絶体絶命ルビー・クールの逆襲<救出編>

蛇崩 通

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第二章 脱出難航で絶体絶命 <第1話>

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  <第二章 第1話>
 ルイーザは、ツインルームに一人で宿泊していた。貴族令嬢たちが七名だったため、無産者革命党が、ツインルームを四部屋用意したからだ。
 もちろん、その目的は、貴族令嬢たちを分断するためだ。貴族令嬢たちが集団で魔法攻撃を行うと、抵抗力が強いことを、初日の攻防で理解したからだ。
 木曜日の深夜、いや、正確には、金曜の午前三時頃だ。
 チンピラ風の男たちが、十名前後、ホテルにやってきた。
 警備にあたっていた無産者革命党の中隊長は、「上からの命令なら、しかたがねえな」と吐き捨て、ルイーザの部屋番号を教え、部屋の合鍵を渡した。
 その十数分後、猿ぐつわを噛まされ、両手両足を縛られた金髪の少女が、荷物のように抱えられて運ばれてきた。ホテルの一階に。
 チンピラたちは、その少女を抱えながら、すぐに出て行った。ホテル前に停車していた輸送馬車に乗って。
 この情報は、ホテル従業員として働く労農革命党のスパイによるものだ。
 拉致したのは、おそらく、マフィアの幹部クレイジー・ドッグの手下だ。
 クレイジー・ドッグと、無産者革命党第一師団長との間で、何らかの取引が行われたのだ。
 ルイーザは、ようするに、マフィアに売られたのだ。
 ヴァレンティーナが、電話を終えて、戻って来た。入れ替わりに、マルガレーテが、電話をかけ始めた。
 ヴァレンティーナが、上から目線で、言い放った。ルビー・クールに対して。
 「あなたの言っていることは、正しかったわ」
 ヴァレンティーナは、両親と話せたようだ。最初に電話に出たのは執事で、次に、父と話した。父の話によると、無産者革命党に支配されている地区は、ルビー・クールの言ったように、南一区の三つのエリアだけだった。南一区では、北東エリアは、無産者革命党の支配が及んでおらず、警察が機能している。そのため、彼女の父も、北東エリアのホテルに移ることを、支持した。
 マルガレーテが、涙ぐみながら、戻ってきた。両親と話せて、ホッとしたのだろう。
 彼女も、まだ十七歳か十八歳の少女なのだ。外見は、大人の美女に見えるが。中級貴族令嬢のため、貫禄もあるが。
 「彼女の言う通りだったわ。北東エリアのホテルに移ることを、勧められたわ」
 決まった。これで。
 そう思ったルビー・クールは、説明を始めた。
 「脱出ルートは、次の通りです。まず、この第五ブロックから北上し、第二ブロックに移動します。第二ブロックまでたどり着けば、安心です。先ほども説明したとおり、第一ブロックから第三ブロックは、善良な労働者がバリケードを作って防衛している地区です。その後、東へ進み、北西エリア第三ブロックから、第一南北大通りを横断し、北東エリア第一ブロックに移動します。その後、南下し、北東エリア第四ブロックの高級ホテルまで行きます」
 そこでエミーリアが、口をはさんだ。不審そうな顔で。
 「北東エリア第一ブロックにも、ホテルがあるでしょ」
 すぐさま、ルビー・クールが反論した。
 「北東エリア第一ブロックにあるホテルは、超がつくほどの高級ホテルです。今回予約した第四ブロックの高級ホテルは、このホテルの四倍ほどの宿泊料金で、高級ホテルの中では、安いほうのホテルです。かかる費用は、すべて、協力者の市民が負担してくれます」
 協力者の市民とは、ダリアのことだ。
 「宿泊費に加え、一日三食の食事代と、その他、雑費についても。ゲートが、開くまでは。たぶん、ボーイ等に渡すチップは、自腹で払ったほうが良いと思います」
 ゲートとは通称で、平民区と貴族区の間にある警察の常設検問所のことだ。帝都大乱以来、すべてのゲートは、閉鎖されている。そのため、貴族区と平民区を行き来することは、できない。
 エミーリアが、押し黙った。不審そうな表情で、ルビー・クールのことを、にらみつけながら。
 ルビー・クールが、説明を続けた。
 「すでに、このホテルの玄関前に、三台の馬車が停まっています。みなさんは、真ん中の馬車に乗ってください。前後の馬車は、護衛の馬車です」
 エミーリアが、口を開いた。ルビー・クールを、にらみながら。
 「あなたは、どの馬車に乗るの?」
 「あたしは、ここに残ります」
 そう言った瞬間だった。
 エミーリアが、叫んだ。
 「あやしいわ! あたしたちを、だまして売り飛ばすつもりでしょ!」
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