上 下
1 / 51

1. 追放された『スカウト』

しおりを挟む
1. 追放された『スカウト』



「朝早くからすまんな。エステル。お前は今日限りでこのパーティーを抜けてもらう。今までご苦労様」

 まだ日が昇る朝方の時間。エステルと呼ばれる私はパーティーのリーダー、グラン=デルタニアに呼び出されいきなり追放宣言をされた。

「は?私の聞き間違いでしょうか?」

「いや、お前は今日でこのパーティーから抜けてもらうと言ったんだ」

 突然の解雇宣告に一瞬耳を疑った。だがリーダーの言葉には有無を言わさない迫力があった。何言ってんだこの堅物男は……。私は呆れた気持ちになりながらも理由を聞いた。

「理由をお聞かせ願えますか?」

「理由はお前の戦闘スタイルだ。俺はもっと強い仲間を探している。だから弱いお前はいらないんだよ。大人しく田舎に帰ってくれ」

 私たちがいる冒険者ギルドの一角にある食堂では、他の冒険者達がチラチラとこちらを見ているが、そんなことはお構いなしといった様子だった。だからといって簡単に諦められるはずがなかった。一体誰のおかげでここまで来れたと思ってんのよ……。そんな時グランの後ろにいた仲間も私に言い始める。

「そーよそーよ!あんたがいても邪魔になるだけよ!それにあたしらはもうBランク目前なの!あんたなんかお呼びじゃないわ!」

 この気の強そうな赤髪が格闘家のルイナ。

「そうよ!さっさと消えなさい!この陰キャのブス!」

 自慢の長い金髪をいじりながら話すのはメイジのオリビア。

「痛い目見なきゃわからんか?お荷物のエステルよ?」

 そして大剣を背負っているのが戦士のレイン。

 みんな口々に私を罵り始めた。私が一体何をしたというのか。何故ここまで言われなければならないのか。ムカつきすぎて手が出そうになるけど、グッと堪える。私は大人だからさ。

「それにエステルお前のジョブはなんだ?『スカウト』だろ?なら尚更役立たずじゃねぇか。時代遅れなんだよお前のジョブは!」

「時代遅れって……」

「せめて『盗賊』や『忍者』のようなジョブのほうが戦闘に役に立つスキルを持っているからマシだ。このパーティーには必要無い。わかったらとっとと失せろ。これは今までの給料だ。」

 グランはそう言って私の前に2枚の銅貨を投げ捨てる。私の今までの働きが銅貨2枚……。あまりの少なさに言葉を失う。

『スカウト』それは、敵の気配を感じ取り事前に察知したり、罠の発見をしたり出来るジョブ。いわば密偵だ。私はそのジョブのせいもあって戦闘ではほとんど役に立てなかった。それでも私は必死になって戦闘でも戦ってきたつもりだ。だけど彼らはそれを全て無駄なことだと切り捨てた。

「なんだよその目は?文句があるのか?」

 文句ならありすぎるほどある。だけど今ここで反論してもどうにもならない。私のありがたみがまったくわかってないんだから。

「それに、お前はいつもダンジョン攻略の時に、戦えもしないのに前にしゃしゃりでてきやがって、それも気に入らないんだよ」

 しゃしゃりでる?それは事前にダンジョンをマッピングしたり、魔物の気配を察知したり、罠を解除する為に必要なことなのに……。それをしゃしゃりとは何事だろうか。

 確かに戦闘中は邪魔かもしれないけど、安全の為だし、それが私の役目なのだから仕方がない。それに戦闘中のみんなのフォローだってしてきた。それなのに……どうしてこんなことを言われないといけないのだろう。

「そうよね~!エステルったらいっつも自分だけ安全圏にいるもんね~」

 当たり前でしょ。私はサポート役。前線に出るなんてありえない。それに前に出て怪我でもしたらどうするつもりなの?

「ほんとよ。あんたのせいで何度も危うい場面があったわよ。あんたのおかげさまでね」

 そんな危険な場面で助けてあげたでしょうが!あんたの魔力回復のポーションは私が持ってたのよ?それに、こっちは戦闘職じゃないのに、命かけてやってんのよ!感謝されこそすれど、罵倒される筋合いはないはずだわ!

「あぁそうだ。オレたちがお前をカバーするのにどれだけ迷惑だったか。」

 迷惑?それはこっちのセリフよ!

「それにお前はいつもオレたちの後をついてくるだけで何もしねえ。ただの足手まといだよお前は」

 全員が笑いながら私のことをバカにする。今まで、私はダンジョンを攻略する上で必要な情報を伝えてきた。それはみんなが死なないようにするための配慮でもあったのだ。

 だが彼らはそれさえも否定してくる。自分の命を守る為に必死になってるのは自分達だと。

 そうか……なら、もうどうでも良くなってきた。こんな人達の為にこれまで頑張って来たことが馬鹿らしくなった。

「わかりました。では、お世話になりました。」

 私はそう言うと、銅貨を拾って食堂を出ていく。後ろの方で「二度と戻ってくるんじゃねぇぞ!」とか聞こえた気がしたけど無視をした。




「これからどうしようかしら……。」

 私は当てもなく街をブラつく。

「はぁ……あんな奴らに騙された私が悪いのかな……」

 時代遅れ。確かにジョブの中で『スカウト』は珍しい。『剣士』や『格闘家』、『魔法使い』といったメジャーなジョブと比べるとどうしても見劣りする。しかも私が知る限り、私以外には『スカウト』のジョブの人に会ったことがない。

