47 / 53
<エピローグ 第5話>
しおりを挟む
<エピローグ 第5話>
翌日の水曜日。帝都大乱十二日目。午前九時過ぎ。
ルビー・クールは、イザベラたち三名を連れて、馬車で、南二区北西エリアに向かった。
南二区北西エリアも、高級住宅街がある富裕層の多い地区だ。
南一区で口座を作った銀行とは別の銀行で、口座を作り、貸金庫を借りた。その貸金庫に、百二十万キャピタ(著者注:日本円で一億二千万円相当)を入れた。残り六十万キャピタ弱は、重量にして六キログラム弱なので、ショルダーバッグの中に入れて持ち歩くことにした。
その銀行で、イザベラたち三名にも預金通帳を作らせ、貸金庫を借りさせた。
彼女たちは、案の定、身分証明書を持っていなかった。
そこで、ルビー・クールが、帝国魔法学園の学生証を銀行員に見せて、保証人になった。
どのような関係か尋ねられたので、こう答えた。
「同じ教会の信者です」
銀行員は、それ以上、なにも尋ねなかった。
他人の宗教に関わるのは、リスクが高いからだ。特に帝都では。
なぜなら帝都には、様々な新興宗教やカルト宗教が存在するからだ。
帝都の新興宗教の大部分は、プロテスタント系だ。ナポレオン戦争のあと、多くの新興宗教が発生した。多くの人々が、大規模戦争で、肉親を亡くしたからだ。精神的にも経済的にも苦しむ多くの人々を、既存の宗教は、救済できなかった。そこで、多数の新興宗教が生まれた。
そうした新興宗教の大部分は無害だが、一部には、危険なカルト宗教もある。
そのため帝都の人々は、他人の宗教には、関わりたがらないのだ。
イザベラたちには、それぞれ、金貨一枚千キャピタ(著者注:日本円で十万円相当)を、預金させた。金貨十枚一万キャピタ(百万円相当)ずつだけを直接持たせ、残りのカネは、貸金庫に入れさせた。
農村から出てきた女が、十万キャピタ(一千万円相当)も預金したら、怪しまれるからだ。
だが、千キャピタならば、農村から出てきたばかりであっても、その程度の金額ならば、持っていても不思議ではない。
そのあと、彼女たちを連れて、近くの不動産屋を訪れた。彼女たちの住居を借りるためだ。
それに、彼女たちが働けるレストランやカフェなどの空き店舗を、探すためだ。
空き店舗を借りる費用は、ルビー・クールが出す予定だ。
つまり、ルビー・クールが、店のオーナーで、経営者だ。
不動産屋の従業員に、伝えた。すぐに営業が開始できるレストランやカフェなどの空き店舗と、イザベラたち三名の住居を探していることを。彼女たち三名は、店の住み込み従業員にしたいので、店舗と同じ建物の部屋が好ましいことも、伝えた。
南二区北西エリアで、都合の良い物件がなければ、南二区北東エリアに移動する予定だった。
だが、幸いなことに、都合の良い物件を見つけた。
場所は、南二区北西エリア第六ブロックの南側。中央南北大通りから、少し内側に入った裏通りだ。
裏通りと言っても、富裕層の住む地域だ。治安がよく、高級な店が多い。
大通り沿いは、一流企業の本社オフィスや、大型高級店が立ち並んでいる。
その裏通りなので、それらの企業に勤務する従業員たちが利用する飲食店が、多数ある。
どれも、やや高級な小洒落たカフェやレストランだ。
その中の一つが、閉店したばかりだった。
その店のオーナー兼シェフが、殺害されたのだ。帝都大乱初日に。無産者革命党によって。彼の自宅は、南二区南西エリア第四ブロックに、あったからだ。
彼は、レストランの経営者で、そのうえ、自宅を所有していた。そのため、有産者と認定され、処刑されたのだ。
その連絡が、遺族から不動産会社に届いたのは、先週の水曜日だった。
その前日の火曜日の午後に、南二区南西エリア第四ブロックは、解放されたからだ。警察大臣補佐官のルーデンドルフ率いる警官隊によって。
