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20. 後輩ちゃんは『宝物』を手に入れたようです
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20. 後輩ちゃんは『宝物』を手に入れたようです
そしてそのまま事務所を出て、オレと鈴町さんは駅に向かって歩き出す。
すると突然ポツリと雨粒が落ちてきた。そしてザーッと強い雨に変わる。駅までは歩いて10分ほどの距離だが、この雨の中を歩いて帰るには厳しいので近くの店の軒先で雨宿りをする。
「鈴町さん濡れてないか?」
「はい……」
「ごめん。傘持ってくるべきだったよな」
「いえ……大丈夫です。それにましろん先輩が悪いわけじゃありませんから……」
鈴町さんはカバンをギュッと握りしめながら俯いていた。こういう時はどうしたらいいのかわからないな……しばらく沈黙が続く。ふとそのカバンを見ると『姫宮ましろ』のキーホルダーがついていた。
「それ……『姫宮ましろ』1周年記念の限定キーホルダーか?」
「え?あ。……はい……ごめんなさい……」
「別に謝ることじゃないだろ。ちなみにそれの非売品で色違いの白の衣装のバージョンもあるんだけど……良かったら鈴町さんにあげようか?」
そう言うと目を見開いてオレを見ていた。
「ほ……本当ですか!?そんな宝物みたいなもの……コミュ障で陰キャ女の私にくれるんですか!?」
「あっああ……」
今までに聞いたことのない声量で鈴町さんの声が響く。こんなにも『姫宮ましろ』が好きなのか……
「あ……ありがとうございます!大切にします!家宝にします!絶対します!絶対絶対します!」
「そこまではしなくていいから……使ってやってくれ」
「はいっ!……一生の宝物です!」
鈴町さんは満面の笑みを浮かべて喜んでいた。その笑顔を見てオレは思わず見惚れてしまう。この子が『姫宮ましろ』のファンで本当によかったと思った。
そのあとは雨が止むまで『姫宮ましろ』について鈴町さんと話をした。正直、自分のことなので少し気恥ずかしい部分もあったが、それでも嬉しそうに話してくれる鈴町さんを見ているとこっちも楽しくなった。配信を見てくれている人も、こうして誰かに語ることもできるんだと思うと、少し嬉しい気持ちになった。
雨が上がった頃にはもう夕方になっていた。再び鈴町さんと一緒に駅のホームへ向かいながら歩いていると桃姉さんからメッセージがくる。
「あれ?桃姉さん残業らしいぞ。帰り何か買って帰ろうか鈴町さん。何食べたい?」
「え?……えっと……あぅ……その……」
「無理に考えなくてもいいから、好きな物でいいぞ」
「あ……あの……お寿司……食べたい……です」
「じゃあ海老と玉子を多めに注文するか」
鈴町さんは顔を赤くしてモジモジしている。……もう少し慣れてほしいものだ。そしてそのまま家に帰る。鈴町さんはオレの目の前でソワソワしながら座っている。
そんな彼女を見ていると、なんだか犬みたいだなと思ってしまう。しばらくしてオレ達は食事を始めた。それから鈴町さんは終始無言で黙々とご飯を食べていた。
オレもあまり喋らず、静かに食事をする。でもなんだかこの時間は嫌いではない。むしろ心地良いくらいだ。そして食事が終わると、オレはイラストレーターさんの返事を確認する。するとちょうど返信が来ていたので、それを鈴町さんに見せる。
「『とても可愛いイラストなので、ぜひリスナーさんの意見を聞いてください。私も配信楽しみにしているので、こちらこそよろしくお願い致します』だってさ」
鈴町さんは心なしか嬉しそうにしている。そしてTwitterに『23時からの配信で重大発表!絶対に観てください!』とツイートしていた。
「さてオレも明日の配信準備しようかな。鈴町さんは配信頑張ってな」
「あの……ましろん先輩……」
「ん?」
「えっと……その……キーホルダー……」
少し上目遣いでオレを見ていた。そうだった。非売品の『姫宮ましろ』の白の衣装のバージョンのキーホルダーをあげる約束をしていた。オレは部屋からキーホルダーを持ってきて鈴町さんに手渡す。
「はい。鈴町さん。なんか裏側にサイン書いてあるけどいい?」
「サイン!?……はっ……はっ……はっ……」
「落ち着け……」
それを受け取ると、鈴町さんはとても大事そうに両手で包んで胸に抱き寄せていた。そしてオレに背を向けると小さな声で言った。
「ありがとう……ございます。ましろん先輩……配信頑張ります」
そう言って鈴町さんは嬉しそうにして自分の部屋に戻って行った。なんか……色々可愛いところが多い子だな……陰キャでコミュ障だけど。とか思ってしまうのは鈴町彩芽本人のことも気になっているからかもしれない。
