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第四章 替え玉作戦で絶体絶命 <第1話>
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<第四章 第1話>
中級貴族令嬢たちに、副署長を紹介した。
帝都大乱初日の土曜日は、北東エリア支署の署長は、出勤していなかった。署長は、貴族だからだ。
北東エリアを、あたかも、副署長が守ってきたかのように、宣伝しておいた。勲章に値する功績だとも、持ち上げておいた。
中級貴族令嬢たちは、慈善団体の会長を務める上級貴族令嬢に、その話をするだろう。運が良ければ、上級貴族令嬢が父に伝え、その父が、上級貴族が務める警察大臣に伝え、勲章が本当に、もらえるかもしれない。
副署長の紹介を手短に済ませたあと、貴族令嬢たちに、あいさつをし、ホテルを出ようとした。
そのときだった。
ヴァレンティーナに、声をかけられた。
「あなた、どこへ行くの?」
「次の作戦が、ありますので」
素っ気なく、答えた。
エミーリアが、口をはさんだ。
「また、誰かの救出を、するのかしら?」
「この街を守るための仕込みの作戦です」
マルガレーテが、口を開いた。
「感謝の礼を、述べるわ。ルビー。今夜のことを。次は、いつ会えるのかしら?」
「もし、生きていれば……」
受付の壁時計を見た。すでに、土曜日になっていた。
「今日の夕方か、夜。忙しくて直接会えなければ、このホテルに、電話をかけますわ。みなさまが宿泊する部屋には、内線電話がありますので」
メラニーが、嬉々として尋ねた。
「その作戦、どんな作戦? あたしも参加したいわ」
「せっかくですが、お断りします。なぜなら、伏兵による奇襲作戦なので。あとから追加戦力を投入すると、奇襲に失敗する確率が高まります」
ヨハナが、尋ねた。心配そうな顔で。
「ルイーザについての情報、あなた、何か、知らないかしら?」
「その件については、あたしも協力者に頼んで、情報を収集します。彼女のことは、必ず、救出します」
エミーリアが、尋ねた。不審そうな顔で。
「あなた、なぜそこまで、あたしたちの救出に、こだわるの? 一度も会ったことないのに」
「決まってますわ。同じ制服だからよ。あなたも、逆の立場なら、そうするでしょ」
それから、少しだけ、はにかんだ。ルビー・クールが。
「それに、ルイーザとは、会ったことがあるわ。一度だけ、声をかけられたことがあるのだけれど、そのときは、素っ気ない態度を取ってしまったのよ。気分が、滅入っていたときだったので」
ルビー・クールは、言葉を続けた。少し、うつむいて。
「友達にならない? と言ってくれたのに、そんな気分ではなかったので、断ったのよ。あたしは、友達をつくらない主義なの、と言って」
これは、真実だ。中等部一年生のとき、入学して、それほど経っていないときだ。たしか、九月の下旬か、十月の上旬だった。
声をかけてくれたのに、断った。
打ちのめされて、いたからだ。そのときは。あらゆる現実に。
娼婦である現実に。学費を稼ぐため、下級貴族としての世間体を保つため、娼婦をせざるを得ない現実に。
加えて、勉強でも、体育でも、魔法でも、上には上がいるという現実に。
何の取り柄もない、薄汚れた娼婦。
自分のことが、嫌で嫌で、たまらなかった。
消えて、なくなりたい。そう思っていた時期だった。
そのときに、声をかけてきたのが、同じクラスのルイーザだ。
彼女も、ルビー・クールと同じく、下層下級貴族だ。彼女は、金髪碧眼の美少女で、身長は、ルビー・クールと同じくらい。頭が良く、体育も、魔法も得意だった。ルビー・クールと同じくらいに。
そのため、同じレベルの少女と思い、声をかけてきたのだろう。
だが彼女には、陰がなかった。彼女は、屈託のない笑顔を浮かべる清らかな少女だった。
ルビー・クールのように、娼婦に転落した少女にとっては、まぶしすぎる笑顔だった。
だから、拒絶した。
だが、今は違う。
