世界中が殺しに来る

蛇崩 通

文字の大きさ
上 下
15 / 16

<第二章 第3話 封印せしもの、その名は……>

しおりを挟む
  <第二章 第3話>
 サトルが、思わずうめいた。
 ミコが、ささやくように尋ねた。
 「あなたには、なにが見える?」
 ミコが、うながした。
 「見えたものを、正直に答えて」
 サトルが声を、絞り出した。
 「顔が、見える」
 「誰の顔?」
 苦しそうにサトルが、答えた。
 「ボクの顔……」
 その瞬間、まくり上げていたセーラー服を、ミコが下ろした。
 暗黒の深淵は、黒いセーラー服の布地で、覆い隠された。
 姿勢をかがめていたサトルが、顔を離した。ミコの腹から。
 ミコを見ると、あやしげな笑みを浮かべていた。
 「半分だけ正解よ」
 「なぜボクの顔が、君のおなかの中に見えるの?」
 「ミコって呼んで」
 「えっ?」
 「君、なんて呼び方、他人行儀だわ」
 サトルは、内心思った。そんなことよりも重要なことがあるだろ、と。
 だが、口には出さなかった。
 「ミコ、なぜ……」
 そこまで言ったところで、ミコがさえぎった。
 「あたしの胎内に封印しているのは、将門まさかどの首よ」
 衝撃を、受けた。サトルは。思わず、大きな声を出した。
 「将門って、あのたいらの将門まさかど?」
 「ええ、そうよ」
 「半分どころか、百パーセント不正解じゃん」
 「いいえ。半分正解よ」
 そこで、ミコはいったん、言葉を句切った。
 「なぜなら、あなたは将門の血を引いているから」
 強い衝撃を受けた。サトルは。
 「初めて聞いた。将門って、男系子孫は絶えたんじゃないの? 隠し子がいた、とか?」
 「そういう意味じゃないわ。霊的な意味の血よ」
 戸惑った。サトルは。意味がわからず。
 ミコが、淡々と説明を始めた。
 「将門と同じ霊力を帯びた血は、将門の多くの男系親族がもっていて、その子孫たちは、その霊力を帯びた血を受け継いでいるのよ」
 「関東の平氏の血を引く者って、たくさんいるんじゃない?」
 「ええ、そうよ。だけど、その血に強い霊力を宿す者は、そう多くはないの。その血に強い霊力を宿す者のうち、将門の首の再封印に必要な血の適格者は、適格者三名、準適格者五名の計八名。サトルは、そのうちの一人よ」
 「再封印?」
 「ええ。封印していた黒野神社が、破壊されたの。昨晩。敵の攻撃で。それで今は、非常時用封印祭器巫女であるあたしの胎内に、臨時で簡易封印しているの。だけど、あまり長くは、もたない。早く、正式に封印しないと。そのために必要なのが、サトルの血なの」
 戸惑いながらも、サトルが口を開いた。
 「それなら、早く採血しないと」
 「違うわ。必要なのは、たんなる血液じゃない。霊力を帯びた血。死ねば、その血から霊力は失われる。大幅に」
 言葉を続けた。ミコが。
 「だけど敵は、それを理解していない。あたしたちを殺して、あたしの死体と、サトルの血液を手に入れれば、将門の首の封印を解き、将門の怨霊を操れると思い込んでいる。サトルの血を使って、ね」
 「ボクの血は、封印と、操るほうの両方に必要、ということ?」
 「封印には、必要よ。だけど、操ることなんて、できないわ。将門の怨霊は。誰にも、ね」
 戸惑いながらも、サトルは理解し始めた。自分の置かれた状況を。充分にでは、ないが。
 敵の正体について、尋ねようとしたときだった。
 先に、ミコが口を開いた。
 「サトルは、あたしのこと、うらむ?」
 「えっ? なぜ?」
 「あたしが、サトル以外の適格者を選べば、あなたは、世界中から命を狙われることは、なかった」
 そう言って、ミコは見つめた。サトルの目を。真剣な面持ちで。
 「べつに、かまわない。ミコは、けたんだろ。ボクに。だったら、その賭け、勝とうぜ。共に、命を賭けて」
 ミコの顔に、みが広がった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

