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<第三章 第4話>
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<第三章 第4話>
魔法詠唱しながら、釘を投げた。前方にいる男たちに。
正確には、投げるふりをしただけだが。本物の釘は。
絶叫した。前方の男たちが。左目を押さえながら。魔法の釘が、突き刺さったのだ。
後方に振り返りざま、魔法の釘を投げた。
すぐさま、左手側、九時の方角に投げ、振り返りながら三時の方角にも投げた。
前後左右の男たちが、絶叫しながら後退した。
再び前方、六時の方角を向くと、飛び込むように踏み込んだ。二本の短剣を振り上げながら。
振り下ろした。同時に。左右の短剣を。正面にいた男二人の手首に。
ナイフを落とした。絶叫しながら。
その直後、大きく一歩踏み込んだ。その二人の間の空間に。
彼らの後方には、中隊副隊長と中隊参謀がいる。左手で、左目を押さえている。
ナイフをたたき落とした。左右の短剣を振り下ろして。
その直後、さらに一歩踏み込んだ。
突き刺した。同時に。左右の短剣を。中隊副隊長と中隊参謀の喉に。両刃の刃を地面と水平にして。
次の瞬間、ルビー・クールは、左右の腕を交差させた。短剣を持ったまま。
ほとばしった。大量の鮮血が。二人の首から、水平に。
切り裂いたのだ。頸動脈を。
中隊副隊長と中隊参謀は、白目をむいて、その場に崩れた。
時間切れだ。
ルビー・クールは、後方に大きく跳躍した。三度。
周囲を見回しながら、包囲網の中心に戻った。
すでに、九秒たった。魔法持続力は、切れた。男たちの左目から、魔法の釘は消えた。
だが男たちは、まだ左目を押さえている。幻痛は消えたはずなのに。それだけ、精神的打撃が大きいのだろう。
包囲網は、先ほどよりも広がっていた。魔法の釘による恐怖で、後退したからだ。
もう一押しだ。あと一押しで、包囲網を瓦解させることができるはずだ。
なぜなら、中隊全体に命令を出す者は、もういなくなったからだ。
あとは、小隊長が数名残っているだけだ。
無産者革命党の一個中隊百名は、十個小隊で編成される。一個中隊には小隊長が十名いるはずだが、実際には、中隊長、中隊副隊長、中隊参謀が、第一小隊から第三小隊までの小隊長を兼ねる。よって、残りの小隊長の数は、最大で七名だ。
小隊長らしき男を捜した。
だが、わからない。なぜなら、誰も命令を出さないからだ。男たちは皆、恐怖で引きつった表情をしている。
しかし、退却は、しない。攻撃も、してこない。誰も、命令を出さないからだ。
あと一押しを、どうするか。
そう考えたときだった。
怪鳥のような奇声が聞こえた。後方、十二時の方角だ。
視線を向けた。
血しぶきが、天高く舞い上がった。幾筋も。
男たちが情けない悲鳴をあげながら、波が引くように左右に後退りした。
包囲網に、穴が開いた。
道が、開かれた。
その道から、跳び込んできた。エルザが。奇声をあげながら。
「同志ルビー! 助太刀に来たわよ!」
この女には、借りを作りたくない。
「あら、わざわざ悪いわね。強い男はもう、あらかた倒したけど」
「強い男?」
ルビー・クールは、エルザの足下の死体に視線を向けた。
エルザも、足下の死体を見た。
「この男、どっかで見た!」
「狂犬ジャンゴよ」
「あたしが殺したかったのに!」
エルザが、そう叫んだ。
「この男、パパの手下を三名も殺したから、パパが激怒して、五万キャピタの賞金をかけているのよ」
一瞬、心が動いた。五万キャピタ(著者注:日本円で五百万円相当)は、帝国魔法学園の学費と寮費、それに雑費を、一年間まかなえる。
欲しい、と思った。
