4 / 10
<第一章 第3話>
しおりを挟む
<第一章 第3話>
次の瞬間だった。
思い切り、蹴り上げた。左足で。
中年貴族女性の右手の指を。
あたった。中指と人差し指の第一関節より上の部分だ。
「痛っ」
反射的に、中年貴族女性は右手の指を左手で覆った。内側、手のひら側から。
その直後、真っ青になった。彼女の顔が。
触ってしまったのだ。左手で、毒針を。
いや、触ったと言うより、刺してしまった、と言ったほうが正確だ。
みるみるうちに、彼女の顔から血の気が引いていった。
一瞬ふらついたのち、彼女は、しゃがみ込んだ。
彼女の二名のメイドは、すぐに、何が起きたのかを理解した。
メイドの一人が、口を開いた。中年貴族女性を後方から抱きかかえながら。
「まあ、たいへん。貧血ですわ。帰って休みましょう」
そのメイドは、中年貴族女性を立たせようとしたが、すでに両足には力が入らない状態だった。
メイド二名で、中年貴族女性の両脇を抱えながら、寝室から退出した。
いつの間にか、スノーティが寝室に来ていた。ドアの近くに立ったまま、中年貴族女性の退出を見送った。
中年貴族女性たちが玄関から出て行くのを確認してから、アイシアに向かって、スノーティが声をかけた。
「あの婦人、顔色が猛烈に悪かったけど」
アイシアが、答えた。なぜか、ドヤ顔で。
「自分で刺してしまったのよ。自分の毒針を、自分自身に」
「毒針!」
仰天した声を出した。スノーティが。
したり顔で、アイシアが答えた。
「一瞬だけど、見えたわ。右手にしていた銀の指輪。内側に短い針がついていた。毒針よ」
絶句した。スノーティが。
言葉を続けた。アイシアが。
「この子が、あの女の指を蹴ったおかげで、自分で自分に刺してしまったのよ。自分の毒針を」
アイシアはレイニーの頭を撫でてから、頬を押しつけた。
「かしこい子ね。悪い女を見抜けるなんて」
ボソッとつぶやいた。スノーティが。
「ワーミアは毒殺されたのかも知れないな。姉さんの言ってたように」
その瞬間、レイニーの脳内に、アイシアとスノーティの脳内記憶映像が伝わってきた。テレパシー能力によって。
アイシアとスノーティは、一人の美女を思い出していた。金髪で緑の瞳の優雅な美女。
ワーミアだ。明るくて快活で、とても優しい。二人の腹違いの姉だ。
アイシアの前に、政略結婚することになった。この国の黒髪国王と。
だが、この国に来てすぐ、結婚式の前に、突然、「病死」した。
そのため、腹違いの妹アイシアが、代わりに黒髪国王と政略結婚することになった。
アイシアは、最初から疑っていた。ワーミアが毒殺された、と。
この国には、ワーミアやアイシアの母国との政略結婚に、反対している者たちがいる。
しかも、殺してでも妨害しようとする者たちが。
アイシアの脳内に、ある記憶映像が浮かんだ。
広々とした王宮。巨大な玉座に、金髪の国王が座っている。
金髪国王が、アイシアに命じた。
王族の使命を果たせ、と。
別の記憶映像が浮かんだ。
広い執務室。高級な大型執務机の向こう側に、初老の金髪男が、椅子に腰かけている。机の前に立つアイシアに、彼が命じた。
責務を果たせ、と。
おまえの代わりは、いくらでもいる。役立たずの娘なら、いらない。
彼が、アイシアとスノーティの父親だ。
アイシアは心の中で、つぶやいた。
責務を果たしたわ。産んだのだから。この国の次期国王を。
だが次の瞬間、気を引き締めた。
守らなければ。この子を。毒殺されれば、責務を果たせない。
この子が、この国の王になるまで、暗殺を防がなければ。
それまでは、あたしも死ぬわけにはいかない。
そのとき、くしゃみをした。レイニーが。まだ、裸のままだった。
あわててスマーティアが、レイニーに布地を何重にも巻き付けた。
アイシアは愛おしそうに、レイニーを改めて抱きしめた。
最初の暗殺の危機は、これで去った。
そう思ってホッとしたが、甘かった。
暗殺の危機は、これで終わらなかった。
次の暗殺作戦は、すぐに実行されたのだ。
次の瞬間だった。
