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16. 怖いけど優しい

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16. 怖いけど優しい



 そして翌日。今日もダンジョン攻略に行くつもりだ。とりあえず今日の目的は7階層のゴーレムを倒すこととマッピング。できれば8階層までは攻略しておきたい。

 ただ、正直疲労がたまっているかもしれない。身体がダルいし……どうしようかしら……そのままお店に出る。すると見た目はすごい美味しそうな朝食が並んでいた。

「おはようなの!エステル。」

 朝から何かの罰ゲームですか……?ロザリーさんの美味しくない朝食を想像しながら恐る恐る食べてみると意外と普通に食べられる味だった。いやむしろかなり美味しい。

「え?え?夢ですかこれ!?」

「今日は私が作りました。ロザリーさんは食材を切っただけです。」

「レミーナさん。美味しいです。」

 レミーナさんは頬を赤くして頭を少し下げて微笑んだ。可愛い。そこにみんながやってくる。

「あれれ?今日はレミーナ姉さんの朝食かぁ!」

「いっぱいおかわりしちゃおう!」

「おはようございますエステルさん。」

「おはよう。」

 みんなが席に着くと、朝食があっという間に消えていく。私はまだ半分くらいしか食べられていない。若いって……すごいわね。その様子を見て、なんとなく嬉しそうな顔をしているレミーナさん。食事が終わると早速準備をして出発する。

「今日の目的は7階層のゴーレムを倒すこととマッピングよ」

「ねぇエステル姉さん?昨日マスターと一緒にダンジョン攻略したんでしょ?あの人怖いよね?」

「えっ怖い?」

「怖いじゃん?前にあたしが戦ってたら『邪魔よキルマリアちゃん。殺すわよ?』とか言われたし」

「あっ私はね『リーゼちゃん。次勝手に動いたら殺すわよ?』って言われた!」

「ボクは言われたことないですけど……。マスターは美人で優しいですし」

 えーっと……なんて言えばいいのかしら……?キルマリアとリーゼには悪いんだけど自業自得だと思うのだけど……。あっ私も昨日『解除できるでしょ?お願い!やらないと殺すわよ?』って言われたっけ……。

「でも。マスターはあたしの恩人だし、逆らえないんだよね。あたしは好きだけどさ。」

「うん。マスターはいつも優しいもんね!」

「そうですね。でもマスターはボク達の事を大切にしてくれますし。」

 うーん。この子達はやっぱり純粋なんだろうなぁ……。私もこういう人たちと一緒にいれて良かったわ。しばらくダンジョンに向かって歩いていくと、突然みんながダンジョンと違う方へ歩き出す。

「ちょっとそっちはダンジョンじゃないわよ?」

「え?今日はダンジョン行かないでしょ?」

「何言ってんのよキルマリア?」

「今日はギルドの依頼を受けるんだよエステルちゃん!」

「リーゼまで……どうしたの?ダンジョン攻略が怖くなったの?」

「そうじゃありませんよエステルさん。エステルさんの体調が万全じゃないならダンジョン攻略は危険だと思うので。みんなで決めたんです。」

 私のため?私が心配だから……それでダンジョン攻略をしないって言うの?確かに疲れはあるけれど……そこまでしてもらわなくても大丈夫なのに……。

「ありがとう。気を使ってくれて嬉しいわ。それなら今日は依頼を頑張りましょうか」

「「「おー!」」」

 こうして私たちはギルドに向かった。今日受けるのは薬草採取だ。早速薬草採取を始めることにした。街を出てすぐのところに森がある。そこで依頼を受けた数だけ薬草を採ってくるという簡単な仕事だ。

「薬草ってどんな形なの?エステル姉さん?」

「葉っぱにギザギザがあって、紫色をしている。見れば分かるわよ。」

「あーなんか見た気がする。結構いろんなところで見かけるよね!」

「とりあえず探しましょう。ボクも頑張ります!」

 しばらく探すと、意外とすぐに見つかった。群生地もあるみたいで、そこを重点的に探せばすぐに見つかるだろう。

「これはなかなか……たくさんあるわね……」

 その時だった。少し離れた場所で大きな爆発音が鳴り響き渡る。その音に反応してみんなが動きを止める。

「ねぇなんか向こうから音が聞こえたけど!?」

「落ち着いて。キルマリア。今索敵をするから」

 私はスキルで索敵をする。すると反応があった。

「みんな!敵がいるわ!数は20体くらいかしら……とにかく行くわよ!」

 なんでこんなところで魔物の群れが?普通はダンジョンなんかにいるはずなのに。もしかして巣窟でも近くにできたのかしら?

 私たちがたどり着くと、そこにはゴブリンやコボルト、オークなどが大量におり、そして、そこには黒い髪の女の人が立って応戦していた。

「え?ミルフィ!?」

「エステル?どうしてここにいるんですの?」

「話しは後よ。私たちも応戦するわ」

 良かった。昨日みたいにメンタルをやられてしまっているのかと思ったわ。でも、よく見ると身体中に怪我を負っていて、血を流している。

「ミルフィその怪我……ルシル、回復魔法をお願い」

「はい!えっとミルフィさん。こちらへ」

「申し訳ありませんわ……」

 ミルフィが何体か倒してくれているから、何とかなりそうね。それに、この程度の相手ならキルマリアやリーゼなら問題なさそうね。そして、みんながある程度倒したあと、敵の数が一気に減る。

「これで終わり!楽勝楽勝!あたしの前に敵はなし!」

「ねぇエステルちゃん。この人誰?」

「彼女は昨日ダンジョンで出会った冒険者のミルフィよ。」

「あー。マスターの言ってた泣き虫ガンナーか。マジウケる。」

 こら。キルマリア。そういう言い方はやめなさい。私もちょっと思ったけど……。ミルフィがこちらに近づいてきて頭を下げてきた。

「助けてくれて感謝しますわ」

「いいのよ。それより大丈夫?」

「ええ。こちらのクレリックの女の子に回復魔法を使ってもらったので。」

「あー。ミルフィ姉さん、ルシルは男なんだよね?」

「え?」

「言わないでキルマリアさん!恥ずかしいです……」

「あはは。ごめんごめん」

 ミルフィは目が点になっている。まぁそりゃそうか。私だって最初はびっくりしたし……。

「はぁ。ただの魔物討伐依頼を受けただけなのに。ついていないですわ。今日の報酬は0ですし。」

「なら。ボクたちと一緒に薬草採取しませんか?ねぇいいですよねエステルさん?」

「別に私は構わないけど……」

 なになに?ルシルがすごい積極的なんだけど。もしかしてミルフィに惚れちゃったのかしら?まったく本当にそうなら男の子か女の子かわからないじゃない。とかくだらないことを考えながら、みんなで本来の目的の薬草採取をするのだった。
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