追放聖女。自由気ままに生きていく ~聖魔法?そんなの知らないのです!~

夕姫

文字の大きさ
上 下
152 / 158
第5章 二人の聖女 

7. 協奏曲(コンチェルト) ~マルセナside~

しおりを挟む
7. 協奏曲(コンチェルト) ~マルセナside~



 マルセナたちは処刑が行われる大広場に向かっている。自分が処刑を止められなければライアンやメリッサさん、エミリーや使用人のみんなの命はない。そんな重圧と不安を胸にマルセナは急ぐ。でももう覚悟はできているし、迷いはない。聖女としての務めをただ果たすだけなのだから。

 そして処刑が行われる大広場へと到着したマルセナが目にしたのは……。そこには処刑台に縛り付けられたライアンの姿があった。彼はすでに意識を失っており、首には斧が置かれている。その隣では拘束された他のみんなが見える。その周りには国王のゼロス=ランバートとそして兵士たちがいる。

 どうやらまだ処刑は行われていないらしい。よかった。間に合ったわ。

 住民たちからは不安の声が聞こえてくる。これから処刑が始まるのだ。まずはこの場を収めなくては。

 マルセナは拳を握りしめ、飛び出していく。もう覚悟は決めている。

「待ってください!」

 その声に反応して全員が振り向く。そして住民たちがざわつき始める。

「何者だ!貴様は」

「私は……マルセナ=アステリア。聖女です!!」

 マルセナの突然の登場に兵士も国王も驚きを隠せない様子だった。だがすぐに国王の顔色が変わる。何かに気付いたように。

 そう、この場に現れたのが聖女のマルセナ1人であるならば止めることは容易いはずだ。兵士たちはすぐにマルセナを取り囲み武器を向ける。それはまるで手負いの獣を取り囲むような光景で、まさに一触即発の状況になる。

 しかしマルセナは毅然とした態度で言い放つ。こんなところで怖気づいてなどいられない。みんなは私が救うのだから。そしてマルセナはゆっくりと口を開く。

「大聖女ディアナ様はおっしゃいました。罪なき者に罰を与えることなかれと。あなた方が犯している罪は何ですか?あなた方は私利私欲のために無実の人々を傷つけているのです。それを自覚なさい!」

「黙れ小娘!貴様に何ができるというのだ?」

「何もできません。でも、あなた方を止めます」

 その言葉と同時に兵士たちが一斉に襲いかかろうとするが隊長らしき人物がそれを慌てて止める。

「やめろ!全員武器を納めろ!動くと怪我じゃすまなくなるぞ!」

 その言葉を聞き兵士たちが武器をおろす。そう遠くからロゼッタ様やソフィアが魔法で狙っていたのだ。

「うむ。いい心がけじゃの?」

「私たちもいますからマルセナ様、頑張ってください。」

 マルセナはそれを見て微笑む。そして心の中で感謝し、国王に向かって話を続ける。

「私は聖女です。このようなことは見逃せません。ランバート王国の皆さん!どうか冷静になってください!このようなことは間違っています!」

「ええい!うるさい奴だ。貴様反逆者ライアンと関係を持ち、もう聖魔法が使えんはずだろう?それで聖女を語るか?皆のもの騙されるでない!この女はもう聖女でも何でもない!敵国セントリンの悪女だ!」

 そう言われて住民たちが騒ぎ出す。そうだ。私は聖魔法は失った。それなのにどうしてここに現れたのか?と言わんばかりの住民たちは疑念の目で見つめていた。

 やはり私の声は誰にも届かないの?

 しかしそんな中、1人の少女が大きな声で叫んだ。

「お姉ちゃんは聖女様だよ!!私のぬいぐるみ…探してくれた!!」

「オレは魔法鍛冶屋だ。聖女様に右手を治療してもらった!」

「私は病気の父を治していただきました!」

「聖魔法が使えなくてもその方は聖女様だ!みんなその笑顔に救われてるんだ!」

 その少女の言葉に次々と声が上がる。

 マルセナはその光景に涙が出そうになる。あぁ、やっぱり私は……聖女として頑張ってきたんだ。みんなの力になれていたんだ。ありがとう……。

 そして声はどんどん広がっていき、ついにその想いは処刑台を守る兵士たちにも伝わった。

 聖女マルセナは確かに聖魔法を失ったかもしれない。だが今まで彼女は自分のできることを精一杯やってきた。他国の聖女が自分たちのために尽くしてきた。それに報いることができるだろうか?答えは否だ。間違いは国王のほうだ。ここで立ち上がらなければ我々はなんのための王国軍なのか?と兵士の心にも火がついた。

 もうこの場には国王の味方は誰1人いない。そしてマルセナは言い放つ。

「もう諦めなさい!ゼロス=ランバート!これ以上の暴挙は許されません!今すぐみんなを解放しなさい!」

「くっ……」

 悔しそうな表情を浮かべながらゼロスは一歩下がる。その様子を見てマルセナはさらに畳み掛ける。

「まだわからないのですか!?私はあなたを決して許しません!あなたの行いは神への冒涜であり、民を力で制圧し続けたことです!この国をここまで腐らせたのはあなたの責任でもあるのですよ!」

「貴様……調子に乗るなよ?ワシは王だぞ?」

「それがどうしました?私は権力には屈しません。……ですから」

 マルセナはそう言って胸を張る。その姿には自信しかなかった。

 そんな彼女にゼロスの怒りは頂点に達する。置いてある斧を手に持ちこう叫ぶ。

「ふざけるな…いいか動くなよ?動けばライアン、そしてコイツらの首をはね飛ばすぞ!」

 その言葉を聞いた住民たちは再びざわつき始める。ライアンや仲間たちの首筋にはすでに刃が置かれていた。少しでも動けば彼らは殺されてしまう。

 マルセナはそれを見ても動揺することなく、毅然とした態度を変えなかった。

 さすがのマルセナも恐怖を感じなかったわけではない。だがそれよりも聖女としての自分を初めて心から信じることが出来たのだ。そしてその瞳は真っ直ぐと前を見据えていたのだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

そろそろ前世は忘れませんか。旦那様?

