上 下
43 / 51
第7章 勇敢な貴族子息の命懸けトレジャーハント

5. 覚悟と約束

しおりを挟む
5. 覚悟と約束



 目の前にいるドラゴンはまた雄叫びをあげる。それは獲物を狩る時の威嚇行動だ。ドラゴンが一歩踏み出すたびに地面が大きく揺れる。その度に心臓の鼓動も高鳴っていく。

「くっ……。こんなところで負けられないんだ!」

 ハリーさんは震える足を抑えながら立ち上がるが、その身体はボロボロで今にも倒れそうだ。

「ハリーさん!逃げましょう!オレたちじゃあのドラゴンに勝てません。せめてリリスさんと合流を!」

「マスターくん。言ったじゃないかもしここで立ち止まり諦めて、最悪後悔するなら私は死んだっていいと。それに、あの時、約束したんだ。私が必ず宝石を取り返してプロポーズをすると!だからマスターくん君は逃げてくれ!」

「約束……」

 ……そうじゃないか。オレは昨日ローラ嬢に『あなたを必ず幸せにしますから』と言ったじゃないか。

 あれはギルド『フェアリーテイル』のマスターとしての言葉。この依頼を成功させたいという思い。

 なのになんでオレは……まったく、こんなんじゃギルドマスター失格だよな。良かった……一生後悔するところだった。オレはそのまま大きく深呼吸をしてハリーさんに伝える。

「ハリーさん。一緒に戦いましょう」

「……え?」

「この依頼はオレが承諾しました。ギルドマスターとしてオレも最後まで見届ける義務があります。……オレも覚悟を決めたんです。オレは『フェアリーテイル』のギルドマスターだから!これだけは誰にも譲れない!」

「マスターくん……。すまない!」

 ドラゴンは雄叫びをあげて、オレに向かって突進してくる。そのスピードはかなり速く、一瞬にしてオレの前まで距離を詰めてきた。そしてその鋭利な爪がオレを襲う。

 その時だった。ガギンッと音を立てて、その鋭利な爪を受け止める、銀髪美人の女性。そうオレの前に現れたのはリリスさんだった。

「ハリーさん。あなたの『覚悟』見せてもらいました」

 そのままリリスさんは刀の一振であの巨体のドラゴンを吹き飛ばす。ドラゴンは勢いよく地面に叩きつけられる。ドラゴンは苦痛の声を上げながら起き上がり、リリスさんの方を睨みつける。

「さあドラゴンさん。私を楽しませてくださいね?久しぶりにワクワクしてます。私の期待に応えてくださいね?」

 リリスさんはニヤリと微笑む。

「グオオォオ!!」

 ドラゴンは雄叫びを上げて、口から炎の玉を放つ。リリスさんはそれを軽々と避けていく。そしてリリスさんは空を見ると持っていた刀を帯刀する。

「……時間があまりなさそうですね。軽く真っ二つにしても良かったんですけど。……あまり気は乗りませんが仕方ありません」

 リリスさんはそのまま一瞬でドラゴンの懐に入り腰を落とす。

「一撃……必殺!」

 そしてそのまま強力な正拳突きを放った。その威力に耐えきれずドラゴンはその場に倒れこみ悶絶する。その時、ドラゴンの口からは赤く光る宝石が吐き出される。……サムライ女子はどこ行ったんですかリリスさん?