思い切り、蹴り上げた。左足で。
中年貴族女性の右手の指を。
あたった。中指と人差し指の第一関節より上の部分だ。
「痛っ」
反射的に、中年貴族女性は右手の指を左手で覆った。内側、手のひら側から。
その直後、真っ青になった。彼女の顔が。
触ってしまったのだ。左手で、毒針を。
いや、触ったと言うより、刺してしまった、と言ったほうが正確だ。
みるみるうちに、彼女の顔から血の気が引いていった。
一瞬ふらついたのち、彼女は、しゃがみ込んだ。
彼女の二名のメイドは、すぐに、何が起きたのかを理解した。
メイドの一人が、口を開いた。中年貴族女性を後方から抱きかかえながら。
「まあ、たいへん。貧血ですわ。帰って休みましょう」
そのメイドは、中年貴族女性を立たせようとしたが、すでに両足には力が入らない状態だった。
メイド二名で、中年貴族女性の両脇を抱えながら、寝室から退出した。
いつの間にか、スノーティが寝室に来ていた。ドアの近くに立ったまま、中年貴族女性の退出を見送った。
中年貴族女性たちが玄関から出て行くのを確認してから、アイシアに向かって、スノーティが声をかけた。
「あの婦人、顔色が猛烈に悪かったけど」
アイシアが、答えた。なぜか、ドヤ顔で。
「自分で刺してしまったのよ。自分の毒針を、自分自身に」
「毒針!」
仰天した声を出した。スノーティが。
したり顔で、アイシアが答えた。
「一瞬だけど、見えたわ。右手にしていた銀の指輪。内側に短い針がついていた。毒針よ」
絶句した。スノーティが。
言葉を続けた。アイシアが。
「この子が、あの女の指を蹴ったおかげで、自分で自分に刺してしまったのよ。自分の毒針を」
アイシアはレイニーの頭を撫でてから、頬を押しつけた。
「かしこい子ね。悪い女を見抜けるなんて」
ボソッとつぶやいた。スノーティが。
「ワーミアは毒殺されたのかも知れないな。姉さんの言ってたように」
その瞬間、レイニーの脳内に、アイシアとスノーティの脳内記憶映像が伝わってきた。テレパシー能力によって。
アイシアとスノーティは、一人の美女を思い出していた。金髪で緑の瞳の優雅な美女。
ワーミアだ。明るくて快活で、とても優しい。二人の腹違いの姉だ。
アイシアの前に、政略結婚することになった。この国の黒髪国王と。
だが、この国に来てすぐ、結婚式の前に、突然、「病死」した。
そのため、腹違いの妹アイシアが、代わりに黒髪国王と政略結婚することになった。
アイシアは、最初から疑っていた。ワーミアが毒殺された、と。
この国には、ワーミアやアイシアの母国との政略結婚に、反対している者たちがいる。
しかも、殺してでも妨害しようとする者たちが。
アイシアの脳内に、ある記憶映像が浮かんだ。
広々とした王宮。巨大な玉座に、金髪の国王が座っている。
金髪国王が、アイシアに命じた。
王族の使命を果たせ、と。
別の記憶映像が浮かんだ。
広い執務室。高級な大型執務机の向こう側に、初老の金髪男が、椅子に腰かけている。机の前に立つアイシアに、彼が命じた。
責務を果たせ、と。
おまえの代わりは、いくらでもいる。役立たずの娘なら、いらない。
彼が、アイシアとスノーティの父親だ。
アイシアは心の中で、つぶやいた。
責務を果たしたわ。産んだのだから。この国の次期国王を。
だが次の瞬間、気を引き締めた。
守らなければ。この子を。毒殺されれば、責務を果たせない。
この子が、この国の王になるまで、暗殺を防がなければ。
それまでは、あたしも死ぬわけにはいかない。
そのとき、くしゃみをした。レイニーが。まだ、裸のままだった。
あわててスマーティアが、レイニーに布地を何重にも巻き付けた。
アイシアは愛おしそうに、レイニーを改めて抱きしめた。
最初の暗殺の危機は、これで去った。
そう思ってホッとしたが、甘かった。
暗殺の危機は、これで終わらなかった。
次の暗殺作戦は、すぐに実行されたのだ。
1
お気に入りに追加
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