バベルの塔の上で

三石成
ホラー
 一条大和は、『あらゆる言語が母国語である日本語として聞こえ、あらゆる言語を日本語として話せる』という特殊能力を持っていた。その能力を活かし、オーストラリアで通訳として働いていた大和の元に、旧い友人から助けを求めるメールが届く。  友人の名は真澄。幼少期に大和と真澄が暮らした村はダムの底に沈んでしまったが、いまだにその近くの集落に住む彼の元に、何語かもわからない言語を話す、長い白髪を持つ謎の男が現れたのだという。  その謎の男とも、自分ならば話せるだろうという確信を持った大和は、真澄の求めに応じて、日本へと帰国する——。

機織姫

ワルシャワ
ホラー
栃木県日光市にある鬼怒沼にある伝説にこんな話がありました。そこで、とある美しい姫が現れてカタンコトンと音を鳴らす。声をかけるとその姫は一変し沼の中へ誘うという恐ろしい話。一人の少年もまた誘われそうになり、どうにか命からがら助かったというが。その話はもはや忘れ去られてしまうほど時を超えた現代で起きた怖いお話。はじまりはじまり

心霊スポットで今からYouTuberたかしを襲撃する

ギール
ホラー
「大人気YouTuberたちと一緒にあるホラーゲーム企画に参加することになったが、ジュンヤも参加しないか?」  小中学校の頃の友達でゲーム実況で有名YouTuberになったたかしから誘われた俺は、心霊スポットへ向かう。  その企画とは、かつて俺たちが夢中になったホラーゲーム『閉鎖村』の元になった心霊スポット『旧日暮村跡地』でYouTuberたちと一緒に実況するといったこれまでにないイベントだ。  俺はかつての友達と出会える喜びや、ファンと一緒に当時遊んだあの閉鎖村の思い出を語りながら楽しむ予定だったのだが、会場の奥の廃寺で血まみれの男が乱入。  俺は目の前に起きた怪奇現象を受けてだんだん狂っていき…

牛の首チャンネル

猫じゃらし
ホラー
どうもー。『牛の首チャンネル』のモーと、相棒のワンさんです。ご覧いただきありがとうございます。 このチャンネルは僕と犬のぬいぐるみに取り憑かせた幽霊、ワンさんが心霊スポットに突撃していく動画を投稿しています。 怖い現象、たくさん起きてますので、ぜひ見てみてくださいね。 心霊写真特集もやりたいと思っていますので、心霊写真をお持ちの方はコメント欄かDMにメッセージをお願いします。 よろしくお願いしまーす。 それでは本編へ、どうぞー。 ※小説家になろうには「牛の首」というタイトル、エブリスタには「牛の首チャンネル」というタイトルで投稿しています。

ルール

新菜いに/丹㑚仁戻
ホラー
放課後の恒例となった、友達同士でする怪談話。 その日聞いた怪談は、実は高校の近所が舞台となっていた。 主人公の亜美は怖がりだったが、周りの好奇心に押されその場所へと向かうことに。 その怪談は何を伝えようとしていたのか――その意味を知ったときには、もう遅い。 □第6回ホラー・ミステリー小説大賞にて奨励賞をいただきました□ ※章ごとに登場人物や時代が変わる連作短編のような構成です(第一章と最後の二章は同じ登場人物)。 ※結構グロいです。 ※この物語は、法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません。 ※カクヨム、小説家になろうにも掲載しています。 ©2022 新菜いに

煩い人

星来香文子
ホラー
陽光学園高学校は、新校舎建設中の間、夜間学校・月光学園の校舎を昼の間借りることになった。 「夜七時以降、陽光学園の生徒は校舎にいてはいけない」という校則があるのにも関わらず、ある一人の女子生徒が忘れ物を取りに行ってしまう。 彼女はそこで、肌も髪も真っ白で、美しい人を見た。 それから彼女は何度も狂ったように夜の学校に出入りするようになり、いつの間にか姿を消したという。 彼女の親友だった美波は、真相を探るため一人、夜間学校に潜入するのだが…… (全7話) ※タイトルは「わずらいびと」と読みます ※カクヨムでも掲載しています

八尺様

ユキリス
ホラー
ヒトでは無いナニカ

禁踏区

nami
ホラー
月隠村を取り囲む山には絶対に足を踏み入れてはいけない場所があるらしい。 そこには巨大な屋敷があり、そこに入ると決して生きて帰ることはできないという…… 隠された道の先に聳える巨大な廃屋。 そこで様々な怪異に遭遇する凛達。 しかし、本当の恐怖は廃屋から脱出した後に待ち受けていた── 都市伝説と呪いの田舎ホラー

処理中です...