「あれだ!私が探していた宝石は!」

「それなら王都へ急いで戻りましょう!もう夕刻が近いです!」

「ああ!」

 オレとハリーさんが走り出そうとするとリリスさんがそれを止める。

「こらこら。待ってください。何のために正拳突きで倒したと思ってるんですか?ほら。早くしてくださいエミルくん。ハリーさん」

「え?」


 ◇◇◇


 王都の貴族街にある豪華な屋敷。ローラ=セルナードは朝から窓の外の太陽を見つめていた。微かな望みを信じて……。

「お嬢様。そろそろご準備を」

「はい……」

 ローラは部屋を出て、鏡の前でドレスに着替える。

「お嬢様。本当によろしいのですか?今日は婚約者を決める大事なパーティーなのですが……」

「……わかっているわ。あの人は間に合わなかったのね。残念だけど諦めるしかないわね。……でもせめて最後に一目だけでも会いたかった……」

 ローラは悲しげな表情を浮かべた。すると外が騒がしくなる。

「一体どうしたのかしら……?」

「わかりません。ちょっと見てきま……」

 メイドが言い終わる前に突然大きな地響きが鳴る。ローラは慌てて窓から顔を出すと、巨大な白い翼を広げたドラゴンがいた。幼い頃に見た姿とは違うが、間違いなくあの時のドラゴン。

 ローラは急いで外に出る。高鳴る心臓を押さえながらドラゴンの方へ向かう。

「はぁ……はぁ……。」

「さて。ドラゴンさん。もう戻っていいですよ?」

 ドラゴンはリリスの言う通り、大空を飛び霧の谷の方へと消えていった。そして長い時を経てハリーとローラは対面する。

「初めまして。いや……また会えましたね。私はハリー=バーミリオン。ローラ嬢。あなたが探していた宝石はこちらですね?」

 ローラは涙を流しながら、ゆっくりと頷く。

「ええ……ありがとうございます。あなたのおかげで私の願いは叶いました。私は今とても幸せです……」

「……ローラ=セルナード嬢。私と結婚してください!お願いします!」

「もちろん喜んで!」

 2人の結婚はこうして無事成立した。本当に良かった。そしてオレとリリスさんはハリーさんとローラ嬢に別れを告げ、そのままギルドに戻ることにする。

「初めてテイマーのテイムを使いましたけど案外チョロかったですね。まぁ私にかかれば、ドラゴンを手懐けるなんて余裕でしたね!」

「まさかドラゴンに乗るとは思いませんでしたよ……」

「そのおかげで間に合ったんですから。いいじゃないですか!」

 まぁリリスさんの言う通りだな。それにしてもリリスさんは強いな。刀一本……いや正拳突きでドラゴンを倒すんだから……。

「そう言えば少し気になったんですけど、リリスさん戻るの遅くありませんでした?少し心配したんですけど?」

「私は戻ってましたよ結構前に」

「……じゃあオレとハリーさんが死にそうになるギリギリまで様子を見てたんですか?」

「そうなりますかね?言ったじゃないですか『覚悟』を見せてくださいと。ハリーさんが本当にローラ嬢のことを想っていることが伝わって来たので安心しました」

 リリスさんはそう言って微笑みながら歩いていく。マジかよ。リリスさんは悪魔なのか?そして立ち止まり振り返るとオレにこう言った。

「……あの時のエミルくん。ほんの少しだけ……格好良かったですよ?」

「え?なんて……?」

「ふふっ。何でもありません。さぁギルドに戻りましょう!」

 こうしてオレとリリスさんの依頼は終わりを迎えた。ギルドへの帰り道。オレとリリスさんを照らす夕陽がいつもより綺麗に見えた気がした。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

召喚された聖女? いえ、商人です

kieiku
ファンタジー
ご依頼は魔物の回収……転送費用がかさみますので、買取でなく引取となりますがよろしいですか? あとお時間かかりますので、そのぶんの出張費もいただくことになります。

強さがすべての魔法学園の最下位クズ貴族に転生した俺、死にたくないからゲーム知識でランキング1位を目指したら、なぜか最強ハーレムの主となった!

こはるんるん
ファンタジー
気づいたら大好きなゲームで俺の大嫌いだったキャラ、ヴァイスに転生してしまっていた。 ヴァイスは伯爵家の跡取り息子だったが、太りやすくなる外れスキル【超重量】を授かったせいで腐り果て、全ヒロインから嫌われるセクハラ野郎と化した。 最終的には魔族に闇堕ちして、勇者に成敗されるのだ。 だが、俺は知っていた。 魔族と化したヴァイスが、作中最強クラスのキャラだったことを。 外れスキル【超重量】の真の力を。 俺は思う。 【超重量】を使って勇者の王女救出イベントを奪えば、殺されなくて済むんじゃないか? 俺は悪行をやめてゲーム知識を駆使して、強さがすべての魔法学園で1位を目指す。

蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる

フルーツパフェ
大衆娯楽
 転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。  一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。  そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!  寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。 ――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです  そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。  大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。  相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。      

幼少期に溜め込んだ魔力で、一生のんびり暮らしたいと思います。~こう見えて、迷宮育ちの村人です~

月並 瑠花
ファンタジー
※ファンタジー大賞に微力ながら参加させていただいております。応援のほど、よろしくお願いします。 「出て行けっ! この家にお前の居場所はない!」――父にそう告げられ、家を追い出された澪は、一人途方に暮れていた。 そんな時、幻聴が頭の中に聞こえてくる。 『秋篠澪。お前は人生をリセットしたいか?』。澪は迷いを一切見せることなく、答えてしまった――「やり直したい」と。 その瞬間、トラックに引かれた澪は異世界へと飛ばされることになった。 スキル『倉庫(アイテムボックス)』を与えられた澪は、一人でのんびり二度目の人生を過ごすことにした。だが転生直後、レイは騎士によって迷宮へ落とされる。 ※2018.10.31 hotランキング一位をいただきました。(11/1と11/2、続けて一位でした。ありがとうございます。) ※2018.11.12 ブクマ3800達成。ありがとうございます。

異世界転生はどん底人生の始まり~一時停止とステータス強奪で快適な人生を掴み取る!

夢・風魔
ファンタジー
若くして死んだ男は、異世界に転生した。恵まれた環境とは程遠い、ダンジョンの上層部に作られた居住区画で孤児として暮らしていた。 ある日、ダンジョンモンスターが暴走するスタンピードが発生し、彼──リヴァは死の縁に立たされていた。 そこで前世の記憶を思い出し、同時に転生特典のスキルに目覚める。 視界に映る者全ての動きを停止させる『一時停止』。任意のステータスを一日に1だけ奪い取れる『ステータス強奪』。 二つのスキルを駆使し、リヴァは地上での暮らしを夢見て今日もダンジョンへと潜る。 *カクヨムでも先行更新しております。

三歳で婚約破棄された貧乏伯爵家の三男坊そのショックで現世の記憶が蘇る

マメシバ
ファンタジー
貧乏伯爵家の三男坊のアラン令息 三歳で婚約破棄され そのショックで前世の記憶が蘇る 前世でも貧乏だったのなんの問題なし なによりも魔法の世界 ワクワクが止まらない三歳児の 波瀾万丈

無能なので辞めさせていただきます!

サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。 マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。 えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって? 残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、 無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって? はいはいわかりました。 辞めますよ。 退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。 自分無能なんで、なんにもわかりませんから。 カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。

レベルカンストとユニークスキルで異世界満喫致します

風白春音
ファンタジー
俺、猫屋敷出雲《ねこやしきいずも》は新卒で入社した会社がブラック過ぎてある日自宅で意識を失い倒れてしまう。誰も見舞いなど来てくれずそのまま孤独死という悲惨な死を遂げる。 そんな悲惨な死に方に女神は同情したのか、頼んでもいないのに俺、猫屋敷出雲《ねこやしきいずも》を勝手に転生させる。転生後の世界はレベルという概念がある世界だった。 しかし女神の手違いか俺のレベルはカンスト状態であった。さらに唯一無二のユニークスキル視認強奪《ストック》というチートスキルを持って転生する。 これはレベルの概念を超越しさらにはユニークスキルを持って転生した少年の物語である。 ※俺TUEEEEEEEE要素、ハーレム要素、チート要素、ロリ要素などテンプレ満載です。 ※小説家になろうでも投稿しています。

処理中です...