異世界暗殺記

蛇崩 通

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<第三章 第3話>

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 <第三章 第3話>
 剣の切っ先が届く。顔面に。
 そう思った瞬間だった。
 空中で停止した。あごひげコビト刺客の身体が。
 貫通していた。細身の長剣が。あごひげコビト刺客の腹から背中まで。
 スノーティだ。
 あごひげ刺客が右手に逆手に持った短剣を振り上げ、空中で上半身を右方向にねじった瞬間を、スノーティが突き刺したのだ。
 長剣をいったん上に上げてから、下に振った。
 あごひげコビト刺客の死体を、床にたたきつけた。
 「スノーティ……」
 アイシアが、ホッとした声を出した。
 「姉さん、遅れて申し訳ない……」
 その言葉をさえぎり、アイシアが注意をうながした。
 「刺客は、もう一匹いるわよ」
 舌打ちをした。ほおひげコビト刺客が。
 次の瞬間、ほおひげ刺客が、短剣を振るった。ニーティアの槍の穂先をはらうように。
 ニーティアが、槍を引いた。敵がつけ込む隙が生まれないように。
 その直後、身をひるがえした。ほおひげコビト刺客が。暖炉に向かい、走り出した。
 「逃がすか!」
 ニーティアがそう叫びながら、槍を突き出した。
 振り返りざまに払った。ほおひげ刺客が短剣で、ニーティアの槍の穂先を。
 だが次の瞬間、串刺しとなった。スノーティの細身の長剣によって。ほおひげ刺客の胴体が。長剣は、みぞおちから入って、腰の後ろから切っ先が突き出した。
 ほおひげコビト刺客は、立ったまま白目をむいて、絶命した。
 長剣をいた。スノーティが。最後のコビト刺客の死体から。
 「コビトの刺客は、何名?」
 スノーティが、振り返らずに尋ねた。
 「それで最後のはずよ。全部で三匹いたわ」
 窓の外にいる刺客が、歯ぎしりをするのを感じた。
 音が聞こえたわけではない。レイニーは、テレパシー能力で、感じたのだ。
 窓の外の刺客は、心の中で吐き捨てた。
 「役立たずめが」
 その直後、静かに離れた。窓から。外にいる刺客が。おそらく彼は、今回の暗殺作戦の指揮官役だ。昨晩、窓から侵入することができなかったため、コビトの刺客チームを手引きした。コビトならば、煙突から侵入可能だと考えたからだ。
 その目論見は的中したが、レイニーの暗殺には失敗した。
 だが彼は、みたび、暗殺を試みるはずだ。王子であるレイニーを、亡き者にするために。

  * * * * * *
 
 生後四日目。昼間は、母のアイシアも、スノーティも忙しくしていた。
 アイシアは、今夜も刺客が襲ってくると予測していた。三名のコビト刺客で暗殺作戦に失敗したため、敵の「あの女」は、今度は昨晩の三倍以上の戦力、すなわち、十名を超える刺客を送り込んで来る、とにらんでいた。
 その予測に基づき、スノーティが準備を進めた。たった一人で、日曜大工の突貫工事だ。
 王城の修繕部へ行き、金網を三枚もらってきた。暖炉の煙突の下部に、設置した。コビト刺客の侵入防止用だ。暖炉は、寝室、居間、メイド部屋の三箇所にある。三箇所とも、設置した。
 さらに、すべての大型窓の内側から、木の板を張り付けた。
 金網も、木の板も、破壊は可能だ。侵入にかかる時間が、少し延びるだけだ。
 さらにスノーティは、ロングソファーを一脚、寝室に運び込んだ。彼が今夜、そのロングソファーで仮眠を取るためだ。今夜は一晩中、アイシアの寝室で警備をするようだ。
 スノーティは、小型の弓と矢筒も寝室に持ち込んだ。
 アイシアは前日と同様に、午前中に手紙を書いて出した。夫の国王に。コビトの刺客三名に襲撃されたことを伝え、南の離宮の周囲の警備体制強化を訴えた。
 コビト刺客三名の死体は、玄関ドアの外に出し、王城本体へ続く通路に並べた。王宮メイドに頼み、警備兵を呼んできてもらい、コビト刺客三名の死体を引き渡した。
 今回は、刺客の死体がある。国王も、無視するわけには、いくまい。
 アイシアたちはそう思ったが、今回も、夕方までに、国王からの返事の手紙は、帰ってこなかった。
 アイシアたちは日没前に早めの夕食を済ませた。夜の七時頃には、全員が寝室に集まった。今夜は、スノーティだけではなく、ミルキアと、その娘のスイーティアも、アイシアの寝室に泊まる。
 刺客の集団が襲撃してきたら、全員で、この寝室に籠城する予定だ。
 アイシアたち大人たちは、打ち合わせをしたあと、早めに就寝した。
 結果として、彼女の予測は、正しかった。
 その夜も、襲来したのだから。刺客たちが。今度は集団で。
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