氷雨そら
恋愛
 結婚式で私のベールをめくった瞬間、旦那様は固まった。たぶん、旦那様は記憶を取り戻してしまったのだ。前世の私の名前を呼んでしまったのがその証拠。  そしておそらく旦那様は理解した。  私が前世にこっぴどく裏切った旦那様の幼馴染だってこと。  ――――でも、それだって理由はある。  前世、旦那様は15歳のあの日、魔力の才能を開花した。そして私が開花したのは、相手の魔力を奪う魔眼だった。  しかも、その魔眼を今世まで持ち越しで受け継いでしまっている。 「どれだけ俺を弄んだら気が済むの」とか「悪い女」という癖に、旦那様は私を離してくれない。  そして二人で眠った次の朝から、なぜかかつての幼馴染のように、冷酷だった旦那様は豹変した。私を溺愛する人間へと。  お願い旦那様。もう前世のことは忘れてください!  かつての幼馴染は、今度こそ絶対幸せになる。そんな幼馴染推しによる幼馴染推しのための物語。  小説家になろうにも掲載しています。

【完結】聖女を害した公爵令嬢の私は国外追放をされ宿屋で住み込み女中をしております。え、偽聖女だった? ごめんなさい知りません。

藍生蕗
恋愛
 かれこれ五年ほど前、公爵令嬢だった私───オリランダは、王太子の婚約者と実家の娘の立場の両方を聖女であるメイルティン様に奪われた事を許せずに、彼女を害してしまいました。しかしそれが王太子と実家から不興を買い、私は国外追放をされてしまいます。  そうして私は自らの罪と向き合い、平民となり宿屋で住み込み女中として過ごしていたのですが……  偽聖女だった? 更にどうして偽聖女の償いを今更私がしなければならないのでしょうか? とりあえず今幸せなので帰って下さい。 ※ 設定は甘めです ※ 他のサイトにも投稿しています

無一文で追放される悪女に転生したので特技を活かしてお金儲けを始めたら、聖女様と呼ばれるようになりました

結城芙由奈@2/28コミカライズ発売
恋愛
スーパームーンの美しい夜。仕事帰り、トラックに撥ねらてしまった私。気づけば草の生えた地面の上に倒れていた。目の前に見える城に入れば、盛大なパーティーの真っ最中。目の前にある豪華な食事を口にしていると見知らぬ男性にいきなり名前を呼ばれて、次期王妃候補の資格を失ったことを聞かされた。理由も分からないまま、家に帰宅すると「お前のような恥さらしは今日限り、出ていけ」と追い出されてしまう。途方に暮れる私についてきてくれたのは、私の専属メイドと御者の青年。そこで私は2人を連れて新天地目指して旅立つことにした。無一文だけど大丈夫。私は前世の特技を活かしてお金を稼ぐことが出来るのだから―― ※ 他サイトでも投稿中

強制力がなくなった世界に残されたものは

りりん
ファンタジー
一人の令嬢が処刑によってこの世を去った 令嬢を虐げていた者達、処刑に狂喜乱舞した者達、そして最愛の娘であったはずの令嬢を冷たく切り捨てた家族達 世界の強制力が解けたその瞬間、その世界はどうなるのか その世界を狂わせたものは

愛されない皇妃~最強の母になります!~

椿蛍
ファンタジー
愛されない皇妃『ユリアナ』 やがて、皇帝に愛される寵妃『クリスティナ』にすべてを奪われる運命にある。 夫も子どもも――そして、皇妃の地位。 最後は嫉妬に狂いクリスティナを殺そうとした罪によって処刑されてしまう。 けれど、そこからが問題だ。 皇帝一家は人々を虐げ、『悪逆皇帝一家』と呼ばれるようになる。 そして、最後は大魔女に悪い皇帝一家が討伐されて終わるのだけど…… 皇帝一家を倒した大魔女。 大魔女の私が、皇妃になるなんて、どういうこと!? ※表紙は作成者様からお借りしてます。 ※他サイト様に掲載しております。

【完結】聖女にはなりません。平凡に生きます!

暮田呉子
ファンタジー
この世界で、ただ平凡に、自由に、人生を謳歌したい! 政略結婚から三年──。夫に見向きもされず、屋敷の中で虐げられてきたマリアーナは夫の子を身籠ったという女性に水を掛けられて前世を思い出す。そうだ、前世は慎ましくも充実した人生を送った。それなら現世も平凡で幸せな人生を送ろう、と強く決意するのだった。

冤罪で殺された聖女、生まれ変わって自由に生きる

みおな
恋愛
聖女。 女神から選ばれし、世界にたった一人の存在。 本来なら、誰からも尊ばれ大切に扱われる存在である聖女ルディアは、婚約者である王太子から冤罪をかけられ処刑されてしまう。 愛し子の死に、女神はルディアの時間を巻き戻す。 記憶を持ったまま聖女認定の前に戻ったルディアは、聖女にならず自由に生きる道を選択する。

聖女の私が追放されたらお父さんも一緒についてきちゃいました。

重田いの
ファンタジー
聖女である私が追放されたらお父さんも一緒についてきちゃいました。 あのお、私はともかくお父さんがいなくなるのは国としてマズイと思うのですが……。 よくある聖女追放ものです。

処理中です...