『スカウト』は敵の動きを読むことが出来るという特性上、敵の不意打ちを受けにくいのだが、逆に言えばそれだけである。自分が強いわけじゃない、本当にサポート役なので攻撃スキルが無い。だからパーティーの戦力として考えると『スカウト』はそこまで強くはない。

 だから私はいつもみんなの後について行って援護に徹していた。もちろん戦闘中にも索敵は怠らない。いつどこから魔物が来るかもわからないのだから。

 周りは『盗賊』や『忍者』などの劣化ジョブなどと言うけど、全然違うむしろ『スカウト』のほうがサポートスキルが優秀だ。私は別にこの職業を嫌だと思ったことはない。むしろ誇りを持っていた。それに『スカウト』に適性があったのだから時代遅れとか言われても困る。

「はぁ。お腹が空いたわ」

 こんな状況でもお腹は空くものね。さっき貰ったお金は銅貨2枚。これだけじゃ宿に泊まることも出来ない。野営用の道具も買えない。

 こうして私はパーティーを追放された。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

拝啓、私を追い出した皆様 いかがお過ごしですか?私はとても幸せです。

香木あかり
恋愛
拝啓、懐かしのお父様、お母様、妹のアニー 私を追い出してから、一年が経ちましたね。いかがお過ごしでしょうか。私は元気です。 治癒の能力を持つローザは、家業に全く役に立たないという理由で家族に疎まれていた。妹アニーの占いで、ローザを追い出せば家業が上手くいくという結果が出たため、家族に家から追い出されてしまう。 隣国で暮らし始めたローザは、実家の商売敵であるフランツの病気を治癒し、それがきっかけで結婚する。フランツに溺愛されながら幸せに暮らすローザは、実家にある手紙を送るのだった。 ※複数サイトにて掲載中です

父が再婚してから酷い目に遭いましたが、最終的に皆罪人にして差し上げました

四季
恋愛
母親が亡くなり、父親に新しい妻が来てからというもの、私はいじめられ続けた。 だが、ただいじめられただけで終わる私ではない……!

好きな人に『その気持ちが迷惑だ』と言われたので、姿を消します【完結済み】

皇 翼
恋愛
「正直、貴女のその気持ちは迷惑なのですよ……この場だから言いますが、既に想い人が居るんです。諦めて頂けませんか?」 「っ――――!!」 「賢い貴女の事だ。地位も身分も財力も何もかもが貴女にとっては高嶺の花だと元々分かっていたのでしょう?そんな感情を持っているだけ時間が無駄だと思いませんか?」 クロエの気持ちなどお構いなしに、言葉は続けられる。既に想い人がいる。気持ちが迷惑。諦めろ。時間の無駄。彼は止まらず話し続ける。彼が口を開く度に、まるで弾丸のように心を抉っていった。 ****** ・執筆時間空けてしまった間に途中過程が気に食わなくなったので、設定などを少し変えて改稿しています。

無能なので辞めさせていただきます!

サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。 マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。 えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって? 残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、 無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって? はいはいわかりました。 辞めますよ。 退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。 自分無能なんで、なんにもわかりませんから。 カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。

蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる

フルーツパフェ
大衆娯楽
 転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。  一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。  そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!  寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。 ――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです  そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。  大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。  相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。      

私の代わりが見つかったから契約破棄ですか……その代わりの人……私の勘が正しければ……結界詐欺師ですよ

Ryo-k
ファンタジー
「リリーナ! 貴様との契約を破棄する!」 結界魔術師リリーナにそう仰るのは、ライオネル・ウォルツ侯爵。 「彼女は結界魔術師1級を所持している。だから貴様はもう不要だ」 とシュナ・ファールと名乗る別の女性を部屋に呼んで宣言する。 リリーナは結界魔術師2級を所持している。 ライオネルの言葉が本当なら確かにすごいことだ。 ……本当なら……ね。 ※完結まで執筆済み

大器晩成エンチャンター~Sランク冒険者パーティから追放されてしまったが、追放後の成長度合いが凄くて世界最強になる

遠野紫
ファンタジー
「な、なんでだよ……今まで一緒に頑張って来たろ……?」 「頑張って来たのは俺たちだよ……お前はお荷物だ。サザン、お前にはパーティから抜けてもらう」 S級冒険者パーティのエンチャンターであるサザンは或る時、パーティリーダーから追放を言い渡されてしまう。 村の仲良し四人で結成したパーティだったが、サザンだけはなぜか実力が伸びなかったのだ。他のメンバーに追いつくために日々努力を重ねたサザンだったが結局報われることは無く追放されてしまった。 しかしサザンはレアスキル『大器晩成』を持っていたため、ある時突然その強さが解放されたのだった。 とてつもない成長率を手にしたサザンの最強エンチャンターへの道が今始まる。

【完結】婚約破棄されたので、引き継ぎをいたしましょうか?

碧桜 汐香
恋愛
第一王子に婚約破棄された公爵令嬢は、事前に引き継ぎの準備を進めていた。 まっすぐ領地に帰るために、その場で引き継ぎを始めることに。 様々な調査結果を暴露され、婚約破棄に関わった人たちは阿鼻叫喚へ。 第二王子?いりませんわ。 第一王子?もっといりませんわ。 第一王子を慕っていたのに婚約破棄された少女を演じる、彼女の本音は? 彼女の存在意義とは? 別サイト様にも掲載しております

処理中です...