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<第三章 第5話>
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カウントダウンが続いた。
もう、時間がない。移動する時間は。
「四、三……」
ルビー・クールが叫んだ。
「伏せて! エルザ!」
そう叫びながら、石畳に跳び込んだ。上半身を反らし、腹筋で着地した。
その次の瞬間だった。
銃声が轟いた。無数の銃声が、続けざまに。
絶叫した。周囲の男たちが。
大量虐殺の開始だ。
と、思ったが、六秒か七秒で、銃声は止んだ。
自由革命党の戦闘員六名が、六連発のリボルバーを二挺拳銃で撃てば、七十二発だ。銃弾が貫通して、後ろにいた男にあたるケースもあるだろうから、一個中隊百名は、全滅だ。
そう思ったが、そうならなかった。
伏せたまま振り返ると、包囲網には、大きな穴が開いていた。
包囲網の穴から見えたのは、フランクと、もう一人の戦闘員だけだ。他の四名は、見えない。おそらく、師団長が率いていた中隊の左側と右側の中隊に対し、発砲したのだろう。
そのため、包囲網の左右と六時の方角の男たちは、ほとんど無事だ。
フランクが、弾切れとなった二挺を腰のホルスターに戻し、左右の腋の下のホルスターから、新たに二挺の四十五口径リボルバーを抜いた。
エルザに視線を向けた。石畳に伏せていたが、立ち上がろうとした。犬のように、うなりながら。
「エルザ! まだ伏せていて! 第二撃が来るわよ!」
だが、来なかった。第二撃は。
フランクが怒鳴った。
「赤毛と栗毛! ここへ戻れ! 援護する!」
「わかったわ!」
そう叫んで、立ち上がった。
エルザと共に、走った。木製大型十字架に向かって。
発砲した。フランクが。
かすめた。弾丸が。左肩の近くを。距離は、十五センチメートルも離れていない。
悲鳴をあげた。心の中でだが。
左を振り返った。
ナイフを持った男が、頭部を撃ち抜かれていた。四十五口径の銃弾で。
伏せて銃撃を避けていた男たちが、次々に立ち上がり、ルビー・クールとエルザに向かって突撃してきた。
フランクが、次々に発砲した。隣にいる自由革命党戦闘員も、同様だ。
次々に、身体のすぐ近くを、銃弾がかすめた。距離は、十センチから二十センチだ。
恐怖で、身体が震えた。
だが、心の中で悲鳴をあげながらも、走り続けた。
あてないで! あてないで! あてないで!
そう、心の中で叫びながら。
横にぶれないように、まっすぐに走った。十センチでも横にぶれると、フランクの銃弾が、あたってしまうかもしれないからだ。
「三時の方角、通るわよ!」
ルビー・クールがそう叫ぶと、フランクは左手の拳銃の銃口を、上に上げた。
ルビー・クールとエルザは、フランクの左脇を走り抜けた。
フランクが怒鳴った。無産者革命党の党員たちに向かって。
「おまえら、もう降伏しろ! 両手を挙げて、地面に両膝をつけ!」
自由革命党の戦闘員たちも、それを合図に発砲をやめ、口々に怒鳴り始めた。降伏しろ、と。
右手側と左手側では、さきほどから、労農革命党の戦闘員たちが、降伏しろ、と怒鳴っている。散発的に、発砲音が聞こえるが。
十字架の下の薪の山には、ダリアが腰かけていた。老婆の扮装のままで。
「あなたの杖、あるわよ。ものすごく重くて、持つの大変だったわ」
「たった四キログラムよ」
「四キロもあるの! ただの木製なのに?」
「中に鉄芯が入ってるのよ」
その杖は、労農革命党の党員が用意してくれたものだ。ルビー・クールの鋼鉄製雨傘は、色が赤なので、目立ってしまう。目立たない鉄芯入りの杖がないか頼んだところ、すぐに持ってきてくれた。職人の党員が、ちょうど製作中だった。平民富裕層の紳士が、護身用に特注したそうだ。ラッカーを塗って装飾を施す前の状態のため、粗末な杖に見えて、ちょうどよかった。
ルビー・クールは、杖を受け取る前に、二本の短剣についた血を、ダリアの肩で拭った。
「ちょっと、何すんのよ!」
ダリアが目をむいた。
「ちょうどよいボロ布があったから」
「あたしだって、こんなボロのコートなんて着たくなかったわよ!」
「もう、脱いでもいいわよ」
二本の短剣を、左右の袖の中の鞘に戻した。血を拭わずに鞘に収めると、血糊が固まって、短剣を鞘から抜けなくなってしまう。
ダリアは杖を渡すと立ち上がり、粗末なフード付きのロングコートを脱いだ。
美少女が、現れた。白を基調とした美しいドレス風の衣装だ。たくさんのフリルが付いている。屋外用の服のため、ウールの素材は、かなりの厚手だ。
エルザが近寄ってきた。ニタニタと不気味な笑みを浮かべながら。
「あたしも、ナイフの血を拭いたいわ」
ダリアが、脱いだコートを、エルザの足下に投げた。
「どうぞ、ご自由に」
「あなたの白い衣装で拭いたいわ」
ダリアが、エルザをにらみつけた。
「ダメに決まってるでしょ」
「きれいな衣装を見ると、汚したくなるのよ。わかるでしょ」
「わからないわよ!」
ダリアが叫んだ。だいぶ、頭に血が上っている。
まずい状況だ。なんとかしなければ。
ルビー・クールは、心の中で頭を抱えた。
もう、時間がない。移動する時間は。
「四、三……」
ルビー・クールが叫んだ。
「伏せて! エルザ!」
そう叫びながら、石畳に跳び込んだ。上半身を反らし、腹筋で着地した。
その次の瞬間だった。
銃声が轟いた。無数の銃声が、続けざまに。
絶叫した。周囲の男たちが。
大量虐殺の開始だ。
と、思ったが、六秒か七秒で、銃声は止んだ。
自由革命党の戦闘員六名が、六連発のリボルバーを二挺拳銃で撃てば、七十二発だ。銃弾が貫通して、後ろにいた男にあたるケースもあるだろうから、一個中隊百名は、全滅だ。
そう思ったが、そうならなかった。
伏せたまま振り返ると、包囲網には、大きな穴が開いていた。
包囲網の穴から見えたのは、フランクと、もう一人の戦闘員だけだ。他の四名は、見えない。おそらく、師団長が率いていた中隊の左側と右側の中隊に対し、発砲したのだろう。
そのため、包囲網の左右と六時の方角の男たちは、ほとんど無事だ。
フランクが、弾切れとなった二挺を腰のホルスターに戻し、左右の腋の下のホルスターから、新たに二挺の四十五口径リボルバーを抜いた。
エルザに視線を向けた。石畳に伏せていたが、立ち上がろうとした。犬のように、うなりながら。
「エルザ! まだ伏せていて! 第二撃が来るわよ!」
だが、来なかった。第二撃は。
フランクが怒鳴った。
「赤毛と栗毛! ここへ戻れ! 援護する!」
「わかったわ!」
そう叫んで、立ち上がった。
エルザと共に、走った。木製大型十字架に向かって。
発砲した。フランクが。
かすめた。弾丸が。左肩の近くを。距離は、十五センチメートルも離れていない。
悲鳴をあげた。心の中でだが。
左を振り返った。
ナイフを持った男が、頭部を撃ち抜かれていた。四十五口径の銃弾で。
伏せて銃撃を避けていた男たちが、次々に立ち上がり、ルビー・クールとエルザに向かって突撃してきた。
フランクが、次々に発砲した。隣にいる自由革命党戦闘員も、同様だ。
次々に、身体のすぐ近くを、銃弾がかすめた。距離は、十センチから二十センチだ。
恐怖で、身体が震えた。
だが、心の中で悲鳴をあげながらも、走り続けた。
あてないで! あてないで! あてないで!
そう、心の中で叫びながら。
横にぶれないように、まっすぐに走った。十センチでも横にぶれると、フランクの銃弾が、あたってしまうかもしれないからだ。
「三時の方角、通るわよ!」
ルビー・クールがそう叫ぶと、フランクは左手の拳銃の銃口を、上に上げた。
ルビー・クールとエルザは、フランクの左脇を走り抜けた。
フランクが怒鳴った。無産者革命党の党員たちに向かって。
「おまえら、もう降伏しろ! 両手を挙げて、地面に両膝をつけ!」
自由革命党の戦闘員たちも、それを合図に発砲をやめ、口々に怒鳴り始めた。降伏しろ、と。
右手側と左手側では、さきほどから、労農革命党の戦闘員たちが、降伏しろ、と怒鳴っている。散発的に、発砲音が聞こえるが。
十字架の下の薪の山には、ダリアが腰かけていた。老婆の扮装のままで。
「あなたの杖、あるわよ。ものすごく重くて、持つの大変だったわ」
「たった四キログラムよ」
「四キロもあるの! ただの木製なのに?」
「中に鉄芯が入ってるのよ」
その杖は、労農革命党の党員が用意してくれたものだ。ルビー・クールの鋼鉄製雨傘は、色が赤なので、目立ってしまう。目立たない鉄芯入りの杖がないか頼んだところ、すぐに持ってきてくれた。職人の党員が、ちょうど製作中だった。平民富裕層の紳士が、護身用に特注したそうだ。ラッカーを塗って装飾を施す前の状態のため、粗末な杖に見えて、ちょうどよかった。
ルビー・クールは、杖を受け取る前に、二本の短剣についた血を、ダリアの肩で拭った。
「ちょっと、何すんのよ!」
ダリアが目をむいた。
「ちょうどよいボロ布があったから」
「あたしだって、こんなボロのコートなんて着たくなかったわよ!」
「もう、脱いでもいいわよ」
二本の短剣を、左右の袖の中の鞘に戻した。血を拭わずに鞘に収めると、血糊が固まって、短剣を鞘から抜けなくなってしまう。
ダリアは杖を渡すと立ち上がり、粗末なフード付きのロングコートを脱いだ。
美少女が、現れた。白を基調とした美しいドレス風の衣装だ。たくさんのフリルが付いている。屋外用の服のため、ウールの素材は、かなりの厚手だ。
エルザが近寄ってきた。ニタニタと不気味な笑みを浮かべながら。
「あたしも、ナイフの血を拭いたいわ」
ダリアが、脱いだコートを、エルザの足下に投げた。
「どうぞ、ご自由に」
「あなたの白い衣装で拭いたいわ」
ダリアが、エルザをにらみつけた。
「ダメに決まってるでしょ」
「きれいな衣装を見ると、汚したくなるのよ。わかるでしょ」
「わからないわよ!」
ダリアが叫んだ。だいぶ、頭に血が上っている。
まずい状況だ。なんとかしなければ。
ルビー・クールは、心の中で頭を抱えた。
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