彼女を、ルイーザを、絶対に救出する。
ルビー・クールは、心の中で、そう強く誓った。
中級貴族令嬢たちに、副署長を紹介した。
帝都大乱初日の土曜日は、北東エリア支署の署長は、出勤していなかった。署長は、貴族だからだ。
北東エリアを、あたかも、副署長が守ってきたかのように、宣伝しておいた。勲章に値する功績だとも、持ち上げておいた。
中級貴族令嬢たちは、慈善団体の会長を務める上級貴族令嬢に、その話をするだろう。運が良ければ、上級貴族令嬢が父に伝え、その父が、上級貴族が務める警察大臣に伝え、勲章が本当に、もらえるかもしれない。
副署長の紹介を手短に済ませたあと、貴族令嬢たちに、あいさつをし、ホテルを出ようとした。
そのときだった。
ヴァレンティーナに、声をかけられた。
「あなた、どこへ行くの?」
「次の作戦が、ありますので」
素っ気なく、答えた。
エミーリアが、口をはさんだ。
「また、誰かの救出を、するのかしら?」
「この街を守るための仕込みの作戦です」
マルガレーテが、口を開いた。
「感謝の礼を、述べるわ。ルビー。今夜のことを。次は、いつ会えるのかしら?」
「もし、生きていれば……」
受付の壁時計を見た。すでに、土曜日になっていた。
「今日の夕方か、夜。忙しくて直接会えなければ、このホテルに、電話をかけますわ。みなさまが宿泊する部屋には、内線電話がありますので」
メラニーが、嬉々として尋ねた。
「その作戦、どんな作戦? あたしも参加したいわ」
「せっかくですが、お断りします。なぜなら、伏兵による奇襲作戦なので。あとから追加戦力を投入すると、奇襲に失敗する確率が高まります」
ヨハナが、尋ねた。心配そうな顔で。
「ルイーザについての情報、あなた、何か、知らないかしら?」
「その件については、あたしも協力者に頼んで、情報を収集します。彼女のことは、必ず、救出します」
エミーリアが、尋ねた。不審そうな顔で。
「あなた、なぜそこまで、あたしたちの救出に、こだわるの? 一度も会ったことないのに」
「決まってますわ。同じ制服だからよ。あなたも、逆の立場なら、そうするでしょ」
それから、少しだけ、はにかんだ。ルビー・クールが。
「それに、ルイーザとは、会ったことがあるわ。一度だけ、声をかけられたことがあるのだけれど、そのときは、素っ気ない態度を取ってしまったのよ。気分が、滅入っていたときだったので」
ルビー・クールは、言葉を続けた。少し、うつむいて。
「友達にならない? と言ってくれたのに、そんな気分ではなかったので、断ったのよ。あたしは、友達をつくらない主義なの、と言って」
これは、真実だ。中等部一年生のとき、入学して、それほど経っていないときだ。たしか、九月の下旬か、十月の上旬だった。
声をかけてくれたのに、断った。
打ちのめされて、いたからだ。そのときは。あらゆる現実に。
娼婦である現実に。学費を稼ぐため、下級貴族としての世間体を保つため、娼婦をせざるを得ない現実に。
加えて、勉強でも、体育でも、魔法でも、上には上がいるという現実に。
何の取り柄もない、薄汚れた娼婦。
自分のことが、嫌で嫌で、たまらなかった。
消えて、なくなりたい。そう思っていた時期だった。
そのときに、声をかけてきたのが、同じクラスのルイーザだ。
彼女も、ルビー・クールと同じく、下層下級貴族だ。彼女は、金髪碧眼の美少女で、身長は、ルビー・クールと同じくらい。頭が良く、体育も、魔法も得意だった。ルビー・クールと同じくらいに。
そのため、同じレベルの少女と思い、声をかけてきたのだろう。
だが彼女には、陰がなかった。彼女は、屈託のない笑顔を浮かべる清らかな少女だった。
ルビー・クールのように、娼婦に転落した少女にとっては、まぶしすぎる笑顔だった。
だから、拒絶した。
だが、今は違う。
彼女を、ルイーザを、絶対に救出する。
ルビー・クールは、心の中で、そう強く誓った。
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