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<第6章 第3話>
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<第6章 第3話>
冷ややかに、見つめた。ルビー・クールが、ハイエナを。
「あなた、覚えていないの? 強く蹴りすぎたせいで、失神する直前の記憶が、飛んでいるのかしら?」
ボクシングの場合、そうしたことが、しばしばある。ダウンする前の記憶が、消えていることが。
強いパンチを頭部に喰らったときに、発生する。脳震盪によって。
記憶の消失は、数十秒程度の短いケースもあるが、ひどいケースでは、一日分の記憶が消えていることもある。
「なんのことだ!」
「皆殺しになったのは、あなたの手下たちよ。警備役十名を皆殺しにしたのは、あなたが失神したあとだったけど。この建物にいたあなたの手下は、全員殺したわ」
動揺した。目に見えて。ハイエナが。
やはり、失神直前の記憶を、失っていたようだ。失った記憶は、数十秒程度かもしれないが。
ハイエナが、声を絞り出した。気を取り直して。
「オレ様は、金儲けの天才だ。見ただろ。金庫の中の金貨の山を」
「ええ。百五十万キャピタくらいありそうね。あなたを殺したあと、いただくわ」
(著者注:百五十万キャピタは、日本円で一億五千万円相当)
「あんなものじゃない。オレ様の隠し財産は。オレ様は超がつくほど優秀だから、今までに山ほどカネを稼いだ。その大金の多くは、隠してある」
「たしかに、優秀でしょうね。詳細な顧客名簿も作成していたし。商業学校を卒業したのかしら?」
「中退だ。学費の支払いに行き詰まってな。だが、オレ様は優秀だ」
そこで、ニヤリと笑った。ハイエナが。引きつった表情だったが。
「金庫の中の百五十万キャピタに加え、もう百五十万キャピタやる。オレ様の命を助けたら、な」
「それって、銀行の貸金庫の中のお金かしら」
「ああ、そうだ。オレ様の命を助けるなら、月曜日に銀行に行き、貸金庫からカネを出す」
「貸金庫は、百五十万キャピタずつ入ってるのかしら。七つとも」
ギョッとした表情をした。ハイエナが。
「なぜ、貸金庫が七つだと思う?」
ルビー・クールが、革製のキーケースを見せつけた。ハイエナに。
彼のキーケースだ。金庫の中にあった。
「この中には、貸金庫の鍵が七つ入っているわ。それぞれ、別の銀行の支店ね」
「なぜ、そう思う?」
「あたしだって、貸金庫を借りているのよ。あたしのと同じデザインの鍵があったわ。もちろん、打刻された番号は、違うけれど」
打刻された番号は、貸金庫の番号だ。
どの鍵が、どの銀行のどの支店の貸金庫の鍵かは、ふつうなら、わからない。
だが、金庫の中に、それぞれ別の銀行の支店の通帳が、七つあった。貸金庫を借りるときに、口座も作ったのだ。
それぞれの口座に、五万キャピタ(著者注:日本円で五百万円相当)ずつ、入金してあった。若手実業家として、多くもなく、少なくもない。不自然に思われない金額だ。
苦々しい表情で、声を絞り出した。ハイエナが。
「七つ合計で、ちょうど一千万キャピタだ。半分やるから、オレ様の命を助けろ」
(著者注:一千万キャピタは、日本円で十億円相当)
鼻で笑った。ルビー・クールが。
なぜなら、彼の協力がなくても、彼の貸金庫から、現金を奪うことが可能だからだ。
金庫の中にあった通帳の支店で、ルビー・クールも貸金庫を借りる。そうすれば、その支店の貸し金庫室に入れる。警備員に頼んで、プライバシー保護のため、十分間か十五分間ほど、人払いをしてもらう。その間に、ハイエナの貸金庫から、自分の貸金庫に、金貨を移せばいい。
旧式金庫の中に、重要なものを、全部入れておくとは。アジトに敵が押し入ってくるとは、思いもしなかったのだろう。マフィアなのに、平和ボケしすぎている。
ハイエナの要求を無視し、質問を始めた。
「あなたが、この五年間に稼いだ利益は、五千万キャピタ。金庫の中の裏帳簿に、そう記されているわ。一千万キャピタは、貸金庫の中。残り四千万キャピタは、不動産の購入に使ったのかしら?」
「投資だ」
「五つの雑居ビルで、二千五百万キャピタくらいかしら?」
金庫の中に、ブルーヒルの権利書と共に、雑居ビル五棟の権利書もあった。いずれも、土地付きだ。
「ああ、だいたいそんなものだ」
「ブルーヒルが一千五百万キャピタなんて、安すぎるわね。これだけ敷地が広いのに。脅して巻き上げたのかしら?」
「違う。この辺りは寂れているから、むしろ高すぎるくらいだ」
そのときだった。
「尋問は、終わったかしら?」
そう声をかけながら、執務室に入ってきた。エメラルド・グリーンが。
ルビー・クールが、答えた。
「尋問は、必要なかったわ。顧客名簿に、詳細な記録が記されていたから」
ハイエナが、叫んだ。驚愕の表情で。エメラルド・グリーンを見て。
「マイヤーの女が、どうしてここに! 昼間、逃げ出したはずなのに!」
