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<第三章 第2話>
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<第三章 第2話>
「中隊長!」
絶叫した。無産者革命党の戦闘員たちが。
発砲したのは、櫓の上の労農革命党戦闘員だ。
櫓は、バリケードのドアの両脇に設置されている。二階建て住宅くらいの高さだ。
二つの櫓の上には、三名ずつ配置されている。猟銃を持つ射撃手は、一名ずつだ。
火炎瓶を投げつけた。二つの櫓の上から。バリケードのドアに迫った敵に対して。
さらに、投石も加え始めた。櫓の上から。
バリケードのドアが、閉じた。完全に。
「撤退! 撤退!」
中隊長とは別の男の声が、聞こえた。中隊副隊長だろう。
中隊長は、死亡か、重傷なのだろう。
とりあえず、逃げ切った。
ホッと胸をなで下ろした。
「ありがとうございます。ヴァレンティーナ様、マルガレーテ様、それに、みなさん。おかげで、敵の包囲から脱出できました」
ルビー・クールが、礼を述べた。
上から目線で、ヴァレンティーナが答えた。
「あなたを助けるのは当然よ。同じ制服を、着ているのだから」
感銘を受けた。その言葉に。少しだけだが。
中級貴族令嬢への苦手意識が、低下した。ほんのわずかだけ。
櫓の上の戦闘員にも、手を振って礼を述べた。
馬車に、乗り込んだ。
だが、馬車は二台しかない。
いずれも、六名乗りだ。
後方の馬車に、貴族令嬢六名が乗り込んだ。
ルビー・クールは、後方の馬車のドアを開け、ドア口に立った。片手で、馬車の屋根の部分を、つかみながら。
二台の馬車が、走り出した。東へ向かって。
銃声が聞こえたせいか、真夜中なのに、付近の住民の一部が、木造アパートの外に出ていた。様子を見るためだろう。
少年が、手を振った。馬車に、立ち乗りしているルビー・クールを見て。
ルビー・クールも、手を振り返した。
少年が喜んで、アパートの中の者へ、呼びかけた。
「ルビー・クールだ! たぶん!」
次々に、少年や若者が、木造アパートの窓から、顔を出した。
少年たちや若者たちが手を振るので、手を振り返した。
彼らの間で、すぐに論争になった。
馬車に立ち乗りしている金髪美女は、女革命家ルビー・クールか否かについて。
「女革命家ルビー・クール」の噂は、南一区にも広まっていた。南三区の無産者革命党二個師団一万名を、全滅させた立役者として。もちろん、噂には尾ひれが付いている。
二台目の馬車は、七人も乗っているせいか、時速十キロメートルも出ていなかった。
そのせいで、多くのアパートの窓から、地元住民たちに、目撃されてしまった。
本当は、目立ちたくないのだが。
労働者街は、街灯と街灯との間隔が長く、薄暗い。そのおかげで、顔をはっきり見られることは、ないだろう。
十数分で、第三ブロックの南東端に到達した。
第三ブロックの警備隊長が、近寄ってきた。先頭の馬車から、小隊長が降りた。
ルビー・クールも、すぐさま二人のそばへ行った。
「まずい状況だ」
警備隊長が、渋い顔で話し始めた。
「第六ブロックの北東端に、敵が集結している」
小隊長が尋ねた。
「数は?」
「三百名ほどだ」
三百名ならば、三個中隊だ。いや、一個大隊と言ったほうが良いだろう。
無産者革命党は、一個中隊百名が、基本単位だ。十個中隊で一個連隊を構成する。一個連隊は、三個大隊に分割できる。それぞれの大隊長は、第一中隊、第五中隊、第八中隊の中隊長が兼務する。
苦虫をかみつぶしたような顔で、小隊長が、つぶやいた。
「多いな。第二ブロックで、発砲したせいかも、しれないな」
北西エリアと北東エリアの間には、南北大通りがある。片側五車線で、中央分離帯もある。両側の歩道も含めると、通りの幅は、およそ百メートルだ。
二台の馬車の馬車馬は、疲れが出始めている。替えの馬車馬は、ない。しかも、二台目は、定員オーバーだ。速度が、出ない可能性がある。
馬車の速度は、通常は時速十キロメートルくらいだ。そのため、百メートルの距離なら、三十六秒かかる。馬車馬を全力疾走させれば、時速四十キロメートルほど出るはずだ。その場合は、百メートルを走るのに九秒かかる。
だが、二台目の馬車の馬車馬は、かなり疲れている。時速二十キロメートルの速度しか出なければ、幅百メートルの南北大通りを渡るのに、十八秒かかる。
足の速い若い男たちならば、追いつける速度だ。
敵の追撃を迎撃しながら、南北大通りを渡るしかない。
ルビー・クールは、貴族令嬢たちに説明した。追撃する敵を振り切るための作戦について。
「中隊長!」
絶叫した。無産者革命党の戦闘員たちが。
発砲したのは、櫓の上の労農革命党戦闘員だ。
櫓は、バリケードのドアの両脇に設置されている。二階建て住宅くらいの高さだ。
二つの櫓の上には、三名ずつ配置されている。猟銃を持つ射撃手は、一名ずつだ。
火炎瓶を投げつけた。二つの櫓の上から。バリケードのドアに迫った敵に対して。
さらに、投石も加え始めた。櫓の上から。
バリケードのドアが、閉じた。完全に。
「撤退! 撤退!」
中隊長とは別の男の声が、聞こえた。中隊副隊長だろう。
中隊長は、死亡か、重傷なのだろう。
とりあえず、逃げ切った。
ホッと胸をなで下ろした。
「ありがとうございます。ヴァレンティーナ様、マルガレーテ様、それに、みなさん。おかげで、敵の包囲から脱出できました」
ルビー・クールが、礼を述べた。
上から目線で、ヴァレンティーナが答えた。
「あなたを助けるのは当然よ。同じ制服を、着ているのだから」
感銘を受けた。その言葉に。少しだけだが。
中級貴族令嬢への苦手意識が、低下した。ほんのわずかだけ。
櫓の上の戦闘員にも、手を振って礼を述べた。
馬車に、乗り込んだ。
だが、馬車は二台しかない。
いずれも、六名乗りだ。
後方の馬車に、貴族令嬢六名が乗り込んだ。
ルビー・クールは、後方の馬車のドアを開け、ドア口に立った。片手で、馬車の屋根の部分を、つかみながら。
二台の馬車が、走り出した。東へ向かって。
銃声が聞こえたせいか、真夜中なのに、付近の住民の一部が、木造アパートの外に出ていた。様子を見るためだろう。
少年が、手を振った。馬車に、立ち乗りしているルビー・クールを見て。
ルビー・クールも、手を振り返した。
少年が喜んで、アパートの中の者へ、呼びかけた。
「ルビー・クールだ! たぶん!」
次々に、少年や若者が、木造アパートの窓から、顔を出した。
少年たちや若者たちが手を振るので、手を振り返した。
彼らの間で、すぐに論争になった。
馬車に立ち乗りしている金髪美女は、女革命家ルビー・クールか否かについて。
「女革命家ルビー・クール」の噂は、南一区にも広まっていた。南三区の無産者革命党二個師団一万名を、全滅させた立役者として。もちろん、噂には尾ひれが付いている。
二台目の馬車は、七人も乗っているせいか、時速十キロメートルも出ていなかった。
そのせいで、多くのアパートの窓から、地元住民たちに、目撃されてしまった。
本当は、目立ちたくないのだが。
労働者街は、街灯と街灯との間隔が長く、薄暗い。そのおかげで、顔をはっきり見られることは、ないだろう。
十数分で、第三ブロックの南東端に到達した。
第三ブロックの警備隊長が、近寄ってきた。先頭の馬車から、小隊長が降りた。
ルビー・クールも、すぐさま二人のそばへ行った。
「まずい状況だ」
警備隊長が、渋い顔で話し始めた。
「第六ブロックの北東端に、敵が集結している」
小隊長が尋ねた。
「数は?」
「三百名ほどだ」
三百名ならば、三個中隊だ。いや、一個大隊と言ったほうが良いだろう。
無産者革命党は、一個中隊百名が、基本単位だ。十個中隊で一個連隊を構成する。一個連隊は、三個大隊に分割できる。それぞれの大隊長は、第一中隊、第五中隊、第八中隊の中隊長が兼務する。
苦虫をかみつぶしたような顔で、小隊長が、つぶやいた。
「多いな。第二ブロックで、発砲したせいかも、しれないな」
北西エリアと北東エリアの間には、南北大通りがある。片側五車線で、中央分離帯もある。両側の歩道も含めると、通りの幅は、およそ百メートルだ。
二台の馬車の馬車馬は、疲れが出始めている。替えの馬車馬は、ない。しかも、二台目は、定員オーバーだ。速度が、出ない可能性がある。
馬車の速度は、通常は時速十キロメートルくらいだ。そのため、百メートルの距離なら、三十六秒かかる。馬車馬を全力疾走させれば、時速四十キロメートルほど出るはずだ。その場合は、百メートルを走るのに九秒かかる。
だが、二台目の馬車の馬車馬は、かなり疲れている。時速二十キロメートルの速度しか出なければ、幅百メートルの南北大通りを渡るのに、十八秒かかる。
足の速い若い男たちならば、追いつける速度だ。
敵の追撃を迎撃しながら、南北大通りを渡るしかない。
ルビー・クールは、貴族令嬢たちに説明した。追撃する敵を振り切るための作戦について。
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