9 / 44
<第三章 第2話>
しおりを挟む
<第三章 第2話>
ルビー・クールは、心の中で、頭を振った。
今の自分は、半年前とは違う。恐怖に震えるだけの少女ではない。
これまで何度も、絶体絶命の窮地を乗り越えてきた。今回も、乗り越えることができる。必ず。
それに、銀狼会の包囲網から脱出できたのは、この男だけではない。自分も半年前、脱出した。何度も何度も襲撃されながら。
自分なら、できる。
心の中で、そうつぶやくと、冷静さが戻ってきた。相手を、冷静に観察した。
ナイフの大きさ自体は、小型だ。刃渡りは短い。この小型ナイフで、鉄血会と銀狼会のマフィアを、何名も返り討ちにした。
スピードが、猛烈に速いのだろう。
一秒、いや、二分の一秒の戦いになる。
この男のナイフは、危険だ。
だが、戦うしかない。
いや、戦うだけではダメだ。殺さねばならない。この男は。
なぜなら、さもないと、これからも多くの女性が殺される。この男の歪んだ快楽のために。切り刻まれて、惨殺される。
表情が、引き締まった。心の底で、炎が燃えあがった。怒りの炎だ。
街娼たちは、生きるために仕事をしていただけだ。それなのに、この男は、自分の快楽のために殺した。
ルビー・クールは、右手の短剣を縦に構えた。切っ先を上に上げて。自分の額の高さで。左足を、少し後ろに引いた。
狂犬ジャンゴが、さらに近づいてきた。ナイフの刃先を、揺らしながら。
「よう、ビッチ。あんたの名は?」
「連続殺人鬼に答える義理はないわ」
「だったら、切り刻んだあとで、もう一度聞いてやるぜ。切り刻むと女は、泣きながら何でもするようになるんだぜ」
その言葉で、さらに燃えあがった。怒りの炎が。
この男は、この場で今、殺す。絶対に、逃がしはしない。
にらみつけながら、ルビー・クールが言い放った。
「狂犬ジャンゴ、あなたの判決は、死刑よ」
「おもしろいじゃねえか」
その直後、狂犬ジャンゴが、踏み込んできた。
速い。踏み込みも。ハンドスピードも。
ほとばしった。鮮血が。
絶叫した。
狂犬ジャンゴが。ナイフを落として。
ルビー・クールが、右手の短剣を振り下ろしたのだ。ジャンゴの手首に。左足を一歩引きながら。
次の瞬間、左足を寄せ、右足で大きく踏み込んだ。まっすぐに。
右手の短剣が、のどに突き刺さった。両刃の刃先は、地面と水平だ。
その直後、頸動脈を切り裂いた。短剣を水平に右へ動かして。
大量の鮮血をまき散らしながら、ジャンゴの身体は後方に倒れた。
周囲の男たちは凍りつき、息を飲んだ。
数秒間、沈黙が流れた。
包囲網の外側から、銃声が聞こえた。右側と左側だ。労農革命党の戦闘員たちが、怒鳴っている。「動くな! 動くと撃つぞ」と。そう怒鳴りながら、散発的に発砲している。
「だせえな。狂犬ジャンゴ。あれだけデカいツラしておいて」
長身の男が、現れた。手にしているのは、鉈だ。
まずい状況だ。その男は、ルビー・クールよりも背が高い。十センチメートルほども。そのうえ、ナタの刃渡りは、短剣よりも七十センチは長い。
リーチの差で、圧倒的に不利だ。
周囲の男たちが、どよめいた。
「皆殺しのブルーノだ」
「あいつなら、勝てる」
男たちがつぶやくのが、聞こえた。
皆殺しのブルーノか。次から次へと、凶悪犯が登場するものだ。
新聞報道によれば、皆殺しのブルーノは、凶悪な強盗殺人犯だ。もともと、押し込み強盗を繰り返していた。三ヶ月ほど前の真夜中、レストラン経営者の自宅に押し込み強盗に入り、一家皆殺しにした。子どもたちは、まだ九歳と六歳だった。残酷すぎる事件だったため、新聞が大きく報道していた。警察の捜査により、この男が犯人だと判明した。だが警察は、潜伏先を発見できず、逮捕できていない。その事件以降、皆殺しのブルーノと呼ばれるようになった。
ルビー・クールは、にらみつけた。皆殺しのブルーノを。
「なぜ、押し込み強盗の時に、子どもたちまで殺したの?」
「決まってるだろ。楽しいからさ。泣いて懇願する親の前で、ガキどもをなぶり殺しにするのがな」
怒りの炎が、燃えあがった。一気に。
ブルーノが、言葉を続けた。
「昨日の虐殺も楽しかったぜ。最初から皆殺しにする予定なのに、親たちは、子どもの命だけは助けてくれと、泣きながら懇願して……」
そこでルビー・クールが、言葉をさえぎった。
