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31. 一からやり直しなさい
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31. 一からやり直しなさい
心地よい風が吹く。アリシアは自分の部下……いや仲間たちが戻ってくるのをダンジョン『王都の地下迷宮』の外で大好きな英雄伝を読みながら待っていた。
クラン『妖精の隠れ家』。王都ではほとんど無名のクラン。彼女は元Sランクの冒険者。しかしアリシアの過去の栄光を知っている者も今はほとんどいない。
ダンジョン攻略。それはギルドの依頼をこなすより遥かに難易度が高い。よって知名度や貢献度をあげるにはダンジョン攻略が一番なのだ。
冒険者は、まずダンジョンに潜りモンスターを倒してその素材を売って金にする。そしてその金を糧に装備を整え、さらに深く潜る。これを延々と繰り返すことでダンジョンの最下層を目指す、またはパーティーを組んでギルドの依頼をこなしランクを上げていくのだ。
しかしダンジョンには様々な罠があり、中には即死級の凶悪なものも少なくない。それに何層にも渡って続く迷路のような通路は、熟練した冒険者でさえも迷わせる。ダンジョンを攻略するには、それ相応の知識と経験が必要になる。
だからこそ、アリシアは今まで『妖精の隠れ家』ではダンジョンを攻略しなかった。それは攻略するための準備が出来ていなかったから。
「ん?戻ってきたかしら」
本から顔を上げて遠くを見るような仕草をするアリシア。こちらに向かって歩いてくる影が見えてきた。
「あー。やっぱりね」
そこに現れたのはボロボロになったグランたちだった。皆全身傷だらけだ。中でも一番酷いのはリーダーであるグランだろう。彼は血を流しすぎてフラフラしているようだ。少し前に戻ってきた金髪の女の子と同じか。
「あら?勝負は諦めたのかしら?」
そう言うアリシア。彼らはエステルたちより強い。それは間違いないのだが……。
「お、おい!なんなんだあの化物は!?あんなの聞いてねぇぞ!」
グランは声を荒げて言う。どうやら相当焦っているらしい。まぁ無理もないけど。
「そんなこと私に言われても知らないわよ。私はあなたたちに諦めたか聞いただけよ?」
「ぐっ……」
悔しそうな表情を浮かべるグラン。だがアリシアは続けてこう言った。
「言ったじゃない。私たちが負けることなんてないって」
「くそ!なんでこんなことに……」
「教えてあげるわ。ダンジョン攻略に最も必要なのは「魔物を倒す力」じゃない。いかに「魔物と遭遇」しないかが重要なのよ。やっと分かったんじゃない?あなたは今までその重要な役目を担っていたエステルちゃんを追放してしまったことに。」
「……」
何も言い返せないグラン。実際このダンジョン『王都の地下迷宮』でも、彼らは何度も魔物と遭遇し、罠で負傷し、その都度考えずにポーションも使っていた。
その結果、途中でオリビアが離脱。目的の『鉱石』の前ではミノタウロスと対峙したが、もう戦える力は残っていなかった。
「確かに『スカウト』なんてジョブの人は珍しいし、魔物討伐の戦力にはほとんどならない。でもね、ダンジョン攻略に必要な『索敵』『罠解除』『解錠』を一人でこなすことが出来る貴重な存在なのよ。それなのにあなたたちは自分たちが強くなりたいがため、彼女を解雇してしまった。それがこの結果よ」
「うぅ……ちくしょう……」
地面に膝をつくグラン。アリシアの言葉が胸に刺さったのだろう。他の仲間たちも同様に落ち込んでいる。
「うちにはエステルちゃんの代わりに戦える人間がいるわ。でもエステルちゃんの代わりは誰もできない。それが分からなかったリーダーとしてのあなたの落ち度よ。一からやり直しなさい。無名の冒険者さん?」
アリシアはそう言い放つと再び読書に戻った。
「くそったれぇええ!!」
グランたちの叫び声が森中に響き渡る。そしてアリシアは『妖精の隠れ家』をここから王都で最強のクランにすると改めて決意するのだった。
心地よい風が吹く。アリシアは自分の部下……いや仲間たちが戻ってくるのをダンジョン『王都の地下迷宮』の外で大好きな英雄伝を読みながら待っていた。
クラン『妖精の隠れ家』。王都ではほとんど無名のクラン。彼女は元Sランクの冒険者。しかしアリシアの過去の栄光を知っている者も今はほとんどいない。
ダンジョン攻略。それはギルドの依頼をこなすより遥かに難易度が高い。よって知名度や貢献度をあげるにはダンジョン攻略が一番なのだ。
冒険者は、まずダンジョンに潜りモンスターを倒してその素材を売って金にする。そしてその金を糧に装備を整え、さらに深く潜る。これを延々と繰り返すことでダンジョンの最下層を目指す、またはパーティーを組んでギルドの依頼をこなしランクを上げていくのだ。
しかしダンジョンには様々な罠があり、中には即死級の凶悪なものも少なくない。それに何層にも渡って続く迷路のような通路は、熟練した冒険者でさえも迷わせる。ダンジョンを攻略するには、それ相応の知識と経験が必要になる。
だからこそ、アリシアは今まで『妖精の隠れ家』ではダンジョンを攻略しなかった。それは攻略するための準備が出来ていなかったから。
「ん?戻ってきたかしら」
本から顔を上げて遠くを見るような仕草をするアリシア。こちらに向かって歩いてくる影が見えてきた。
「あー。やっぱりね」
そこに現れたのはボロボロになったグランたちだった。皆全身傷だらけだ。中でも一番酷いのはリーダーであるグランだろう。彼は血を流しすぎてフラフラしているようだ。少し前に戻ってきた金髪の女の子と同じか。
「あら?勝負は諦めたのかしら?」
そう言うアリシア。彼らはエステルたちより強い。それは間違いないのだが……。
「お、おい!なんなんだあの化物は!?あんなの聞いてねぇぞ!」
グランは声を荒げて言う。どうやら相当焦っているらしい。まぁ無理もないけど。
「そんなこと私に言われても知らないわよ。私はあなたたちに諦めたか聞いただけよ?」
「ぐっ……」
悔しそうな表情を浮かべるグラン。だがアリシアは続けてこう言った。
「言ったじゃない。私たちが負けることなんてないって」
「くそ!なんでこんなことに……」
「教えてあげるわ。ダンジョン攻略に最も必要なのは「魔物を倒す力」じゃない。いかに「魔物と遭遇」しないかが重要なのよ。やっと分かったんじゃない?あなたは今までその重要な役目を担っていたエステルちゃんを追放してしまったことに。」
「……」
何も言い返せないグラン。実際このダンジョン『王都の地下迷宮』でも、彼らは何度も魔物と遭遇し、罠で負傷し、その都度考えずにポーションも使っていた。
その結果、途中でオリビアが離脱。目的の『鉱石』の前ではミノタウロスと対峙したが、もう戦える力は残っていなかった。
「確かに『スカウト』なんてジョブの人は珍しいし、魔物討伐の戦力にはほとんどならない。でもね、ダンジョン攻略に必要な『索敵』『罠解除』『解錠』を一人でこなすことが出来る貴重な存在なのよ。それなのにあなたたちは自分たちが強くなりたいがため、彼女を解雇してしまった。それがこの結果よ」
「うぅ……ちくしょう……」
地面に膝をつくグラン。アリシアの言葉が胸に刺さったのだろう。他の仲間たちも同様に落ち込んでいる。
「うちにはエステルちゃんの代わりに戦える人間がいるわ。でもエステルちゃんの代わりは誰もできない。それが分からなかったリーダーとしてのあなたの落ち度よ。一からやり直しなさい。無名の冒険者さん?」
アリシアはそう言い放つと再び読書に戻った。
「くそったれぇええ!!」
グランたちの叫び声が森中に響き渡る。そしてアリシアは『妖精の隠れ家』をここから王都で最強のクランにすると改めて決意するのだった。
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