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<第四章 第4話>

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  <第四章 第4話>
 帝都大乱八日目、二回目の土曜日。午前三時過ぎ。
 北西エリア第五ブロックの中級ホテルの前には、十台の輸送用馬車と、一台の六名乗り馬車が停車した。
 馬車から、ゾロゾロと男たちが降りた。
 第三師団の拉致部隊だ。一個中隊百名。
 中隊長は、二十歳代後半のせた男だ。几帳面きちょうめんそうな顔をしている。
 ホテルの玄関前で、部下たちを整列させた。小声で命令を出して。
 小声で、部下たちに呼びかけた。
 「おまえら、静かにしろよ。貴族女たちの寝込みを襲うんだからな。一個分隊五名で、一人の女の両腕、両足、それに口を押さえる。いいな」
 部下たちが、黙ってうなずいた。
 中隊長が、玄関から中に入った。部下たちを、引き連れて。
 ロビーでは、無産者革命党員に化けた労農革命党の工作員たちが待っていた。
 工作部隊の隊長から、声をかけた。
 「同志!」
 「おお」
 中隊長も、あいさつを返した。
 工作部隊の隊長が、いきなり説明を始めた。
 「貴族女たちは、全員、最上階のスイートルームです」
 「スイートルームって、なんだ?」
 一瞬、戸惑った。工作部隊の隊長が。
 あまりに無知で、驚いたのだ。労農革命党員と、無産者革命党員との情報格差を、実感した。
 だが、気を取り直した。
 「一番広い部屋です。案内します。どうぞ、こちらへ」
 そう言って先頭に立ち、歩き出した。階段のほうへと。
 「同じ部屋に、七名いるのか?」
 第三師団は、知らない。第一師団が、貴族女性一名を、すでにマフィアに売り飛ばしたことを。
 「はい」
 「やっかいだな。集団になると、魔法攻撃が、手に負えなくなるんだろ」
 第一師団長は、貴族女性の監禁という成果を誇るため、彼女たちの魔法攻撃が如何いかすごかったかを、他の師団幹部に吹聴ふいちょうしていた。
 「一度に百名で襲いかかれば、だいじょうぶでしょう」
 「部屋に、そんなに入れないだろ」
 「入れます。最初の部屋は、大きなリビングルームで、ソファーやローテーブルなどがありますので、暗闇の中で、つまずかないように、気をつけてください。奥の部屋が、ベッドルームです。とても広いので、百名くらい、余裕で入れます」
 工作部隊の隊長は、説明しながら階段を昇り続けた。最上階の五階まで。
 スイートルームのドアの前まで来た。
 ドアの鍵を、合鍵で開けた。
 「奥の部屋のドアには、鍵は、かかっていません。それでは、ご武運を」
 「うむ」
 中隊長とその部下たちが、部屋の奥へとを進めた。音を立てないように、気をつけながら。
 だが数人は、音を立ててしまった。暗闇の中で、ソファーやローテーブルに足をぶつけて。
 中隊長が、奥の部屋のドアを、静かに開けた。
 ベッドルームを、のぞいた。
 暗闇の中でも、広い空間が広がっているのがわかる。
 部屋の中央に、超がつくほどの大型ベッドがある。
 そのベッドには、少女が一名、上を向いて寝ている。
 暗闇のせいか、他の少女の姿は見えない。
 中隊長は、部下たちに、手振りだけで命じた。中に入れ、と。
 続々と、部下の男たちが、中に入った。一個小隊十名ずつ。
 百秒以上かかって、百名全員が、ベッドルームの中に入った。
 先頭の小隊長が小声で、集団の中央にいる中隊長に報告した。
 「ベッドには、一人しか、いません」
 「まずは、その一人だ。静かに、拘束しろ」
 その中隊長の命令を受けて、小隊長が自分の部下たちに命じた。手振りで。
 襲いかかった。五名の男たちが。ベッドで寝ている少女に。
 少女が、寝返りを打った。
 顔を、ドアのほうへ向けた。
 ルビー・クールだ。
 くぐもった音が、聞こえた。続けざまに。ボシュ、ボシュ、ボシュと。
 五名の男たちが、うずくまった。腹を抱えて。声も出せずに。
 魔法詠唱が、聞こえた。
 部屋の奥からだ。
 ダリアだ。
 「なんだ、この声は?」
 思わず中隊長が、つぶやいた。
 部下たちも、声の主を探した。暗闇の中で。
 くぐもった音が、再び聞こえた。連続で。ボシュ、ボシュ、ボシュと。
 男たちが、しゃがみ込んだ。次々に。その数は、五名。
 中隊長の前に立っている男は、皆無となった。
 「魔法攻撃か?」
 そう、つぶやいた直後、中隊長が、うずくまった。腹を抱えて。
 「中隊長!」
 近くの部下が、小声で呼びかけた。
 だが中隊長は、無反応だった。
 男たちが、動揺どうようし始めた。
 小隊長の一人が、指示した。
 「あかりを、つけろ!」
 その直後、部屋が明るくなった。照明器具が、点灯して。
 男たちが、叫んだ。動転して。
 「なんだ、これは!」
 床が、凍っていた。
 しかも、男たちの足まで。氷は男たちの足をい上がり、膝を凍らせ始めている。
 「あ、足が動かない!」
 男たちの後方に、エルザが現れた。鋼鉄製大型スコップを持って。
 エルザが、叫んだ。
 「ここからは、パーティーの時間よ!」 
 奇声をあげながら、スコップを振り下ろした。男たちの脳天に。次々に。嬉々として。
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