不動産屋の従業員に案内してもらい、実際に訪れた。
小洒落たカフェ・レストランだった。五階建てビルの一階にある店だ。二階と三階が中小企業の事務所で、四階と五階が賃貸住宅だ。
高級住宅街と言っても、高級店で働く従業員のための賃貸住宅もある。そのビルの四階と五階が、そうした賃貸住宅だった。
店舗の広さも、三名で運営するには、ちょうど良い大きさだった。賃貸価格も、想定の範囲内だった。
その店舗に、決めた。
不動産屋の事務所に戻り、契約書に署名した。
ルビー・クールは、思った。契約書に、署名したときに。
今日から自分は、カフェ・レストランの経営者だ、と。
この日、ルビー・クールは、女実業家になった。
第6話に続く
翌日の水曜日。帝都大乱十二日目。午前九時過ぎ。
ルビー・クールは、イザベラたち三名を連れて、馬車で、南二区北西エリアに向かった。
南二区北西エリアも、高級住宅街がある富裕層の多い地区だ。
南一区で口座を作った銀行とは別の銀行で、口座を作り、貸金庫を借りた。その貸金庫に、百二十万キャピタ(著者注:日本円で一億二千万円相当)を入れた。残り六十万キャピタ弱は、重量にして六キログラム弱なので、ショルダーバッグの中に入れて持ち歩くことにした。
その銀行で、イザベラたち三名にも預金通帳を作らせ、貸金庫を借りさせた。
彼女たちは、案の定、身分証明書を持っていなかった。
そこで、ルビー・クールが、帝国魔法学園の学生証を銀行員に見せて、保証人になった。
どのような関係か尋ねられたので、こう答えた。
「同じ教会の信者です」
銀行員は、それ以上、なにも尋ねなかった。
他人の宗教に関わるのは、リスクが高いからだ。特に帝都では。
なぜなら帝都には、様々な新興宗教やカルト宗教が存在するからだ。
帝都の新興宗教の大部分は、プロテスタント系だ。ナポレオン戦争のあと、多くの新興宗教が発生した。多くの人々が、大規模戦争で、肉親を亡くしたからだ。精神的にも経済的にも苦しむ多くの人々を、既存の宗教は、救済できなかった。そこで、多数の新興宗教が生まれた。
そうした新興宗教の大部分は無害だが、一部には、危険なカルト宗教もある。
そのため帝都の人々は、他人の宗教には、関わりたがらないのだ。
イザベラたちには、それぞれ、金貨一枚千キャピタ(著者注:日本円で十万円相当)を、預金させた。金貨十枚一万キャピタ(百万円相当)ずつだけを直接持たせ、残りのカネは、貸金庫に入れさせた。
農村から出てきた女が、十万キャピタ(一千万円相当)も預金したら、怪しまれるからだ。
だが、千キャピタならば、農村から出てきたばかりであっても、その程度の金額ならば、持っていても不思議ではない。
そのあと、彼女たちを連れて、近くの不動産屋を訪れた。彼女たちの住居を借りるためだ。
それに、彼女たちが働けるレストランやカフェなどの空き店舗を、探すためだ。
空き店舗を借りる費用は、ルビー・クールが出す予定だ。
つまり、ルビー・クールが、店のオーナーで、経営者だ。
不動産屋の従業員に、伝えた。すぐに営業が開始できるレストランやカフェなどの空き店舗と、イザベラたち三名の住居を探していることを。彼女たち三名は、店の住み込み従業員にしたいので、店舗と同じ建物の部屋が好ましいことも、伝えた。
南二区北西エリアで、都合の良い物件がなければ、南二区北東エリアに移動する予定だった。
だが、幸いなことに、都合の良い物件を見つけた。
場所は、南二区北西エリア第六ブロックの南側。中央南北大通りから、少し内側に入った裏通りだ。
裏通りと言っても、富裕層の住む地域だ。治安がよく、高級な店が多い。
大通り沿いは、一流企業の本社オフィスや、大型高級店が立ち並んでいる。
