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86. 後輩ちゃんは『平気』らしいです

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86. 後輩ちゃんは『平気』らしいです



 翌日。新しく出来た温泉宿泊施設。そこは、客室が全て個室になっており、それぞれの客層に合わせた食事やサービスを提供してくれるらしい。温泉はもちろんサウナや娯楽施設も充実しており、家族でも楽しめる場所になっている。

 そして今回、その取材でオレは鈴町さんと一緒に泊まることになっている。現在時刻は朝の9時。オレは鈴町さんと共に自宅を出て駅まで歩いていた。今日は朝から快晴であり絶好の取材日和である。といっても外をするわけじゃないけど。

 鈴町さんは先程からソワソワしている。それもそうだろう。初めての泊まりの仕事で、初めてオレと2人でのお出かけだもんな。オレだって緊張してるよ。

 ──いやいやまてまて。これはあくまで仕事だからな!変な意味に考えるなオレ。

「それじゃ行こうか鈴町さん」

「はい……」

 隣を歩く鈴町さんは、いつもよりバッチリ化粧をしており、服装も普段よりも大人っぽく見える。正直可愛い。いつも以上にドキドキしてしまう。

 それから電車に乗り、目的の駅に着くと、すぐにタクシーを拾い、現地へと向かう。その間、ずっと鈴町さんは落ち着かない様子でチラッチラッとオレを見てくる。

「どうかしたのか?」

「いえ……その……緊張して……」

「そりゃオレもだけどさ。……あのさ鈴町さん。せっかくだからTwitterで今日のことリスナーにこまめに報告しないか?宣伝も兼ねてさ。外に出る案件なんてほとんどないし、あまりやりすぎると場所とか特定されるかもしれないから、そこは注意しないと駄目だけど」

「そっ……それは……確かに良い考えですね」

「だろ?まずはオレからやってみようかな」

 そう言ってオレは自分のスマホを取り出し、ツイートしていく。

 姫宮ましろ@himemiyamashiro
『今日は、かのんちゃんと案件の撮影に行ってきます(^-^ゞ外で合うのは新鮮で少しドキドキしてますo(^o^)o』

 こんな感じかな?するとすぐに色々な反応が返ってくる。基本的にライバーの公式アカウントは配信以外のことはあまりツイートしない。それはさっきも言ったが、身バレの危険があるし、企業の宣伝やらもあるので、なるべく控えているのだ。

「次は鈴町さんがツイートするといいよ。とりあえず時間をあけて交互にやっていこうか、これも宣伝と戦略だから。みんなが『ましのん』に興味を示せばそれだけチャンスが増えるし」

「分かりました」

 そのあとは、今日の案件や『ましポん48』の話などをしながら目的の温泉宿泊施設に辿り着いた。

 担当者の方に挨拶をし、今回の案件の説明を受ける。なんでもこの温泉施設は、最近出来たばかりで、まだ口コミサイトなどでも評価がそれほど高くない。

 そこで今回、『ましのん』をイメージキャラクターとして期間限定でコラボするという話だ。オレと鈴町さんが実際に宿泊利用し、その様子を配信するというものらしい。

「あ。見てください……『ましのん』のパネルがあります」

「コラボ期間中に入り口に飾るやつらしいよ。おー凄いな」

「写真撮っても……いいですか?」

「TwitterとかSNSにあげなければ大丈夫だよ」

 本当に嬉しそうな笑顔を見せる鈴町さん。こういう表情を見ると、やっぱり年相応の女の子なんだなって思う。

 それから取材が始まり、まずは色々な施設の案内を受ける。配信で何を話すか事前に打ち合わせはしてあるので、それをスムーズに行う為だ。

 必要な写真を撮りながら、担当者さんの話を真剣にメモする鈴町さん。オレも一応ちゃんと聞いているのだが、時折見せる鈴町さんの横顔に見惚れてしまう。

 ──やばいな……これは……本当に……

 仕事に集中しようとすればするほど、鈴町さんに視線がいってしまう。こういう姿は見たことないから、なんか……こう胸の奥がきゅっと締め付けられるような気持ちになる。そんなオレの様子に気付いたのか、鈴町さんは顔を真っ赤にして俯いてしまった。

 そして取材も終わり、オレと鈴町さんは部屋へと案内された。そこは畳の敷かれた純和風の部屋であり、窓からは綺麗な庭園が見えた。もう旅館とほぼ変わらないな。まぁゆっくり温泉で楽しみながら疲れを癒すか……と思っていたのだが……

 《ごめん!手違いで部屋1つしか
 用意出来なくて……》

「ごめんですまないだろうが!どうするんだよ!」

 オレが横目で見ると、鈴町さんは顔を赤くしたまま固まっていた。

 《こっちだって忙しいのよ!大体あんたが何もしなきゃいい話でしょ?部屋自体は一番広いのを用意してるし問題ない》

「いや!そういう問題じゃなくてだな?」

 《子供じゃないんだからガタガタ言ってんじゃないわよ。19時から配信!忘れないでよ!それじゃ!》

 そう言い残して電話は切れた。子供じゃないから問題なんだろうが……これってつまり……そういうことだろ?

「マジか……」

「えっと……その……ましろん先輩となら平気です……」

 鈴町さんは消え入りそうな声でオレに頭を下げてきた。こっちが平気じゃないんだが……
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