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エピソード3
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食欲の秋到来だ。食べることが大好きなマリコはいつもモグモグ口を動かしている。おかげで体重の増加も店の売り上げに相反して右肩上がりなのだが、制御が効かない。
このところ食卓には毎日のようにサツマイモ料理が並ぶ。天ぷら、芋ご飯、ふかし芋、焼き芋、大学芋、ねりきり。甘く味付けされているので、どれもおやつに近い。
甘いものはご飯のおかずにはならないよ、というのがリイコの言い分であるが、実りの秋はお客様からの差し入れが多く、家計が厳しいマリコにとっては大変ありがたいことだ。残したりしたら罰が当たる。そう思いながら、感謝して食しているのだが、なんせ田舎あるあるで、おすそ分けの量が半端なく、消費が追い付かないというのが現状だ。
そういうわけで今朝のマリコの朝食は焼き芋だ。調べたところによると、さつまいもには美肌と美腸の効果があるらしい。愛煙家で便秘持ちのマリコにはぴったりの食材だ。そういえば、最近よく出る気がする。それに伴って化粧乗りもよい気がする。そう考えれば飽きたなど贅沢なことは言えない。
『ちょっと、ママ、さっきからどうも臭うんだけど…』
『きゃ!ばれたぁ?』
両手でお尻を押さえるポーズのマリコに「まじ、萎えるんですけど」とリイコは本気で嫌そうな顔をしてる。
食べれば出るのは仕方のないこと。腸の働きが活発な証拠だ。そんな言い分を並べるマリコに軽蔑のまなざしを向けるリイコ。テーブルの上にある朝食は半分も減っていない。学校でオナラがしたくなったら困るだの、飽きただの言うもんだから、リイコにはきちんと食事を用意している。今朝のメニューは小さめのおにぎりと、キャベツのみそ汁、ハムエッグ。
『残さないで食べてよ。あんたの余り物まで食べてたらブタになっちゃうよ』
『もう十分ブタですけど』
『なんですって!』
『ご馳走様・・・』
『あ、ちょっと!』
結局ほとんど残したまま洗面所へ消えたリイコをマリコは追いかける。もともと食の細いリイコではあるが、ここ最近は目に余るものがあった。
もしかしたら、ダイエットだろうか。あんなにやせっぽっちなのに?でも、ありえない話じゃない。最近の子は皆、テレビのタレントや雑誌のモデルに影響を受けて若いうちからダイエットに興味を持つ子が多いと週刊誌で読んだばかりだ。その結果、拒食症に陥ったり、将来的には不妊へと繋がったりもするというではないか。
冗談じゃない!と、マリコは床を踏む。何より食べ物を粗末にする精神が許せない。大体、あの子はまだ生理が来ていないのだ。中学二年生になっても生理が来ないリイコを、マリコはただでさえ心配している。それなのに、そのうえダイエットなんて!
…おや?
半開きのバスルームのドアの前でマリコは立ち止まる。
目にしたのは、洗面所の鏡に向かって、微笑んだりため息をついたりするリイコの姿だった。
ははん、さては。
その様子を、声もかけずにじっと見守るマリコ。そんなマリコに気づく様子もなく、リイコは前髪の微妙なうねりを気にしたり、薄く色づいたリップを塗ったりする。その間にも、微笑み、ため息。親としては見逃せない娘の変化。どうやらリイコは恋をしているようだ。
『あんた、好きな人ができたね?』
『ぎゃ!』
誰にも見られていないことを前提に一喜一憂を繰り返していたリイコにとっては、驚きと恥ずかしさが相まって怒り心頭である。
『何よ、ママったら!声くらいかけなさいよ。嫌らしい!』
『いいじゃん、いいじゃん!で、どんな人よ、まさかもう付き合ってるの?』
やめておけばいいのに、デリカシーのないマリコは、ついついこんな風にからかうようなことを言ってしまう。それが、さらに娘の心に壁を作ることになるとは少しも考えないあたりは、母親というより、年頃の娘に嫌われる父親のよう。
『本当、ママって嫌な奴!どうしてそうやって人の気持ち逆なでするようなこと平気で言うの?そういうとこ、まじ、治したほうがいいよ』