その裏通りなので、それらの企業に勤務する従業員たちが利用する飲食店が、多数ある。
どれも、やや高級な小洒落たカフェやレストランだ。
その中の一つが、閉店したばかりだった。
その店のオーナー兼シェフが、殺害されたのだ。帝都大乱初日に。無産者革命党によって。彼の自宅は、南二区南西エリア第四ブロックに、あったからだ。
彼は、レストランの経営者で、そのうえ、自宅を所有していた。そのため、有産者と認定され、処刑されたのだ。
その連絡が、遺族から不動産会社に届いたのは、先週の水曜日だった。
その前日の火曜日の午後に、南二区南西エリア第四ブロックは、解放されたからだ。警察大臣補佐官のルーデンドルフ率いる警官隊によって。
不動産屋の従業員に案内してもらい、実際に訪れた。
小洒落たカフェ・レストランだった。五階建てビルの一階にある店だ。二階と三階が中小企業の事務所で、四階と五階が賃貸住宅だ。
高級住宅街と言っても、高級店で働く従業員のための賃貸住宅もある。そのビルの四階と五階が、そうした賃貸住宅だった。
店舗の広さも、三名で運営するには、ちょうど良い大きさだった。賃貸価格も、想定の範囲内だった。
その店舗に、決めた。
不動産屋の事務所に戻り、契約書に署名した。
ルビー・クールは、思った。契約書に、署名したときに。
今日から自分は、カフェ・レストランの経営者だ、と。
この日、ルビー・クールは、女実業家になった。
第6話に続く
0
お気に入りに追加
6
あなたにおすすめの小説
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
【R15】アリア・ルージュの妄信
皐月うしこ
ミステリー
その日、白濁の中で少女は死んだ。
異質な匂いに包まれて、全身を粘着質な白い液体に覆われて、乱れた着衣が物語る悲惨な光景を何と表現すればいいのだろう。世界は日常に溢れている。何気ない会話、変わらない秒針、規則正しく進む人波。それでもここに、雲が形を変えるように、ガラスが粉々に砕けるように、一輪の花が小さな種を産んだ。
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
ARIA(アリア)
残念パパいのっち
ミステリー
山内亮(やまうちとおる)は内見に出かけたアパートでAR越しに不思議な少女、西園寺雫(さいおんじしずく)と出会う。彼女は自分がAIでこのアパートに閉じ込められていると言うが……
ダブルネーム
しまおか
ミステリー
有名人となった藤子の弟が謎の死を遂げ、真相を探る内に事態が急変する!
四十五歳でうつ病により会社を退職した藤子は、五十歳で純文学の新人賞を獲得し白井真琴の筆名で芥山賞まで受賞し、人生が一気に変わる。容姿や珍しい経歴もあり、世間から注目を浴びテレビ出演した際、渡部亮と名乗る男の死についてコメント。それが後に別名義を使っていた弟の雄太と知らされ、騒動に巻き込まれる。さらに本人名義の土地建物を含めた多額の遺産は全て藤子にとの遺書も発見され、いくつもの謎を残して死んだ彼の過去を探り始めた。相続を巡り兄夫婦との確執が産まれる中、かつて雄太の同僚だったと名乗る同性愛者の女性が現れ、警察は事故と処理したが殺されたのではと言い出す。さらに刑事を紹介され裏で捜査すると告げられる。そうして真相を解明しようと動き出した藤子を待っていたのは、予想をはるかに超える事態だった。登場人物のそれぞれにおける人生や、藤子自身の過去を振り返りながら謎を解き明かす、どんでん返しありのミステリー&サスペンス&ヒューマンドラマ。
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる