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第二章 真夜中の暗殺作戦<第1話>
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<第二章 第1話>
生後二日目の夜。真夜中だった。
どす黒い感情を感じて、目覚めた。
得体の知れない不気味な感情だ。窓のほうから、感じる。
レイニーは、メイド長のスマーティアに抱かれていた。彼女は、暖炉の近くに椅子を置いて腰かけている。うとうととしていたが、抱っこ紐をつけているため、落とされることはない。
ベビーベッドもあるが、まだ未使用だ。シーツに顔を押しつけて窒息死してしまうことを、恐れているのだろう。乳児の場合、ときおりある突然死の一例だ。
そうした突然死を防ぐため、三名のメイドが交代で、一晩中レイニーを抱き続けている。昨晩から。
レイニーは、窓に視線を向けた。スマーティアは胸の前で、レイニーの顔が横を向くように抱いている。ちょうど、顔が窓の方向を向いている。スマーティアと窓の間にはベッドが複数あるが、椅子に座ったスマーティアに抱かれたレイニーの位置は、ベッドよりもだいぶ高い。そのため、窓が良く見える。
窓は、木製だ。左右の木製扉が外側に開くタイプだ。左右の木製扉の中央部分に、かんぬき型の鍵がある。そのかんぬきも、木製だ。
木製窓は立て付けが悪く、隙間が多い。左右の木製扉の中央部分にも隙間があり、隙間風が吹き込み続けている。
その隙間から、どす黒い感情が流れ込んでくる。殺気を帯びた感情だ。昼間、中年貴族女性から感じたものよりも、はるかに強烈だ。
目があった。
のぞき込んでいた。その隙間から。室内を。様子を、うかがうために。
暗殺者だ。
恐怖で、思わず固まった。
いったい、どうすべきか。
もっとも、赤んぼうの今、できることは、ほとんどない。
その刺客は、レイニーの位置を確認した。
ニヤリと笑うのを、感じた。その刺客が。
見えたのではない。テレパシー能力により、刺客の感情が伝わってきたのだ。
獲物を発見した肉食獣のように、いや、獲物の少女を見つけた変質者のように、舌なめずりしたように感じた。
糸鋸が、現れた。木製窓の隙間から。
ゆっくりと静かに、木製かんぬきの切断を、始めた。
まずい。
これは、まずい。
木製かんぬきが切断されたら、刺客が室内に侵入してくる。
寝室の中央には、母アイシアが寝ている大型ベッドがある。その大型ベッドと窓の中間付近には、副メイド長のニーティアが寝ているベッドがある。
母とニーティアのベッドの間には、子供用のベッドが二つあり、長女サニアと次女クラウディアが寝ている。
寝室と居間をつなぐドアと、母の大型ベッドとの中間付近には、スマーティアのベッドがある。
この寝室に侵入できる場所は、そのドアと木製窓の二箇所だけだ。
つまり、侵入者から母のアイシアを守るように、スマーティアとニーティアのベッドがある。刺客が侵入に成功しても、スマーティアやニーティアが障害になる。
だがメイドたちでは、アイシアが逃げるための時間稼ぎにしかなるまい。
いや、メイドたちが今守るべき最優先警護対象は、レイニーだろう。
木製かんぬきは意外と固いようで、糸鋸は思ったほど進まない。なるべく音をたてないように、ゆっくりと糸鋸を挽いているからでもある。
だが、いずれは切断される。
ニーティアは熟睡しているようで、糸鋸には気づかない。
母も、熟睡しているようだ。
寝室内で今、目覚めているのはレイニーだけだった。
なんとか、しなければ。木製かんぬきが、切断される前に。
しかし、どうすれば?
