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第1章 聖魔法?そんなの知らないのです!
35. 聖女として、自分自身として ~マルセナside~
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35. 聖女として、自分自身として ~マルセナside~
教会の責任者ルスターの依頼でランバート王国のライアン=ランバートのもとで住み込みで働くことになった。それはカトリーナ教会の聖女の任を破門されるわけではなく、月に何回かは教会に戻り仕事はすると言う条件付きだ。
しかしあの「巡礼祭」以来、そこまでカトリーナ教会の経営は傾いているという事実は変わらない。そしてそれが聖女マルセナ、私の責任ということも。
そして聖女マルセナは新たな国に行くための準備をしている。そこには聖女マルセナを慕う見習い修道士ラピスとエルミンの姿もあった。そしてラピスがマルセナに尋ねる。
「あの? そういえば聖女マルセナ様のご実家から何か連絡があったと聞いていますが?」
私はピクリと眉を動かす。
「……いえ、何もありませんわ。きっと私のことなんて忘れてしまったんでしょうね」
つい2日前に実家から連絡があった。というより「巡礼祭」の失態についての言及だった。聖女マルセナは恥さらし扱いを受けていた。だから何もないことにしている。
聖女マルセナの実家は貴族だ。だから世間体を気にしての連絡だ。初めから貴族が聖女になることだけでも反対されていたのだが、聖女マルセナは家族の反対を押切り聖女になることにした。
それは大聖女ディアナ様に感銘を受けたからである。幼い頃に右の肩に「聖痕」が表れ聖魔法が使えるようになった。この世にはまだまだ苦しんでいる人々がいる。それを助けることができるのは自分しかいないのだと思ったからだ。
それから聖女マルセナは必死に独学で修行に励んだ。その結果聖魔法のレベルが上がり、それを評価され史上最年少の聖女となった。
だからこそ今回のことが家族のプライドを傷つけたようだ。少し落ち込んだ顔をしているとそれを見たラピスとエルミンが聖女マルセナに声をかける。
「聖女マルセナ様ならランバート王国でも立派に聖女として過ごせますよ!」
「そうです!自信を持ってください!私たちは聖女マルセナ様の留守をしっかりと預かります!」
「ありがとう。ラピス、エルミン。」
そう彼女たちは信頼がおける。それは聖女マルセナが聖女になった時にはすでにアリーゼが聖女としてカトリーナ教会にはいた、周りの皆がアリーゼを慕っているなかそれでも彼女たちは聖女マルセナについてきたからだ。
聖女マルセナは決して怠慢をしてきたわけではない。そこには汗と涙が滲むほどの聖女としての努力をしてきた。それでも自分の上にはアリーゼがいた。
常に比較されてきた。その悔しさはある意味バネになっていた。
(それでももう限界かもしれない…)
今の状況は正直言って苦しい状況だ。このままでは本当に自分が聖女としていなくなってしまうかもしれない。
アリーゼの「聖痕」が消えたと知ったとき、これで自分はアリーゼより優れた聖女になれると思っていたが、今思えばその考えが出てしまう時点で負けを認めてしまっていたのかもしれない。
そしてライアン=ランバートのあの言葉「素の自分」それが今でも胸を締め付ける。聖女としての自分。そして素の自分。本当の自分を失いかけているのかもしれない。
「……ラピス、エルミンごめんなさい。少し一人で考えたいわ」
「聖女マルセナ様……」
そう言い残し、部屋を出る。そして一人中庭に向かう。庭師によって綺麗に整えられている花壇を見ながら考える。これからどうするかを……
「あっ……」
ふと目の前にあるものに目がつく。それは小さな白い花。聖女マルセナが初めてこの教会で聖女として来たときに、アリーゼにこの花壇を案内してもらった時にも見た思い出の花。花言葉は……「真実の想い」。
「確かこれはアストラムの花……」
「えぇ、よくご存知でございますね。聖女マルセナ様」
後ろを振り向くと一人の初老の女性が立っていた。彼女はこの教会の修道長であるマーシャさんだった。
「すみません。勝手に入ってしまって」
「いいんですよ。ここは関係者以外立ち入り禁止とかではありませんからね」
そう優しく微笑む姿はとても優しげな雰囲気が漂う。聖女マルセナもこの人のような優しい女性になりたいと思っている。
「それで何を悩まれていたのですか?」
「……実は」
聖女マルセナはマーシャさんに今までのことを話した。それは家族からの恥さらし扱いのこと、そして考えれば考えるほど自分には聖女の資格がないこと。そしてそれを認められない自分自身への葛藤など全てを吐き出すように話し終えた。
マーシャさんは聖女マルセナの話を静かに聞き終えると口を開く。
それはとても意外な言葉であった。
「そんなことないですよ。聖女マルセナ様は素晴らしい方ですわ。あなたは私が知る中で最高の聖女であり自慢の聖女です。だから自信をもってくださいな。私はいつだってあなたの味方ですから。もちろん聖女アリーゼ様も素晴らしい方です。だから2人とも自慢なのですよ?」
その言葉を言われた瞬間、涙が溢れてきた。ずっと我慢していた。誰かに認めて欲しかった。でも誰もわかってくれなかった。だから私は自分で自分を褒め続けた。そして邪魔だと思っていたアリーゼを追い出してしまった。
そうしないと壊れてしまいそうだから。しかし、初めて認められた気がする。こんなにも簡単に、そして純粋に自分のことを思ってくれる人がラピスやエルミン以外にいることが嬉しく思う。