異世界でネットショッピングをして商いをしました。
ss
ファンタジー
異世界に飛ばされた主人公、アキラが使えたスキルは「ネットショッピング」だった。
それは、地球の物を買えるというスキルだった。アキラはこれを駆使して異世界で荒稼ぎする。
これはそんなアキラの爽快で時には苦難ありの異世界生活の一端である。(ハーレムはないよ)
よければお気に入り、感想よろしくお願いしますm(_ _)m
hotランキング23位(18日11時時点)
本当にありがとうございます
誤字指摘などありがとうございます!スキルの「作者の権限」で直していこうと思いますが、発動条件がたくさんあるので直すのに時間がかかりますので気長にお待ちください。

テンプレな異世界を楽しんでね♪~元おっさんの異世界生活~【加筆修正版】
永倉伊織
ファンタジー
神の力によって異世界に転生した長倉真八(39歳)、転生した世界は彼のよく知る「異世界小説」のような世界だった。
転生した彼の身体は20歳の若者になったが、精神は何故か39歳のおっさんのままだった。
こうして元おっさんとして第2の人生を歩む事になった彼は異世界小説でよくある展開、いわゆるテンプレな出来事に巻き込まれながらも、出逢いや別れ、時には仲間とゆる~い冒険の旅に出たり
授かった能力を使いつつも普通に生きていこうとする、おっさんの物語である。
◇ ◇ ◇
本作は主人公が異世界で「生活」していく事がメインのお話しなので、派手な出来事は起こりません。
序盤は1話あたりの文字数が少なめですが
全体的には1話2000文字前後でサクッと読める内容を目指してます。

Hしてレベルアップ ~可愛い女の子とHして強くなれるなんて、この世は最高じゃないか~
トモ治太郎
ファンタジー
孤児院で育った少年ユキャール、この孤児院では15歳になると1人立ちしなければいけない。
旅立ちの朝に初めて夢精したユキャール。それが原因なのか『異性性交』と言うスキルを得る。『相手に精子を与えることでより多くの経験値を得る。』女性経験のないユキャールはまだこのスキルのすごさを知らなかった。
この日の為に準備してきたユキャール。しかし旅立つ直前、一緒に育った少女スピカが一緒にいくと言い出す。本来ならおいしい場面だが、スピカは何も準備していないので俺の負担は最初から2倍増だ。
こんな感じで2人で旅立ち、共に戦い、時にはHして強くなっていくお話しです。



転生したら、6人の最強旦那様に溺愛されてます!?~6人の愛が重すぎて困ってます!~
月
恋愛
ある日、女子高生だった白川凛(しらかわりん)
は学校の帰り道、バイトに遅刻しそうになったのでスピードを上げすぎ、そのまま階段から落ちて死亡した。
しかし、目が覚めるとそこは異世界だった!?
(もしかして、私、転生してる!!?)
そして、なんと凛が転生した世界は女性が少なく、一妻多夫制だった!!!
そんな世界に転生した凛と、将来の旦那様は一体誰!?

平民として生まれた男、努力でスキルと魔法が使える様になる。〜イージーな世界に生まれ変わった。
モンド
ファンタジー
1人の男が異世界に転生した。
日本に住んでいた頃の記憶を持ったまま、男は前世でサラリーマンとして長年働いてきた経験から。
今度生まれ変われるなら、自由に旅をしながら生きてみたいと思い描いていたのだ。
そんな彼が、15歳の成人の儀式の際に過去の記憶を思い出して旅立つことにした。
特に使命や野心のない男は、好きなように生きることにした。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる