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62. 祭りに酔う

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62. 祭りに酔う



 今日は地元の夏祭り。そんな大層なものじゃないが、一応祭りの最後には花火もあがるし、まあそこそこの規模がある。

 本来であれば毎年オレは夏祭りの手伝いをしているが、横にいるこいつが勝手に押し掛けてきたせいで、両親が気をつかって『今年はいいから、夏祭り夏帆ちゃんと楽しみな』と送り出してくれたのだ。

「じゃ~ん!私の浴衣可愛いですか?持ってきて正解でしたね!」

「お前……そう言うところだけ要領がいいよな?」

「ありがとうございます。ねぇ先輩!夏祭り楽しみですね!しかも先輩の地元ですもん。もし知り合いに会ったら私のこと彼女として紹介してくださいね?」

「嫌だよ。お前彼女じゃねぇし」

「えぇ~なんですかそれ!?私たち付き合ってるんじゃないんですか?それに昨日お父様とお母様に挨拶しましたよね?あれは一体どういうことですか?」

「お前が勝手に押し掛けてきたんだろ!……あ~もううるさい!とりあえず行くぞ!」

 そう言って、さっさと歩いていくと後ろの方で『待ってくださいよぉ~』という声と共に足音が聞こえてくる。

「全く先輩ったら照れ屋さんなんだからぁ~」

 うぜぇ……こいつマジでぶん殴りたいんだけど。でもここは我慢するしかない。耐えろオレ……

 そんなこんなしているうちに、会場が見えてきて屋台の準備をしていたり、浴衣を着ている人だかりも居てとても賑やかになってきた。

「わぁ~人がたくさんいますねぇ……」

「まぁこの辺だと一番大きいお祭りだからな」

「私こういうところあまり来ないので楽しみです!あっ!りんご飴売ってますよ!食べましょう!」

「おいちょっと待てって!」

 言うと同時に駆け出していってしまった白石を追いかける。しかし人の量が多く思うように進めない。ようやく追いついた時には既にりんご飴を買っていたようで、美味しそうに頬張っていた。

「んぅ~おいしいです!ほら先輩もどうぞ!」

「お前、勝手に行くなよ。はぐれたらどうすんだよ」

「大丈夫ですよ。迷子になるほど子供じゃないですよ?ところで先輩もりんご飴食べますか?甘くて美味しいですよ。はい!あーん」

「は?」

「ほらほら先輩!あーん!」

「いや……自分で買うからいい」

「えぇ~遠慮しないで下さいよぉ~。彼女からの『あ~ん』嫌なんですか?」

「うるせぇ!」

 ……くそっなんでオレが白石にあーんされなくちゃいけないんだ。周りの視線がオレに向いているような気もするし。

「ねぇ先輩!じゃあ次は射的やりましょう!あそこの景品のうさぎのぬいぐるみ可愛いし欲しいです!」

「おいおい、あんまり無駄遣いすんなって」

「分かってますよ!それより早く行きましょう!」

「分かったから引っ張るなっての」

 それから白石と色々な屋台を見て回った。射的、焼きそば、たこ焼き、チョコバナナ、綿あめ、金魚すくい……本当に色々だ。そして不意に白石が話しかけてくる。

「ねぇ先輩」

「なんだよ?」

「2人で回るお祭り、楽しいですね」

 突然そう言った、白石の笑顔を見るとオレは胸の奥がきゅっと締め付けられるように苦しくなる。ああ、やっぱりこいつはずるいな。普段はあんなにもウザいのに、たまにこうやって可愛い表情を見せる。その度にドキッとする自分がいる。

「……まぁ悪くないかもな」

 そう呟いてまた歩き出す。花火まであと少し。それまで楽しまないとな。そんなことを考えてしまうオレは祭りの雰囲気とかそういうものに酔っているのかもしれないな……
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