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<第一章 第4話>

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  <第一章 第4話>
 エミーリアが叫んだ。
 「電話があるの!?」
 「一階の受付に、あります」
 平然と答えた。ルビー・クールが。
 「平民区は、電話は不通でしょ!」
 「無産者革命党が、そういう嘘を言ったのですね。電話は、通じます。なぜなら、無産者革命党の党員たちは、日雇いの非熟練労働者ばかりなので、地下の電話線を切断する技術も知識も、ないからです」
 帝都では、電話線は、地下に埋設されている。
 亜麻色の髪の少女ヨハナが、涙ぐんだ。他の下級貴族令嬢も、表情が変化した。
 ホッと、したのだろう。自宅に連絡が取れると思って。
 ヴァレンティーナが、尋ねた。上から目線で。
 「あなた、名前は?」
 「ルビーと、お呼びください。平民区でのニックネームです。本名は、学園に戻ってからなら、お教えできます。しかし平民区では、危険なため、お教えできません。もし、あたしの本名に気づいても、平民区では、口にしないでください。電話は、盗聴されます。ホテルの部屋や廊下での会話も、ホテル従業員に聞かれます。そうした情報は、敵に伝わる可能性があります」
 現在のルビー・クールは、金髪のウイッグを装着している。そのため、アレクサンドラ・ハイデルブルグという本名に気づく者は、いないはずだ。二ヶ月前の市長暗殺未遂事件で、ルビー・クールは、重傷を負った市長の応急手当をし、命を救った。その後、貴族向け新聞で、写真入りで報道された。事件のあと、ルビー・クールが花束を持って、入院中の市長を見舞った場面が、報道された。その写真は、市長の選挙運動に利用された。その報道で、一気に、ルビー・クールは有名人になった。
 だが所詮しょせん、新聞に掲載されたのは、白黒写真だ。写真は、それほど大きくなかったし、不鮮明だった。記事の文章では、赤毛の少女、と記されていた。
 そのため、金髪の今なら、本名はバレないはずだ。
 平民区で本名がバレるのは、猛烈に、まずい。
 なぜなら、労農革命党の党員たちは、ルビー・クールのことを、孤児院出身の労農革命党党員だと思い込んでいるからだ。
 労農革命党は、警察からテロ組織として認定されているため、各支部の党員名簿は、分割して保管されており、党の最重要機密だ。そのため、党員同士は、入党する前からの顔見知りをのぞき、お互いに本名を知らない。知っているのは、革命家名だけだ。大きな支部になると、お互いに、同じ支部の所属であることを知らないケースも、めずらしくない。
 ルビー・クールは、十月の市長暗殺未遂事件のとき、南二区で活躍した。今回の帝都大乱では、南三区で活躍した。そのため、労農革命党の党員の間では、ルビー・クールは、家政労働者組合支部の所属だ、という噂が出回っている。別の噂では、貴族のローランド夫人が支援するローランド孤児院出身で、ローランド邸でメイドとして働いているため、労農革命党東区支部の所属とされている。
 東区は、通称、貴族区と呼ばれている。とはいえ、貴族の屋敷で働く平民が多数いる。貴族用の店舗で働く平民の店員も多い。そのため、平民用の商品を扱う商店も、たくさんある。ゆえに、貴族区にも多数の平民が居住しているため、貴族区にも労農革命党の支部がある。貴族区で働く平民は保守的な者が多いため、東区支部の党員数は、平民区と比べるとだいぶ少なく、活動も活発ではないが。
 孤児院出身という設定は、ルビー・クールが作ったものだ。そのうえ、直接接した労農革命党員に、そう思うように誘導した。
 それなのに、もし貴族だとバレたら、労農革命党の党員たちの支持を、一気に失う。協力も、得られなくなる。
 それは、猛烈に、まずい。
 ゆえに、本名はバレてはならない。平民区にいる間は。
 「あやしいわ!」
 エミーリアが叫んだ。
 「やはり、この女は信用できないわ!」
 「落ち着きなさい、エミーリア」
 マルガレーテが、落ち着いた声で、たしなめた。
 「まずは、自宅に、電話をしましょう」
 その一声で、決まった。ルビー・クールを信用するか否かは、電話をかけたあとに判断することに。
 ルビー・クールは、貴族令嬢たちを引き連れて、一階に降りた。
 足早に、受付に近づいた。
 受付の青年が、ニッコリと微笑んだ。
 「うまくいきましたか。同志ルビー……」
 まずい、まずい、まずい。
 彼は、労農革命党員だ。
 バレたらまずい。貴族令嬢たちに。
 ルビー・クールが、労農革命党と関わっていることを。
 バレてしまったら、大変なことになる。
 テロリストに、認定されてしまう。
 ルビー・クールは、心の中で慌てふためいた。
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