気づけば聖女マルセナは泣き崩れ、子供のように声を上げて泣いてしまった。それと同時にアリーゼを追い出してしまった自分を悔やむのだった。
教会の責任者ルスターの依頼でランバート王国のライアン=ランバートのもとで住み込みで働くことになった。それはカトリーナ教会の聖女の任を破門されるわけではなく、月に何回かは教会に戻り仕事はすると言う条件付きだ。
しかしあの「巡礼祭」以来、そこまでカトリーナ教会の経営は傾いているという事実は変わらない。そしてそれが聖女マルセナ、私の責任ということも。
そして聖女マルセナは新たな国に行くための準備をしている。そこには聖女マルセナを慕う見習い修道士ラピスとエルミンの姿もあった。そしてラピスがマルセナに尋ねる。
「あの? そういえば聖女マルセナ様のご実家から何か連絡があったと聞いていますが?」
私はピクリと眉を動かす。
「……いえ、何もありませんわ。きっと私のことなんて忘れてしまったんでしょうね」
つい2日前に実家から連絡があった。というより「巡礼祭」の失態についての言及だった。聖女マルセナは恥さらし扱いを受けていた。だから何もないことにしている。
聖女マルセナの実家は貴族だ。だから世間体を気にしての連絡だ。初めから貴族が聖女になることだけでも反対されていたのだが、聖女マルセナは家族の反対を押切り聖女になることにした。
それは大聖女ディアナ様に感銘を受けたからである。幼い頃に右の肩に「聖痕」が表れ聖魔法が使えるようになった。この世にはまだまだ苦しんでいる人々がいる。それを助けることができるのは自分しかいないのだと思ったからだ。
それから聖女マルセナは必死に独学で修行に励んだ。その結果聖魔法のレベルが上がり、それを評価され史上最年少の聖女となった。
だからこそ今回のことが家族のプライドを傷つけたようだ。少し落ち込んだ顔をしているとそれを見たラピスとエルミンが聖女マルセナに声をかける。
「聖女マルセナ様ならランバート王国でも立派に聖女として過ごせますよ!」
「そうです!自信を持ってください!私たちは聖女マルセナ様の留守をしっかりと預かります!」
「ありがとう。ラピス、エルミン。」
そう彼女たちは信頼がおける。それは聖女マルセナが聖女になった時にはすでにアリーゼが聖女としてカトリーナ教会にはいた、周りの皆がアリーゼを慕っているなかそれでも彼女たちは聖女マルセナについてきたからだ。
聖女マルセナは決して怠慢をしてきたわけではない。そこには汗と涙が滲むほどの聖女としての努力をしてきた。それでも自分の上にはアリーゼがいた。
常に比較されてきた。その悔しさはある意味バネになっていた。
(それでももう限界かもしれない…)
今の状況は正直言って苦しい状況だ。このままでは本当に自分が聖女としていなくなってしまうかもしれない。
アリーゼの「聖痕」が消えたと知ったとき、これで自分はアリーゼより優れた聖女になれると思っていたが、今思えばその考えが出てしまう時点で負けを認めてしまっていたのかもしれない。
そしてライアン=ランバートのあの言葉「素の自分」それが今でも胸を締め付ける。聖女としての自分。そして素の自分。本当の自分を失いかけているのかもしれない。
「……ラピス、エルミンごめんなさい。少し一人で考えたいわ」
「聖女マルセナ様……」
そう言い残し、部屋を出る。そして一人中庭に向かう。庭師によって綺麗に整えられている花壇を見ながら考える。これからどうするかを……
「あっ……」
ふと目の前にあるものに目がつく。それは小さな白い花。聖女マルセナが初めてこの教会で聖女として来たときに、アリーゼにこの花壇を案内してもらった時にも見た思い出の花。花言葉は……「真実の想い」。
「確かこれはアストラムの花……」
「えぇ、よくご存知でございますね。聖女マルセナ様」
後ろを振り向くと一人の初老の女性が立っていた。彼女はこの教会の修道長であるマーシャさんだった。
「すみません。勝手に入ってしまって」
「いいんですよ。ここは関係者以外立ち入り禁止とかではありませんからね」
そう優しく微笑む姿はとても優しげな雰囲気が漂う。聖女マルセナもこの人のような優しい女性になりたいと思っている。
「それで何を悩まれていたのですか?」
「……実は」
聖女マルセナはマーシャさんに今までのことを話した。それは家族からの恥さらし扱いのこと、そして考えれば考えるほど自分には聖女の資格がないこと。そしてそれを認められない自分自身への葛藤など全てを吐き出すように話し終えた。
マーシャさんは聖女マルセナの話を静かに聞き終えると口を開く。
それはとても意外な言葉であった。
「そんなことないですよ。聖女マルセナ様は素晴らしい方ですわ。あなたは私が知る中で最高の聖女であり自慢の聖女です。だから自信をもってくださいな。私はいつだってあなたの味方ですから。もちろん聖女アリーゼ様も素晴らしい方です。だから2人とも自慢なのですよ?」
その言葉を言われた瞬間、涙が溢れてきた。ずっと我慢していた。誰かに認めて欲しかった。でも誰もわかってくれなかった。だから私は自分で自分を褒め続けた。そして邪魔だと思っていたアリーゼを追い出してしまった。
そうしないと壊れてしまいそうだから。しかし、初めて認められた気がする。こんなにも簡単に、そして純粋に自分のことを思ってくれる人がラピスやエルミン以外にいることが嬉しく思う。
気づけば聖女マルセナは泣き崩れ、子供のように声を上げて泣いてしまった。それと同時にアリーゼを追い出してしまった自分を悔やむのだった。
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