『えー、いいじゃん、いいじゃん教えてよ』
そのあたりでやめておけばいいものを、しつこく食い下がるあたりがマリコの鈍いところだ。
『もう、うざい!』
マリコを押しのけ、リイコが洗面所を飛び出す。
『帰ったらゆっくり聞かせてもらうからね~!いってらっしゃーい』
しかし、マリコにはリイコのいじけた気持などみじんも届いていないのだった。
この日は月曜日。美容室マリコの定休日。しかし、店にはひっそりとお客がいた。セミロングの髪の毛を茶色に染め、毛先にだけ緩くパーまをあてるのは、マリコの親友のヨウコ。実家は小さな神社で、父親はサラリーマンと兼業で神主をしていた。つまり、家業一本では食べていくことが不可能な規模の神社ということだ。
ヨウコはマリコと同い年であるが独身で、運送会社の事務員をする傍ら、実家の神社では巫女をしている。美しいが、長年不実の恋をしており、いまだに独身だ。ちなみに、マリコもヨウコも来年王台に乗るとだけ言っておく。
『それにしてもリイコが恋する年齢になったか』
マリコにシャンプーをしてもらいながら、ヨウコがしみじみと呟いた。生まれた時からリイコを知っているヨウコとしては、感慨深いものがあるらしい。リイコにとってもヨウコは姉のような叔母のような口うるさい第二の母親のような…。とにかく愛すべき存在なのだ。
『どんな人だと思う?』
『さあね。毎朝前髪をストレートアイロンでいじくるような女々しい男じゃないの?今はそういうのがもてるらしいから』
『かー!やだねぇ。野球部のキャプテンとか、柔道部の主将とかじゃないの?』
『そういうの流行らないでしょう?っていうか、きっと野球部だろうが柔道部だろうが、今時の男の子はみんな風呂上りには顔に化粧水はたいてるよ』
『そんなものかねぇ』
『時代が違うのよ、時代が』
はぁ、と二人でため息をつき、しばし青春時代の話題に花を咲かせる。マリコとヨウコの付き合いは高校からで、同じ電車通学がきかけで仲良くなった。昔から、ぱっと花が咲いたように垢抜けて綺麗なヨウコは、電車内でも目立っており、いつも他校の男子生徒から注目されていたものだ。
『ねぇ。リイコの好きな人がどんな人か透視できないの?』
シャンプーをする手にぎゅっと力を込めながらマリコは尋ねる。少しでもヨウコの口が軽くなるように、つぼをぐいぐい押しまくる。ちょうど凝り固まっている場所を刺激されたヨウコはほうっとため息をついた。
『できません。っていうか、そんなに気になる?たかだか中学生の初恋でしょう?』
『ほら、でも、あの子はあたしの子でしょう?男運ないんじゃないかと思ってさ』
『ばかだねぇ。今から人生を左右するような相手に出会うわけないじゃん。この年から悪い男に引っかかってるなら、リイコの男運の悪さは母親を超えるね』
けけけと馬鹿にしたようにヨウコは笑うが、マリコはわりと真剣だった。なんせ、マリコは悪い男にひっかかる典型的なタイプ。惹かれる男は、必ずと言っていいほどマリコを傷つけ不幸にした。
『だから心配なの。ねぇ、ちょっと見てよ』
マリコがここまで食い下がるのにはわけがある。ヨウコには霊感があるのだ。お祓いもするし、透視能力を生かして人探しをしたりもする。なんなら、陽子の神社では人形供養もしているが、それは全て神主の父ではなくヨウコがしている。マリコより霊能力は断然高いのだ。
『やだやだ。自分で占ったらいいじゃん?』
『ああん、あたしが身内や近すぎる人間のことを占えないの、知ってるでしょう?』
『私も同じなの知ってるよね。リイコは娘みたいなものだから無理』
ちっと舌打ちすると、マリコはマッサージする手を止め、ざっとお湯で泡を流す。
『ちょっと、せっかく気持ち良かったのにマッサージおしまい?』
『おしまい!』
そちらがサービスしてくれないのなら、こっちだってサービス終了だ。マリコはさっさとトリートメントを済ますとシャンプー台の椅子を起こした。
『はいよ』
『最後がいまいちだね。いまいち割引しといてね』
ちゃっかりしている。
髪の毛を乾かしていると、ヨウコの携帯が震えた。いそいそと鞄から携帯を取り出したヨウコは嬉しそうにライン画面を開く。背後からそっと覗くと、相手は長年の不倫相手タカユキから。
『タカユキさん?』
『うん。今日、会う約束してるんだ』
『あんたも人のこと言えないくらい男運がないけどね』
20代、30代と女として一番輝かしい時期を、ヨウコはタカユキに捧げている。出会った時すでにタカユキは既婚者で子供までいた。それでも好きだと離れることが出来ず、ずるずる続いているのが現状だ。
『やっぱり、タカユキ、若い女と浮気してたんだよね。マリコの占いが当たったよ』
はぁ、とため息をつくヨウコの横顔には、長年不幸な恋をしてきた女独特の疲れが浮かんでいる。美しいのに険があって、どこか近寄りがたい。
『だから、あの男はそういう男だって何度も言ってんじゃん』
タカユキは既婚者で子持ちのくせによくモテる、典型的な女泣かせなのだ。
『まぁ、仕方ないよね。結局は惚れたもん負けだから。でも、もう浮気はしないって、今日仲直りデートなんだよね』
浮かれるヨウコに、あんたも浮気相手だよなんてやぼなことは勿論言わない。
『また丸め込まれるパターンですな』
かわりに、チクリと嫌味を言うが、こんなことでいちいち喧嘩をする関係性ではない。
『自分でも嫌になるよ』
マリコもヨウコも自身の能力を自身の幸せのためには使えない。自分のこととなると、感情だけが先走り霊視も透視も占いもできない困った体質なのだった。
緩やかにウェーブがかかった髪の毛に、ムースをつけて完成。デートだと胸を高鳴らせる鏡の中のヨウコは、やっぱり綺麗だった。
『あんな男のために綺麗にしてやった自分が憎いわぁ』
マリコの冗談に、ヨウコがふっと笑った。
『なんで私たちが長年仲のいい友達でいられるか知ってる?』
『気が合うから?』
『ぶー!男の趣味が被らないからよ』
このところ食卓には毎日のようにサツマイモ料理が並ぶ。天ぷら、芋ご飯、ふかし芋、焼き芋、大学芋、ねりきり。甘く味付けされているので、どれもおやつに近い。
甘いものはご飯のおかずにはならないよ、というのがリイコの言い分であるが、実りの秋はお客様からの差し入れが多く、家計が厳しいマリコにとっては大変ありがたいことだ。残したりしたら罰が当たる。そう思いながら、感謝して食しているのだが、なんせ田舎あるあるで、おすそ分けの量が半端なく、消費が追い付かないというのが現状だ。
そういうわけで今朝のマリコの朝食は焼き芋だ。調べたところによると、さつまいもには美肌と美腸の効果があるらしい。愛煙家で便秘持ちのマリコにはぴったりの食材だ。そういえば、最近よく出る気がする。それに伴って化粧乗りもよい気がする。そう考えれば飽きたなど贅沢なことは言えない。
『ちょっと、ママ、さっきからどうも臭うんだけど…』
『きゃ!ばれたぁ?』
両手でお尻を押さえるポーズのマリコに「まじ、萎えるんですけど」とリイコは本気で嫌そうな顔をしてる。
食べれば出るのは仕方のないこと。腸の働きが活発な証拠だ。そんな言い分を並べるマリコに軽蔑のまなざしを向けるリイコ。テーブルの上にある朝食は半分も減っていない。学校でオナラがしたくなったら困るだの、飽きただの言うもんだから、リイコにはきちんと食事を用意している。今朝のメニューは小さめのおにぎりと、キャベツのみそ汁、ハムエッグ。
『残さないで食べてよ。あんたの余り物まで食べてたらブタになっちゃうよ』
『もう十分ブタですけど』
『なんですって!』
『ご馳走様・・・』
『あ、ちょっと!』
結局ほとんど残したまま洗面所へ消えたリイコをマリコは追いかける。もともと食の細いリイコではあるが、ここ最近は目に余るものがあった。
もしかしたら、ダイエットだろうか。あんなにやせっぽっちなのに?でも、ありえない話じゃない。最近の子は皆、テレビのタレントや雑誌のモデルに影響を受けて若いうちからダイエットに興味を持つ子が多いと週刊誌で読んだばかりだ。その結果、拒食症に陥ったり、将来的には不妊へと繋がったりもするというではないか。
冗談じゃない!と、マリコは床を踏む。何より食べ物を粗末にする精神が許せない。大体、あの子はまだ生理が来ていないのだ。中学二年生になっても生理が来ないリイコを、マリコはただでさえ心配している。それなのに、そのうえダイエットなんて!
