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第五章 包囲戦で絶体絶命 <第1話>

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   <第五章 第1話>
 労農革命党の戦闘員が、口々に怒鳴っている。「それ以上近づくと、撃つぞ」と。
 だが、その警告は、無視された。
 銃声が、とどろいた。次々に。
 絶叫した。次から次へと。銃撃された敵の男たちが。
 敵方てきがたの指揮官が、怒鳴った。中隊副隊長か、中隊参謀だ。
 「たまは、わずかだ! 数で押し切れ!」
 敵の男たちが、突撃してきた。口々に、罵倒の言葉を叫びながら。
 あっという間に、銃声は途切れた。弾切れだ。
 白兵戦が、始まった。
 敵の男たちが、刃物を振り回している。
 味方の男たちは、敵の刃物を、たたき落とそうとしている。大型スパナや、長さ四十センチの薪で。
 それに対抗し、敵の男たちは、味方の男たちの手首を、切りつけようとしている。
 敵方が、優勢だ。
 理由は、数が多いからだ。
 味方の男たちは、一メートルほどの間隔をけて、隊列を組んでいる。
 ルビー・クールは、北側中央の隊列の隙間すきまに、入った。魔法詠唱しながら。
 魔法の釘を、投げつけた。
 敵の距離は、近すぎた。それに、角度の問題もあった。そのため、魔法の釘を刺せたのは、四名だけだった。
 しかしそれにより、四名の男の両目を、魔法の釘で刺すことができた。
 その四名の敵が、絶叫した。
 ルビー・クールが、叫んだ。
 「今が好機よ!」
 味方の男たちが、大型スパナや薪で、敵の男たちの刃物を、たたき落とした。石畳に落ちた刃物は、すぐさま拾い、後方に投げ捨てた。
 ルビー・クールは移動しながら、味方の隊列の隙間から、魔法の釘を投げつけた。次から次へと。
 北側中央から、東側に移動しながら、魔法の釘を投げ続けた。魔法詠唱の合間に、魔法付属術による言葉の暗示をかけながら。
 戦況が、逆転した。ルビー・クールの魔法攻撃によって。
 多勢に無勢で、味方は敵に押されていた。
 だが、ルビー・クールが魔法の釘を投げるたびに、味方が敵を押し返した。
 ルビー・クールは、東のはしに着くと、今度は西側に向かった。半円形の隊列の隙間から、魔法の釘を投げつけながら。
 西の端に到着すると、再び北に向かった。
 北側中央に着く頃には、合計二十回ほど、魔法の釘を投げていた。魔法攻撃を受けた敵の男たちは、おそらく七十名から八十名ほどだ。
 労農革命党員の発砲で、死亡もしくは重傷を負ったのは、三十名から四十名。
 よって、敵四個中隊四百名のうち、百名から百二十名、すなわち、二十五%から三十%が、戦闘不能となった。
 敵の士気は、大いに下がった。
 「あの赤毛の魔女を、なんとかしろ!」
 敵方の誰かが、そう怒鳴った。
 一個小隊十名が、突撃してきた。ルビー・クールの正面にいた連中だ。
 ハンマーが怒鳴った。
 「全員、一歩も退くな!」
 味方の男たちが、スパナや薪を手に、立ちふさがった。
 後方から、ルビー・クールが、魔法の釘を投げつけた。連続で、三回。
 十名全員が、絶叫した。両目を押さえて。
 そのすきを突き、味方の男たちが、敵のナイフを、たたき落とした。
 敵は誰も、ルビー・クールの魔法攻撃を止められない。
 敵の男たちは、本能的に後退した。ルビー・クールの魔法攻撃を避けるために。
 彼らは、知らないはずだ。ルビー・クールの魔法攻撃の射程距離が、九メートルであることを。
 だが敵は、ルビー・クールから十メートルほど離れた。その状態で、膠着こうちゃく状態となった。
 ルビー・クールは、薪の山を駆け上がった。木製大型十字架の横板の上に立った。この横板は、地表一メートルの高さに設置してある。
 北側、東側、西側、の順に見た。敵は、攻めあぐねている。
 南側を、見た。
 広場中央に、党友たちの集団が、しゃがみ込んでいる。
 あの集団の中に、師団参謀がいる。
 ルビー・クールは、そう確信した。
 最初に、その集団を見たときは、党友たちが恐怖におびえ、しゃがみ込んでいるだけだと思った。
 だが、少年たちの伝令は、その集団から走り出した。その集団の中央に、師団参謀がいるはずだ。自分を銃撃から守るために、党友三千名を、自分の周囲にとどめているのだ。
 師団参謀を、倒さなければ。
 それが、南東エリア奪還作戦の勝利条件だ。
 ルビー・クールは、決意した。この戦いは、ここでケリをつけると。
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