追放聖女。自由気ままに生きていく ~聖魔法?そんなの知らないのです!~

夕姫

文字の大きさ
上 下
133 / 158
第4章 聖女。本の知識でダンジョン攻略するのです! 

15. もう迷わない ~マルセナside~

しおりを挟む
15. もう迷わない ~マルセナside~




 そして次の日。聖女マルセナは覚悟を決めてライアン王子がいる部屋に歩きだしている。その瞳はこの前とは違い一点だけを見据えている真っ直ぐな瞳。もう迷わない。自分はライアン王子が好き。そう思ったのも夢の中のアリーゼに言われたからだ。

 よく考えれば聖女マルセナは聖女アリーゼと比べられ巡礼祭を失敗し、ランバート王国で住み込みで働くことになった。そして自分を聖女ではなく、1人の女性として見てくれたライアン王子。

 彼がアリーゼと私を比べたから……そう考えると自分の中でも答えが出ていたのかもしれない。

 そう……

 自分はアリーゼを聖女として『尊敬している』『アリーゼのようになりたい』ということに。

 でも今は違う。自分は聖女ではなく、1人の女性として彼のことを愛したい。それがどんな結末になろうとも……

 だから今度こそ自分が自分でいられるように……

 部屋の前で足を止め深呼吸をする。大丈夫、きっとこの想いを嘘偽りなく今度はマルセナ=アステライトとして伝えられる。だって彼は私のことを受け入れてくれるって……そう信じれるから。

 コンコンっと扉を叩き、入室の許可を得る。ドアノブに手をかけゆっくりと開く。部屋の中に入るとそこにはベッドの上で上半身を起こし本を読んでいるライアン王子がいた。その姿を見ただけで胸が高鳴る。

 しかしそれを表には出さずいつも通りに声をかけた。先ほどまで読んでいた本を閉じてこちらを見るライアン王子。

「聖女マルセナ様……」

「ごきげんよう。この前はあなたの話も聞かずいきなり飛び出してごめんなさい」

 まず謝罪の言葉を述べる。これは本当に悪いと思っていることだし何よりちゃんと謝らないといけないと思ったから。すると少し驚いたような顔をしてすぐに笑顔になったライアン王子。その表情を見てやっぱり好きだなって思う。あぁ……私は彼を心の底から好きなのだわ……

 だからこそ、これから話すことは緊張するけれどそれでも伝えなければいけないことがある。意を決して彼に話しかける。自分の中にある気持ちを偽らず全て伝えるために……

「あなたに伝えたいことがあるの。聞いてくださいますか?」

 まっすぐに目を見ながら言う。するとまた少し驚く顔を見せるがそれも一瞬のこと。真剣な眼差しになりながら言葉を返してくれた。

「ああ……聞かせてくれ」

「ありがとうございます。ではお言葉に甘えて言わせていただきますね?……私、マルセナは貴方のことを愛しております!」

「!?︎」

 思いっきり言い切った!これでもう後には引けない。でも後悔はないわ。むしろすっきりしたくらいよ。そう言えた瞬間、顔中に何か熱いものが走る。それは……多分涙だった……その言葉を聞いた途端今まで見たことのないような複雑な表情を見せるライアン王子。

(ああ、散々怒ったり部屋を飛び出したりして今さら迷惑よね……)

 少し俯きながらそんなことを考えてしまう。だがすぐに思い直す。たとえ迷惑だとわかっていてもこの気持ちを伝えないわけにはいかないのだ。ここで引いてしまえば自分は一生後悔するだろうから。

 ふぅーっと息を吐く音が聞こえた。

「本当に私でいいのかい?初めは国政のために君に近づいたんだよ私は?」

そうライアン王子は私に告げる。でも……私に向けられた顔はとても穏やかで優しい表情をしている。私をからかう顔。そんな表情さえも今は愛おしい。

「でも今は本当に一人の女性として君を愛している。その気持ちに嘘はない!」

「私が愛しているのは今のあなたよ!もう私を不安にさせないで。私はライアン王子……あなたの側にいたいの!」

「マルセナ……」

 ギュッと優しく抱きしめられた。暖かい温もりを感じる。そしてお互い自然と見つめ合い唇を重ねた。触れるだけの優しいキスだったがそれでも幸せを感じた。もっと彼に近づきたかった。ただそれだけだったのだ。長い口づけを終え名残惜しそうな顔をしながらもそっと離れる

「愛していますライアン王子」

「私もだよマルセナ」

 再び抱き寄せられ今度は強く抱擁される。そしてもう一度軽く唇を合わせたあとまたお互いを見つめ合った。そしてライアン王子がマルセナに言う。

「マルセナ。私はこの後、国家反逆罪に問われるだろう。君を愛してしまい目的のセントリン王国侵略を白紙にしてしまうからね。私と一緒に逃げてくれるかい?」

「もう迷わない。私はあなたとずっと共にいるわ」

 そういうと再び唇を重ねそのままベッドに押し倒された。そこから先のことは恥ずかしくてあまり覚えていない。ただひとつ言えるのはその日私たちは本当の意味で結ばれたということだけだった……同時に純潔を失った私は「聖痕」が消え聖女としての地位と聖魔法も失ったのだ。

 朝、目覚めると隣には裸のまま寝ているライアン王子の姿があった。昨晩のことを思い出してしまい思わず赤面してしまう。すると後ろから腕が伸びてきて強く抱き寄せられた。

 驚いて振り向くと目を覚ましたライアン王子がこちらを見て微笑んでいた。その笑顔がとても眩しくて格好よく見えた。

 これから私たちの旅が始まる。

 でも決して1人ではない。2人で手を取り合って歩いていこう。そう心に決めてもう一度愛する人を強く抱きしめた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【宮廷魔法士のやり直し!】~王宮を追放された天才魔法士は山奥の村の変な野菜娘に拾われたので新たな人生を『なんでも屋』で謳歌したい!~

夕姫
ファンタジー
【私。この『なんでも屋』で高級ラディッシュになります(?)】 「今日であなたはクビです。今までフローレンス王宮の宮廷魔法士としてお勤めご苦労様でした。」 アイリーン=アドネスは宮廷魔法士を束ねている筆頭魔法士のシャーロット=マリーゴールド女史にそう言われる。 理由は国の禁書庫の古代文献を持ち出したという。そんな嘘をエレイナとアストンという2人の貴族出身の宮廷魔法士に告げ口される。この2人は平民出身で王立学院を首席で卒業、そしてフローレンス王国の第一王女クリスティーナの親友という存在のアイリーンのことをよく思っていなかった。 もちろん周りの同僚の魔法士たちも平民出身の魔法士などいても邪魔にしかならない、誰もアイリーンを助けてくれない。 自分は何もしてない、しかも突然辞めろと言われ、挙句の果てにはエレイナに平手で殴られる始末。 王国を追放され、すべてを失ったアイリーンは途方に暮れあてもなく歩いていると森の中へ。そこで悔しさから下を向き泣いていると 「どうしたのお姉さん?そんな収穫3日後のラディッシュみたいな顔しちゃって?」 オレンジ色の髪のおさげの少女エイミーと出会う。彼女は自分の仕事にアイリーンを雇ってあげるといい、山奥の農村ピースフルに連れていく。そのエイミーの仕事とは「なんでも屋」だと言うのだが…… アイリーンは新規一転、自分の魔法能力を使い、エイミーや仲間と共にこの山奥の農村ピースフルの「なんでも屋」で働くことになる。 そして今日も大きなあの声が聞こえる。 「いらっしゃいませ!なんでも屋へようこそ!」 と

【完結】聖女を害した公爵令嬢の私は国外追放をされ宿屋で住み込み女中をしております。え、偽聖女だった? ごめんなさい知りません。

藍生蕗
恋愛
 かれこれ五年ほど前、公爵令嬢だった私───オリランダは、王太子の婚約者と実家の娘の立場の両方を聖女であるメイルティン様に奪われた事を許せずに、彼女を害してしまいました。しかしそれが王太子と実家から不興を買い、私は国外追放をされてしまいます。  そうして私は自らの罪と向き合い、平民となり宿屋で住み込み女中として過ごしていたのですが……  偽聖女だった? 更にどうして偽聖女の償いを今更私がしなければならないのでしょうか? とりあえず今幸せなので帰って下さい。 ※ 設定は甘めです ※ 他のサイトにも投稿しています

聖女の私が追放されたらお父さんも一緒についてきちゃいました。

重田いの
ファンタジー
聖女である私が追放されたらお父さんも一緒についてきちゃいました。 あのお、私はともかくお父さんがいなくなるのは国としてマズイと思うのですが……。 よくある聖女追放ものです。

ボロボロになるまで働いたのに見た目が不快だと追放された聖女は隣国の皇子に溺愛される。……ちょっと待って、皇子が三つ子だなんて聞いてません!

沙寺絃
恋愛
ルイン王国の神殿で働く聖女アリーシャは、早朝から深夜まで一人で激務をこなしていた。 それなのに聖女の力を理解しない王太子コリンから理不尽に追放を言い渡されてしまう。 失意のアリーシャを迎えに来たのは、隣国アストラ帝国からの使者だった。 アリーシャはポーション作りの才能を買われ、アストラ帝国に招かれて病に臥せった皇帝を助ける。 帝国の皇子は感謝して、アリーシャに深い愛情と敬意を示すようになる。 そして帝国の皇子は十年前にアリーシャと出会った事のある初恋の男の子だった。 再会に胸を弾ませるアリーシャ。しかし、衝撃の事実が発覚する。 なんと、皇子は三つ子だった! アリーシャの幼馴染の男の子も、三人の皇子が入れ替わって接していたと判明。 しかも病から復活した皇帝は、アリーシャを皇子の妃に迎えると言い出す。アリーシャと結婚した皇子に、次の皇帝の座を譲ると宣言した。 アリーシャは個性的な三つ子の皇子に愛されながら、誰と結婚するか決める事になってしまう。 一方、アリーシャを追放したルイン王国では暗雲が立ち込め始めていた……。

【完結】帝国から追放された最強のチーム、リミッター外して無双する

エース皇命
ファンタジー
【HOTランキング2位獲得作品】  スペイゴール大陸最強の帝国、ユハ帝国。  帝国に仕え、最強の戦力を誇っていたチーム、『デイブレイク』は、突然議会から追放を言い渡される。  しかし帝国は気づいていなかった。彼らの力が帝国を拡大し、恐るべき戦力を誇示していたことに。  自由になった『デイブレイク』のメンバー、エルフのクリス、バランス型のアキラ、強大な魔力を宿すジャック、杖さばきの達人ランラン、絶世の美女シエナは、今まで抑えていた実力を完全開放し、ゼロからユハ帝国を超える国を建国していく。   ※この世界では、杖と魔法を使って戦闘を行います。しかし、あの稲妻型の傷を持つメガネの少年のように戦うわけではありません。どうやって戦うのかは、本文を読んでのお楽しみです。杖で戦う戦士のことを、本文では杖士(ブレイカー)と描写しています。 ※舞台の雰囲気は中世ヨーロッパ〜近世ヨーロッパに近いです。 〜『デイブレイク』のメンバー紹介〜 ・クリス(男・エルフ・570歳)   チームのリーダー。もともとはエルフの貴族の家系だったため、上品で高潔。白く透明感のある肌に、整った顔立ちである。エルフ特有のとがった耳も特徴的。メンバーからも信頼されているが…… ・アキラ(男・人間・29歳)  杖術、身体能力、頭脳、魔力など、あらゆる面のバランスが取れたチームの主力。独特なユーモアのセンスがあり、ムードメーカーでもある。唯一の弱点が…… ・ジャック(男・人間・34歳)  怪物級の魔力を持つ杖士。その魔力が強大すぎるがゆえに、普段はその魔力を抑え込んでいるため、感情をあまり出さない。チームで唯一の黒人で、ドレッドヘアが特徴的。戦闘で右腕を失って以来義手を装着しているが…… ・ランラン(女・人間・25歳)  優れた杖の腕前を持ち、チームを支える杖士。陽気でチャレンジャーな一面もあり、可愛さも武器である。性格の共通点から、アキラと親しく、親友である。しかし実は…… ・シエナ(女・人間・28歳)  絶世の美女。とはいっても杖士としての実力も高く、アキラと同じくバランス型である。誰もが羨む美貌をもっているが、本人はあまり自信がないらしく、相手の反応を確認しながら静かに話す。あるメンバーのことが……

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

冤罪で殺された聖女、生まれ変わって自由に生きる

みおな
恋愛
聖女。 女神から選ばれし、世界にたった一人の存在。 本来なら、誰からも尊ばれ大切に扱われる存在である聖女ルディアは、婚約者である王太子から冤罪をかけられ処刑されてしまう。 愛し子の死に、女神はルディアの時間を巻き戻す。 記憶を持ったまま聖女認定の前に戻ったルディアは、聖女にならず自由に生きる道を選択する。

女神に頼まれましたけど

実川えむ
ファンタジー
雷が光る中、催される、卒業パーティー。 その主役の一人である王太子が、肩までのストレートの金髪をかきあげながら、鼻を鳴らして見下ろす。 「リザベーテ、私、オーガスタス・グリフィン・ロウセルは、貴様との婚約を破棄すっ……!?」 ドンガラガッシャーン! 「ひぃぃっ!?」 情けない叫びとともに、婚約破棄劇場は始まった。 ※王道の『婚約破棄』モノが書きたかった…… ※ざまぁ要素は後日談にする予定……

処理中です...