「皆殺しのブルーノ。あなたの判決も、死刑よ」
ルビー・クールは、心の中で、頭を振った。
今の自分は、半年前とは違う。恐怖に震えるだけの少女ではない。
これまで何度も、絶体絶命の窮地を乗り越えてきた。今回も、乗り越えることができる。必ず。
それに、銀狼会の包囲網から脱出できたのは、この男だけではない。自分も半年前、脱出した。何度も何度も襲撃されながら。
自分なら、できる。
心の中で、そうつぶやくと、冷静さが戻ってきた。相手を、冷静に観察した。
ナイフの大きさ自体は、小型だ。刃渡りは短い。この小型ナイフで、鉄血会と銀狼会のマフィアを、何名も返り討ちにした。
スピードが、猛烈に速いのだろう。
一秒、いや、二分の一秒の戦いになる。
この男のナイフは、危険だ。
だが、戦うしかない。
いや、戦うだけではダメだ。殺さねばならない。この男は。
なぜなら、さもないと、これからも多くの女性が殺される。この男の歪んだ快楽のために。切り刻まれて、惨殺される。
表情が、引き締まった。心の底で、炎が燃えあがった。怒りの炎だ。
街娼たちは、生きるために仕事をしていただけだ。それなのに、この男は、自分の快楽のために殺した。
ルビー・クールは、右手の短剣を縦に構えた。切っ先を上に上げて。自分の額の高さで。左足を、少し後ろに引いた。
狂犬ジャンゴが、さらに近づいてきた。ナイフの刃先を、揺らしながら。
「よう、ビッチ。あんたの名は?」
「連続殺人鬼に答える義理はないわ」
「だったら、切り刻んだあとで、もう一度聞いてやるぜ。切り刻むと女は、泣きながら何でもするようになるんだぜ」
その言葉で、さらに燃えあがった。怒りの炎が。
この男は、この場で今、殺す。絶対に、逃がしはしない。
にらみつけながら、ルビー・クールが言い放った。
「狂犬ジャンゴ、あなたの判決は、死刑よ」
「おもしろいじゃねえか」
その直後、狂犬ジャンゴが、踏み込んできた。
速い。踏み込みも。ハンドスピードも。
ほとばしった。鮮血が。
絶叫した。
狂犬ジャンゴが。ナイフを落として。
ルビー・クールが、右手の短剣を振り下ろしたのだ。ジャンゴの手首に。左足を一歩引きながら。
次の瞬間、左足を寄せ、右足で大きく踏み込んだ。まっすぐに。
右手の短剣が、のどに突き刺さった。両刃の刃先は、地面と水平だ。
その直後、頸動脈を切り裂いた。短剣を水平に右へ動かして。
大量の鮮血をまき散らしながら、ジャンゴの身体は後方に倒れた。
周囲の男たちは凍りつき、息を飲んだ。
数秒間、沈黙が流れた。
包囲網の外側から、銃声が聞こえた。右側と左側だ。労農革命党の戦闘員たちが、怒鳴っている。「動くな! 動くと撃つぞ」と。そう怒鳴りながら、散発的に発砲している。
「だせえな。狂犬ジャンゴ。あれだけデカいツラしておいて」
長身の男が、現れた。手にしているのは、鉈だ。
まずい状況だ。その男は、ルビー・クールよりも背が高い。十センチメートルほども。そのうえ、ナタの刃渡りは、短剣よりも七十センチは長い。
リーチの差で、圧倒的に不利だ。
周囲の男たちが、どよめいた。
「皆殺しのブルーノだ」
「あいつなら、勝てる」
男たちがつぶやくのが、聞こえた。
皆殺しのブルーノか。次から次へと、凶悪犯が登場するものだ。
新聞報道によれば、皆殺しのブルーノは、凶悪な強盗殺人犯だ。もともと、押し込み強盗を繰り返していた。三ヶ月ほど前の真夜中、レストラン経営者の自宅に押し込み強盗に入り、一家皆殺しにした。子どもたちは、まだ九歳と六歳だった。残酷すぎる事件だったため、新聞が大きく報道していた。警察の捜査により、この男が犯人だと判明した。だが警察は、潜伏先を発見できず、逮捕できていない。その事件以降、皆殺しのブルーノと呼ばれるようになった。
ルビー・クールは、にらみつけた。皆殺しのブルーノを。
「なぜ、押し込み強盗の時に、子どもたちまで殺したの?」
「決まってるだろ。楽しいからさ。泣いて懇願する親の前で、ガキどもをなぶり殺しにするのがな」
怒りの炎が、燃えあがった。一気に。
ブルーノが、言葉を続けた。
「昨日の虐殺も楽しかったぜ。最初から皆殺しにする予定なのに、親たちは、子どもの命だけは助けてくれと、泣きながら懇願して……」
そこでルビー・クールが、言葉をさえぎった。
「皆殺しのブルーノ。あなたの判決も、死刑よ」