「さてと、オレはオレでやるべきことをやりますかね」
オレはPCの前に座り、作業を始める。そして夜は更けていった。
そしてそのまま事務所を出て、オレと鈴町さんは駅に向かって歩き出す。
すると突然ポツリと雨粒が落ちてきた。そしてザーッと強い雨に変わる。駅までは歩いて10分ほどの距離だが、この雨の中を歩いて帰るには厳しいので近くの店の軒先で雨宿りをする。
「鈴町さん濡れてないか?」
「はい……」
「ごめん。傘持ってくるべきだったよな」
「いえ……大丈夫です。それにましろん先輩が悪いわけじゃありませんから……」
鈴町さんはカバンをギュッと握りしめながら俯いていた。こういう時はどうしたらいいのかわからないな……しばらく沈黙が続く。ふとそのカバンを見ると『姫宮ましろ』のキーホルダーがついていた。
「それ……『姫宮ましろ』1周年記念の限定キーホルダーか?」
「え?あ。……はい……ごめんなさい……」
「別に謝ることじゃないだろ。ちなみにそれの非売品で色違いの白の衣装のバージョンもあるんだけど……良かったら鈴町さんにあげようか?」
そう言うと目を見開いてオレを見ていた。
「ほ……本当ですか!?そんな宝物みたいなもの……コミュ障で陰キャ女の私にくれるんですか!?」
「あっああ……」
今までに聞いたことのない声量で鈴町さんの声が響く。こんなにも『姫宮ましろ』が好きなのか……
「あ……ありがとうございます!大切にします!家宝にします!絶対します!絶対絶対します!」
「そこまではしなくていいから……使ってやってくれ」
「はいっ!……一生の宝物です!」
鈴町さんは満面の笑みを浮かべて喜んでいた。その笑顔を見てオレは思わず見惚れてしまう。この子が『姫宮ましろ』のファンで本当によかったと思った。
そのあとは雨が止むまで『姫宮ましろ』について鈴町さんと話をした。正直、自分のことなので少し気恥ずかしい部分もあったが、それでも嬉しそうに話してくれる鈴町さんを見ているとこっちも楽しくなった。配信を見てくれている人も、こうして誰かに語ることもできるんだと思うと、少し嬉しい気持ちになった。
雨が上がった頃にはもう夕方になっていた。再び鈴町さんと一緒に駅のホームへ向かいながら歩いていると桃姉さんからメッセージがくる。
「あれ?桃姉さん残業らしいぞ。帰り何か買って帰ろうか鈴町さん。何食べたい?」
「え?……えっと……あぅ……その……」
「無理に考えなくてもいいから、好きな物でいいぞ」
「あ……あの……お寿司……食べたい……です」
「じゃあ海老と玉子を多めに注文するか」
鈴町さんは顔を赤くしてモジモジしている。……もう少し慣れてほしいものだ。そしてそのまま家に帰る。鈴町さんはオレの目の前でソワソワしながら座っている。
そんな彼女を見ていると、なんだか犬みたいだなと思ってしまう。しばらくしてオレ達は食事を始めた。それから鈴町さんは終始無言で黙々とご飯を食べていた。
オレもあまり喋らず、静かに食事をする。でもなんだかこの時間は嫌いではない。むしろ心地良いくらいだ。そして食事が終わると、オレはイラストレーターさんの返事を確認する。するとちょうど返信が来ていたので、それを鈴町さんに見せる。
「『とても可愛いイラストなので、ぜひリスナーさんの意見を聞いてください。私も配信楽しみにしているので、こちらこそよろしくお願い致します』だってさ」
鈴町さんは心なしか嬉しそうにしている。そしてTwitterに『23時からの配信で重大発表!絶対に観てください!』とツイートしていた。
「さてオレも明日の配信準備しようかな。鈴町さんは配信頑張ってな」
「あの……ましろん先輩……」
「ん?」
「えっと……その……キーホルダー……」
少し上目遣いでオレを見ていた。そうだった。非売品の『姫宮ましろ』の白の衣装のバージョンのキーホルダーをあげる約束をしていた。オレは部屋からキーホルダーを持ってきて鈴町さんに手渡す。
「はい。鈴町さん。なんか裏側にサイン書いてあるけどいい?」
「サイン!?……はっ……はっ……はっ……」
「落ち着け……」
それを受け取ると、鈴町さんはとても大事そうに両手で包んで胸に抱き寄せていた。そしてオレに背を向けると小さな声で言った。
「ありがとう……ございます。ましろん先輩……配信頑張ります」
そう言って鈴町さんは嬉しそうにして自分の部屋に戻って行った。なんか……色々可愛いところが多い子だな……陰キャでコミュ障だけど。とか思ってしまうのは鈴町彩芽本人のことも気になっているからかもしれない。
「さてと、オレはオレでやるべきことをやりますかね」
オレはPCの前に座り、作業を始める。そして夜は更けていった。
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