絶体絶命ルビー・クールの逆襲<救出編>

蛇崩 通

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<第五章 第4話>

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  <第五章 第4話>
 早かった。ルビー・クールのほうが。
 頭部を南側に向け、西へ向かってすばやく回転した。三回。
 うつぶせになった。
 その瞬間、左右のリボルバーを発砲した。続けざまに。左右とも二発ずつ。
 ふたたび、西へ三回転した。
 うつ伏せになると同時に、発砲した。
 残弾を、撃ち尽くした。計七名の中隊副隊長を射殺した。
 一方、中隊副隊長たちが撃った弾丸は、いずれも、ルビー・クールには、あたらなかった。
 すぐ近くに着弾したものも、一発あったが。
 新しい拳銃を、二挺、手にした。計算は、やや狂ったが、手を伸ばせば届く距離にあった。
 西へ回転しながら、一瞬だけ回転を止め、その瞬間に、左右の拳銃を、二発ずつ発砲した。拳銃を手にした敵に向かって。
 銃声と絶叫が、聞こえた。大量の銃声と絶叫だ。絶叫は、南の方、敵集団の奥の方だ。
 それに、西側と東側のはしのほうからも、無数の銃声と絶叫が聞こえ始めた。
 自由革命党の狙撃手が、発砲を始めたのだ。
 いや、彼らは射撃の腕が良い。頭部を、確実に撃ち抜く。撃たれた者は即死するため、悲鳴をあげることは、できない。
 絶叫している男たちは、労農革命党の射撃手に、撃たれた者たちだ。
 労農革命党の射撃手は全員、戦争経験者だ。
 だが、射撃の腕はイマイチだ。そのうえ、自由革命党から提供された弾丸は、実弾ではなく、ゴム弾だ。
 しかし、無産者革命党の党員が広場にひしめき合っているため、相手の身体のどこかには、確実にあたる。ゴム弾であっても、距離と、骨の強度によっては、骨折する。
 絞首刑台広場は、一辺が約百メートルの正方形だ。その周囲は、片道一車線の馬車道に囲まれている。その馬車道の向こう側には、五階建ての建物が建ち並んでいる。
 五階の窓には、自由革命党の狙撃手が、四十名潜んでいる。東西南北に、それぞれ、十名ずつだ。
 四階の窓には、労農革命党の射撃手が、百名潜んでいる。東西南北に二十五名ずつだ。
 狙撃する対象は、北側の狙撃手は、ライフル大隊と拳銃大隊だ。
 東側、西側、南側の狙撃手は、東の端、西の端、南の端にいる敵を狙撃する。敵が、絞首刑台広場の中央に、集まるように。
 ルビー・クールは、全弾を撃ち尽くした。
 起き上がった。頭の位置を低く保ちながら、駆け出した。西へ向かって。
 中隊長の死体から、拳銃二挺を回収し、銃撃した。死んだ副隊長の拳銃を拾い上げた男たちを。
 もう、時間がない。
 低い姿勢で走るのは、骨が折れる。
 だが、全力で走った。発砲しながら。自分にとって脅威となりそうな敵に向かって。
 絞首刑台の西のはしに着いた。すみやかに回り込み、絞首刑台の北側に身を隠した。
 ダリアが叫んだ。
 「あと、十秒!」
 チラリと視線を向けると、ダリアは両膝を抱えて座り込んでいる。絞首刑台の北側の板に、背中をつけて。純金製の懐中時計を、見つめながら。
 フランクたちが、銃撃をやめ、絞首刑台のかげに隠れた。
 ルビー・クールが叫んだ。
 「エルザ! 隠れてる?」
 「いるわ! 東の端に!」
 返答が、あった。
 「あと五秒!」
 ダリアが叫ぶと同時に、自分の懐中時計をスカートの上に置き、両手で両耳をふさいだ。
 フランクたちも、両耳をふさいでいる。
 ルビー・クールも、あわてて両耳をふさいだ。
 轟音ごうおんが、とどろいた。次々に。
 絶叫した。無産者革命党の男たちが。
 時限爆弾が、爆発したのだ。
 その数は、十六個。二十メートル間隔で、正方形型に設置した。
 時限爆弾は、木箱に仕掛けた。木箱の大きさは、横二メートル、縦半メートル、高さも半メートルだ。
 ちょうど、腰かけたくなるような大きさだ。無産者革命党の党員たちは、椅子代わりに置いたのだと、誤解したはずだ。
 木箱の中には、大量の釘を入れて、殺傷力を高めている。その大量の釘のおかげで、木箱の重量は重くなり、一人では移動させることができない。
 そのため、無産者革命党の党員が、勝手に個人の判断で、一人で移動させることはない。
 時限爆弾入りの木箱を設置したのは、今日の未明、まだ暗いうちだ。設置したのは、労農革命党の工作員だ。
 時限爆弾を製作し、提供したのは、自由革命党だ。
 爆発音が、聞こえなくなった。
 激しい銃撃音が、再開した。
 発砲音の数からすると、自由革命党の狙撃手に加え、労農革命党の射撃手も、発砲している。
 時限爆弾で生き残った敵兵を、銃撃しているのだ。
 フランクたちも、絞首刑台のかげから顔と両手を出し、発砲を始めた。
 ルビー・クールも、絞首刑台の陰から顔を出し、状況を確認した。
 フランクが、ルビー・クールに向かって、怒鳴った。
 「おまえも敵を射殺しろ! 拳銃持ってるだろ!」
 ルビー・クールは、冷ややかに答えた。
 「お断りよ」
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