絶体絶命ルビー・クールの逆襲<救出編>

蛇崩 通

文字の大きさ
上 下
17 / 53

<第三章 第4話>

しおりを挟む
  <第三章 第4話>
 労農革命党の小隊長が、怒鳴った。
 「お嬢さんがた、逃げろ! ここは、オレたちが食い止める」
 一台目の馬車の馬車馬たちも、枯れた芝生を、むさぼり食っている。よほど、腹が減っていたのだろう。
 「いいえ! あなたたちこそ、先に逃げなさい!」
 ヴァレンティーナが、そう叫んだ。顔色一つ変えずに。
 小隊長が、怒鳴った。
 「女をおいて、男が逃げられるか! 野郎ども、ここで敵を阻止するぞ!」
 労農革命党の戦闘員たちが、いっせいに、ときの声をあげた。
 戦闘員五名のうち、猟銃は一挺だけ。四名は、一メートルほどの長さの角材だ。
 彼ら五名だけでは、あっという間に全滅だ。
 ルビー・クールが、叫んだ。
 「ヨハナ! 猟銃を彼らに渡して! 全員、元兵士の戦争経験者よ!」
 ヴァレンティーナが、命令を発した。力強い声で。
 「全員、一列横隊! 魔法攻撃用意!」
 貴族令嬢六名が、一列に、横に並んだ。駆け寄ってくる敵兵たちを、向かい撃つために。
 労農革命党の戦闘員たちが、貴族令嬢たちの前に立った。一列横隊で。
 ヴァレンティーナが、叫んだ。
 「あなたたちは、先に逃げなさい! 下々しもじもの者を守るのが、貴族の神聖なる責務です!」
 小隊長が、怒鳴り返した。
 「女を守るのは、男の責務だ!」
 ルビー・クールが、叫んだ。両者の論争を無視して。
 「前列は、一メートル間隔で一列横隊! 後列は、前列の隙間すきまから、魔法攻撃よ!」
 振り返った。後方を。
 馭者ぎょしゃたちが、いた。おびえた表情だ。
 彼らは労農革命党の党員だが、戦闘員ではない。
 「あなたたちは、北西エリアに走って逃げて! ただし、赤いベレー帽を、かぶってからよ!」
 小隊長と四名の部下たちは、すでに、赤いベレー帽をかぶっている。
 北西エリアの周囲には、自由革命党の狙撃手が配備されている。
 通常は、百メートルに一人の割合だ。狙撃手は、大通り沿いの五階建てビルに潜んでいる。五階の窓の奥だ。
 だが今夜だけは、ダリアに頼んで、北西エリア第一ブロックの南西端に、二十名を集中配備してもらった。敵が中央分離帯を越えると、狙撃することになっている。
 敵と味方の男とを区別する目印が、赤いベレー帽だ。
 もちろん、今夜だけだが。
 南一区では、これまで、自由革命党と、労農革命党は、共闘していなかった。ダリアとルビー・クールにより、今夜から、一時的に共闘することになったのだ。
 小隊長が、命じた。「撃て」と。
 発砲した。二名の射撃手が。
 先頭の敵兵二名が、腹を撃たれて倒れた。
 だが、他の敵兵は、走る速度を緩めることなく、駆け寄ってきた。
 小隊長の脇を通り、ルビー・クールが、前に進み出た。魔法詠唱しながら、魔法の釘を投げつけながら。
 後方からも、魔法詠唱が聞こえた。貴族令嬢たちが、次々に、魔法の火球を投げつけ始めた。
 ヴァレンティーナが、大声で命じた。
 「全員、隊形を保ったまま、後退、始め! 戦いながら、後退するわよ!」
 敵の中隊長が、怒鳴った。
 「包囲だ! 包囲せよ!」
 二十名から三十名の敵が、左右で、前進した。
 まずい。このままだと、包囲される。
 ルビー・クールは、右手に持った赤い雨傘を高くかかげた。
 傘を開いた。傘を、振った。前方と、左右に。
 その二秒か三秒後、銃声がひびいた。複数の銃声が。五月雨式に。後方、すなわち、東側から。
 二十名の敵が、倒れた。頭部を撃ち抜かれて。
 自由革命党の狙撃手だ。
 その三秒か四秒後には、ふたたび銃声が響いた。
 ふたたび、二十名の敵が、倒れた。頭部を撃ち抜かれて。
 自由革命党の狙撃手たちは皆、最高の腕前だ。そのうえ、中央分離帯は街灯があるため、敵の姿がよく見えるはずだ。
 十数秒で、百名近くの敵が、射殺された。
 ルビー・クールは、後方を振り返った。傘を閉じながら。
 後方には、すでに一個小隊十名の敵が、回り込んでいた。
 魔法詠唱しながら、魔法の釘を投げつけた。
 九名の男たちが、絶叫した。右目に、魔法の釘を突き立てられて。
 ルビー・クールが、襲いかかった。鋼鉄製の雨傘で。
 エミーリアとメラニーも、襲いかかった。後方の敵に。
 七秒か八秒で、十名全員を倒した。
 ルビー・クールが、叫んだ。
 「今が、好機よ! 北東エリアまで、走るわよ!」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

『神楽坂オカルト探偵事務所 〜都市伝説と禁忌の事件簿〜』

ソコニ
ミステリー
「都市伝説は嘘か真か。その答えは、禁忌の先にある。」 ## 紹介文 神楽坂の路地裏に佇む一軒の古い洋館。その扉に掛かる看板には「神楽坂オカルト探偵事務所」と記されている。 所長の九条響は元刑事。オカルトを信じないと公言する彼だが、ある事件をきっかけに警察を辞め、怪異専門の探偵となった。彼には「怪異の痕跡」を感じ取る特殊な力があるが、その代償として激しい頭痛に襲われる。しかも、彼自身の記憶の一部が何者かによって封印されているらしい。 事務所には個性的な仲間たちがいる。天才ハッカーの霧島蓮、陰陽術の末裔である一ノ瀬紅葉、そして事務所に住み着いた幽霊の白石ユウ。彼らは神楽坂とその周辺で起きる不可解な事件に挑んでいく

強制憑依アプリを使ってみた。

本田 壱好
ミステリー
十八年間モテた試しが無かった俺こと童定春はある日、幼馴染の藍良舞に告白される。 校内一の人気を誇る藍良が俺に告白⁈ これは何かのドッキリか?突然のことに俺は返事が出来なかった。 不幸は続くと言うが、その日は不幸の始まりとなるキッカケが多くあったのだと今となっては思う。 その日の夜、小学生の頃の友人、鴨居常叶から当然連絡が掛かってきたのも、そのキッカケの一つだ。 話の内容は、強制憑依アプリという怪しげなアプリの話であり、それをインストールして欲しいと言われる。 頼まれたら断れない性格の俺は、送られてきたサイトに飛んで、その強制憑依アプリをインストールした。 まさかそれが、運命を大きく変える出来事に発展するなんて‥。当時の俺は、まだ知る由もなかった。

友達の母親が俺の目の前で下着姿に…

じゅ〜ん
エッセイ・ノンフィクション
とあるオッサンの青春実話です

さんざめく左手 ― よろず屋・月翔 散冴 ―

流々(るる)
ミステリー
【この男の冷たい左手が胸騒ぎを呼び寄せる。アウトローなヒーロー、登場】 どんな依頼でもお受けします。それがあなたにとっての正義なら 企業が表向きには処理できない事案を引き受けるという「よろず屋」月翔 散冴(つきかけ さんざ)。ある依頼をきっかけに大きな渦へと巻き込まれていく。彼にとっての正義とは。 サスペンスあり、ハードボイルドあり、ミステリーありの痛快エンターテイメント! ※さんざめく:さざめく=胸騒ぎがする(精選版 日本国語大辞典より)、の音変化。 ※この作品はフィクションです。実在の人物・団体とは関係ありません。

魔女の虚像

睦月
ミステリー
大学生の星井優は、ある日下北沢で小さな出版社を経営しているという女性に声をかけられる。 彼女に頼まれて、星井は13年前に裕福な一家が焼死した事件を調べることに。 事件の起こった村で、当時働いていたというメイドの日記を入手する星井だが、そこで知ったのは思いもかけない事実だった。 ●エブリスタにも掲載しています

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

伏線回収の夏

影山姫子
ミステリー
ある年の夏。俺は15年ぶりにT県N市にある古い屋敷を訪れた。某大学の芸術学部でクラスメイトだった岡滝利奈の招きだった。かつての同級生の不審死。消えた犯人。屋敷のアトリエにナイフで刻まれた無数のXの傷。利奈はそのなぞを、ミステリー作家であるこの俺に推理してほしいというのだ。俺、利奈、桐山優也、十文字省吾、新山亜沙美、須藤真利亜の六人は、大学時代にこの屋敷で共に芸術の創作に打ち込んだ仲間だった。グループの中に犯人はいるのか? 脳裏によみがえる青春時代の熱気、裏切り、そして別れ。懐かしくも苦い思い出をたどりながら事件の真相に近づく俺に、衝撃のラストが待ち受けていた。 《あなたはすべての伏線を回収することができますか?》

一人分のエンドロール

三嶋トウカ
ミステリー
 ある日俺【野元最乃-のもともの】は、一人の女性が事故死する場面に出くわした。 その女性の名前は【元伊織-はじめいおり-】といい、俺の職場のすぐ近くのカフェで働いている。 人生で一度あるかないか、そんな稀有な状況。 ――だと思っていたのに。  俺はこの後、何度も何度も彼女の死を見届けることになってしまった。 「どうやったら、この状況から逃げ出せるのだろう?」  俺は彼女を死から救うために『その一日が終わるまでに必ず死んでしまう彼女』を調べることにした。  彼女のために。  ひいては、俺のためにも。

処理中です...