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<第五章 第2話>
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<第五章 第2話>
この広場は、一辺が百メートルほどの正方形だ。広場の周囲は、二車線の馬車道だ。馬車道の向こう側は、三階建てから五階建ての建物が並んでいる。建物の一階は、レストランやカフェ、その他、様々な店舗だ。
狙撃手十名は、広場の西側と南側に、五名ずつ配置している。二十メートル間隔というわけではないが、一つの建物に、狙撃手一名が配置され、全員、五階の部屋に潜んでいる。居場所を敵に特定されないように、窓を少しだけ開け、銃身は窓の外に出さず、部屋の奥に潜んで、敵を狙っている。
狙撃手は全員、自由革命党の戦闘員だ。北東エリアの銃火器店を、防衛していた男たちだ。自由革命党の幹部であるダリアの祖父の部下で、銃火器店にいた二十名のうちの半分だ。もちろん、ダリアの祖父の承諾を得て、今回の作戦に参加している。その十名が所持する猟銃は、スコープ付きの高性能の鹿狩り用ライフル銃だ。
狙撃対象は、第一に、指揮官だ。無産者革命党の場合、皆、同じような労働者風の服装のため、服装から指揮官か否かを判別するのは、難しい。そこで、身振り手振りで命令を出している男を、狙撃する。背の高い男や、がたいの良い男は、小隊長の可能性が高いため、これらも狙撃する。他に、目立つ男も、指揮官の可能性があるため、狙撃対象だ。
第二の狙撃対象は、広場から車道に出た男たちだ。狙撃手は、一つの建物に一名だけ配置されている。護身用に六連発リボルバーを所持しているが、数十名の男が、潜んでいる建物に乱入した場合、多勢に無勢で、対抗できない。そこで、車道に出た段階で狙撃をする。それでも敵の集団が止まらず、狙撃手が潜んでいる建物に接近した場合、窓から車道に、ダイナマイトを投げることになっている。ダイナマイトで、数十名の敵を数名まで減らせば、六連発リボルバーで自衛できるからだ。
師団参謀が潜んでいると推測される集団は、広場の中央より、やや南側だ。木製大型十字架は、広場の北側車道から、二十メートルほどの地点に設置されている。敵の集団の中央は、木製大型十字架の四十メートルほど南だ。フランクたちの拳銃の射程距離外だ。だが、西側と南側の建物に潜む狙撃手にとっては、有効射程内だ。自由革命党の狙撃手の腕なら、百メートル以内なら、ほぼ、外さないはずだ。
ルビー・クールは、決断した。師団参謀は、倒さなければならない。だがその前に、北、東、西の四個中隊四百名を、なんとかしなければならない、と。
木製大型十字架に、よじ登り始めた。十字架の横棒の上に、右足をかけた。右足の力も使って、身体全体を、十字架の横棒の上に引き上げた。横棒の上に、しゃがみ込む体勢となった。
ダリアが、不思議そうな顔で、尋ねた。
「あなた、何やってるの? 木登りする猿のまねかしら」
ムカッ、ときた。
ルビー・クールは、不満そうな顔で、答えた。
「失礼ね。せめて、木登りする猫と言ってよ」
ダリアが、失笑した。
「あなたは、猫のような無害な女じゃないでしょ。凶暴さでは、ジャガーかパンサーね」
エルザが、口をはさんだ。ニヤつきながら。
「ジャガーやパンサーより、雌ジャッカルのほうが良いわ」
心の中で、ルビー・クールは、吐き捨てた。
ジャッカルはイヌ科だから、木には登らないわよ、と。
そもそも、あなたの父のマフィア名が、ジャッカルでしょ。あなたは、あなたの父の部下から、ミス・ジャッカルと呼ばれてるんでしょ。あたしを、あなたと一緒にしないでよ。
そう、心の中で文句を言っているとき、風が吹いた。
木製大型十字架が、かなり揺れた。風が吹いただけなのに。
怖い、怖い、怖い。倒れそうで。
十字架の横棒の上は、地表から二メートル半弱ほどだ。倒れたら、危険だ。負傷しかねない。
だが、この十字架は、労農革命党員の職人が作ったものだ。組み立て作業も見た。今は薪の山に隠れて見えないが、根元には、四本の足が十字状に設置してある。足の長さは、約一メートルだ。そのため、めったなことでは、この十字架は倒れないはずだ。足が折れないかぎりは。
そのときだった。
北側に布陣する中隊の指揮官が、怒鳴った。
「赤毛の魔女が、何か、たくらんでるぞ! 赤毛の魔女を殺せ! 全員、総攻撃だ!」
まずい、まずい、まずい。敵が総攻撃をかけてきたら、魔法攻撃による支援無しでは、戦列は維持できない。
極めて、まずい状況だ。
この広場は、一辺が百メートルほどの正方形だ。広場の周囲は、二車線の馬車道だ。馬車道の向こう側は、三階建てから五階建ての建物が並んでいる。建物の一階は、レストランやカフェ、その他、様々な店舗だ。
狙撃手十名は、広場の西側と南側に、五名ずつ配置している。二十メートル間隔というわけではないが、一つの建物に、狙撃手一名が配置され、全員、五階の部屋に潜んでいる。居場所を敵に特定されないように、窓を少しだけ開け、銃身は窓の外に出さず、部屋の奥に潜んで、敵を狙っている。
狙撃手は全員、自由革命党の戦闘員だ。北東エリアの銃火器店を、防衛していた男たちだ。自由革命党の幹部であるダリアの祖父の部下で、銃火器店にいた二十名のうちの半分だ。もちろん、ダリアの祖父の承諾を得て、今回の作戦に参加している。その十名が所持する猟銃は、スコープ付きの高性能の鹿狩り用ライフル銃だ。
狙撃対象は、第一に、指揮官だ。無産者革命党の場合、皆、同じような労働者風の服装のため、服装から指揮官か否かを判別するのは、難しい。そこで、身振り手振りで命令を出している男を、狙撃する。背の高い男や、がたいの良い男は、小隊長の可能性が高いため、これらも狙撃する。他に、目立つ男も、指揮官の可能性があるため、狙撃対象だ。
第二の狙撃対象は、広場から車道に出た男たちだ。狙撃手は、一つの建物に一名だけ配置されている。護身用に六連発リボルバーを所持しているが、数十名の男が、潜んでいる建物に乱入した場合、多勢に無勢で、対抗できない。そこで、車道に出た段階で狙撃をする。それでも敵の集団が止まらず、狙撃手が潜んでいる建物に接近した場合、窓から車道に、ダイナマイトを投げることになっている。ダイナマイトで、数十名の敵を数名まで減らせば、六連発リボルバーで自衛できるからだ。
師団参謀が潜んでいると推測される集団は、広場の中央より、やや南側だ。木製大型十字架は、広場の北側車道から、二十メートルほどの地点に設置されている。敵の集団の中央は、木製大型十字架の四十メートルほど南だ。フランクたちの拳銃の射程距離外だ。だが、西側と南側の建物に潜む狙撃手にとっては、有効射程内だ。自由革命党の狙撃手の腕なら、百メートル以内なら、ほぼ、外さないはずだ。
ルビー・クールは、決断した。師団参謀は、倒さなければならない。だがその前に、北、東、西の四個中隊四百名を、なんとかしなければならない、と。
木製大型十字架に、よじ登り始めた。十字架の横棒の上に、右足をかけた。右足の力も使って、身体全体を、十字架の横棒の上に引き上げた。横棒の上に、しゃがみ込む体勢となった。
ダリアが、不思議そうな顔で、尋ねた。
「あなた、何やってるの? 木登りする猿のまねかしら」
ムカッ、ときた。
ルビー・クールは、不満そうな顔で、答えた。
「失礼ね。せめて、木登りする猫と言ってよ」
ダリアが、失笑した。
「あなたは、猫のような無害な女じゃないでしょ。凶暴さでは、ジャガーかパンサーね」
エルザが、口をはさんだ。ニヤつきながら。
「ジャガーやパンサーより、雌ジャッカルのほうが良いわ」
心の中で、ルビー・クールは、吐き捨てた。
ジャッカルはイヌ科だから、木には登らないわよ、と。
そもそも、あなたの父のマフィア名が、ジャッカルでしょ。あなたは、あなたの父の部下から、ミス・ジャッカルと呼ばれてるんでしょ。あたしを、あなたと一緒にしないでよ。
そう、心の中で文句を言っているとき、風が吹いた。
木製大型十字架が、かなり揺れた。風が吹いただけなのに。
怖い、怖い、怖い。倒れそうで。
十字架の横棒の上は、地表から二メートル半弱ほどだ。倒れたら、危険だ。負傷しかねない。
だが、この十字架は、労農革命党員の職人が作ったものだ。組み立て作業も見た。今は薪の山に隠れて見えないが、根元には、四本の足が十字状に設置してある。足の長さは、約一メートルだ。そのため、めったなことでは、この十字架は倒れないはずだ。足が折れないかぎりは。
そのときだった。
北側に布陣する中隊の指揮官が、怒鳴った。
「赤毛の魔女が、何か、たくらんでるぞ! 赤毛の魔女を殺せ! 全員、総攻撃だ!」
まずい、まずい、まずい。敵が総攻撃をかけてきたら、魔法攻撃による支援無しでは、戦列は維持できない。
極めて、まずい状況だ。
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