冷ややかに、言い放った。エメラルド・グリーンが。
「復讐するために、戻って来たのよ。自分の手で、あなたを殺すために」
冷ややかに、見つめた。ルビー・クールが、ハイエナを。
「あなた、覚えていないの? 強く蹴りすぎたせいで、失神する直前の記憶が、飛んでいるのかしら?」
ボクシングの場合、そうしたことが、しばしばある。ダウンする前の記憶が、消えていることが。
強いパンチを頭部に喰らったときに、発生する。脳震盪によって。
記憶の消失は、数十秒程度の短いケースもあるが、ひどいケースでは、一日分の記憶が消えていることもある。
「なんのことだ!」
「皆殺しになったのは、あなたの手下たちよ。警備役十名を皆殺しにしたのは、あなたが失神したあとだったけど。この建物にいたあなたの手下は、全員殺したわ」
動揺した。目に見えて。ハイエナが。
やはり、失神直前の記憶を、失っていたようだ。失った記憶は、数十秒程度かもしれないが。
ハイエナが、声を絞り出した。気を取り直して。
「オレ様は、金儲けの天才だ。見ただろ。金庫の中の金貨の山を」
「ええ。百五十万キャピタくらいありそうね。あなたを殺したあと、いただくわ」
(著者注:百五十万キャピタは、日本円で一億五千万円相当)
「あんなものじゃない。オレ様の隠し財産は。オレ様は超がつくほど優秀だから、今までに山ほどカネを稼いだ。その大金の多くは、隠してある」
「たしかに、優秀でしょうね。詳細な顧客名簿も作成していたし。商業学校を卒業したのかしら?」
「中退だ。学費の支払いに行き詰まってな。だが、オレ様は優秀だ」
そこで、ニヤリと笑った。ハイエナが。引きつった表情だったが。
「金庫の中の百五十万キャピタに加え、もう百五十万キャピタやる。オレ様の命を助けたら、な」
「それって、銀行の貸金庫の中のお金かしら」
「ああ、そうだ。オレ様の命を助けるなら、月曜日に銀行に行き、貸金庫からカネを出す」
「貸金庫は、百五十万キャピタずつ入ってるのかしら。七つとも」
ギョッとした表情をした。ハイエナが。
「なぜ、貸金庫が七つだと思う?」
ルビー・クールが、革製のキーケースを見せつけた。ハイエナに。
彼のキーケースだ。金庫の中にあった。
「この中には、貸金庫の鍵が七つ入っているわ。それぞれ、別の銀行の支店ね」
「なぜ、そう思う?」
「あたしだって、貸金庫を借りているのよ。あたしのと同じデザインの鍵があったわ。もちろん、打刻された番号は、違うけれど」
打刻された番号は、貸金庫の番号だ。
どの鍵が、どの銀行のどの支店の貸金庫の鍵かは、ふつうなら、わからない。
だが、金庫の中に、それぞれ別の銀行の支店の通帳が、七つあった。貸金庫を借りるときに、口座も作ったのだ。
それぞれの口座に、五万キャピタ(著者注:日本円で五百万円相当)ずつ、入金してあった。若手実業家として、多くもなく、少なくもない。不自然に思われない金額だ。
苦々しい表情で、声を絞り出した。ハイエナが。
「七つ合計で、ちょうど一千万キャピタだ。半分やるから、オレ様の命を助けろ」
(著者注:一千万キャピタは、日本円で十億円相当)
鼻で笑った。ルビー・クールが。
なぜなら、彼の協力がなくても、彼の貸金庫から、現金を奪うことが可能だからだ。
金庫の中にあった通帳の支店で、ルビー・クールも貸金庫を借りる。そうすれば、その支店の貸し金庫室に入れる。警備員に頼んで、プライバシー保護のため、十分間か十五分間ほど、人払いをしてもらう。その間に、ハイエナの貸金庫から、自分の貸金庫に、金貨を移せばいい。
旧式金庫の中に、重要なものを、全部入れておくとは。アジトに敵が押し入ってくるとは、思いもしなかったのだろう。マフィアなのに、平和ボケしすぎている。
ハイエナの要求を無視し、質問を始めた。
「あなたが、この五年間に稼いだ利益は、五千万キャピタ。金庫の中の裏帳簿に、そう記されているわ。一千万キャピタは、貸金庫の中。残り四千万キャピタは、不動産の購入に使ったのかしら?」
「投資だ」
「五つの雑居ビルで、二千五百万キャピタくらいかしら?」
金庫の中に、ブルーヒルの権利書と共に、雑居ビル五棟の権利書もあった。いずれも、土地付きだ。
「ああ、だいたいそんなものだ」
「ブルーヒルが一千五百万キャピタなんて、安すぎるわね。これだけ敷地が広いのに。脅して巻き上げたのかしら?」
「違う。この辺りは寂れているから、むしろ高すぎるくらいだ」
そのときだった。
「尋問は、終わったかしら?」
そう声をかけながら、執務室に入ってきた。エメラルド・グリーンが。
ルビー・クールが、答えた。
「尋問は、必要なかったわ。顧客名簿に、詳細な記録が記されていたから」
ハイエナが、叫んだ。驚愕の表情で。エメラルド・グリーンを見て。
「マイヤーの女が、どうしてここに! 昼間、逃げ出したはずなのに!」
冷ややかに、言い放った。エメラルド・グリーンが。
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