上 下
446 / 693

400回記念SS 『闇を暴く名探偵誕生!』(後編)

しおりを挟む
400回記念SS 『闇を暴く名探偵誕生!』(後編)




 そして3日後。Fmすたーらいぶから『面接のお知らせ』が届いた。どうやら書類選考はクリアしたみたいだ。

 面接の日、あたしはすごく緊張していた。もちろんこの企業に応募したのはあたしの意思だし、どうしても受かりたい気持ちが今は大きくなっている……だから心臓はバクバクだった。

 指定された場所に向かうとすでに数名の女の子たちが座っていた。あたしも慌ててその人たちの隣に座った。そして1人ずつ呼ばれ中に入っていく。

 あたしはもうすでにかなり緊張していて話すこともままならない状態だった。勝手にゲーム配信者とゲーム実況者の期待を背負っていると勘違いしていた

「じゃあ次のかた……日咲七海さんどうぞお入りください」

「はっはい!」

 正直、面接なんてアルバイトをやった時くらいしか経験はないし。何を聞かれるかとかも全く想像がつかない。あたしは恐る恐るその部屋に入った。

 中には3名の面接官がいて、あたしが中に入るとすぐに真ん中に座っていた女性があたしに話しかけてきた。

「どうぞ?楽にして?」

「え?あっはい……」

 普通こういう面接ってパイプ椅子とかじゃないの?なぜかソファーなんだけど……そんな状況に驚いていると先程の女性が話す。

「私はこの株式会社Fmすたーらいぶ代表取締役の星乃よ。よろしく」

「え?社長!……さんですか?」

「ええ。見えないかしら?」

「見えないというより……分かりませんでした。あ。すいません」

 社長さんということに驚きすぎて、つい思ったことを言ってしまった。でも星乃社長は優しく笑いながらあたしに言った。

「分からない……そうね。あなたと私は初対面だから。それに私も会社を出て外に行けばただのおばさんよ」

「はぁ……そうですね」

「Vtuberはそういう仕事よ。演者。設定があってそれを演じる。あなたじゃなくていい、あなたを知らなくてもいい。配信に決まりはない。あなたの好きなものを好きにみんなにも知ってもらえる。つまり配信中はあなたは理想の人物になれるの。素敵じゃない?」

 あたしは、その星乃社長の言葉にすごく納得してしまった。そうか……自分も演者になる。星乃社長の話はとても分かりやすくて、あたしはすぐにその世界に引き込まれていった。

「というものにあなたは応募しているわ?改めて聞くけど、面接をしてもいいかしら?」

「はい。お願いします」

 その時はもう不思議と緊張はしていなかった。星乃社長はあたしのことをすごく真っ直ぐな瞳で見ながら質問する。それに対してあたしの気持ちをそのまま答えられたと思う。


 そして星乃社長に最後に聞かれた質問に心を掴まれた気がしたんだ……


「それじゃ最後……あなたにとっての一等星って何かしら?さっき言っていたゲーム?そのゲームをやり込めることかしら?」

 ゲーム……あたしは迷った。でもすぐにあたしの心の声に従った。なぜならそれがあたしがこの企業に応募する本当の目的なのだから……。

 そう……あの時からあたしの心は決まっていたんだ。自分の好きなことをみんなにも知ってほしい……でも今のあたしじゃ出来ない。でもこの『青嶋ポアロ』なら……

 あたしは答えた……いや叫んでしまった。周りなんて気にもしないで、あたしの想いを素直にぶつけて言った。

「いえ。それは誰にでも出来ます。あたしの一等星は『青嶋ポアロ』を演じてあたしの好きなゲームをみんなに知ってもらって一緒に楽しむこと。『青嶋ポアロ』を演じれるのはあたしだけです!それは誰にも負けないと思います!」

「……それがあなたの一等星なのね?」

「あと、あたしはあたしのままでいます。演じるのは苦手ですから。このアバターを借ります。あたしも『青嶋ポアロ』もあたしです!」

 あたしの答えを聞いた星乃社長は満面の笑みであたしを見ていた。そしてそのまま面接は終わった。




 結果発表の日……なかなか電話がこないので、あたしは正直ダメだろうなと思っていた。でもその日の夕方に星乃社長から電話がかかってきた。

「もしもし!」

 《あら?どうしたのそんなに焦ってw》

「え?いや……その……」

 《……『青嶋ポアロ』を演じるのは誰にも負けないんじゃなかったのかしら?》

 と、星乃社長にクスクス笑いながら言われた。本当にこの人社長なの?でも……この人とならって思ったのも事実だけど。

 《日咲七海さん。あなたのお手伝いをさせてもらうことにしたわ。合格よ。これから一緒に頑張りましょう》

「はい!よろしくお願いします!」

 こうしてあたしはFmすたーらいぶのVtuberプロジェクトの1期生『青嶋ポアロ』としてデビューすることが決まった。





 ~そして現在~

 あたしは今、事務所の会議室で新しく出すグッズの打ち合わせを1期生のみんなとしている。

「七海ちゃん。七海ちゃん聞いてる?」

「え?あっごめん陽菜ちゃん何?」

「ちょっと七海。話し聞いてなさいよ。1期生の集合タペストリーの絵、どっちがいいの?」

「紫織さんちょっと待ってね……えっとどれだっけ……」

 いけないいけない。ふと昔のことを思い出して全然話し聞いてなかった……すると横からノートパソコンの画像を颯太が見せてくれる。

「これだよ日咲さん」

「あっありがとう颯太。えっと……こっちの『ひなリリィ』『ましポア』になってるやつがいいんじゃない?『お姉さん組』と『お子ちゃま組』だし!」

 あたしがそう言うと、陽菜ちゃんと紫織さんはお互いの顔を見合わせ、クスクスと笑う。あたしなんか変なこと言った?

