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第二章 火刑台からの逆襲 <第1話>
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<第二章 第1話>
ルビー・クールは、絶叫し続けた。激しく身体をよじりながら。炎の中で。
絶叫は、数十秒間も続いた。
やがて、炎の中で、動かなくなった。絶叫も、止まった。
炎はさらに激しく燃えあがり、ルビー・クールの姿は、見えなくなった。真っ赤な炎に包まれて。
ジョゼフ=ピエールが振り返った。ニタリと笑いながら。市民たちに向かって。悪魔のような笑みだった。
「プチブルのブタども! 時間切れだ!」
「待ってくれ! まだ正午の鐘は鳴ってない!」
市民男性の一人が叫んだ。子どもの服を脱がせながら。
高らかに笑った。ジョゼフ=ピエールが、極悪な笑みを浮かべて。
「時間を決めるのは、偉大なる指導者であるオレ様だ!」
「そ、そんな……」
「最初に火に投げ込むのは、そう……」
ジョゼフ=ピエールは、市民を見回した。ニタニタと笑いながら。
「そう、そのガキだ!」
そう叫ぶと、若い母親から、赤んぼうを取り上げた。
「いや! やめて! この子だけは! あたしは殺してもいいから!」
「ダメだ!」
泣きながらすがりつく若い母親を、足蹴にした。
ジョゼフ=ピエールが、赤んぼうを炎に向かって放り投げた。
その瞬間だった。
炎の中から、飛び出した。白い服の赤毛の少女が。
ルビー・クールだ。
空中で赤んぼうをキャッチし、抱きしめた。
石畳の上に、着地した。赤んぼうを抱きしめながら。
ルビー・クールは、まったく燃えていなかった。服も、髪も、肌も。やけども一切していない。
若い母親が、駆け寄った。泣き叫びながら。
ルビー・クールが、赤んぼうを若い母親に返した。
ジョゼフ=ピエールが、絶句していた。驚愕の表情を浮かべて。
いや、彼だけではない。広場にいた全員が驚愕し、声も出せず絶句していた。
声を振り絞った。ジョゼフ=ピエールが。
「なぜ、おまえは燃えていないんだ?」
「魔法を使ったからよ」
薪の山から、炎が消えた。一瞬にして。
薪の山は、下から数えて三段目までの薪しか、燃えていなかった。その段までは、油をふりかけ、燃えやすくしてあった。しかし四段目以降は、水をかけて燃えにくくしていた。そのため、本物の炎は、それより上には燃えあがらなかった。ルビー・クールを包んだ炎は、魔法による幻覚だ。
「魔女め!」
副師団長が、そう怒鳴った直後だった。
彼は、血しぶきをまき散らして、倒れた。頸動脈を切り裂かれたのだ。
彼の背後には、若い男が立っていた。血の滴る細身のナイフを持って。労働者風の服装で、フードを目深にかぶっている。
いや、男ではない。男装した少女だ。女殺し屋「ジャッカルの娘」エルザだ。
近くにいた青年が、副師団長の死体から拳銃を奪うと、小走りで木製大型十字架のほうへ向かった。
党員たちの隊列の中からも、離脱する男たちが現れた。彼らは、二人組だ。一人は大型スパナを持ち、もう一人は、中隊長から奪った拳銃を持っている。
党員全員が、絶叫するルビー・クールに気を取られている隙に、中隊長を背後からスパナで襲ったのだ。
二人組は、全部で十組。いや、正確には九組と一人だ。ホイールが途中で持ち場を離れたためだ。十九人とホイールも、木製大型十字架の前に移動した。拳銃の銃口を、無産者革命党の党員たちに向けながら。
口々に怒鳴り始めた。無産者革命党の党員たちが。
「なぜだ!」
「なぜ、仲間を裏切る!」
「裏切りではない!」
ホイールが叫んだ。
「なぜなら、オレたちは」
そこで、いっせいに、左腕の赤い腕章をはずした。全員が、ふところから赤いベレー帽を取り出し、かぶった。
ホイールやナットら計二十四名が、声を合わせて叫んだ。
「オレたちは、労農革命党だ!」
大男が、前に進み出た。杖をついた老婆と共に。背の高い男五名を引き連れて。
六名の男たちも、左腕から赤い腕章を引き剥がした。ふところから、青いベレー帽を取り出した。
大男のフランクが、青ベレーをかぶりながら、叫んだ。
「自由革命党も、いるぞ!」
老婆に変装しているのは、自由革命党の女革命家ダリアだ。粗末なコートを着込み、フードを目深にかぶって、顔を隠している。火刑台の魔法の炎は、ダリアの魔法だ。
ルビー・クールは、足早にジョゼフ=ピエールに近づいた。
両手を、自分の背中に回した。
一メートル半ほど手前で、ルビー・クールは、歩を止めた。
冷ややかに、言い放った。
