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1. Vtuber『姫宮ましろ』
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1. Vtuber『姫宮ましろ』
「皆様、本日も楽しんでくれたなら嬉しいです。今日も元気に頑張りましょ!みんなの姫こと姫宮ましろでした~。またね~」
コメント
『おつ』
『乙ー』
『ましろ姫の出番は終わりか……寂しいな』
『おつかれさまー』
『これで今日も頑張れるぜ』
その配信画面には長いピンクの髪で頭には小さな王冠をのせ、そして淡いピンクの瞳を持つお姫様のような可愛らしい少女が映っている。
彼女の名前は『姫宮ましろ』。Vtuber事務所『Fmすたーらいぶ』のタレントでチャンネル登録者50万人を越える大人気Vtuberだ。コンセプトは「優雅に可憐に庶民に溶け込むどこかの国のお姫様」一蓮托生の分身でもある。
配信を切り一息つくと、椅子にもたれかかって部屋の天井を見上げた。
「ふぅ……」
Vtuber『姫宮ましろ』には誰にも言えない秘密がある。
それは……
「お疲れさま。今日も良かったじゃん!」
「それ嫌みか?」
「そんなんじゃないわよ。それにしても『Fmすたーらいぶ』の1期生の姫宮ましろが男だと知ったらファンはどんな反応するのかしらね?」
「元はと言えば桃姉さんのせいなんだけどな」
そう。男だと言うことだ。性別を偽ってまでVtuberになった理由はただ一つ。この血の繋がった実の姉のためだ。
オレの名前は神崎颯太。24歳。姉でありVtuber事務所『Fmすたーらいぶ』のマネージャー神崎桃の弟で性別を偽り女性を演じ続けている。
『Fmすたーらいぶ』。今でこそ、そこそこ名前の知られたVtuberの事務所だが、少し前までは所属タレントも少なく無名もいいところだった。
ちなみにFmすたーらいぶのFmすたーは『first‐magnitude star』つまり『一等星』という意味である。大それた名前かもしれないが、唯一無二のタレントVtuberを目指すというよくある企業のコンセプトでもある。
その事務所の命運をかけた記念すべき一大プロジェクトの1期生としてデビューするはずだった『姫宮ましろ』になる人がドタキャンしたことにより、急遽代役として選ばれ約2年……今に至る。
あの時は時間もなかったし、プロジェクトを失敗する訳にもいかなかった。そして桃姉さんの頼みなら断われるはずもなかった。
桃姉さんとは8つほど歳が離れている。オレが中学に上がる時に両親が事故で亡くなった後、桃姉さんはオレのために必死になって働いてきた。その苦労を知っているからこそ、少しでも楽させてあげたいと思った。大学は無事に卒業したが就職先に縁がなく、迷惑をかけるくらいなら桃姉さんのためにできることをするべきだと考えた結果がこれである。
そして『Fmすたーらいぶ』は今ではオレこと『姫宮ましろ』を含む1期生4人、2期生4人、そして半年前にお披露目された3期生5人の総勢13人のライバーがいるVtuber事務所にまで成長した。
最初は乗り気じゃなかったし、代えが見つかるまで。一度きりだと思っていた。機械で声色を変えることができるとはいえ、何せ自分の声を配信に乗せて全世界に発信しなければならないのだ。しかもVtuberというのは人気商売でもあるため、一度の失敗が致命傷になりかねない。
だから当然不安もあったのだが、やってみると意外となれてくるもので。まぁ、そもそもVtuberというものはアニメキャラなどを演じる役者のようなものなので、演じることに抵抗がないと言えば嘘になるが……。オレは女の『姫宮ましろ』を演じているからな
「なぁ桃姉さん」
「ん?どうした?」
「新しい3期生はどうなんだ?」
「えっと……今はまだわからないけど、みんな良い子だよ」
そう言って微笑む姉の表情を見て少し安心した。ライバーのマネージャーは忙しい上にストレスも多い仕事だろう。そんな中でもこうして笑顔を見せてくれるのは弟として、ライバーとして素直にありがたいと思う。
ちなみにオレの正体は他のライバーには伝えていない。コラボはごくまれにしているが、裏で会ったこともないし、どんな人なのかも知らない。いつかはバレるかもしれないが、今はこのままでいいと思っている。
「颯太。あんた今日の予定は?」
「今日のスケジュールは特にないな。週末のゲーム配信の準備しようかなと思ってるけど」
「ディスコード確認した?」
「したよ。連絡も何件かあったけど、メッセージは社交的に返しているし、通話希望のやつはいつものようにここにいない時はお断りしてるし」
オレは基本配信中……いやこのマイクの近くじゃないと『姫宮ましろ』の声に切り替えられないので、メッセージ以外のときは社用のスマホを触らないようにしている。
一応マネージャーの桃姉さんに連絡する用事とかもあるので、そのときだけは見るよう心掛けているけどさ。もしかしたらオレは他のライバーからの印象が悪いかもしれないが仕方ない。
「もうちょっとコミュニケーションとりなさいよ……」
「無理だって。向こうは女の子だし、中身が男のオレと話しても楽しくないだろうしさ。そもそも話す話題もない。」
「そういう問題じゃないんだけどね……」
そう言いながら桃姉さんは自分のパソコンで何か作業を始めたようだ。オレはオレで週末のゲーム配信の準備を始めることにした。
これがオレの『姫宮ましろ』のVtuberとしての仕事である。
「皆様、本日も楽しんでくれたなら嬉しいです。今日も元気に頑張りましょ!みんなの姫こと姫宮ましろでした~。またね~」
コメント
『おつ』
『乙ー』
『ましろ姫の出番は終わりか……寂しいな』
『おつかれさまー』
『これで今日も頑張れるぜ』
その配信画面には長いピンクの髪で頭には小さな王冠をのせ、そして淡いピンクの瞳を持つお姫様のような可愛らしい少女が映っている。
彼女の名前は『姫宮ましろ』。Vtuber事務所『Fmすたーらいぶ』のタレントでチャンネル登録者50万人を越える大人気Vtuberだ。コンセプトは「優雅に可憐に庶民に溶け込むどこかの国のお姫様」一蓮托生の分身でもある。
配信を切り一息つくと、椅子にもたれかかって部屋の天井を見上げた。
「ふぅ……」
Vtuber『姫宮ましろ』には誰にも言えない秘密がある。
それは……
「お疲れさま。今日も良かったじゃん!」
「それ嫌みか?」
「そんなんじゃないわよ。それにしても『Fmすたーらいぶ』の1期生の姫宮ましろが男だと知ったらファンはどんな反応するのかしらね?」
「元はと言えば桃姉さんのせいなんだけどな」
そう。男だと言うことだ。性別を偽ってまでVtuberになった理由はただ一つ。この血の繋がった実の姉のためだ。
オレの名前は神崎颯太。24歳。姉でありVtuber事務所『Fmすたーらいぶ』のマネージャー神崎桃の弟で性別を偽り女性を演じ続けている。
『Fmすたーらいぶ』。今でこそ、そこそこ名前の知られたVtuberの事務所だが、少し前までは所属タレントも少なく無名もいいところだった。
ちなみにFmすたーらいぶのFmすたーは『first‐magnitude star』つまり『一等星』という意味である。大それた名前かもしれないが、唯一無二のタレントVtuberを目指すというよくある企業のコンセプトでもある。
その事務所の命運をかけた記念すべき一大プロジェクトの1期生としてデビューするはずだった『姫宮ましろ』になる人がドタキャンしたことにより、急遽代役として選ばれ約2年……今に至る。
あの時は時間もなかったし、プロジェクトを失敗する訳にもいかなかった。そして桃姉さんの頼みなら断われるはずもなかった。
桃姉さんとは8つほど歳が離れている。オレが中学に上がる時に両親が事故で亡くなった後、桃姉さんはオレのために必死になって働いてきた。その苦労を知っているからこそ、少しでも楽させてあげたいと思った。大学は無事に卒業したが就職先に縁がなく、迷惑をかけるくらいなら桃姉さんのためにできることをするべきだと考えた結果がこれである。
そして『Fmすたーらいぶ』は今ではオレこと『姫宮ましろ』を含む1期生4人、2期生4人、そして半年前にお披露目された3期生5人の総勢13人のライバーがいるVtuber事務所にまで成長した。
最初は乗り気じゃなかったし、代えが見つかるまで。一度きりだと思っていた。機械で声色を変えることができるとはいえ、何せ自分の声を配信に乗せて全世界に発信しなければならないのだ。しかもVtuberというのは人気商売でもあるため、一度の失敗が致命傷になりかねない。
だから当然不安もあったのだが、やってみると意外となれてくるもので。まぁ、そもそもVtuberというものはアニメキャラなどを演じる役者のようなものなので、演じることに抵抗がないと言えば嘘になるが……。オレは女の『姫宮ましろ』を演じているからな
「なぁ桃姉さん」
「ん?どうした?」
「新しい3期生はどうなんだ?」
「えっと……今はまだわからないけど、みんな良い子だよ」
そう言って微笑む姉の表情を見て少し安心した。ライバーのマネージャーは忙しい上にストレスも多い仕事だろう。そんな中でもこうして笑顔を見せてくれるのは弟として、ライバーとして素直にありがたいと思う。
ちなみにオレの正体は他のライバーには伝えていない。コラボはごくまれにしているが、裏で会ったこともないし、どんな人なのかも知らない。いつかはバレるかもしれないが、今はこのままでいいと思っている。
「颯太。あんた今日の予定は?」
「今日のスケジュールは特にないな。週末のゲーム配信の準備しようかなと思ってるけど」
「ディスコード確認した?」
「したよ。連絡も何件かあったけど、メッセージは社交的に返しているし、通話希望のやつはいつものようにここにいない時はお断りしてるし」
オレは基本配信中……いやこのマイクの近くじゃないと『姫宮ましろ』の声に切り替えられないので、メッセージ以外のときは社用のスマホを触らないようにしている。
一応マネージャーの桃姉さんに連絡する用事とかもあるので、そのときだけは見るよう心掛けているけどさ。もしかしたらオレは他のライバーからの印象が悪いかもしれないが仕方ない。
「もうちょっとコミュニケーションとりなさいよ……」
「無理だって。向こうは女の子だし、中身が男のオレと話しても楽しくないだろうしさ。そもそも話す話題もない。」
「そういう問題じゃないんだけどね……」
そう言いながら桃姉さんは自分のパソコンで何か作業を始めたようだ。オレはオレで週末のゲーム配信の準備を始めることにした。
これがオレの『姫宮ましろ』のVtuberとしての仕事である。
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