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0. おしかの

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0. おしかの



 春の陽気が気持ちよく、夕方のこの時間でもずいぶん暖かくなってきたな。

 オレの名前は『神原秋人』。高校2年生。叔父が経営しているアパートで一人暮らしをして、東京の私立高校に通っている。

 今は帰宅して部屋でゆっくりしているところだ。部活をやるわけでもなく、バイトをするわけでもない。本当に平凡に生きている。贅沢はしない。さっきも言ったが叔父の経営しているアパートだから家賃の心配もないし、生活なら親の仕送りだけで問題なく生きていける。ただそれだけでいい。

 そう思っていたのに……

 何もない平凡に生きてきたオレの平穏はこの春に簡単に崩れ去った……

「ねぇ。見て見て先輩。もうこんなに読み終わったんですよ?すごいですよね?」

「そんなこと自慢するなよ……黙って読めよ。気が散る。」

 そう自慢気にラノベを読みながらオレに語りかけるその少女は、茶色がかった髪を肩まで伸ばしていて、身長は155cmくらいの小柄で、出るとこ出てて引っ込むところは引っ込んでいる理想の女子ような体型をしている。しかし、そんな容姿とは裏腹に中身は残念な感じだ。

 彼女の名前は、『白石夏帆』。

 彼女は、オレが通う高校の一年後輩であり、なぜか知らないがオレに絡んでくる。そして今年の春から引っ越してきた隣の部屋の住人だ。こいつも一人暮らしらしいけど……で、なぜかいつも学校が終わってオレの部屋に夜までいて、そして帰っていくようになった。しかも……毎日だ。

「ねぇ先輩?理想の推しと付き合えるとなったら……やっぱり嬉しいですよね?しかも毎日一緒なら尚更ですよね?」

「まぁ……そうなんじゃね?」

「じゃあ先輩は幸せ者ですね!」

「は?お前は何言ってんだ?」

「何って……私は先輩の理想の推しですもん!」

「は?」

 なんだこいつ……まぁ、こいつがオレのことをどう思っているかは知らないが、少なくともオレにとってはただの後輩だ。それ以上でもそれ以下でもない。どうもこの後輩は何か勘違いしているようだ。

「……おい、白石。どういうことだ説明してみろ」

「え?だって先輩、少し前に髪はこのくらいで、身長は150以上160未満、胸はDカップくらいの女性がいいって言ってましたよ!?」

「それは理想の女性の話だろ!しかもお前何を勘違してるか知らんけどさ、オレらは別に付き合ってるとかそういう特別な関係じゃないだろ?」

「えっ!?そ、そうなんですか!?」

 そう言った瞬間、白石はとても驚いた表情を浮かべた。……なんだその反応は。まるでオレらが付き合っていると思ってました!みたいなリアクションなんだが。

「いやいや。一体どこでお前の思考はそうなったんだよ?」

「だって先輩が私と毎日一緒にいてくれるから、私はてっきり……」

「いや……お前が急にオレの部屋に来だしたんだろ……」

「えーっ!?でも、先輩断らなかったですよ?もう付き合ってるかと思ってました」

 断らなかったのは……初めての一人暮らしで心細いかと思って仲良くしようとした単純な思考なんだがな。オレの善意だ。……まぁ、わざわざ言う必要もない。言えば面倒になりそうだし……

 なるほど。こいつの中でオレ達はすでに恋人同士になっていたわけだ。

 ……全く理解できない。それになぜオレと恋人になろうとしているのか?しかもムカつくことに、こいつは黙ってれば可愛い部類に入るはずだ。

 ……いやまぁ見た目だけで言えば、こいつが言っていた通りかなり好みなのもムカつく。でも性格とか趣味嗜好が合わなさそうで絶対無理だ。

「……あのなぁ、オレ達はたまたま同じ学校の先輩と後輩でアパートの部屋が隣同士っていうだけだろ?なんでそこでいきなり恋愛関係に発展すんだよ?オレとお前は何もないだろ?」

「じゃあ先輩は彼女いるんですか?」

「いるわけないだろ。毎日毎日お前が来てるのに」

「うぅ~ん……じゃあ、先輩。私のこと嫌いですか?」

「はぁ?急に何言い出すんだよ。」

「いいから答えてくださいよ。私、今結構真剣なんですよ?」

「知らねぇけど……まぁ別に嫌ってはいないが」

「ふむふむ。じゃあ好きってことですね!『彼女もいない』、『私のこと嫌いじゃない』。じゃあ彼氏決定でいいですよね?」

「なんでだよ!?」

 なんなんだよ。くそっ。こいつめんどくさいな。

「先輩が何もないとかそんなこと言ってるならエッチしますか?一応初めてなので優しくしてくださいね?私としては、きちんと順を追って……」

「うぜぇ。お前もう帰れ!」

「先輩。素直に私をもっと推していいですよ?」

「なんでオレがお前を推すんだよ!」

「え?私と先輩って付き合ってますよね?」

「付き合ってねぇって言ってんだろ!」

 はぁ……どうしてこうなったんだろう。これが今のオレと夏帆の日常だ。そしてここから物語が始まることになる。
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