「あなたたちの革命の時間は、ここで終わり。ここからは、あたしたちの革命の時間よ」
ルビー・クールは、絶叫し続けた。激しく身体をよじりながら。炎の中で。
絶叫は、数十秒間も続いた。
やがて、炎の中で、動かなくなった。絶叫も、止まった。
炎はさらに激しく燃えあがり、ルビー・クールの姿は、見えなくなった。真っ赤な炎に包まれて。
ジョゼフ=ピエールが振り返った。ニタリと笑いながら。市民たちに向かって。悪魔のような笑みだった。
「プチブルのブタども! 時間切れだ!」
「待ってくれ! まだ正午の鐘は鳴ってない!」
市民男性の一人が叫んだ。子どもの服を脱がせながら。
高らかに笑った。ジョゼフ=ピエールが、極悪な笑みを浮かべて。
「時間を決めるのは、偉大なる指導者であるオレ様だ!」
「そ、そんな……」
「最初に火に投げ込むのは、そう……」
ジョゼフ=ピエールは、市民を見回した。ニタニタと笑いながら。
「そう、そのガキだ!」
そう叫ぶと、若い母親から、赤んぼうを取り上げた。
「いや! やめて! この子だけは! あたしは殺してもいいから!」
「ダメだ!」
泣きながらすがりつく若い母親を、足蹴にした。
ジョゼフ=ピエールが、赤んぼうを炎に向かって放り投げた。
その瞬間だった。
炎の中から、飛び出した。白い服の赤毛の少女が。
ルビー・クールだ。
空中で赤んぼうをキャッチし、抱きしめた。
石畳の上に、着地した。赤んぼうを抱きしめながら。
ルビー・クールは、まったく燃えていなかった。服も、髪も、肌も。やけども一切していない。
若い母親が、駆け寄った。泣き叫びながら。
ルビー・クールが、赤んぼうを若い母親に返した。
ジョゼフ=ピエールが、絶句していた。驚愕の表情を浮かべて。
いや、彼だけではない。広場にいた全員が驚愕し、声も出せず絶句していた。
声を振り絞った。ジョゼフ=ピエールが。
「なぜ、おまえは燃えていないんだ?」
「魔法を使ったからよ」
薪の山から、炎が消えた。一瞬にして。
薪の山は、下から数えて三段目までの薪しか、燃えていなかった。その段までは、油をふりかけ、燃えやすくしてあった。しかし四段目以降は、水をかけて燃えにくくしていた。そのため、本物の炎は、それより上には燃えあがらなかった。ルビー・クールを包んだ炎は、魔法による幻覚だ。
「魔女め!」
副師団長が、そう怒鳴った直後だった。
彼は、血しぶきをまき散らして、倒れた。頸動脈を切り裂かれたのだ。
彼の背後には、若い男が立っていた。血の滴る細身のナイフを持って。労働者風の服装で、フードを目深にかぶっている。
いや、男ではない。男装した少女だ。女殺し屋「ジャッカルの娘」エルザだ。
近くにいた青年が、副師団長の死体から拳銃を奪うと、小走りで木製大型十字架のほうへ向かった。
党員たちの隊列の中からも、離脱する男たちが現れた。彼らは、二人組だ。一人は大型スパナを持ち、もう一人は、中隊長から奪った拳銃を持っている。
党員全員が、絶叫するルビー・クールに気を取られている隙に、中隊長を背後からスパナで襲ったのだ。
二人組は、全部で十組。いや、正確には九組と一人だ。ホイールが途中で持ち場を離れたためだ。十九人とホイールも、木製大型十字架の前に移動した。拳銃の銃口を、無産者革命党の党員たちに向けながら。
口々に怒鳴り始めた。無産者革命党の党員たちが。
「なぜだ!」
「なぜ、仲間を裏切る!」
「裏切りではない!」
ホイールが叫んだ。
「なぜなら、オレたちは」
そこで、いっせいに、左腕の赤い腕章をはずした。全員が、ふところから赤いベレー帽を取り出し、かぶった。
ホイールやナットら計二十四名が、声を合わせて叫んだ。
「オレたちは、労農革命党だ!」
大男が、前に進み出た。杖をついた老婆と共に。背の高い男五名を引き連れて。
六名の男たちも、左腕から赤い腕章を引き剥がした。ふところから、青いベレー帽を取り出した。
大男のフランクが、青ベレーをかぶりながら、叫んだ。
「自由革命党も、いるぞ!」
老婆に変装しているのは、自由革命党の女革命家ダリアだ。粗末なコートを着込み、フードを目深にかぶって、顔を隠している。火刑台の魔法の炎は、ダリアの魔法だ。
ルビー・クールは、足早にジョゼフ=ピエールに近づいた。
両手を、自分の背中に回した。
一メートル半ほど手前で、ルビー・クールは、歩を止めた。
冷ややかに、言い放った。
「あなたたちの革命の時間は、ここで終わり。ここからは、あたしたちの革命の時間よ」
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