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プロローグ パーティー解散と前日譚

1. 夢があるんです

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1. 夢があるんです



 ある王都の宿屋の一室。この場所に名前の知れた有名なギルド冒険者パーティーがいる。名前は『精霊の剣』現段階で王国最強と呼んでもおかしくはない程の実力者たちだ。

「みんな集まってくれてありがとうございます。早速だけど本題に入りますね」

 リーダーのリリス=エーテルツリーが口を開くと、仲間たちは真剣な表情で彼女を見つめる。わざわざみんなを集めて話すということはとても重要なことなんだろう……

「実は私……パーティーを解散したいんです」

 彼女の発言に仲間たちは目を丸くする。そして最初に声を上げたのは剣士のカルムだった。

「ちょっと待ってくれ!いきなり解散なんて納得できないぞ!」

「そうよ!それに何があったのかちゃんと説明しなさいよ!」

「何か不満でもあるのか?」

 続けて魔法使いのロゼ、戦士のバルドも不満の声を上げる。もちろんオレもいきなりのことで困惑している。

 しかし、そんな事は承知の上なのかリーダーのリリスさんは落ち着いた口調で話し始めた。

「やりたいことが昔からあるんです。だからギルド冒険者は終わりにしたいんです」

「なんだよやりたいことって!?」

「ギルド受付嬢になりたいんです」

「「「はっ!?」」」

 その一言を聞いてオレたちは更に驚いた。まさか彼女がそんなことを言い出すとは思わなかったからだ。

 リリス=エーテルツリー。彼女はいわば天才。年齢26歳にして、すべてのジョブをマスターした存在だ。そしてそれはすべてのスキルを扱えるということでもある。この世界では全ての職業を極めることが出来る人間などいないのだ。つまり彼女はそれだけの実力があるということ。

 そしてこのパーティーが最強にのしあがるのも時間の問題でしかなかった。だからこそ突然の脱退宣言には驚きしかない。

「はぁ?ふざけんなよ!おいリリス!お前自分が何を言ってるか分かってるのか?」

 カルムが怒りの形相を浮かべながら立ち上がって叫んだ。

「えぇもちろんです。でもあなたに私の夢を否定する権利はないと思いますけど?」

「なんだとぉ!!」

 今にも殴り合いが始まりそうなほどの険悪な雰囲気になる。他の2人も同様で睨み合っていた。

「やめてください2人とも!」

 オレは慌てて間に入る。正直こんな展開になるとは思ってなかったから頭が混乱していた。

「エミル!あんたは引っ込んでて!アイテムでも補充しときなさい」

「そうだ。お前が口を挟む権利はない!これはパーティーの問題だ!」

 そうロゼとバルドに言われてしまう。オレもパーティーの一員のはずだけどな……。

 オレの名前はエミル=ハーネット。年齢は21歳。元々はギルド冒険者ではなく商人だったが、今はリリスさんたちと一緒に旅をしている。なぜかリーダーのリリスさんに気にいられてパーティーの一員になった。

 『精霊の剣』と言えば名前を知らない者がいないほど有名だし、ギルド冒険者パーティーを経験したいという興味本意もあった。それにそんな人に気に入られたというだけでも、光栄なことだったし。まぁ……オレの仕事は簡単に言えば荷物持ちと雑用だけどな。

 でもオレがパーティーの一員になったのは1ヶ月前。まさかこんなに早くパーティー解散の現場に出くわすとは……。

「とにかく私はもう決めたんです。今までありがとうございました」

 リリスさんはそう言うと深々と頭を下げた。こうなったらいくら説得しても無駄だろう。

「チッ!勝手にしろ!」

「ふんっ!後悔するわよ!」

「後で泣き事を言うなよな!」

 3人とも舌打ちすると席を立ち勢い良く扉を開けて部屋を出ていく。そして呆気なくパーティーは解散となった。リリスさんとオレだけが部屋に残る。すごく気不味いんだけどさ……。

「ふぅ……なんか物語の雑魚が言うような捨てゼリフを吐かれましたね。別に構わないのですけど。というか誰のおかげでここまでのしあがってきたと思ってるんですかね?本当に……弱い者は良く吠えます。あ~清々しましたね」

 リリスさんは溜め息をつくと椅子に座ってテーブルの上に肘を乗せ頬杖をついた。そして窓の外を見ながら呟く。

「大体何様なんですかね?あのイキがり剣士。いつも魔物にトドメをさしたくらいで『大丈夫かリリス?』とかオレが助けたんだぜ?みたいなドヤ顔をしてくるし、私が弱らせてたんだっつーの。本当にウザイです」

「……。」

「あの時代遅れのおさげ魔法使いもそう。火力こそ正義みたいな?私がいつも被害が出ないように防御魔法を使いながら戦ってたんです。何度言っても直らないですし、それにあの火力バカおさげが使える魔法は私にも使えるっつーの。本当にバカでイライラします」

「……。」

「そして、あのでくの坊戦士。一丁前に戦ってますみたいな感じだしてますけど、図体がデカイだけで戦闘もスキルもどれも中途半端。あと私のこと好きなのか知りませんけど、いつもイヤらしい目で見てきますし、こっちはタイプじゃないっつーの。本当にキモいです」

 ……めちゃくちゃ毒吐くじゃんこの人。あれ?なんかリリスさん、キャラ変わってない!?いつものお淑やかな感じじゃないし。

 そんなことを考えているとリリスさんはオレの方に顔を向け、ジト目でこっちを見る。まさか今のやつを直接聞くことになるのか?そんなことになったらオレの精神が崩壊するぞ。

「まあいいです。で。エミルくん、私の本性を知った今。君はこれからどうするつもりですか?」

「えっと……特に決めてません……」

「ふむ。なら私についてきませんか?」

「へっ?」

 いきなりの提案に思わず変な声が出てしまった。毒を吐かれなかったので少しの安堵と混乱が入り交じった感情になる。

「嫌なんですか?というより、私はそもそもギルド受付嬢になるために君をパーティーにいれたんですから」

「えっ!?」

 またもや驚くことばかりだ。まさかオレをパーティーに入れた理由がそんなことだったとは……。

「私の本性を見せたのは、君と一緒に仕事したいと思っているからです。信頼して欲しいですしね。それに私には君が必要なんですよ」

 リリスさんは真剣な表情でオレを見つめる。その瞳には嘘偽りのない純粋な思いが宿っていた。

「オレを必要としてくれるのは嬉しいですけど、どうしてそこまでしてくれるんですか?オレなんてただの荷物持ちですよ?それにまだ会ったばかりですし……」

「パーティーに加入してから、君にはアイテムと資金の管理をお願いしてました。それはパーソナルなスキルの部分で私のジョブやスキルではどうにもなりません。つまりギルド経営をするのに君が必要なんです。1ヶ月間様子を見ましたけど、まぁ……及第点です。それに君は戦闘能力がからっきしなのに、王国最強と言われているこの『精霊の剣』に在籍できている時点である程度は察してほしいですけどね?」

 なんか流れるようにスマートに毒を吐かれたんだが。確かに気づくべきだったのかもしれない。オレなんかを気にいる理由を。

「というかギルド経営!?リリスさんはギルド受付嬢になりたいんじゃなかったんですか!?」

「はい。私は自分だけのギルドを設立して、ギルド受付嬢になるんです。理解できましたか?ということで、私たちのギルドのギルドマスターはよろしくお願いしますねエミル君?」

「はい!?」

 オレがギルドマスター!?リリスさんの言っていることは分かった。しかし、オレには他に選択肢は今の段階ではない。こうしてオレはリリスさんと共にギルド経営を始めることになるのだった。
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