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<エピローグ 第5話>

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  <エピローグ 第5話>
 翌日の水曜日。帝都大乱十二日目。午前九時過ぎ。
 ルビー・クールは、イザベラたち三名を連れて、馬車で、南二区北西エリアに向かった。
 南二区北西エリアも、高級住宅街がある富裕層の多い地区だ。
 南一区で口座を作った銀行とは別の銀行で、口座を作り、貸金庫を借りた。その貸金庫に、百二十万キャピタ(著者注:日本円で一億二千万円相当)を入れた。残り六十万キャピタ弱は、重量にして六キログラム弱なので、ショルダーバッグの中に入れて持ち歩くことにした。
 その銀行で、イザベラたち三名にも預金通帳を作らせ、貸金庫を借りさせた。
 彼女たちは、案の定、身分証明書を持っていなかった。
 そこで、ルビー・クールが、帝国魔法学園の学生証を銀行員に見せて、保証人になった。
 どのような関係か尋ねられたので、こう答えた。
 「同じ教会の信者です」
 銀行員は、それ以上、なにも尋ねなかった。
 他人の宗教に関わるのは、リスクが高いからだ。特に帝都では。
 なぜなら帝都には、様々な新興宗教やカルト宗教が存在するからだ。
 帝都の新興宗教の大部分は、プロテスタント系だ。ナポレオン戦争のあと、多くの新興宗教が発生した。多くの人々が、大規模戦争で、肉親を亡くしたからだ。精神的にも経済的にも苦しむ多くの人々を、既存の宗教は、救済できなかった。そこで、多数の新興宗教が生まれた。
 そうした新興宗教の大部分は無害だが、一部には、危険なカルト宗教もある。
 そのため帝都の人々は、他人の宗教には、関わりたがらないのだ。
 イザベラたちには、それぞれ、金貨一枚千キャピタ(著者注:日本円で十万円相当)を、預金させた。金貨十枚一万キャピタ(百万円相当)ずつだけを直接持たせ、残りのカネは、貸金庫に入れさせた。
 農村から出てきた女が、十万キャピタ(一千万円相当)も預金したら、怪しまれるからだ。
 だが、千キャピタならば、農村から出てきたばかりであっても、その程度の金額ならば、持っていても不思議ではない。
 そのあと、彼女たちを連れて、近くの不動産屋を訪れた。彼女たちの住居を借りるためだ。
 それに、彼女たちが働けるレストランやカフェなどの空き店舗を、探すためだ。
 空き店舗を借りる費用は、ルビー・クールが出す予定だ。
 つまり、ルビー・クールが、店のオーナーで、経営者だ。
 不動産屋の従業員に、伝えた。すぐに営業が開始できるレストランやカフェなどの空き店舗と、イザベラたち三名の住居を探していることを。彼女たち三名は、店の住み込み従業員にしたいので、店舗と同じ建物の部屋が好ましいことも、伝えた。
 南二区北西エリアで、都合の良い物件がなければ、南二区北東エリアに移動する予定だった。
 だが、幸いなことに、都合の良い物件を見つけた。
 場所は、南二区北西エリア第六ブロックの南側。中央南北大通りから、少し内側に入った裏通りだ。
 裏通りと言っても、富裕層の住む地域だ。治安がよく、高級な店が多い。
 大通り沿いは、一流企業の本社オフィスや、大型高級店が立ち並んでいる。
 その裏通りなので、それらの企業に勤務する従業員たちが利用する飲食店が、多数ある。
 どれも、やや高級な小洒落こじゃれたカフェやレストランだ。
 その中の一つが、閉店したばかりだった。
 その店のオーナー兼シェフが、殺害されたのだ。帝都大乱初日に。無産者革命党によって。彼の自宅は、南二区南西エリア第四ブロックに、あったからだ。
 彼は、レストランの経営者で、そのうえ、自宅を所有していた。そのため、有産者と認定され、処刑されたのだ。
 その連絡が、遺族から不動産会社に届いたのは、先週の水曜日だった。
 その前日の火曜日の午後に、南二区南西エリア第四ブロックは、解放されたからだ。警察大臣補佐官のルーデンドルフ率いる警官隊によって。
 不動産屋の従業員に案内してもらい、実際に訪れた。
 小洒落たカフェ・レストランだった。五階建てビルの一階にある店だ。二階と三階が中小企業の事務所で、四階と五階が賃貸住宅だ。
 高級住宅街と言っても、高級店で働く従業員のための賃貸住宅もある。そのビルの四階と五階が、そうした賃貸住宅だった。
 店舗の広さも、三名で運営するには、ちょうど良い大きさだった。賃貸価格も、想定の範囲内だった。
 その店舗に、決めた。
 不動産屋の事務所に戻り、契約書に署名した。
 ルビー・クールは、思った。契約書に、署名したときに。
 今日から自分は、カフェ・レストランの経営者だ、と。
 この日、ルビー・クールは、女実業家になった。

   第6話に続く
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