経ちましたね。いかがお過ごしでしょうか。私は元気です。 治癒の能力を持つローザは、家業に全く役に立たないという理由で家族に疎まれていた。妹アニーの占いで、ローザを追い出せば家業が上手くいくという結果が出たため、家族に家から追い出されてしまう。 隣国で暮らし始めたローザは、実家の商売敵であるフランツの病気を治癒し、それがきっかけで結婚する。フランツに溺愛されながら幸せに暮らすローザは、実家にある手紙を送るのだった。 ※複数サイトにて掲載中です

父が再婚してから酷い目に遭いましたが、最終的に皆罪人にして差し上げました

四季
恋愛
母親が亡くなり、父親に新しい妻が来てからというもの、私はいじめられ続けた。 だが、ただいじめられただけで終わる私ではない……!

無能なので辞めさせていただきます!

サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。 マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。 えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって? 残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、 無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって? はいはいわかりました。 辞めますよ。 退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。 自分無能なんで、なんにもわかりませんから。 カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。

好きな人に『その気持ちが迷惑だ』と言われたので、姿を消します【完結済み】

皇 翼
恋愛
「正直、貴女のその気持ちは迷惑なのですよ……この場だから言いますが、既に想い人が居るんです。諦めて頂けませんか?」 「っ――――!!」 「賢い貴女の事だ。地位も身分も財力も何もかもが貴女にとっては高嶺の花だと元々分かっていたのでしょう?そんな感情を持っているだけ時間が無駄だと思いませんか?」 クロエの気持ちなどお構いなしに、言葉は続けられる。既に想い人がいる。気持ちが迷惑。諦めろ。時間の無駄。彼は止まらず話し続ける。彼が口を開く度に、まるで弾丸のように心を抉っていった。 ****** ・執筆時間空けてしまった間に途中過程が気に食わなくなったので、設定などを少し変えて改稿しています。

蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる

フルーツパフェ
大衆娯楽
 転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。  一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。  そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!  寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。 ――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです  そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。  大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。  相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。      

心の声が聞こえる私は、婚約者から嫌われていることを知っている。

木山楽斗
恋愛
人の心の声が聞こえるカルミアは、婚約者が自分のことを嫌っていることを知っていた。 そんな婚約者といつまでも一緒にいるつもりはない。そう思っていたカルミアは、彼といつか婚約破棄すると決めていた。 ある時、カルミアは婚約者が浮気していることを心の声によって知った。 そこで、カルミアは、友人のロウィードに協力してもらい、浮気の証拠を集めて、婚約者に突きつけたのである。 こうして、カルミアは婚約破棄して、自分を嫌っている婚約者から解放されるのだった。

私の代わりが見つかったから契約破棄ですか……その代わりの人……私の勘が正しければ……結界詐欺師ですよ

Ryo-k
ファンタジー
「リリーナ! 貴様との契約を破棄する!」 結界魔術師リリーナにそう仰るのは、ライオネル・ウォルツ侯爵。 「彼女は結界魔術師1級を所持している。だから貴様はもう不要だ」 とシュナ・ファールと名乗る別の女性を部屋に呼んで宣言する。 リリーナは結界魔術師2級を所持している。 ライオネルの言葉が本当なら確かにすごいことだ。 ……本当なら……ね。 ※完結まで執筆済み

エリクサーは不老不死の薬ではありません。~完成したエリクサーのせいで追放されましたが、隣国で色々助けてたら聖人に……ただの草使いですよ~

シロ鼬
ファンタジー
エリクサー……それは生命あるものすべてを癒し、治す薬――そう、それだけだ。 主人公、リッツはスキル『草』と持ち前の知識でついにエリクサーを完成させるが、なぜか王様に偽物と判断されてしまう。 追放され行く当てもなくなったリッツは、とりあえず大好きな草を集めていると怪我をした神獣の子に出会う。 さらには倒れた少女と出会い、疫病が発生したという隣国へ向かった。 疫病? これ飲めば治りますよ? これは自前の薬とエリクサーを使い、聖人と呼ばれてしまった男の物語。

処理中です...