絶体絶命ルビー・クールの逆襲<救出編>

蛇崩 通

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<第二章 第4話>

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  <第二章 第4話>
 失神していたヨハナは、すぐに意識を取り戻した。
 エミーリアたち三名は皆、小学生時代に、射撃訓練を受けていた。兄や弟たちと共に。帝国陸軍下級将校の父親から。使用したのは、二十二口径の子供向け練習用ライフル銃だ。
 猟銃を、渡した。練習用ライフル銃と、操作方法が同じだと伝えて。実弾の入った袋と共に。
 ルビー・クールは、赤い雨傘を右手に持ち、馬車を降りた。
 先頭の馬車に向かった。
 中央の馬車のそばを通過する際、声をかけられた。ヴァレンティーナに。
 「何が起きたのですか?」
 「わかりません。今、調べます」
 先頭の馬車の脇に立った。労農革命党の小隊長が、窓から顔を出し、前方を見ていた。
 「トラブルですか?」
 その問いに、小隊長が渋い顔で答えた。
 「ああ。向こうの十字路に、十名ほどいる。無産者革命党の一個小隊だろう。事前の情報では、あの十字路に、見張りは、いないはずだったが」
 「作戦が、失敗した可能性が強いですね。ワイン作戦が」
 無産者革命党は、労農革命党の反撃を恐れ、第四、第五、第六ブロックの北辺に、一個連隊千名を、張り付けている。各ブロックとも三個中隊が、一日三交代制で、二十四時間、警備にあたっている。
 第五ブロックの北辺では、五箇所に、一個小隊十名が、配置されている。残りの五個小隊五十名は、すぐに駆けつけられるように、第五ブロックの中央北側に、待機している。
 各ブロックは、一辺が千五百メートル強の正方形だ。
 よって、見張り役の小隊は、約三百メートル間隔で、配備されている。
 計画では、労農革命党の工作員たちが、無産者革命党員のふりをして、睡眠薬入りのワインと、ソーセージやチーズなどのつまみを持って接近する。言葉巧みに言いくるめ、睡眠薬入りワインを飲ませ、眠らせる。彼らが眠りこけている間に、警備網をすり抜け、第二ブロックへ行く予定だった。
 その計画は、おそらく、失敗した。
 怪しいと感じた無産者革命党の中隊長が、見張りを増やしたのだろう。
 「同志ルビー・クール。ルートを、変えよう」
 小隊長が、そう呼びかけた。
 「ルートを変えても、見張りに見つかる可能性があるわ。強行突破しましょう」
 「だが、伝令が本隊に派遣されたら、敵は大群で襲ってくるぞ」
 「伝令を派遣できなければ、問題ないわ」
 「妙案が、あるのか?」
 「ええ。あたしに、まかせて」
 現在のルビー・クールは、制服の上に、ベージュのロングコートを着ている。
 そのため、帝国魔法学園の学生には、見えないはずだ。
 赤い雨傘を右手に持ち、一つ先の十字路に向かった。
 途中で、十字路にたむろしている男たちが、気づいた。ルビー・クールに。
 「止まれ! おまえ、何者だ! こんな深夜に、怪しいぞ。それに、向こうの馬車も。誰が乗っている?」
 馬車は、街灯と街灯の間の中間付近に、停車している。つまり、最も暗い場所だ。そのため、ルビー・クールが近づくまで、馬車に気づかなかったようだ。
 無表情で、答えた。ルビー・クールが。足早に、近づきながら。
 「馬車に乗っているのは、無産者革命党の幹部よ。会議が長引いてしまってね」
 「会議? なんだそれは。そんな話、聞いてない!」
 「でしょうね。あなたたちのような下っ端には、話す必要のないことだから」
 「幹部って、誰だ? 連隊長か?」
 「違うわ。第三師団の師団長閣下よ」
 その言葉に、男たちは息をのんだ。
 ルビー・クールは、さらに距離を詰めた。足早に。
 街灯の下の十字路に、たどり着いた。手前の男との距離は、一歩踏み込めば、雨傘の先端を打ち込める距離だ。
 「女が、なぜ師団長閣下と一緒にいるんだ?」
 「きまってるでしょ。あたしは秘書よ。第三師団長閣下の」
 「秘書って、何だ?」
 そこから説明しなければ、ならないのか。心の中で、肩をすくめた。
 「秘書の仕事は、たくさんあるけれど、会議の議事録も作るわ」
 「議事録って、なんだ?」
 もう、充分に接近した。
 小隊長以外の男たちも、興味津々で、ルビー・クールに近づいてきている。
 充分だ。
 左手を、コートのポケットから出した。
 襲いかかった。魔法詠唱しながら。
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