赤んぼうに、できることは……
やはり、泣くことしか、できることはない。
思い切り、泣いた。突然。まるで、火でもついたかのように。
スマーティアが、目覚めた。
続いて、母が。それに、ニーティアも。
彼女たち三名の視線が、レイニーに注がれた。
その瞬間だった。
糸鋸を挽く速度が、増した。一気に。
刺客は、メイドたちや母のアイシアに気づかれてもかまわないと、腹をくくったのだ。
強行突破するつもりだ。母やメイドたちを殺して。
スマーティアが、レイニーを揺すりながら、あやし始めた。
母のアイシアが、上体を起こしながら口を開いた。
「おなかが空いたのね。ちょっと待っててね」
そうじゃない。
なんとか彼女たちの注意を、窓に向けさせなければ。
サニアとクラウディアも、目を覚ました。
まずい。このままでは、幼い女児たちも、巻き添いを喰らって刺客に殺される。
そのときだった。
クラウディアが叫んだ。
「窓が変! なにあれ!」
次の瞬間だった。
刺客は木製窓を強く叩き始めた。木製かんぬきは、すでに半分ほど切断されている。残り半分を、力任せに折るつもりだ。
木製窓を叩く音で、ニーティアとアイシアが気づいた。
窓を見た。
木製かんぬきが、折れた。
絶叫した。アイシアが。
生後二日目の夜。真夜中だった。
どす黒い感情を感じて、目覚めた。
得体の知れない不気味な感情だ。窓のほうから、感じる。
レイニーは、メイド長のスマーティアに抱かれていた。彼女は、暖炉の近くに椅子を置いて腰かけている。うとうととしていたが、抱っこ紐をつけているため、落とされることはない。
ベビーベッドもあるが、まだ未使用だ。シーツに顔を押しつけて窒息死してしまうことを、恐れているのだろう。乳児の場合、ときおりある突然死の一例だ。
そうした突然死を防ぐため、三名のメイドが交代で、一晩中レイニーを抱き続けている。昨晩から。
レイニーは、窓に視線を向けた。スマーティアは胸の前で、レイニーの顔が横を向くように抱いている。ちょうど、顔が窓の方向を向いている。スマーティアと窓の間にはベッドが複数あるが、椅子に座ったスマーティアに抱かれたレイニーの位置は、ベッドよりもだいぶ高い。そのため、窓が良く見える。
窓は、木製だ。左右の木製扉が外側に開くタイプだ。左右の木製扉の中央部分に、かんぬき型の鍵がある。そのかんぬきも、木製だ。
木製窓は立て付けが悪く、隙間が多い。左右の木製扉の中央部分にも隙間があり、隙間風が吹き込み続けている。
その隙間から、どす黒い感情が流れ込んでくる。殺気を帯びた感情だ。昼間、中年貴族女性から感じたものよりも、はるかに強烈だ。
目があった。
のぞき込んでいた。その隙間から。室内を。様子を、うかがうために。
暗殺者だ。
恐怖で、思わず固まった。
いったい、どうすべきか。
もっとも、赤んぼうの今、できることは、ほとんどない。
その刺客は、レイニーの位置を確認した。
ニヤリと笑うのを、感じた。その刺客が。
見えたのではない。テレパシー能力により、刺客の感情が伝わってきたのだ。
獲物を発見した肉食獣のように、いや、獲物の少女を見つけた変質者のように、舌なめずりしたように感じた。
糸鋸が、現れた。木製窓の隙間から。
ゆっくりと静かに、木製かんぬきの切断を、始めた。
まずい。
これは、まずい。
木製かんぬきが切断されたら、刺客が室内に侵入してくる。
寝室の中央には、母アイシアが寝ている大型ベッドがある。その大型ベッドと窓の中間付近には、副メイド長のニーティアが寝ているベッドがある。
母とニーティアのベッドの間には、子供用のベッドが二つあり、長女サニアと次女クラウディアが寝ている。
寝室と居間をつなぐドアと、母の大型ベッドとの中間付近には、スマーティアのベッドがある。
この寝室に侵入できる場所は、そのドアと木製窓の二箇所だけだ。
つまり、侵入者から母のアイシアを守るように、スマーティアとニーティアのベッドがある。刺客が侵入に成功しても、スマーティアやニーティアが障害になる。
だがメイドたちでは、アイシアが逃げるための時間稼ぎにしかなるまい。
いや、メイドたちが今守るべき最優先警護対象は、レイニーだろう。
木製かんぬきは意外と固いようで、糸鋸は思ったほど進まない。なるべく音をたてないように、ゆっくりと糸鋸を挽いているからでもある。
だが、いずれは切断される。
ニーティアは熟睡しているようで、糸鋸には気づかない。
母も、熟睡しているようだ。
寝室内で今、目覚めているのはレイニーだけだった。
なんとか、しなければ。木製かんぬきが、切断される前に。
しかし、どうすれば?
赤んぼうに、できることは……
やはり、泣くことしか、できることはない。
思い切り、泣いた。突然。まるで、火でもついたかのように。
スマーティアが、目覚めた。
続いて、母が。それに、ニーティアも。
彼女たち三名の視線が、レイニーに注がれた。
その瞬間だった。
糸鋸を挽く速度が、増した。一気に。
刺客は、メイドたちや母のアイシアに気づかれてもかまわないと、腹をくくったのだ。
強行突破するつもりだ。母やメイドたちを殺して。
スマーティアが、レイニーを揺すりながら、あやし始めた。
母のアイシアが、上体を起こしながら口を開いた。
「おなかが空いたのね。ちょっと待っててね」
そうじゃない。
なんとか彼女たちの注意を、窓に向けさせなければ。
サニアとクラウディアも、目を覚ました。
まずい。このままでは、幼い女児たちも、巻き添いを喰らって刺客に殺される。
そのときだった。
クラウディアが叫んだ。
「窓が変! なにあれ!」
次の瞬間だった。
刺客は木製窓を強く叩き始めた。木製かんぬきは、すでに半分ほど切断されている。残り半分を、力任せに折るつもりだ。
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窓を見た。
木製かんぬきが、折れた。
絶叫した。アイシアが。
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