すぐに心の中で、頭を振った。マフィアから、カネをもらうわけには、いかない。
素っ気ない態度で、言った。
「あら、悪かったわね。あなたの獲物を横取りして」
「横取りじゃないわ。縄張りでキツネ狩りをしたけれど、こいつ、隠れるのがうまくてね。直接、出会ったことはないわ。この男の顔は、手配書で見ただけ」
エルザが、気味の悪い笑みを浮かべながら、ルビー・クールに視線を向けた。
「ねえ、こいつ、強かった?」
「速かったわ。だから二秒で、かたがついたわ」
エルザが奇声をあげた。笑っているようだ。
ルビー・クールが、短剣の切っ先で指し示した。
「そっちの死体は、皆殺しのブルーノよ」
「鉄血会が、情報提供に千キャピタの賞金をかけてたけど、こんな組織に身を隠してたのね」
「鉄血会の縄張りを荒らしたの?」
「違うわ。鉄血会の掟三箇条を踏みにじったから、激怒したのよ。三箇条は、その一、祖国を守る。その二、教会を守る。彼らにとっての教会は、カトリック教会だけだけど。その三、おんな子どもを守る」
思わず、ルビー・クールの感情が高ぶった。腹が、立った。彼らが支配する娼婦たちのことを、思い出したからだ。
「女を守るですって? 女を食いものにしてるくせに!」
「男は、女を食いものにするものよ」
「そんなのは間違ってるわ。男は、女を大切にするべきよ」
エルザが、笑った。ケタケタと。
「いいわね。その考え、気に入ったわ」
そのときだった。
怒鳴る声が、聞こえた。フランクだ。
「赤毛! 銃撃するぞ!」
まずい、まずい、まずい。この位置関係なら、自分とエルザにも、銃弾があたってしまう。
「待って! 撃たないで!」
「ダメだ! 時間がない! カウントダウンだ! 十、九……」
まずい、まずい、まずすぎる。たった十秒では、包囲網を突破できない。
フランクの四十五口径の銃弾があたったら、かすっただけでも、肉をごっそり削られる。
ルビー・クールは、血の気が引くのを感じた。
魔法詠唱しながら、釘を投げた。前方にいる男たちに。
正確には、投げるふりをしただけだが。本物の釘は。
絶叫した。前方の男たちが。左目を押さえながら。魔法の釘が、突き刺さったのだ。
後方に振り返りざま、魔法の釘を投げた。
すぐさま、左手側、九時の方角に投げ、振り返りながら三時の方角にも投げた。
前後左右の男たちが、絶叫しながら後退した。
再び前方、六時の方角を向くと、飛び込むように踏み込んだ。二本の短剣を振り上げながら。
振り下ろした。同時に。左右の短剣を。正面にいた男二人の手首に。
ナイフを落とした。絶叫しながら。
その直後、大きく一歩踏み込んだ。その二人の間の空間に。
彼らの後方には、中隊副隊長と中隊参謀がいる。左手で、左目を押さえている。
ナイフをたたき落とした。左右の短剣を振り下ろして。
その直後、さらに一歩踏み込んだ。
突き刺した。同時に。左右の短剣を。中隊副隊長と中隊参謀の喉に。両刃の刃を地面と水平にして。
次の瞬間、ルビー・クールは、左右の腕を交差させた。短剣を持ったまま。
ほとばしった。大量の鮮血が。二人の首から、水平に。
切り裂いたのだ。頸動脈を。
中隊副隊長と中隊参謀は、白目をむいて、その場に崩れた。
時間切れだ。
ルビー・クールは、後方に大きく跳躍した。三度。
周囲を見回しながら、包囲網の中心に戻った。
すでに、九秒たった。魔法持続力は、切れた。男たちの左目から、魔法の釘は消えた。
だが男たちは、まだ左目を押さえている。幻痛は消えたはずなのに。それだけ、精神的打撃が大きいのだろう。
包囲網は、先ほどよりも広がっていた。魔法の釘による恐怖で、後退したからだ。
もう一押しだ。あと一押しで、包囲網を瓦解させることができるはずだ。
なぜなら、中隊全体に命令を出す者は、もういなくなったからだ。
あとは、小隊長が数名残っているだけだ。
無産者革命党の一個中隊百名は、十個小隊で編成される。一個中隊には小隊長が十名いるはずだが、実際には、中隊長、中隊副隊長、中隊参謀が、第一小隊から第三小隊までの小隊長を兼ねる。よって、残りの小隊長の数は、最大で七名だ。
小隊長らしき男を捜した。
だが、わからない。なぜなら、誰も命令を出さないからだ。男たちは皆、恐怖で引きつった表情をしている。
しかし、退却は、しない。攻撃も、してこない。誰も、命令を出さないからだ。
あと一押しを、どうするか。
そう考えたときだった。
怪鳥のような奇声が聞こえた。後方、十二時の方角だ。
視線を向けた。
血しぶきが、天高く舞い上がった。幾筋も。
男たちが情けない悲鳴をあげながら、波が引くように左右に後退りした。
包囲網に、穴が開いた。
道が、開かれた。
その道から、跳び込んできた。エルザが。奇声をあげながら。
「同志ルビー! 助太刀に来たわよ!」
この女には、借りを作りたくない。
「あら、わざわざ悪いわね。強い男はもう、あらかた倒したけど」
「強い男?」
ルビー・クールは、エルザの足下の死体に視線を向けた。
エルザも、足下の死体を見た。
「この男、どっかで見た!」
「狂犬ジャンゴよ」
「あたしが殺したかったのに!」
エルザが、そう叫んだ。
「この男、パパの手下を三名も殺したから、パパが激怒して、五万キャピタの賞金をかけているのよ」
一瞬、心が動いた。五万キャピタ(著者注:日本円で五百万円相当)は、帝国魔法学園の学費と寮費、それに雑費を、一年間まかなえる。
欲しい、と思った。
すぐに心の中で、頭を振った。マフィアから、カネをもらうわけには、いかない。
素っ気ない態度で、言った。
「あら、悪かったわね。あなたの獲物を横取りして」
「横取りじゃないわ。縄張りでキツネ狩りをしたけれど、こいつ、隠れるのがうまくてね。直接、出会ったことはないわ。この男の顔は、手配書で見ただけ」
エルザが、気味の悪い笑みを浮かべながら、ルビー・クールに視線を向けた。
「ねえ、こいつ、強かった?」
「速かったわ。だから二秒で、かたがついたわ」
エルザが奇声をあげた。笑っているようだ。
ルビー・クールが、短剣の切っ先で指し示した。
「そっちの死体は、皆殺しのブルーノよ」
「鉄血会が、情報提供に千キャピタの賞金をかけてたけど、こんな組織に身を隠してたのね」
「鉄血会の縄張りを荒らしたの?」
「違うわ。鉄血会の掟三箇条を踏みにじったから、激怒したのよ。三箇条は、その一、祖国を守る。その二、教会を守る。彼らにとっての教会は、カトリック教会だけだけど。その三、おんな子どもを守る」
思わず、ルビー・クールの感情が高ぶった。腹が、立った。彼らが支配する娼婦たちのことを、思い出したからだ。
「女を守るですって? 女を食いものにしてるくせに!」
「男は、女を食いものにするものよ」
「そんなのは間違ってるわ。男は、女を大切にするべきよ」
エルザが、笑った。ケタケタと。
「いいわね。その考え、気に入ったわ」
そのときだった。
怒鳴る声が、聞こえた。フランクだ。
「赤毛! 銃撃するぞ!」
まずい、まずい、まずい。この位置関係なら、自分とエルザにも、銃弾があたってしまう。
「待って! 撃たないで!」
「ダメだ! 時間がない! カウントダウンだ! 十、九……」
まずい、まずい、まずすぎる。たった十秒では、包囲網を突破できない。
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ルビー・クールは、血の気が引くのを感じた。
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