「そうなんだ。七海ちゃんなら違うほうを選ぶと思ったんだけどw」

 陽菜ちゃん。『神川ひなた』いつもニコニコしててあたしの優しいお姉ちゃん。デビューしたての時にサムネの作り方を教えてもらったり、配信でも色々フォローしてくれる。あとあたしの相談を聞いてくれてプライベートでもご飯を食べたり、買い物をしたり一番してる。

「まぁ七海がいいならいいけど」

 紫織さん。『魔月リリィ』あたしが少しやりすぎると、きちんと叱ってくれるお母さん……いやお姉さん。配信で生意気に絡むけどいつも許してくれるし、頼りにしている。ちなみに1期生のリーダーは紫織さんだとあたしは勝手に思っている。

「なんでわざわざカップリングのほう選ぶんだよ……」

「え?こっちのほうが衣装が可愛いじゃん!颯太は男だから分からないんだよ」

 颯太。『姫宮ましろ』Fmすたーらいぶ1期生のエース。初めて会うまで男の子だと思わなかったけど、話してみるとやっぱり『姫宮ましろ』だなって思うことも多い。年が近いし一番仲良くなれたかも。これも勝手かもしれないけど、あたしは一番の親友だと思っている。

「じゃあそれでいこうか」

「ええ私は問題ないわ」

「オレもです」

「あたしも!」

 こうしてみんなと仲良くなれたのは4年目にして本当に最近だけど、これからもっと仲良くなれたらいいなって思ってる。それにあたしは一番年下だし、もっともっとみんなに甘えたいしさ。

「やっと終わった……ねぇ颯太。帰りにアイス奢ってよ」

「え?またかよ」

「いいじゃん!颯太あたしのこと好きでしょ?」

「好き!?いやいやオレは……」

「あはは冗談だよ。お菓子も追加ね~」

「なんでだよw」

 前に『グランメゾン・リリィ』で颯太が言ってた『運命の1期生』って言葉。本当にそうだと思う。

 だって……あたしが大好きなゲームをやってなかったら、早起きしてあの電子看板も気にならなかったと思うし。こうやって素晴らしい仲間と出会うこともなかっただろうし。だから、あたしはこの1期生の仲間たちを一生大切にしていきたい。

 そして誰かの輝く一等星になるために、あたしである『青嶋ポアロ』としてこれからも頑張っていくんだから!


 完



 あとがき

 ということで、青嶋ポアロ探偵こと日咲七海ちゃんの過去のお話を簡単ですが書かせてもらいました。

 なぜポアロ探偵かというと、七海ちゃんは配信ではVtuberになるきっかけが描かれていないので、あとは私の周りからの要望が一番多かったです。

 他の1期生は本編でも理由は出てますが
 颯太は桃姉さんを助けるため。
 紫織さんは他のVtuberを観たとき面白そうだったから。
 陽菜ちゃんは自身が描いたイラストを見た社長からスカウト。

 です。

 次に多かったのは伊集院クララこと紗希ちゃんですかね。結構『パラレルワールド雑談』のお話が好きな人が多いみたいです。やはり配信とギャップのある紗希ちゃんのいい女っぷりが出てますからね。(本編274から雑談切り抜き『コラのんGhostばすたーず!死神ホテル大捜査線!』配信後まで)良かったらまた読み返してみてください

 七海ちゃんは本編で良くはっちゃけていますが、それは色々趣味が合う人が周りにいるからなんですね。昔はそうでもない女の子。本当にVtuberが天職なのかもしれませんね。七海ちゃん本人もVtuberの仕事に誇りを持ってますからね。

 また機会があれば他のライバーさんのきっかけや他のストーリーも短編集として書けたらいいと思います。

 最後に本編もまだまだ続いていきますので良かったら応援よろしくお願いいたします
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

自衛官、異世界に墜落する

フレカレディカ
ファンタジー
ある日、航空自衛隊特殊任務部隊所属の元陸上自衛隊特殊作戦部隊所属の『暁神楽(あかつきかぐら)』が、乗っていた輸送機にどこからか飛んできたミサイルが当たり墜落してしまった。だが、墜落した先は異世界だった!暁はそこから新しくできた仲間と共に生活していくこととなった・・・ 現代軍隊×異世界ファンタジー!!! ※この作品は、長年デスクワークの私が現役の頃の記憶をひねり、思い出して趣味で制作しております。至らない点などがございましたら、教えて頂ければ嬉しいです。

俺がカノジョに寝取られた理由

下城米雪
ライト文芸
その夜、知らない男の上に半裸で跨る幼馴染の姿を見た俺は…… ※完結。予約投稿済。最終話は6月27日公開

VRMMOのキメラさん〜雑魚種族を選んだ私だけど、固有スキルが「倒したモンスターの能力を奪う」だったのでいつの間にか最強に!?

水定ユウ
SF
一人暮らしの女子高生、立花明輝(たちばなあきら)は道に迷っていた女性を助けた後日、自宅に謎の荷物が届く。開けてみると、中身は新型の高級VRドライブとプレイヤーがモンスターになれると言う話題の最新ゲーム『Creaturess Union』だった。 早速ログインした明輝だったが、何も知らないまま唯一選んではいけないハズレキャラに手を出してしまう。 リセットができないので、落ち込むところ明輝は持ち前の切り替えの速さと固有スキル【キメラハント】で、倒した敵モンスターから次々能力を奪っていって……。 ハズレキャラでも欲しい能力は奪っちゃえ! 少し個性の強い仲間と共に、let'sキメラハント生活! ※こちらの作品は、小説家になろうやカクヨムでも投稿しております。 個性が強すぎる仲間のせいで、かなり効率厨になる時があります。そういう友達が劇中に登場するので、ゲーム的な展開からかけ離れる時があります。

「俺は小説家になる」と申しております

春秋花壇
現代文学
俺は小説家になる 語彙を増やす 体は食べた・飲んだもので作られる。 心は聞いた言葉・読んだ言葉で作られる。 未来は話した言葉・書いた言葉で作られる。

死が二人を分かつまで

KAI
キャラ文芸
 最強の武術家と呼ばれる男がいた。  男の名前は芥川 月(あくたがわ げつ)殺人術の空術を扱う武人。  ひょんなことから、少女をひとり助け出したが、それが思いもよらない方向へと彼の人生を狂わせる!  日本の・・・・・・世界の『武』とはなにか・・・・・・  その目で確かめよ!!

一条春都の料理帖

藤里 侑
ライト文芸
一条春都の楽しみは、日々の食事である。自分の食べたいものを作り食べることが、彼にとっての幸せであった。時にはありあわせのもので済ませたり、誰かのために料理を作ってみたり。 今日も理想の食事を追い求め、彼の腹は鳴るのだった。 **** いつも読んでいただいてありがとうございます。 とても励みになっています。これからもよろしくお願いします。

転生したら男性が希少な世界だった:オタク文化で並行世界に彩りを

なつのさんち
ファンタジー
前世から引き継いだ記憶を元に、男女比の狂った世界で娯楽文化を発展させつつお金儲けもしてハーレムも楽しむお話。 二十九歳、童貞。明日には魔法使いになってしまう。 勇気を出して風俗街へ、行く前に迷いを振り切る為にお酒を引っ掛ける。 思いのほか飲んでしまい、ふら付く身体でゴールデン街に渡る為の交差点で信号待ちをしていると、後ろから何者かに押されて道路に飛び出てしまい、二十九歳童貞はトラックに跳ねられてしまう。 そして気付けば赤ん坊に。 異世界へ、具体的に表現すると元いた世界にそっくりな並行世界へと転生していたのだった。 ヴァーチャル配信者としてスカウトを受け、その後世界初の男性顔出し配信者・起業投資家として世界を動かして行く事となる元二十九歳童貞男のお話。 ★★★ ★★★ ★★★ 本作はカクヨムに連載中の作品「Vから始める男女比一対三万世界の配信者生活:オタク文化で並行世界を制覇する!」のアルファポリス版となっております。 現在加筆修正を進めており、今後展開が変わる可能性もあるので、カクヨム版とアルファポリス版は別の世界線の別々の話であると思って頂ければと思います。

漫画の寝取り竿役に転生して真面目に生きようとしたのに、なぜかエッチな巨乳ヒロインがぐいぐい攻めてくるんだけど?

みずがめ
恋愛
目が覚めたら読んだことのあるエロ漫画の最低寝取り野郎になっていた。 なんでよりによってこんな悪役に転生してしまったんだ。最初はそう落ち込んだが、よく考えれば若いチートボディを手に入れて学生時代をやり直せる。 身体の持ち主が悪人なら意識を乗っ取ったことに心を痛める必要はない。俺がヒロインを寝取りさえしなければ、主人公は精神崩壊することなくハッピーエンドを迎えるだろう。 一時の快楽に身を委ねて他人の人生を狂わせるだなんて、そんな責任を負いたくはない。ここが現実である以上、NTRする気にはなれなかった。メインヒロインとは適切な距離を保っていこう。俺自身がお天道様の下で青春を送るために、そう固く決意した。 ……なのになぜ、俺はヒロインに誘惑されているんだ? ※他サイトでも掲載しています。 ※表紙や作中イラストは、AIイラストレーターのおしつじさん(https://twitter.com/your_shitsuji)に外注契約を通して作成していただきました。おしつじさんのAIイラストはすべて商用利用が認められたものを使用しており、また「小説活動に関する利用許諾」を許可していただいています。

処理中です...