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<第二章 第3話>
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<第二章 第3話>
馬車に乗って、すぐだった。
エミーリアが、要求してきた。
「その火掻き棒、返してよ」
エミーリア、ヨハナ、メラニーの三名は、向かい側の席に座っている。エミーリアが、中央だ。ルビー・クールから見て、エミーリアの右手側に座っているのが、メラニーだ。
「返したら、また、あたしのことを殴るんでしょ。この火掻き棒で」
「あら、やっぱり、あたっていたのね。あたしの一撃が。なにか鋼鉄のようなモノで、跳ね返されたような感触だったんだけど。どんなトリックを使ったのかしら。まさか、魔法では、ないわよね」
「ええ。魔法では、ないわ」
ルビー・クールは、火掻き棒を、背後に置いた。背中と座席の背もたれの間には、猟銃もある。
左手の袖に、右手を入れた。
短剣を、取り出した。
「鋼鉄製よ」
見せつけたあと、ふたたび、戻した。左袖の内側に。鞘のボタンも、しっかりと留めた。
貴族令嬢たちが息を飲み、数秒間、凍りついた。
「あなた、なぜ、そんなもの持ち歩いてるの?」
ヨハナが尋ねた。動転した様子で。
ルビー・クールが、冷ややかに答えた。
「決まってるでしょ。それだけ、最近の平民区は危険なのよ」
引きつった表情で、メラニーが尋ねた。
「その短剣で、人を殺した?」
「ええ。帝都大乱以降ね。無産者革命党の戦闘員たちを」
「何人殺したの?」
「覚えてないわ。拳銃でも、殺したし」
そう言って、ルビー・クールは、右手でスカートを引っ張り上げた。ロングスカートの右裾が、持ち上がった。
足首の外側に装着したホルスターが、現れた。
少し右足をあげて、見せつけた。リボルバーが、ホルスターに収納されているのを。
警戒の表情で、メラニーが吐き捨てた。
「その気になれば、あなたは、あたしたちのことを簡単に殺せるわけね」
「殺さないわ。なぜなら、あなたたちの命を、救いに来たのだから」
「救う、救うと、上から目線で、気に食わないわね」
そう吐き捨てた。エミーリアが。
何と答えたものか迷い、しばし、沈黙した。
数十秒間、沈黙が流れた。重苦しい雰囲気で、誰も口を開かなかった。
そのときだった。
突然、馬車が停まった。
おかしい。
今は深夜だ。交通信号機は、点灯していない。
何かのトラブルだ。
「裏切ったわね!」
メラニーが叫んだ。
襲いかかってきた。右手に逆手で持ったナイフで。
顔面に刃先が刺さる直前、右手でつかんだ。ルビー・クールが、メラニーの右手首を。
次の瞬間、エミーリアが、襲ってきた。右ストレート・パンチで。ルビー・クールの顔面を。
左腕で、防いだ。鋼鉄製短剣を仕込んだ部分で。
ギャッと、エミーリアが叫んだ。右の拳を痛めて。
その直後、ヨハナが襲ってきた。胴体タックルだ。
左肘を、打ち下ろした。彼女の後頭部に。
その一撃で、ヨハナは失神した。
メラニーが、ナイフを押し込んできた。右手の上に左手をあて、体重をかけて。
まずい。これは。力負けする。右腕一本では。
左手を右手首にあて、押し返そうとした。
だが、押し返せない。メラニーは立った状態で、体重をかけてくるからだ。
一方のルビー・クールは、座ったままだ。
エミーリアが、ふたたび、殴りかかってきた。
今度は、右のオーバーハンド・ストレートだ。
左の肘を上げた。左手首の位置を変えずに。
左肘に、あたった。エミーリアの右拳が。
次の瞬間、下半身を右側に、ひねった。左足で、蹴った。左から右へと。エミーリアの脇腹を。
応用だ。女工作員ローズの蹴り技の。
次の瞬間、右足で、メラニーを蹴った。つま先で、みぞおちを。
メラニーの腕から、力が抜けた。
その好機を逃さず、彼女の右手から、ナイフをもぎ取った。梃子の原理を応用して。
エミーリアとメラニーは、呻いている。激痛で、腹を抱えて。
あと数秒間は、戦闘不能だろう。
ルビー・クールが、口を開いた。
「何かトラブルが起きたようだから、先頭の馬車へ、様子を見に行くわ」
「そう言って、あたしたちを、引き渡すつもりね。相手は、貴族令嬢を性奴隷にしたいブルジョアか、人身売買で金儲けしているマフィアかしら」
苦々しく、そう吐き捨てた。エミーリアが。右脇腹を、抱えながら。
「そんなこと、しないわ。それより、あなたたち、猟銃は撃てるかしら?」
「そんなこと聞いて、どうするのよ?」
「あなたたちに、猟銃と実弾を、あずけるわ。それに、キッチンナイフと火掻き棒も返すわ」
「なぜ?」
「きまってるでしょ。無産者革命党に見つかったのなら、奴らは大軍で襲いかかってくるわ。生きのびるためには、戦わないと。もし捕まれば、明日の正午には、公開絞首刑よ」
馬車に乗って、すぐだった。
エミーリアが、要求してきた。
「その火掻き棒、返してよ」
エミーリア、ヨハナ、メラニーの三名は、向かい側の席に座っている。エミーリアが、中央だ。ルビー・クールから見て、エミーリアの右手側に座っているのが、メラニーだ。
「返したら、また、あたしのことを殴るんでしょ。この火掻き棒で」
「あら、やっぱり、あたっていたのね。あたしの一撃が。なにか鋼鉄のようなモノで、跳ね返されたような感触だったんだけど。どんなトリックを使ったのかしら。まさか、魔法では、ないわよね」
「ええ。魔法では、ないわ」
ルビー・クールは、火掻き棒を、背後に置いた。背中と座席の背もたれの間には、猟銃もある。
左手の袖に、右手を入れた。
短剣を、取り出した。
「鋼鉄製よ」
見せつけたあと、ふたたび、戻した。左袖の内側に。鞘のボタンも、しっかりと留めた。
貴族令嬢たちが息を飲み、数秒間、凍りついた。
「あなた、なぜ、そんなもの持ち歩いてるの?」
ヨハナが尋ねた。動転した様子で。
ルビー・クールが、冷ややかに答えた。
「決まってるでしょ。それだけ、最近の平民区は危険なのよ」
引きつった表情で、メラニーが尋ねた。
「その短剣で、人を殺した?」
「ええ。帝都大乱以降ね。無産者革命党の戦闘員たちを」
「何人殺したの?」
「覚えてないわ。拳銃でも、殺したし」
そう言って、ルビー・クールは、右手でスカートを引っ張り上げた。ロングスカートの右裾が、持ち上がった。
足首の外側に装着したホルスターが、現れた。
少し右足をあげて、見せつけた。リボルバーが、ホルスターに収納されているのを。
警戒の表情で、メラニーが吐き捨てた。
「その気になれば、あなたは、あたしたちのことを簡単に殺せるわけね」
「殺さないわ。なぜなら、あなたたちの命を、救いに来たのだから」
「救う、救うと、上から目線で、気に食わないわね」
そう吐き捨てた。エミーリアが。
何と答えたものか迷い、しばし、沈黙した。
数十秒間、沈黙が流れた。重苦しい雰囲気で、誰も口を開かなかった。
そのときだった。
突然、馬車が停まった。
おかしい。
今は深夜だ。交通信号機は、点灯していない。
何かのトラブルだ。
「裏切ったわね!」
メラニーが叫んだ。
襲いかかってきた。右手に逆手で持ったナイフで。
顔面に刃先が刺さる直前、右手でつかんだ。ルビー・クールが、メラニーの右手首を。
次の瞬間、エミーリアが、襲ってきた。右ストレート・パンチで。ルビー・クールの顔面を。
左腕で、防いだ。鋼鉄製短剣を仕込んだ部分で。
ギャッと、エミーリアが叫んだ。右の拳を痛めて。
その直後、ヨハナが襲ってきた。胴体タックルだ。
左肘を、打ち下ろした。彼女の後頭部に。
その一撃で、ヨハナは失神した。
メラニーが、ナイフを押し込んできた。右手の上に左手をあて、体重をかけて。
まずい。これは。力負けする。右腕一本では。
左手を右手首にあて、押し返そうとした。
だが、押し返せない。メラニーは立った状態で、体重をかけてくるからだ。
一方のルビー・クールは、座ったままだ。
エミーリアが、ふたたび、殴りかかってきた。
今度は、右のオーバーハンド・ストレートだ。
左の肘を上げた。左手首の位置を変えずに。
左肘に、あたった。エミーリアの右拳が。
次の瞬間、下半身を右側に、ひねった。左足で、蹴った。左から右へと。エミーリアの脇腹を。
応用だ。女工作員ローズの蹴り技の。
次の瞬間、右足で、メラニーを蹴った。つま先で、みぞおちを。
メラニーの腕から、力が抜けた。
その好機を逃さず、彼女の右手から、ナイフをもぎ取った。梃子の原理を応用して。
エミーリアとメラニーは、呻いている。激痛で、腹を抱えて。
あと数秒間は、戦闘不能だろう。
ルビー・クールが、口を開いた。
「何かトラブルが起きたようだから、先頭の馬車へ、様子を見に行くわ」
「そう言って、あたしたちを、引き渡すつもりね。相手は、貴族令嬢を性奴隷にしたいブルジョアか、人身売買で金儲けしているマフィアかしら」
苦々しく、そう吐き捨てた。エミーリアが。右脇腹を、抱えながら。
「そんなこと、しないわ。それより、あなたたち、猟銃は撃てるかしら?」
「そんなこと聞いて、どうするのよ?」
「あなたたちに、猟銃と実弾を、あずけるわ。それに、キッチンナイフと火掻き棒も返すわ」
「なぜ?」
「きまってるでしょ。無産者革命党に見つかったのなら、奴らは大軍で襲いかかってくるわ。生きのびるためには、戦わないと。もし捕まれば、明日の正午には、公開絞首刑よ」
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