絶体絶命ルビー・クールの逆襲<救出編>

蛇崩 通

文字の大きさ
上 下
43 / 53

エピローグ 解放 <第1話>

しおりを挟む
  <エピローグ 第1話>
 無産者革命党の一斉蜂起、いわゆる帝都大乱勃発から、十日目。月曜日。
 午後六時の少し前、ルビー・クールは、南一区北東エリアの高級ホテルに、着いた。ルイーザを連れて。
 ホテルの受付係に頼み、ヴァレンティーナたちの部屋に内線電話をかけてもらった。
 一階のロビーで待っていると、ヴァレンティーナら六名の貴族令嬢が、階段を降りてきた。
 ヨハナとリーゼロッテが、涙を流しながら、ルイーザに抱きついた。
 ヴァレンティーナとマルガレーテが、ルビー・クールに礼を述べた。前者は上から目線で、後者は涙ぐみながら。
 エミーリアは、ばつが悪そうな顔で、ルビー・クールに謝罪した。「あなたを疑って、悪かったわね」と。
 メラニーはニヤつきながら、ルビー・クールに話しかけてきた。「救出作戦について、聞きたいわ」と。
 「まだ忙しいから、また今度ね」
 そう答えて、ホテルを出ようとした。
 それを、ヴァレンティーナが、止めた。
 彼女は、ルビー・クールに、何らかの褒美ほうびあたえたいようだった。彼女たちが属する慈善団体の会長は、上級貴族令嬢だ。会長に掛け合えば、かなりの褒美をもらえるとのことだった。
 だが、断った。上級貴族と関わるのは、めんどうだから。
 「なにも、いりませんわ。なぜなら、自分の使命を果たしただけですから」
 そう、答えた。
 するとヴァレンティーナは、大きくうなずきながら、言った。
 「高貴なる責務を果たす。それが貴族。あなたこそ、真の貴族令嬢ね」
 ホテルを、出た。
 馬車の中では、ダリアが待っていた。それにフランクも。意識のないソフィーも、同じ馬車だ。
 ダリアと、打ち合わせをした。
 彼女が宿泊している高級ホテルへ行き、電話をかけてもらった。自由革命党の大幹部である祖父へ。その祖父が、自由革命党員である南一区警察署の副署長に電話をかけ、話をつけてもらった。
 南一区にある南西大門の開門時間は、朝九時から夕方の五時までだ。
 だが、午後十一時から半時間だけ、開門してくれることになった。
 もちろん、警察による警備も、その半時間だけ解除される。
 今度はルビー・クールが、共和国特殊工作部隊の隊長に、電話をかけた。彼は現在、帝都の外側にあるホテルに、宿泊している。
 南西大門の外は、門前町が形成されており、ホテルや各種店舗が多数ある。そうしたホテルは、帝都に来た旅行客たちが、帝都に入る前日の夜に、宿泊する。
 簡単な夕食を取ったあと、ルビー・クールは一人で、意識のないソフィーを乗せた馬車で、南西大門に向かった。午後十一時までに、到着するように。
 人気ひとけのない南西大門の内側で待っていると、ちょうど午後十一時に、通用門が開いた。
 男が三名、現れた。そのうちの一人は、共和国特殊工作部隊第一小隊長のジャンだ。彼は、第一小隊から第三小隊までを指揮する中隊長も兼務している。
 彼に、ソフィーを引き渡した。
 男二名が、意識のないソフィーの身体を抱え、通用門から出て行った。
 ジャンが振り返り、言葉をかけてきた。通用門から出て行く間際に。
 「おまえに、借りができたな。帝国の赤毛の魔女、ルビー・クール」
 「気にする必要は、ないわ。いつか、利子をつけて返してもらうから」
 そう言って、口もとだけで、微笑ほほえんだ。
 ホテルの自室に戻ったときには、すでに深夜零時頃だった。
 ショルダーバッグから、巾着きんちゃく袋を取り出した。
 ベッドの上に、中身を出した。
 六百枚の金貨だ。金額は、六十万キャピタ(著者注:日本円で六千万円相当)。
 思わず、涙があふれた。
 解放されたからだ。
 重圧から。
 長女である自分が、妹たちの学費も、稼がなければならない。
 それが、重圧だった。
 これで、娼婦を卒業できる。
 そう思ったとたん、ひとみから、涙がボロボロとこぼれ落ちた。
 帝国魔法学園の学費と寮費、それに雑費など、一年間に五万キャピタ(著者注:日本円で五百万円相当)必要だ。
 中等部入学から高等部卒業まで、六年間で三十万キャピタ必要だ。
 自分の分は、中等部を卒業する前に、稼いだ。
 だが、三歳年下の妹の分は、まだ半年分しか稼げていない。
 六歳下の妹も、三年後には、中等部に入学する。
 妹二人分で、六十万キャピタ必要だ。いや、正確には、半年分二万五千キャピタは稼いでいるため、必要金額は、あと五十七万五千キャピタだ。
 それが今、目の前にある。
 カジノから出る前に、エルザに頼んで、金庫を開けてもらった。今日は、六十万キャピタだけ受け取ることにした。彼女には、「それ以上の金額だと重すぎて、ショルダーバッグの底が抜けるかもしれないから」とだけ、言っておいた。
 金貨一枚は十グラムなので、六十万キャピタは六キログラムだ。
 一時間以上も、泣いていた。気がついたときには。
 涙をいてから、熱いシャワーを浴びた。
 清潔なベッドで、眠りについた。明日の計画を、考えながら。

   第2話に続く
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

命を狙われたお飾り妃の最後の願い

幌あきら
恋愛
【異世界恋愛・ざまぁ系・ハピエン】 重要な式典の真っ最中、いきなりシャンデリアが落ちた――。狙われたのは王妃イベリナ。 イベリナ妃の命を狙ったのは、国王の愛人ジャスミンだった。 短め連載・完結まで予約済みです。設定ゆるいです。 『ベビ待ち』の女性の心情がでてきます。『逆マタハラ』などの表現もあります。苦手な方はお控えください、すみません。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

【完結】Amnesia(アムネシア)~カフェ「時遊館」に現れた美しい青年は記憶を失っていた~

紫紺
ミステリー
郊外の人気カフェ、『時游館』のマスター航留は、ある日美しい青年と出会う。彼は自分が誰かも全て忘れてしまう記憶喪失を患っていた。 行きがかり上、面倒を見ることになったのが……。 ※「Amnesia」は医学用語で、一般的には「記憶喪失」のことを指します。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

幼馴染、幼馴染、そんなに彼女のことが大切ですか。――いいでしょう、ならば、婚約破棄をしましょう。~病弱な幼馴染の彼女は、実は……~

銀灰
恋愛
テリシアの婚約者セシルは、病弱だという幼馴染にばかりかまけていた。 自身で稼ぐこともせず、幼馴染を庇護するため、テシリアに金を無心する毎日を送るセシル。 そんな関係に限界を感じ、テリシアはセシルに婚約破棄を突き付けた。 テリシアに見捨てられたセシルは、てっきりその幼馴染と添い遂げると思われたが――。 その幼馴染は、道化のようなとんでもない秘密を抱えていた!? はたして、物語の結末は――?

淫らに、咲き乱れる

あるまん
恋愛
軽蔑してた、筈なのに。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

処理中です...