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第三章 逃走難航で絶体絶命 <第1話>

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  <第三章 第1話>
 そのときだった。
 魔法詠唱が、聞こえた。
 北側からだ。
 男たちが、絶叫した。
 北側に布陣した無産者革命党の戦闘員たちが、あわてて左右に、すなわち東西に、移動し始めた。
 現れた。北側に。六名の制服少女たちが。
 ヴァレンティーナたちだ。
 次々に、ファイアー・ボールを投げつけた。下級貴族令嬢たちは、本物のファイアーボールも混ぜながら。
 ヴァレンティーナが、叫んだ。
 「ルビー! 後退しなさい! そして、あたくしたちの戦列に、加わりなさい!」
 「了解です! 助かりました!」
 ルビー・クールは、駆け出した。ヴァレンティーナとマルガレーテの間を、すり抜けた。
 無産者革命党の中隊長が、怒鳴った。
 「包囲だ! 包囲せよ!」
 それに対し、ヴァレンティーナが鋭い声で、指示を飛ばした。
 「エミーリアとヨハナは、右翼の敵を迎撃! メラニーとリーゼロッテは、左翼の敵を迎撃せよ!」
 下級貴族令嬢たちが、叫んだ。
 「了解!」「了解!」「了解!」「了解!」と。魔法のファイアー・ボールを投げながら。
 右翼が、押されていた。
 火掻き棒を持つエミーリアが前衛で、猟銃を持つヨハナは、後衛だ。
 ヨハナは、右手で猟銃を持ちつつも発砲はせず、左手で魔法のファイアー・ボールを投げつけている。猟銃を持っているせいで、本物のファイアーボールは投げられない。
 ルビー・クールが、支援に入った。エミーリアたちの後方に立って。
 魔法詠唱した。魔法の釘を、投げつけた。一度に九本。
 九名の男たちが、絶叫した。左目に、魔法の釘を刺されて。
 そのすきを、逃さなかった。
 エミーリアが、襲いかかった。絶叫している男たちに。火掻き棒を振り上げて。
 ルビー・クールも、男たちに襲いかかった。魔法詠唱しつつ、魔法の釘を投げつけながら。赤い鋼鉄製雨傘で。
 次々に、男たちを倒した。
 わずか五秒か六秒で、エミーリアとルビー・クールは、合計十名以上の男たちを、失神昏倒させた。
 マルガレーテが叫んだ。
 「左翼、押し込まれているわ! ルビー! 左翼の支援をお願い!」
 「了解!」
 ルビー・クールは、制服少女たちの背後を、西から東に向かって駆け抜けた。
 メラニーたちの背後から、魔法の釘を投げつけた。次々に。
 キッチンナイフを持つメラニーが前衛で、リーゼロッテが後衛だ。
 リーゼロッテは、金髪の中肉中背で、おとなしそうな少女だ。
 だが次々に、ファイアー・ボールを投げつけている。本物も混ぜながら。
 魔法詠唱しながら、ルビー・クールが魔法の釘を投げつけた。リーゼロッテと肩を並べて。次から次へと。
 形勢が、逆転した。左翼の攻防の。
 メラニーが、踏み込んだ。右目に魔法の釘を刺されて絶叫し、前進が止まった敵に対し。
 男たちの手首を、切り裂いた。次々に。ナイフを持った手の手首を。
 ルビー・クールも前進した。雨傘の先端で、敵のみぞおちを、次々に突きながら。
 チラリと、中央を見た。
 押し込まれていた。ヴァレンティーナとマルガレーテが。
 物理攻撃が、ないからだ。
 中央の敵は、三十名ほど。
 数が多いため、テニスボールほどの魔法の火球を、次々に投げつけている。
 魔法構造物の数を増やすと、一つ一つの大きさは、小さくなる。
 物理攻撃を混ぜない魔法攻撃だけの場合、小さな魔法だと、相手の恐怖心が低下し、魔法攻撃の効果も低下する。
 現在、そうした状況に、なりつつある。
 ルビー・クールが、声をかけた。メラニーとリーゼロッテに。
 「中央の支援に行くわ!」
 いったん後退してから、中央に向かった。
 ヴァレンティーナとマルガレーテの間に、入った。魔法の釘を投げつけながら。
 絶叫した。九名の男たちが。
 前進した。ルビー・クールが。魔法の釘を投げながら。雨傘の突きの連打を、次々に決めながら。
 十名以上を、悶絶もんぜつさせた。雨傘の突きで。
 ヴァレンティーナが叫んだ。
 「ルビー! 前に出すぎよ! 後退しなさい!」
 「了解!」
 さらに、叫んだ。ヴァレンティーナが。
 「今が好機よ! 全員、戦闘隊形のまま、後退!」
 六名の貴族令嬢たちが、北に向かって後退し始めた。魔法の火球を、敵に投げつけながら。
 北側で、男たちが叫んでいる。
 「お嬢さんがた、早く中へ!」
 労農革命党の戦闘員たちだ。
 振り向くと、バリケードのドアが、開き始めていた。
 馬車の車体にブリキ板を張り付け、スライド式ドアにしていた。
 ブリキ板を張ったのは、放火対策だろう。
 貴族令嬢たちが、バリケードの内側へ跳び込んだ。次々と。
 最後に、ルビー・クールが跳び込んだ。
 男たちが人力で車体を押して、バリケードのドアを閉め始めた。
 敵の中隊長が、怒鳴った。
 「ドアが開いているぞ! 今がチャンスだ! 中へ跳び込め!」
 無産者革命党の戦闘員たちが、殺到した。閉まり始めたドアに向かって。
 そのときだった。
 銃声が、とどろいた。
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