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エピローグ 解放 <第1話>
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<エピローグ 第1話>
無産者革命党の一斉蜂起、いわゆる帝都大乱勃発から、十日目。月曜日。
午後六時の少し前、ルビー・クールは、南一区北東エリアの高級ホテルに、着いた。ルイーザを連れて。
ホテルの受付係に頼み、ヴァレンティーナたちの部屋に内線電話をかけてもらった。
一階のロビーで待っていると、ヴァレンティーナら六名の貴族令嬢が、階段を降りてきた。
ヨハナとリーゼロッテが、涙を流しながら、ルイーザに抱きついた。
ヴァレンティーナとマルガレーテが、ルビー・クールに礼を述べた。前者は上から目線で、後者は涙ぐみながら。
エミーリアは、ばつが悪そうな顔で、ルビー・クールに謝罪した。「あなたを疑って、悪かったわね」と。
メラニーはニヤつきながら、ルビー・クールに話しかけてきた。「救出作戦について、聞きたいわ」と。
「まだ忙しいから、また今度ね」
そう答えて、ホテルを出ようとした。
それを、ヴァレンティーナが、止めた。
彼女は、ルビー・クールに、何らかの褒美を与えたいようだった。彼女たちが属する慈善団体の会長は、上級貴族令嬢だ。会長に掛け合えば、かなりの褒美をもらえるとのことだった。
だが、断った。上級貴族と関わるのは、めんどうだから。
「なにも、いりませんわ。なぜなら、自分の使命を果たしただけですから」
そう、答えた。
するとヴァレンティーナは、大きくうなずきながら、言った。
「高貴なる責務を果たす。それが貴族。あなたこそ、真の貴族令嬢ね」
ホテルを、出た。
馬車の中では、ダリアが待っていた。それにフランクも。意識のないソフィーも、同じ馬車だ。
ダリアと、打ち合わせをした。
彼女が宿泊している高級ホテルへ行き、電話をかけてもらった。自由革命党の大幹部である祖父へ。その祖父が、自由革命党員である南一区警察署の副署長に電話をかけ、話をつけてもらった。
南一区にある南西大門の開門時間は、朝九時から夕方の五時までだ。
だが、午後十一時から半時間だけ、開門してくれることになった。
もちろん、警察による警備も、その半時間だけ解除される。
今度はルビー・クールが、共和国特殊工作部隊の隊長に、電話をかけた。彼は現在、帝都の外側にあるホテルに、宿泊している。
南西大門の外は、門前町が形成されており、ホテルや各種店舗が多数ある。そうしたホテルは、帝都に来た旅行客たちが、帝都に入る前日の夜に、宿泊する。
簡単な夕食を取ったあと、ルビー・クールは一人で、意識のないソフィーを乗せた馬車で、南西大門に向かった。午後十一時までに、到着するように。
人気のない南西大門の内側で待っていると、ちょうど午後十一時に、通用門が開いた。
男が三名、現れた。そのうちの一人は、共和国特殊工作部隊第一小隊長のジャンだ。彼は、第一小隊から第三小隊までを指揮する中隊長も兼務している。
彼に、ソフィーを引き渡した。
男二名が、意識のないソフィーの身体を抱え、通用門から出て行った。
ジャンが振り返り、言葉をかけてきた。通用門から出て行く間際に。
「おまえに、借りができたな。帝国の赤毛の魔女、ルビー・クール」
「気にする必要は、ないわ。いつか、利子をつけて返してもらうから」
そう言って、口もとだけで、微笑んだ。
ホテルの自室に戻ったときには、すでに深夜零時頃だった。
ショルダーバッグから、巾着袋を取り出した。
ベッドの上に、中身を出した。
六百枚の金貨だ。金額は、六十万キャピタ(著者注:日本円で六千万円相当)。
思わず、涙があふれた。
解放されたからだ。
重圧から。
長女である自分が、妹たちの学費も、稼がなければならない。
それが、重圧だった。
これで、娼婦を卒業できる。
そう思ったとたん、瞳から、涙がボロボロとこぼれ落ちた。
帝国魔法学園の学費と寮費、それに雑費など、一年間に五万キャピタ(著者注:日本円で五百万円相当)必要だ。
中等部入学から高等部卒業まで、六年間で三十万キャピタ必要だ。
自分の分は、中等部を卒業する前に、稼いだ。
だが、三歳年下の妹の分は、まだ半年分しか稼げていない。
六歳下の妹も、三年後には、中等部に入学する。
妹二人分で、六十万キャピタ必要だ。いや、正確には、半年分二万五千キャピタは稼いでいるため、必要金額は、あと五十七万五千キャピタだ。
それが今、目の前にある。
カジノから出る前に、エルザに頼んで、金庫を開けてもらった。今日は、六十万キャピタだけ受け取ることにした。彼女には、「それ以上の金額だと重すぎて、ショルダーバッグの底が抜けるかもしれないから」とだけ、言っておいた。
金貨一枚は十グラムなので、六十万キャピタは六キログラムだ。
一時間以上も、泣いていた。気がついたときには。
涙を拭いてから、熱いシャワーを浴びた。