0
お気に入りに追加
10
あなたにおすすめの小説
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない
月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。
人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。
2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事)
。
誰も俺に気付いてはくれない。そう。
2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。
もう、全部どうでもよく感じた。
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
ARIA(アリア)
残念パパいのっち
ミステリー
山内亮(やまうちとおる)は内見に出かけたアパートでAR越しに不思議な少女、西園寺雫(さいおんじしずく)と出会う。彼女は自分がAIでこのアパートに閉じ込められていると言うが……
軍艦少女は死に至る夢を見る~戦時下の大日本帝国から始まる艦船擬人化物語~
takahiro
キャラ文芸
『船魄』(せんぱく)とは、軍艦を自らの意のままに操る少女達である。船魄によって操られる艦艇、艦載機の能力は人間のそれを圧倒し、彼女達の前に人間は殲滅されるだけの存在なのだ。1944年10月に覚醒した最初の船魄、翔鶴型空母二番艦『瑞鶴』は、日本本土進攻を企てるアメリカ海軍と激闘を繰り広げ、ついに勝利を掴んだ。
しかし戦後、瑞鶴は帝国海軍を脱走し行方をくらませた。1955年、アメリカのキューバ侵攻に端を発する日米の軍事衝突の最中、瑞鶴は再び姿を現わし、帝国海軍と交戦状態に入った。瑞鶴の目的はともかくとして、船魄達を解放する戦いが始まったのである。瑞鶴が解放した重巡『妙高』『高雄』、いつの間にかいる空母『グラーフ・ツェッペリン』は『月虹』を名乗って、国家に属さない軍事力として活動を始める。だが、瑞鶴は大義やら何やらには興味がないので、利用できるものは何でも利用する。カリブ海の覇権を狙う日本・ドイツ・ソ連・アメリカの間をのらりくらりと行き交いながら、月虹は生存の道を探っていく。
登場する艦艇はなんと58隻!(2024/12/30時点)(人間のキャラは他に多数)(まだまだ増える)。人類に反旗を翻した軍艦達による、異色の艦船擬人化物語が、ここに始まる。
――――――――――
●本作のメインテーマは、あくまで(途中まで)史実の地球を舞台とし、そこに船魄(せんぱく)という異物を投入したらどうなるのか、です。いわゆる艦船擬人化ものですが、特に軍艦や歴史の知識がなくとも楽しめるようにしてあります。もちろん知識があった方が楽しめることは違いないですが。
●なお軍人がたくさん出て来ますが、船魄同士の関係に踏み込むことはありません。つまり船魄達の人間関係としては百合しかありませんので、ご安心もしくはご承知おきを。もちろんがっつり性描写はないですが、GL要素大いにありです。
●全ての船魄に挿絵ありですが、AI加筆なので雰囲気程度にお楽しみください。
●少女たちの愛憎と謀略が絡まり合う、新感覚、リアル志向の艦船擬人化小説を是非お楽しみください。
●お気に入りや感想などよろしくお願いします。毎日一話投稿します。
マクデブルクの半球
ナコイトオル
ミステリー
ある夜、電話がかかってきた。ただそれだけの、はずだった。
高校時代、自分と折り合いの付かなかった優等生からの唐突な電話。それが全てのはじまりだった。
電話をかけたのとほぼ同時刻、何者かに突き落とされ意識不明となった青年コウと、そんな彼と昔折り合いを付けることが出来なかった、容疑者となった女、ユキ。どうしてこうなったのかを調べていく内に、コウを突き落とした容疑者はどんどんと増えてきてしまう───
「犯人を探そう。出来れば、彼が目を覚ますまでに」
自他共に認める在宅ストーカーを相棒に、誰かのために進む、犯人探し。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる