上 下
72 / 109

72. Story.6 ~【初恋ダイアリー】~①

しおりを挟む
72. Story.6 ~【初恋ダイアリー】~①



 あたしは早速家に帰り、サキちゃんにすすめた【初恋ダイアリー】を探す。あたしはその時は百合小説だけど、映画化もされたいい作品だから買った記憶がある。いわゆる流行りにのっただけだ。

「確かこの辺りにしまったような……あった。」

 少し埃をかぶっているけど、間違いなく【初恋ダイアリー】だ。表紙には可愛らしい女の子が描かれている。これが主人公である。

 まさかあたしが女の子と付き合うなんて、この当時のあたしは微塵も思ってなかっただろうな。だから今この【初恋ダイアリー】を違う気持ちで読めるような気がする。あたしは小説のページをめくる。

【初恋ダイアリー:あらすじ】
 恋愛経験が全くない女子高生の前澤詩織(まえさわしおり)は、ある日を境にクラスメイトの女の子、深山歌音(みやまかのん)に惹かれていく。同性に対する恋愛感情。その想いを伝えることもできずにいた時、教室の自分の机の中に見知らぬ一冊のノートを見つける。そこには歌音への気持ちと、日記が書かれていた。詩織はそのノートに書かれていることを実行することで、自分の恋を叶えようとするのだが……。

 何これ?すごく面白いんだけど!こんなの読んだら続きが気になるじゃん……。なにやってんだ昔のあたし……。とりあえず読みすすめていこう。

 見知らぬノート、それは未来の主人公が書いた日記。最初はそれの通りに行動していくけど、ある日主人公はその日記の結末を見てしまう。それは「別れ」。主人公は好きな人と結ばれたいという願いのために日記とは違う行動をしていく。ふむ。なんて切ない話なんだ……これは泣ける。

 そして主人公の想いは届くのか!? 読んでいるこっちまでドキドキしてくる。早く次を読みたいけど、もう遅いので寝ることにした。

 翌日。あたしは小説演劇同好会の部室にいる。結愛先パイは用事で少し遅れるって言ってたので、待っている間に【初恋ダイアリー】を読むことにする。

「そういえば結愛先パイの用事ってなんだろう?というか結愛先パイって友達とかいるのかな?全然聞かないけどさ……。」

 そんなことを呟きながら本を読んでいた。すると突然ドアが開いた。誰か来たようだ。そこに立っていたのは……結愛先パイだった。

「遅くなってごめんなさい。」

「大丈夫ですよ。それより用事は終わったんですか?」

「えぇ、なんとかね。」

 結愛先パイは席に座る。あたしの横を通った時に結愛先パイのいい匂いがする。やばい……。落ち着け自分……。

「そういえば麻宮さんは結局どうしたの?デート断ったのかしら?」

「あぁ、あれですか……。断ったみたいですよ?」

「あら、そうなの?でもまぁよかったんじゃない?」

「はい、そうですね。ところで結愛先パイはどうして遅れたんですか?」

 すると結愛先パイの顔色が明らかに変わる。何かまずかったかな? しかし結愛先パイはすぐにいつも通りの表情に戻る。それから少し沈黙が続く。しばらくしてから結愛先パイが口を開く。なんか怖い……?

「ちょっと天道真白に呼ばれてね?私は嫌だと言ったのに、文化祭の準備をするように言ってきたのよ。本当に面倒な子。」

「ん?結愛先パイって天道生徒会長と同じクラスなんですか?」

「そうよ。しかも隣の席。私にだけうるさいのよねあの子。」

 初耳なんだけどさ……。あたしは結愛先パイの交友関係って知らない。聞ける範囲で聞いてみよう。

「結愛先パイって仲のいいお友達いるんですか?」

「いないわよ。」

「即答すぎ!」

「だって事実だし仕方ないじゃない?それに私はあなたと一緒にいて楽しいと思っているもの。だから問題ないわ。」

 それはそれで嬉しいんだけどさ……。その後しばらく雑談をして、あたしはまた【初恋ダイアリー】を読み始める。

「あら?ずいぶん懐かしいの読んでるわね?」

「あっはい。昔流行った時に読んだんですけど、今ならまた楽しめるかなって思って。」

「その小説は私がまだ紗奈の事を好きだった中学三年生の時に流行ったやつよね?一緒に映画も見に行ったわ」

 結愛先パイはいつもの悪い顔をしながらあたしに言う。わざとだ。あたしを嫉妬させようとしてる!あたしが不機嫌そうな顔で睨むと結愛先パイは満足げに微笑む。結愛先パイはホントに意地悪だ……。でも大好きだから仕方ない。