…おや?
半開きのバスルームのドアの前でマリコは立ち止まる。
目にしたのは、洗面所の鏡に向かって、微笑んだりため息をついたりするリイコの姿だった。
ははん、さては。
その様子を、声もかけずにじっと見守るマリコ。そんなマリコに気づく様子もなく、リイコは前髪の微妙なうねりを気にしたり、薄く色づいたリップを塗ったりする。その間にも、微笑み、ため息。親としては見逃せない娘の変化。どうやらリイコは恋をしているようだ。
『あんた、好きな人ができたね?』
『ぎゃ!』
誰にも見られていないことを前提に一喜一憂を繰り返していたリイコにとっては、驚きと恥ずかしさが相まって怒り心頭である。
『何よ、ママったら!声くらいかけなさいよ。嫌らしい!』
『いいじゃん、いいじゃん!で、どんな人よ、まさかもう付き合ってるの?』
やめておけばいいのに、デリカシーのないマリコは、ついついこんな風にからかうようなことを言ってしまう。それが、さらに娘の心に壁を作ることになるとは少しも考えないあたりは、母親というより、年頃の娘に嫌われる父親のよう。
『本当、ママって嫌な奴!どうしてそうやって人の気持ち逆なでするようなこと平気で言うの?そういうとこ、まじ、治したほうがいいよ』
『えー、いいじゃん、いいじゃん教えてよ』
そのあたりでやめておけばいいものを、しつこく食い下がるあたりがマリコの鈍いところだ。
『もう、うざい!』
マリコを押しのけ、リイコが洗面所を飛び出す。
『帰ったらゆっくり聞かせてもらうからね~!いってらっしゃーい』
しかし、マリコにはリイコのいじけた気持などみじんも届いていないのだった。
この日は月曜日。美容室マリコの定休日。しかし、店にはひっそりとお客がいた。セミロングの髪の毛を茶色に染め、毛先にだけ緩くパーまをあてるのは、マリコの親友のヨウコ。実家は小さな神社で、父親はサラリーマンと兼業で神主をしていた。つまり、家業一本では食べていくことが不可能な規模の神社ということだ。
ヨウコはマリコと同い年であるが独身で、運送会社の事務員をする傍ら、実家の神社では巫女をしている。美しいが、長年不実の恋をしており、いまだに独身だ。ちなみに、マリコもヨウコも来年王台に乗るとだけ言っておく。
『それにしてもリイコが恋する年齢になったか』
マリコにシャンプーをしてもらいながら、ヨウコがしみじみと呟いた。生まれた時からリイコを知っているヨウコとしては、感慨深いものがあるらしい。リイコにとってもヨウコは姉のような叔母のような口うるさい第二の母親のような…。とにかく愛すべき存在なのだ。
『どんな人だと思う?』
『さあね。毎朝前髪をストレートアイロンでいじくるような女々しい男じゃないの?今はそういうのがもてるらしいから』
『かー!やだねぇ。野球部のキャプテンとか、柔道部の主将とかじゃないの?』
『そういうの流行らないでしょう?っていうか、きっと野球部だろうが柔道部だろうが、今時の男の子はみんな風呂上りには顔に化粧水はたいてるよ』
『そんなものかねぇ』
『時代が違うのよ、時代が』
はぁ、と二人でため息をつき、しばし青春時代の話題に花を咲かせる。マリコとヨウコの付き合いは高校からで、同じ電車通学がきかけで仲良くなった。昔から、ぱっと花が咲いたように垢抜けて綺麗なヨウコは、電車内でも目立っており、いつも他校の男子生徒から注目されていたものだ。
『ねぇ。リイコの好きな人がどんな人か透視できないの?』
シャンプーをする手にぎゅっと力を込めながらマリコは尋ねる。少しでもヨウコの口が軽くなるように、つぼをぐいぐい押しまくる。ちょうど凝り固まっている場所を刺激されたヨウコはほうっとため息をついた。
『できません。っていうか、そんなに気になる?たかだか中学生の初恋でしょう?』
『ほら、でも、あの子はあたしの子でしょう?男運ないんじゃないかと思ってさ』
『ばかだねぇ。今から人生を左右するような相手に出会うわけないじゃん。この年から悪い男に引っかかってるなら、リイコの男運の悪さは母親を超えるね』
けけけと馬鹿にしたようにヨウコは笑うが、マリコはわりと真剣だった。なんせ、マリコは悪い男にひっかかる典型的なタイプ。惹かれる男は、必ずと言っていいほどマリコを傷つけ不幸にした。
『だから心配なの。ねぇ、ちょっと見てよ』
マリコがここまで食い下がるのにはわけがある。ヨウコには霊感があるのだ。お祓いもするし、透視能力を生かして人探しをしたりもする。なんなら、陽子の神社では人形供養もしているが、それは全て神主の父ではなくヨウコがしている。マリコより霊能力は断然高いのだ。
『やだやだ。自分で占ったらいいじゃん?』
『ああん、あたしが身内や近すぎる人間のことを占えないの、知ってるでしょう?』
『私も同じなの知ってるよね。リイコは娘みたいなものだから無理』
ちっと舌打ちすると、マリコはマッサージする手を止め、ざっとお湯で泡を流す。
『ちょっと、せっかく気持ち良かったのにマッサージおしまい?』
『おしまい!』
そちらがサービスしてくれないのなら、こっちだってサービス終了だ。マリコはさっさとトリートメントを済ますとシャンプー台の椅子を起こした。
『はいよ』
『最後がいまいちだね。いまいち割引しといてね』
ちゃっかりしている。
髪の毛を乾かしていると、ヨウコの携帯が震えた。いそいそと鞄から携帯を取り出したヨウコは嬉しそうにライン画面を開く。背後からそっと覗くと、相手は長年の不倫相手タカユキから。
『タカユキさん?』
『うん。今日、会う約束してるんだ』
『あんたも人のこと言えないくらい男運がないけどね』
20代、30代と女として一番輝かしい時期を、ヨウコはタカユキに捧げている。出会った時すでにタカユキは既婚者で子供までいた。それでも好きだと離れることが出来ず、ずるずる続いているのが現状だ。
『やっぱり、タカユキ、若い女と浮気してたんだよね。マリコの占いが当たったよ』
はぁ、とため息をつくヨウコの横顔には、長年不幸な恋をしてきた女独特の疲れが浮かんでいる。美しいのに険があって、どこか近寄りがたい。
『だから、あの男はそういう男だって何度も言ってんじゃん』
タカユキは既婚者で子持ちのくせによくモテる、典型的な女泣かせなのだ。
『まぁ、仕方ないよね。結局は惚れたもん負けだから。でも、もう浮気はしないって、今日仲直りデートなんだよね』
浮かれるヨウコに、あんたも浮気相手だよなんてやぼなことは勿論言わない。
『また丸め込まれるパターンですな』
かわりに、チクリと嫌味を言うが、こんなことでいちいち喧嘩をする関係性ではない。
『自分でも嫌になるよ』
マリコもヨウコも自身の能力を自身の幸せのためには使えない。自分のこととなると、感情だけが先走り霊視も透視も占いもできない困った体質なのだった。
緩やかにウェーブがかかった髪の毛に、ムースをつけて完成。デートだと胸を高鳴らせる鏡の中のヨウコは、やっぱり綺麗だった。
『あんな男のために綺麗にしてやった自分が憎いわぁ』
マリコの冗談に、ヨウコがふっと笑った。
『なんで私たちが長年仲のいい友達でいられるか知ってる?』
『気が合うから?』
『ぶー!男の趣味が被らないからよ』
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