上 下
189 / 718

167. 姫は『幸せ』なようです

しおりを挟む
167. 姫は『幸せ』なようです



 12月中旬。年末のすたライの同期ユニット曲の仮歌が届き、部屋で1人で聴いていた。今回の1期生のコンセプトは『新たな始まり』で曲名は『RE:STAR☆T』になっている。

 今年に入っての1期生の関係性、☆マークはFmすたーらいぶの星を意味している。桃姉さんに聞いたが、会議で満場一致の題名だったらしい。

 確かにこの1年で1期生の関係性は大きく変化した。それもこれもオレのせいではあるけど。結構パートわけされていて覚えるのが大変そうだな……この他にもユニットかソロがあるから頑張らないとな。そんなことを考えていると彩芽ちゃんが部屋にやってくる。

「颯太さん。あの……1期生のユニットの仮歌……聴いてもいいですか?」

「いいよ。一緒に聴こうか」

「はい……」

 彩芽ちゃんは少しだけ遠慮気味に返事をする。片方ずつイヤホンをして、曲を流しながら聴き入る。

「わぁ……すごく良いですね」

「うん。本当にね」

 なんか歌詞もエモい感じになっていて、特に最後のフレーズはグッときてしまった。曲が終わりイヤホンを外すと、すぐ横に彩芽ちゃんの顔があり、一気に身体が熱くなる。すると彩芽ちゃんも顔を赤くしながら俯く。

 いや落ち着けオレ。彩芽ちゃんとはキスだって何回かしている、何を今さら恥ずかしがることがあるんだ。深呼吸して心を落ち着かせてから、改めて彩芽ちゃんを見るが、彼女はまだ顔が赤いままだった。

「あっ彩芽ちゃん!どうだったユニット曲!」

「えっ……あっ……はい……なんかすごく感動して……歌詞が1期生の今までの想いとか、これからの願いとか込められてる気がして……本当に素敵です……本当に」

「そっか。そんな曲を歌わせてもらってオレも嬉しいよ。彩芽ちゃんは『姫宮ましろ』のファンであり、親衛隊隊長だからさ」

 そう彩芽ちゃんは同僚で後輩で……一番近くにいてくれる『姫宮ましろ』のファンなんだ。そんな彩芽ちゃんに『本当に素敵』と言ってもらえて、本当に嬉しかった。ただそれだけのことなのに、なぜか心が温かくなっていく。

「3期生のユニット曲も……すごく……いいですよ?」

「確か曲名は『5-FIVE-COLOR CREATION』だったっけ?」

「はい。5人それぞれの色が混ざりあって……1つの色になって輝くというコンセプトなんです……とても可愛い曲です」

「3期生らしいな。彩芽ちゃんたちがすたライで歌うのが本当に楽しみだ」

 それからしばらくの間、彩芽ちゃんと色々な話をする。初めはまったく会話がなかったオレと彩芽ちゃん。でも今は、こうやってVtuberのお仕事を通して、少しずつだけど仲良くなって……そして彼女にもなった。

 それも『姫宮ましろ』のおかげなんだよな……

「あの……颯太さん。お腹空きませんか?コンビニ……行きません?」

「コンビニ?コンビニでいいの?」

「Fmすたーらいぶコラボの……中華まん食べたくて」

「あー案件の。ひなたさんのイラストが焼印されてるやつか。確かに食べたいかも」

 そして夜道を2人で近くのコンビニまで歩く。季節は冬。12月ともなると、吐息も白く、寒さがより一層増してくる。

「寒いな……彩芽ちゃん大丈夫?」

「大丈夫……じゃないです……」

「え?」

 そう言いながら彩芽ちゃんはオレの腕をぎゅっと抱きしめてくる。そんな行動にドキドキしながらも、彼女の体温を感じて、オレも安心してしまう。そのまま腕を組んだまま2人で歩いていく。

「彩芽ちゃん。クリスマスなんだけどさ、何か欲しいものとかある?」

 ずっと気になっていたことを聞いてみる。正直、プレゼントなんて渡したことないし、そもそも女性に贈り物をしたこともない。彩芽ちゃんはいつもオレに元気を与えてくれて、笑顔にさせてくれる。だから少しでも彩芽ちゃんに喜んでもらえるような、そんなことをしたかった。

 彩芽ちゃんは立ち止まり、オレの顔を見上げる。

「私は……颯太さんと一緒にケーキが食べたいです」

「え?ケーキはケーキだよ。他に欲しいものとかないの?」

「……もう沢山もらってますから……これからも、ずっと一緒に居てください」

 そう微笑みながら彩芽ちゃんはまた歩き出す。……一緒に居てください。か。オレはまた彩芽ちゃんに恋をしてしまったようだ。本当に幸せだな。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

男女比がおかしい世界に来たのでVtuberになろうかと思う

月乃糸
大衆娯楽
男女比が1:720という世界に転生主人公、都道幸一改め天野大知。 男に生まれたという事で悠々自適な生活を送ろうとしていたが、ふとVtuberを思い出しVtuberになろうと考えだす。 ブラコンの姉妹に囲まれながら楽しく活動!

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

僕が美少女になったせいで幼馴染が百合に目覚めた

楠富 つかさ
恋愛
ある朝、目覚めたら女の子になっていた主人公と主人公に恋をしていたが、女の子になって主人公を見て百合に目覚めたヒロインのドタバタした日常。 この作品はハーメルン様でも掲載しています。

最底辺の落ちこぼれ、実は彼がハイスペックであることを知っている元幼馴染のヤンデレ義妹が入学してきたせいで真の実力が発覚してしまう!

電脳ピエロ
恋愛
時野 玲二はとある事情から真の実力を隠しており、常に退学ギリギリの成績をとっていたことから最底辺の落ちこぼれとバカにされていた。 しかし玲二が2年生になった頃、時を同じくして義理の妹になった人気モデルの神堂 朱音が入学してきたことにより、彼の実力隠しは終わりを迎えようとしていた。 「わたしは大好きなお義兄様の真の実力を、全校生徒に知らしめたいんです♡ そして、全校生徒から羨望の眼差しを向けられているお兄様をわたしだけのものにすることに興奮するんです……あぁんっ♡ お義兄様ぁ♡」 朱音は玲二が実力隠しを始めるよりも前、幼少期からの幼馴染だった。 そして義理の兄妹として再開した現在、玲二に対して変質的な愛情を抱くヤンデレなブラコン義妹に変貌していた朱音は、あの手この手を使って彼の真の実力を発覚させようとしてくる! ――俺はもう、人に期待されるのはごめんなんだ。 そんな玲二の願いは叶うことなく、ヤンデレ義妹の暴走によって彼がハイスペックであるという噂は徐々に学校中へと広まっていく。 やがて玲二の真の実力に危機感を覚えた生徒会までもが動き始めてしまい……。 義兄の実力を全校生徒に知らしめたい、ブラコンにしてヤンデレの人気モデル VS 真の実力を絶対に隠し通したい、実は最強な最底辺の陰キャぼっち。 二人の心理戦は、やがて学校全体を巻き込むほどの大きな戦いへと発展していく。

パンツを拾わされた男の子の災難?

ミクリ21
恋愛
パンツを拾わされた男の子の話。

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

処理中です...