「あたし嫉妬しませんからね!」

「あら。つまらないわね。」

「結愛先パイの初恋は紗奈さんですよね?」

「さぁ?ご想像にお任せするわ。」

 結愛先パイははぐらかすように答える。絶対そうだ。あたしをからかって楽しんでいるだけだよ。あたしの初恋は……結愛先パイになるのかな……。だから少し悔しい。中学生の時はカッコいいなと思う男子はいたけど、付き合いたいなと思ったことはない。

「あたしがもし、紗奈さんより先に出会ってたら付き合ってましたかね?」

「どうかしらね?今のあなたなら間違いなく好きになったかもね?あなた意外考えられないし。」

「っ!いきなりそういうこと言わないでください……。照れるじゃないですか……。」

「ふふ。ごめんなさいね。つい可愛いと思って。」

 やっぱり結愛先パイには敵わない。あたしは顔を赤くしながら下を向いてしまう。そんなあたしを見て結愛先パイは笑っているのでした。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

鐘ヶ岡学園女子バレー部の秘密

フロイライン
青春
名門復活を目指し厳しい練習を続ける鐘ヶ岡学園の女子バレー部 キャプテンを務める新田まどかは、身体能力を飛躍的に伸ばすため、ある行動に出るが…

校長先生の話が長い、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
学校によっては、毎週聞かされることになる校長先生の挨拶。 学校で一番多忙なはずのトップの話はなぜこんなにも長いのか。 とあるテレビ番組で関連書籍が取り上げられたが、実はそれが理由ではなかった。 寒々とした体育館で長時間体育座りをさせられるのはなぜ? なぜ女子だけが前列に集められるのか? そこには生徒が知りえることのない深い闇があった。 新年を迎え各地で始業式が始まるこの季節。 あなたの学校でも、実際に起きていることかもしれない。

【れんかの】~週末。『ボク』は『白雪姫』に変わる。憧れのあの子と始めるナイショの関係~

夕姫
青春
『あの時の甘酸っぱい気持ちを思い出しませんか?』 主人公の白瀬勇輝(しらせゆうき)は高校3年生。学校では陰キャのオタク。身長も低く、顔立ちも幼い、女の子のような高い声。勉強も運動も苦手。毎日クラスメートからバカにされる日々。そんな勇輝はオタク仲間から誘われたコスプレをきっかけに、週末だけ『女装』をするようになる。 新しい自分。外を1人で歩けば周りの男の子から声をかけられ、女の子からも可愛いと言われる。『女装』することで普段のストレスから解放される勇輝。 いつものようにお気に入りの喫茶店に行くと、そこで偶然にも憧れの女の子である隣の席の藤咲葵(ふじさきあおい)と出会ってしまう。 そんな葵は今流行りの『レンタル彼女』サービスをやっていて…… この物語は、お互いの悩みを通して色々成長し変化していく、時に真面目に、時に切なく、時にドキドキ展開……も?『男の娘×恋に真面目な小悪魔系美少女』の甘酸っぱい新感覚ラブコメディ

妻がヌードモデルになる日

矢木羽研
大衆娯楽
男性画家のヌードモデルになりたい。妻にそう切り出された夫の動揺と受容を書いてみました。

夕日と白球

北条丈太郎
青春
ある中学校の弱小野球部に個性的な少年たちが集い躍動する

らじおびより

タツノコ
青春
ある町の進学校、稲荷前女子中学校・高等学校に入学した谷田部野乃。体験入部の日、ふとした事から「無線部」に入部させられてしまい、ドタバタな日々が始まる。

女子高生は卒業間近の先輩に告白する。全裸で。

矢木羽研
恋愛
図書委員の女子高生(小柄ちっぱい眼鏡)が、卒業間近の先輩男子に告白します。全裸で。 女の子が裸になるだけの話。それ以上の行為はありません。 取って付けたようなバレンタインネタあり。 カクヨムでも同内容で公開しています。

One-sided

月ヶ瀬 杏
青春
高校一年生の 唯葉は、ひとつ上の先輩・梁井碧斗と付き合っている。 一ヶ月前、どんなに可愛い女の子に告白されても断ってしまうという噂の梁井に玉砕覚悟で告白し、何故か彼女にしてもらうことができたのだ。 告白にオッケーの返事をもらえたことで浮かれる唯葉だが、しばらくして、梁井が唯葉の告白を受け入れた本当の理由に気付いてしまう。

処理中です...