清潔なベッドで、眠りについた。明日の計画を、考えながら。
第2話に続く
無産者革命党の一斉蜂起、いわゆる帝都大乱勃発から、十日目。月曜日。
午後六時の少し前、ルビー・クールは、南一区北東エリアの高級ホテルに、着いた。ルイーザを連れて。
ホテルの受付係に頼み、ヴァレンティーナたちの部屋に内線電話をかけてもらった。
一階のロビーで待っていると、ヴァレンティーナら六名の貴族令嬢が、階段を降りてきた。
ヨハナとリーゼロッテが、涙を流しながら、ルイーザに抱きついた。
ヴァレンティーナとマルガレーテが、ルビー・クールに礼を述べた。前者は上から目線で、後者は涙ぐみながら。
エミーリアは、ばつが悪そうな顔で、ルビー・クールに謝罪した。「あなたを疑って、悪かったわね」と。
メラニーはニヤつきながら、ルビー・クールに話しかけてきた。「救出作戦について、聞きたいわ」と。
「まだ忙しいから、また今度ね」
そう答えて、ホテルを出ようとした。
それを、ヴァレンティーナが、止めた。
彼女は、ルビー・クールに、何らかの褒美を与えたいようだった。彼女たちが属する慈善団体の会長は、上級貴族令嬢だ。会長に掛け合えば、かなりの褒美をもらえるとのことだった。
だが、断った。上級貴族と関わるのは、めんどうだから。
「なにも、いりませんわ。なぜなら、自分の使命を果たしただけですから」
そう、答えた。
するとヴァレンティーナは、大きくうなずきながら、言った。
「高貴なる責務を果たす。それが貴族。あなたこそ、真の貴族令嬢ね」
ホテルを、出た。
馬車の中では、ダリアが待っていた。それにフランクも。意識のないソフィーも、同じ馬車だ。
ダリアと、打ち合わせをした。
彼女が宿泊している高級ホテルへ行き、電話をかけてもらった。自由革命党の大幹部である祖父へ。その祖父が、自由革命党員である南一区警察署の副署長に電話をかけ、話をつけてもらった。
南一区にある南西大門の開門時間は、朝九時から夕方の五時までだ。
だが、午後十一時から半時間だけ、開門してくれることになった。
もちろん、警察による警備も、その半時間だけ解除される。
今度はルビー・クールが、共和国特殊工作部隊の隊長に、電話をかけた。彼は現在、帝都の外側にあるホテルに、宿泊している。
南西大門の外は、門前町が形成されており、ホテルや各種店舗が多数ある。そうしたホテルは、帝都に来た旅行客たちが、帝都に入る前日の夜に、宿泊する。
簡単な夕食を取ったあと、ルビー・クールは一人で、意識のないソフィーを乗せた馬車で、南西大門に向かった。午後十一時までに、到着するように。
人気のない南西大門の内側で待っていると、ちょうど午後十一時に、通用門が開いた。
男が三名、現れた。そのうちの一人は、共和国特殊工作部隊第一小隊長のジャンだ。彼は、第一小隊から第三小隊までを指揮する中隊長も兼務している。
彼に、ソフィーを引き渡した。
男二名が、意識のないソフィーの身体を抱え、通用門から出て行った。
ジャンが振り返り、言葉をかけてきた。通用門から出て行く間際に。
「おまえに、借りができたな。帝国の赤毛の魔女、ルビー・クール」
「気にする必要は、ないわ。いつか、利子をつけて返してもらうから」
そう言って、口もとだけで、微笑んだ。
ホテルの自室に戻ったときには、すでに深夜零時頃だった。
ショルダーバッグから、巾着袋を取り出した。
ベッドの上に、中身を出した。
六百枚の金貨だ。金額は、六十万キャピタ(著者注:日本円で六千万円相当)。
思わず、涙があふれた。
解放されたからだ。
重圧から。
長女である自分が、妹たちの学費も、稼がなければならない。
それが、重圧だった。
これで、娼婦を卒業できる。
そう思ったとたん、瞳から、涙がボロボロとこぼれ落ちた。
帝国魔法学園の学費と寮費、それに雑費など、一年間に五万キャピタ(著者注:日本円で五百万円相当)必要だ。
中等部入学から高等部卒業まで、六年間で三十万キャピタ必要だ。
自分の分は、中等部を卒業する前に、稼いだ。
だが、三歳年下の妹の分は、まだ半年分しか稼げていない。
六歳下の妹も、三年後には、中等部に入学する。
妹二人分で、六十万キャピタ必要だ。いや、正確には、半年分二万五千キャピタは稼いでいるため、必要金額は、あと五十七万五千キャピタだ。
それが今、目の前にある。
カジノから出る前に、エルザに頼んで、金庫を開けてもらった。今日は、六十万キャピタだけ受け取ることにした。彼女には、「それ以上の金額だと重すぎて、ショルダーバッグの底が抜けるかもしれないから」とだけ、言っておいた。
金貨一枚は十グラムなので、六十万キャピタは六キログラムだ。
一時間以上も、泣いていた。気がついたときには。
涙を拭いてから、熱いシャワーを浴びた。
清潔なベッドで、眠りについた。明日の計画を、考えながら。
第2話に続く
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