47 / 158
第2章 聖女。灼熱の王国を駆け巡るのです!
11. 王都に行きたい
しおりを挟む「なんだ?薄ら笑いなんか浮かべて……例のプレゼントが仕上がったのか?」
昼はラーメンだった。どんぶりのスープをすすり上げたかなめがニヤつきながら誠に声をかける。確かにカウラのイラストを仕上げた誠の気分は良かった。カウラを見て、誠は別にアイシャに頼まれて描いた女魔族と先ほど描き上げたイラストが似ていてもどうでもいいと言うような気分になっていた。
「別に……」
「別にって顔じゃないわね。まあ今日はこれからクリスマスの料理の材料を買いに行く予定なんだけど」
アイシャはそう言うと麺をすすり上げる。見事な食べっぷりにうれしそうに誠の母、薫はうなづく。
「お誕生日の料理……でも、オードブルはクリスマスっぽくなっちゃうわよ」
そう言いながらも満面の笑みの母に誠は苦笑いを浮かべていた。明後日のカウラの誕生日会と称したクリスマスを一番楽しみにしているのは母かもしれない。そんなことを思いながら誠はどんぶりの底のスープを飲み干す。
「そんなにスープを飲むと塩分を取りすぎるぞ」
「いいんだよ!これがラーメンの醍醐味だ」
カウラを無視してかなめもスープを飲み干した。体内プラントで塩分ろ過の能力もあるかなめの台詞には説得力はまるで無かった。
「でも鶏の丸焼きは欲しいわよね」
すでに食べ終えてお茶をすすっているアイシャがつぶやく。
「だったらオメエが買え。止めねえから」
かなめの言葉にアイシャが鋭い軽蔑するような視線をかなめに向ける。そんな二人を暖かい視線で見守る薫に安心感を覚えた誠だった。
「結局お前達が楽しむのが目的なんだな?」
「悪いか?」
嫌味のつもりで言った言葉を完全に肯定されてカウラは少しばかり不機嫌そうな表情になる。かなめは立ち上がると居間から漫画を持ってくる。
「『女検察官』シリーズね。誠ちゃん。ずいぶん渋い趣味してるじゃないの」
アイシャが最後までとっていたチャーシューを齧りながらつぶやく。誠のコレクションでは珍しい大衆紙の連載漫画である。
「これは絵が好きだったんで。それとそれを買った高校時代の先輩が『読め!』って言うもので……」
「ふーん」
アイシャはどちらかと言うと劇画調に近い表紙をめくって先ほどまでカウラが読んでいた漫画を読み始める。
「クラウゼさん。片づけが終わったらすぐに出るからね」
「はいはーい!」
薫の言葉にアイシャはあっさりと返事をする。誠は妙に張り切っている母を眺めていた。かなめはそのまま居間の座椅子に腰掛けて漫画を読み始めたアイシャの後ろで彼女が読んでいる漫画を眺めている。
「邪魔」
「なんだよ!そう邪険にするなって」
後ろから覗き込まれてアイシャは口を尖らせる。それを見ていて誠は朝のシャムを思い出した。
「そう言えば西園寺さん。ナンバルゲニア中尉は何しに来たんですか?」
「は?」
アイシャの後頭部の紺色の髪の根元を引っ張っていじっていたかなめが不機嫌そうに振り返る。そしてしばらく誠の顔をまじまじと見た後、ようやく思い出したように頭を掻いた。
「ああ、サイドアームの件だ」
今度はしばらく誠が黙り込む。かなめの言葉の意味がはっきりとわからない。
「シャムちゃん自慢のハンドキャノンが問題になってたって訳」
アイシャがそう言うので誠はようやく思い出した。サイドアーム。常備携帯することが定められている拳銃の話だった。
司法局では任務の必要性により、各個人が自衛用の拳銃を携帯することが規則で定められている。そしてその銃での射撃訓練を行うことも職務の一つとなっていた。アイシャなどのブリッジクルーや技術部員、管理部の事務隊員などは一月に二百発の射撃訓練が目安とされていた。もっともリアナや明華、高梨などの部長の決裁でその数は変わり、アイシャ達ブリッジクルーは拳銃で百発、ライフルで五百発の射撃を課されていたが、技術部と管理部は予算の関係で作動不良の確認程度の訓練しか行っていない。
だが、誠の属する機動部隊やロシアの特殊部隊で鍛え上げられたマリアの警備部は桁が違った。それぞれ一万発近い射撃訓練を課されていて、消化できない場合には居残りで射撃をさせられることになる。
そこで問題なのが弾薬のコストである。
シャムが最近使い始めたM500は二十一世紀初頭の大口径・大威力リボルバー競争の生んだ化け物のような拳銃だった。当然、弾の生産は現在では地球で細々と続いている程度で、不足する多くの弾は小火器管理部門による手作業での再装填で作られたものだった。
「やっぱり……あれは無駄ですからね。それで?」
「そういうわけで新しい銃を叔父貴のコレクションで使える銃の中からアタシがセレクトしたんだ。とりあえず40S&W弾以上、それであいつが握れる大きさ……」
「ああ、いいです」
かなめの銃の薀蓄に付き合うつもりは無い。不機嫌そうなかなめから目をそらすと荒いものを終えた母が誠を手招きしていた。
「ああ、出かけるみたいですよ」
誠の言葉にさっさと立ち上がるアイシャ。しゃべり足りないかなめは不機嫌そうにゆっくりと腰を上げる。すでに暖かそうなダウンジャケットを着込んだ母とカウラを見ながら誠はそのまま居間にかけてあったスタジアムジャンバーに手を伸ばした。
「この格好だと変かな?」
「この寒空にタンクトップ?馬鹿じゃないの?」
カウラから渡された濃紺のコートを羽織ながら鼻で笑うアイシャをにらんだかなめだが、あきらめたようにダウンジャケットを羽織る。
「じゃあ、いいかしら」
薫の言葉で誠達は出かけることにした。
昼はラーメンだった。どんぶりのスープをすすり上げたかなめがニヤつきながら誠に声をかける。確かにカウラのイラストを仕上げた誠の気分は良かった。カウラを見て、誠は別にアイシャに頼まれて描いた女魔族と先ほど描き上げたイラストが似ていてもどうでもいいと言うような気分になっていた。
「別に……」
「別にって顔じゃないわね。まあ今日はこれからクリスマスの料理の材料を買いに行く予定なんだけど」
アイシャはそう言うと麺をすすり上げる。見事な食べっぷりにうれしそうに誠の母、薫はうなづく。
「お誕生日の料理……でも、オードブルはクリスマスっぽくなっちゃうわよ」
そう言いながらも満面の笑みの母に誠は苦笑いを浮かべていた。明後日のカウラの誕生日会と称したクリスマスを一番楽しみにしているのは母かもしれない。そんなことを思いながら誠はどんぶりの底のスープを飲み干す。
「そんなにスープを飲むと塩分を取りすぎるぞ」
「いいんだよ!これがラーメンの醍醐味だ」
カウラを無視してかなめもスープを飲み干した。体内プラントで塩分ろ過の能力もあるかなめの台詞には説得力はまるで無かった。
「でも鶏の丸焼きは欲しいわよね」
すでに食べ終えてお茶をすすっているアイシャがつぶやく。
「だったらオメエが買え。止めねえから」
かなめの言葉にアイシャが鋭い軽蔑するような視線をかなめに向ける。そんな二人を暖かい視線で見守る薫に安心感を覚えた誠だった。
「結局お前達が楽しむのが目的なんだな?」
「悪いか?」
嫌味のつもりで言った言葉を完全に肯定されてカウラは少しばかり不機嫌そうな表情になる。かなめは立ち上がると居間から漫画を持ってくる。
「『女検察官』シリーズね。誠ちゃん。ずいぶん渋い趣味してるじゃないの」
アイシャが最後までとっていたチャーシューを齧りながらつぶやく。誠のコレクションでは珍しい大衆紙の連載漫画である。
「これは絵が好きだったんで。それとそれを買った高校時代の先輩が『読め!』って言うもので……」
「ふーん」
アイシャはどちらかと言うと劇画調に近い表紙をめくって先ほどまでカウラが読んでいた漫画を読み始める。
「クラウゼさん。片づけが終わったらすぐに出るからね」
「はいはーい!」
薫の言葉にアイシャはあっさりと返事をする。誠は妙に張り切っている母を眺めていた。かなめはそのまま居間の座椅子に腰掛けて漫画を読み始めたアイシャの後ろで彼女が読んでいる漫画を眺めている。
「邪魔」
「なんだよ!そう邪険にするなって」
後ろから覗き込まれてアイシャは口を尖らせる。それを見ていて誠は朝のシャムを思い出した。
「そう言えば西園寺さん。ナンバルゲニア中尉は何しに来たんですか?」
「は?」
アイシャの後頭部の紺色の髪の根元を引っ張っていじっていたかなめが不機嫌そうに振り返る。そしてしばらく誠の顔をまじまじと見た後、ようやく思い出したように頭を掻いた。
「ああ、サイドアームの件だ」
今度はしばらく誠が黙り込む。かなめの言葉の意味がはっきりとわからない。
「シャムちゃん自慢のハンドキャノンが問題になってたって訳」
アイシャがそう言うので誠はようやく思い出した。サイドアーム。常備携帯することが定められている拳銃の話だった。
司法局では任務の必要性により、各個人が自衛用の拳銃を携帯することが規則で定められている。そしてその銃での射撃訓練を行うことも職務の一つとなっていた。アイシャなどのブリッジクルーや技術部員、管理部の事務隊員などは一月に二百発の射撃訓練が目安とされていた。もっともリアナや明華、高梨などの部長の決裁でその数は変わり、アイシャ達ブリッジクルーは拳銃で百発、ライフルで五百発の射撃を課されていたが、技術部と管理部は予算の関係で作動不良の確認程度の訓練しか行っていない。
だが、誠の属する機動部隊やロシアの特殊部隊で鍛え上げられたマリアの警備部は桁が違った。それぞれ一万発近い射撃訓練を課されていて、消化できない場合には居残りで射撃をさせられることになる。
そこで問題なのが弾薬のコストである。
シャムが最近使い始めたM500は二十一世紀初頭の大口径・大威力リボルバー競争の生んだ化け物のような拳銃だった。当然、弾の生産は現在では地球で細々と続いている程度で、不足する多くの弾は小火器管理部門による手作業での再装填で作られたものだった。
「やっぱり……あれは無駄ですからね。それで?」
「そういうわけで新しい銃を叔父貴のコレクションで使える銃の中からアタシがセレクトしたんだ。とりあえず40S&W弾以上、それであいつが握れる大きさ……」
「ああ、いいです」
かなめの銃の薀蓄に付き合うつもりは無い。不機嫌そうなかなめから目をそらすと荒いものを終えた母が誠を手招きしていた。
「ああ、出かけるみたいですよ」
誠の言葉にさっさと立ち上がるアイシャ。しゃべり足りないかなめは不機嫌そうにゆっくりと腰を上げる。すでに暖かそうなダウンジャケットを着込んだ母とカウラを見ながら誠はそのまま居間にかけてあったスタジアムジャンバーに手を伸ばした。
「この格好だと変かな?」
「この寒空にタンクトップ?馬鹿じゃないの?」
カウラから渡された濃紺のコートを羽織ながら鼻で笑うアイシャをにらんだかなめだが、あきらめたようにダウンジャケットを羽織る。
「じゃあ、いいかしら」
薫の言葉で誠達は出かけることにした。
25
お気に入りに追加
377
あなたにおすすめの小説
神のいとし子は追放された私でした〜異母妹を選んだ王太子様、今のお気持ちは如何ですか?〜
星里有乃
恋愛
「アメリアお姉様は、私達の幸せを考えて、自ら身を引いてくださいました」
「オレは……王太子としてではなく、一人の男としてアメリアの妹、聖女レティアへの真実の愛に目覚めたのだ!」
(レティアったら、何を血迷っているの……だって貴女本当は、霊感なんてこれっぽっちも無いじゃない!)
美貌の聖女レティアとは対照的に、とにかく目立たない姉のアメリア。しかし、地味に装っているアメリアこそが、この国の神のいとし子なのだが、悪魔と契約した妹レティアはついに姉を追放してしまう。
やがて、神のいとし子の祈りが届かなくなった国は災いが増え、聖女の力を隠さなくなったアメリアに救いの手を求めるが……。
* 2023年01月15日、連載完結しました。
* ヒロインアメリアの相手役が第1章は精霊ラルド、第2章からは隣国の王子アッシュに切り替わります。最終章に該当する黄昏の章で、それぞれの関係性を決着させています。お読みくださった読者様、ありがとうございました!
* 初期投稿ではショートショート作品の予定で始まった本作ですが、途中から長編版に路線を変更して完結させました。
* この作品は小説家になろうさんとアルファポリスさんに投稿しております。
* ブクマ、感想、ありがとうございます。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
そろそろ前世は忘れませんか。旦那様?
氷雨そら
恋愛
結婚式で私のベールをめくった瞬間、旦那様は固まった。たぶん、旦那様は記憶を取り戻してしまったのだ。前世の私の名前を呼んでしまったのがその証拠。
そしておそらく旦那様は理解した。
私が前世にこっぴどく裏切った旦那様の幼馴染だってこと。
――――でも、それだって理由はある。
前世、旦那様は15歳のあの日、魔力の才能を開花した。そして私が開花したのは、相手の魔力を奪う魔眼だった。
しかも、その魔眼を今世まで持ち越しで受け継いでしまっている。
「どれだけ俺を弄んだら気が済むの」とか「悪い女」という癖に、旦那様は私を離してくれない。
そして二人で眠った次の朝から、なぜかかつての幼馴染のように、冷酷だった旦那様は豹変した。私を溺愛する人間へと。
お願い旦那様。もう前世のことは忘れてください!
かつての幼馴染は、今度こそ絶対幸せになる。そんな幼馴染推しによる幼馴染推しのための物語。
小説家になろうにも掲載しています。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
【完結】聖女を害した公爵令嬢の私は国外追放をされ宿屋で住み込み女中をしております。え、偽聖女だった? ごめんなさい知りません。
藍生蕗
恋愛
かれこれ五年ほど前、公爵令嬢だった私───オリランダは、王太子の婚約者と実家の娘の立場の両方を聖女であるメイルティン様に奪われた事を許せずに、彼女を害してしまいました。しかしそれが王太子と実家から不興を買い、私は国外追放をされてしまいます。
そうして私は自らの罪と向き合い、平民となり宿屋で住み込み女中として過ごしていたのですが……
偽聖女だった? 更にどうして偽聖女の償いを今更私がしなければならないのでしょうか? とりあえず今幸せなので帰って下さい。
※ 設定は甘めです
※ 他のサイトにも投稿しています
無一文で追放される悪女に転生したので特技を活かしてお金儲けを始めたら、聖女様と呼ばれるようになりました
結城芙由奈@2/28コミカライズ発売
恋愛
スーパームーンの美しい夜。仕事帰り、トラックに撥ねらてしまった私。気づけば草の生えた地面の上に倒れていた。目の前に見える城に入れば、盛大なパーティーの真っ最中。目の前にある豪華な食事を口にしていると見知らぬ男性にいきなり名前を呼ばれて、次期王妃候補の資格を失ったことを聞かされた。理由も分からないまま、家に帰宅すると「お前のような恥さらしは今日限り、出ていけ」と追い出されてしまう。途方に暮れる私についてきてくれたのは、私の専属メイドと御者の青年。そこで私は2人を連れて新天地目指して旅立つことにした。無一文だけど大丈夫。私は前世の特技を活かしてお金を稼ぐことが出来るのだから――
※ 他サイトでも投稿中
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
強制力がなくなった世界に残されたものは
りりん
ファンタジー
一人の令嬢が処刑によってこの世を去った
令嬢を虐げていた者達、処刑に狂喜乱舞した者達、そして最愛の娘であったはずの令嬢を冷たく切り捨てた家族達
世界の強制力が解けたその瞬間、その世界はどうなるのか
その世界を狂わせたものは
愛されない皇妃~最強の母になります!~
椿蛍
ファンタジー
愛されない皇妃『ユリアナ』
やがて、皇帝に愛される寵妃『クリスティナ』にすべてを奪われる運命にある。
夫も子どもも――そして、皇妃の地位。
最後は嫉妬に狂いクリスティナを殺そうとした罪によって処刑されてしまう。
けれど、そこからが問題だ。
皇帝一家は人々を虐げ、『悪逆皇帝一家』と呼ばれるようになる。
そして、最後は大魔女に悪い皇帝一家が討伐されて終わるのだけど……
皇帝一家を倒した大魔女。
大魔女の私が、皇妃になるなんて、どういうこと!?
※表紙は作成者様からお借りしてます。
※他サイト様に掲載しております。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
【完結】聖女にはなりません。平凡に生きます!
暮田呉子
ファンタジー
この世界で、ただ平凡に、自由に、人生を謳歌したい!
政略結婚から三年──。夫に見向きもされず、屋敷の中で虐げられてきたマリアーナは夫の子を身籠ったという女性に水を掛けられて前世を思い出す。そうだ、前世は慎ましくも充実した人生を送った。それなら現世も平凡で幸せな人生を送ろう、と強く決意するのだった。
冤罪で殺された聖女、生まれ変わって自由に生きる
みおな
恋愛
聖女。
女神から選ばれし、世界にたった一人の存在。
本来なら、誰からも尊ばれ大切に扱われる存在である聖女ルディアは、婚約者である王太子から冤罪をかけられ処刑されてしまう。
愛し子の死に、女神はルディアの時間を巻き戻す。
記憶を持ったまま聖女認定の前に戻ったルディアは、聖女にならず自由に生きる道を選択する。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる