絶体絶命ルビー・クールの逆襲<奪還編>

蛇崩 通

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第三章 大混戦で絶体絶命 <第1話>

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  <第三章 第1話>
 右手の短剣を、長剣のように構えた。
 だが、リーチが足りない。敵の主な武器は、キッチン・ナイフだ。短剣と、リーチの点では、大差ない。一対一なら、素人相手に問題はない。だが、相手が多いと、極めて危険だ。
 どうする?
 どう戦う?
 正面から突撃してきた。先頭の男が。ナイフを大きく振り上げながら。
 一歩踏み込み、右ストレート・パンチを叩き込んだ。男のあごに。
 一撃で、失神昏倒しっしんこんとうした。
 あたりまえだ。叩き込んだのは、拳ではない。直前に逆手さかてに持ち替えた短剣の柄の底だ。短剣の刃と柄は、一体成形で鋼鉄製だ。小さな短剣だが、けっこうな重量がある。
 あごの骨は、折れたはずだ。
 左右から、敵が襲いかかってきた。左右のストレート・パンチを、叩き込んだ。
 左の敵には右ストレート、右の敵には左ストレートを見舞った。敵のあごに。もちろん拳ではなく、短剣の柄の底だ。
 左右の敵も、一撃で失神昏倒した。
 次から次へと、敵が襲いかかってきた。五月雨さみだれ式に。
 左右の連打を、見舞った。拳ではなく、短剣の柄の底で。
 男たちは、次から次へと失神昏倒した。振り上げたナイフを、振り下ろす間もなく。
 中隊副隊長らしき男が、怒鳴った。
 「包囲だ! 包囲した上で、なぶり殺しにしろ!」
 それは、まずい。リーチの短い短剣では、距離を取って戦うことができない。包囲されて、全方向から同時攻撃を受けたら、本当になぶり殺しになってしまう。
 前方の敵をにらみつけながら、少しずつ後退を始めた。
 敵は、もう、突撃をしてこない。ナイフを持った手を前に出し、ジリジリと距離を詰めてきた。
 突撃すると、ナイフを振り下ろす前に踏み込まれ、一撃で倒されることを理解したからだろう。
 二本の短剣を、今度は順手に持ち替え、構えた。
 あっという間に、包囲された。
 だが、まだ遠巻きだ。少しずつ包囲を縮め、最後に、全方位からの同時攻撃で、なぶり殺すつもりだろう。
 まずい状況だ。なんとか打開しなければ。
 そのときだった。
 「兄貴、オレにサシでやらせてくれよ」
 一人の男、いや少年が、そう言った。
 その少年は、十六歳くらいか。いや、貧困層は栄養状態が悪く発育が遅いため、富裕層より三歳ほど幼く見える。よって、実際の年齢は、十九歳くらいか。
 どよめいた。周囲を包囲している男たちが。
 男たちが、口々につぶやいた。
 「狂犬ジャンゴか」
 「ヤツなら、殺せる」
 「ヤツのナイフの速さには、誰もついていけない」
 頭の中が、一瞬、真っ白になった。
 狂犬ジャンゴ。連続殺人鬼。超がつくほど危険な男だ。
 新聞報道によると、年齢は二十一歳。十代前半でストリートギャングとなり、十五歳の時に路上強盗で逮捕されている。出所後、鉄血会の下部組織でチンピラをしていたようだ。鉄血会は、帝都第二の勢力を誇るマフィアだ。
 だが、今年に入ってから、女を惨殺する快楽殺人に目覚めたようだ。街娼をすでに九名殺している。そのうえ、街娼を管理しているポン引きも殺し、現金を奪っている。六人目を殺したあと、犯人であることが発覚し、鉄血会が激怒した。
 あたりまえだ。ポン引きから奪った現金は、鉄血会に上納するカネだからだ。
 鉄血会から命を狙われたが、数名の刺客を返り討ちにし、鉄血会の縄張りから脱出した。
 その後、今度は、銀狼会の縄張りで、街娼を殺し始めた。銀狼会は、帝都最大のマフィアだ。エルザの父ジャッカルは、銀狼会の四大幹部の一人だ。街娼が一人殺された段階で、その殺しの手口から、狂犬ジャンゴの仕業だと判明した。銀狼会が躍起になって探し回ったが発見できず、二ヶ月間に、街娼三名とポン引き一名が殺された。その直後、隠れ家が発見されて襲撃されたが、数名のマフィアと汚職警官を死傷させ、包囲網から脱出した。
 それが、二ヶ月前だ。その後は、無産者革命党に身を寄せ、潜伏していたというわけか。
 狂犬ジャンゴは、鉄血会と銀狼会から追われて、生きのびた。何名ものマフィアを、ナイフ一本で返り討ちにして。
 見た瞬間に、わかった。この男は、危険だ。超がつくほどに。
 狂犬ジャンゴが、ニヤニヤしながら、ゆっくりと近づいてきた。ナイフの刃先を、揺らしながら。
 「よう、ビッチ。切り刻んでから犯してやるぜ」
 恐怖で、背中の毛が総毛立った。おぞましさで、内心、震え上がった。
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