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6. 後輩ちゃんは『あの日』を忘れない

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6. 後輩ちゃんは『あの日』を忘れない


 そして更に1週間後。あれから、Fmすたーらいぶ関連のSNSは『ましのん』コラボの話題で持ちきりになっていた。

「すごい反響よ。やるわね颯太」

「これからが本番だろうが。ここまで反響が大きいことは嬉しいが、失敗は許されない」

 そして今は都内某所のファミレスにいる。『姫宮ましろ』と『双葉かのん』のコラボについて、話し合いをしているところだ。そこにはオレと桃姉さん、そして鈴町彩芽さんもいる。

「かのんちゃん。大丈夫?」

「は……吐きそう……です」

「ちょっと緊張しすぎじゃないか?」

「うぅ……ましろん先輩と……コラボ……緊張する……」

「とりあえず落ち着け」

 と。この調子だ。今日はコラボ内容の打ち合わせだから、桃姉さんがなんとか連れてきたという感じだ。

「ましろとかのんちゃんの枠でそれぞれ配信をするってことでいいわね?内容を2人で決めて企画書を事務所に提出するって形にするわね。今日の夜までに決めて」

「わかった」

「はい……」

「私は一度事務所に行くから。また連絡するわね。」

 そう言って桃姉さんは席を離れた。そして今オレは陰キャでコミュ障の後輩と2人きりになってしまった。

「とりあえず腹減ってないか?何か頼もう。何が食べたい?」

「えっと……ハ……定食……あと……バー……」

 ……声が小さすぎて聞き取れないが?まぁ微妙だが、おそらくハンバーグ定食とドリンクバーのことだろう。

 オレは店員を呼び注文をした。鈴町さんは緊張のせいかずっと俯いたままだ。しばらくして料理が運ばれてくると、鈴町さんは小さく手を合わせてから箸を手に取った。そして黙々と食事を始めたのだ。本当に美味しそうに食べる子だ。

 そんな様子を見ながら、オレも食事を始める。すると、突然鈴町さんが口を開いた。どうやら話を切り出すタイミングを見計らっていたらしい。

「ご……ごめ……なさい」

「なんで謝るんだよ。もっと普通に話してくれていいぞ。ほら深呼吸だ」

 すると大きく息を吸ったり吐いたりを繰り返す。少し落ち着いたようなので話を続ける。

「そう言えば、悪かった。この前のカチューシャ気づいてあげられなくて」

「いっ……いえ……そ……気持ち悪い……ですよね。同じ……Fmすたーらいぶの……Vtuber同士なの……に」

「そんなことないさ。身近に『姫宮ましろ』のファンがいるのはすごく嬉しいと思ったよ。実はあれから『双葉かのん』の配信を結構みてるんだオレ」

「へっ!?ままま……ましろん先輩が!?私の……配信……恥ずかしい……」

 顔を真っ赤にしながら、また下を向いてしまう。なんだかその仕草が可愛くて思わず笑みがこぼれてしまう。まるで妹みたいだよな……

「企画を考える前に聞きたいことあるんだけどいいか?」

「はい……」

「なんで鈴町さんはVtuberになったんだ?」

 これは初めて会ったときから聞きたかったことだ。こんなにも陰キャでコミュ障の鈴町さんが何故Vtuberとしてデビューしたのかを。

「……私。ずっと引きこもり……でした。こんな陰キャでコミュ障女の私が……周りとうまくやれるわけもなくて……一応就職して働くことに……なったんですが……やっぱりダメで。上司からは毎日怒られるし、同僚からもバカにされるしで……」

 一応本人なりには頑張ろうと思っていたのか。でも現実は厳しかった。彼女の性格では到底無理だったのだろう。

「そんなときに、たまたま……インターネットでVtuberの存在を知って……初めて観たんです『姫宮ましろ』のライブ配信を……」

「それで好きになって自分もやりたいと思うようになったと?」

「少し違います。……ましろん先輩は覚えてないと……思いますけど……私一度だけ……スパチャを送ったんです」

 スパチャ。それは投げ銭機能で、視聴者が配信サイトのアカウントを通じてお金を支払うことで、コメント欄とは別に相手に直接金額分のメッセージを送ることができるシステムだ。金額に応じて色があり、高額のスパチャだと赤色になる。

「本当に大した金額じゃなかったんです。……それを……ましろん先輩は拾って話題を膨らませてくれて……それが凄く嬉しくて……この気持ちをもっと色々な人に知ってもらいたい。私みたいな陰キャでコミュ障でも幸せにできるんじゃないかって思って……だから……そんなVtuberになりたい……です」

 そう話す鈴町さんはとても輝いて見えた。まるで配信画面の『双葉かのん』のように。これが本来の内に秘めた彼女の姿なのかもしれない。
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