絶体絶命ルビー・クールの逆襲<帝都大乱編>

蛇崩 通

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<第四章 第3話>

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  <第四章 第3話>
 装填が完了した。回転弾倉を戻した。
 まだ、空き瓶は飛んでこない。
 一瞬、ホッとした。
 その瞬間、銃声がひびいた。
 視線を向けると、一番右はしの中隊が、発砲したようだ。銃身の長いリボルバーを持った中隊長は、四十メートル近く離れている。
 この距離では、お互いに命中しない可能性が高い。一番端の中隊は、無視することにした。
 はりの右端から、右ななめ前方の中隊と、絞首刑台の正面の中隊に対し、二発ずつ発砲した。その後、梁の中央まで移動し、左前方の中隊に、二発撃ち込んだ。
 六発全弾、撃ち尽くした。
 回転弾倉を開けて、空薬莢からやっきょうを排出した。
 「赤毛の女は、弾切れだぞ!」
 また、ジャン=ジャックが叫んだ。
 だが間髪入れず、ルビー・クールが大声で叫んだ。
 「まだまだ、弾丸はあるわよ!」
 ジャン=ジャックのほうを向き、見せつけるように、右膝をたてた。左膝を梁の上について。
 ロングスカートの右すそを、まくり上げた。太ももの付け根まで。
 弾丸ベルトが二本、現れた。太ももには、白い手製弾丸ベルトが、二本巻かれていた。二本とも十八発入りで、そのうち六発が徹甲弾だ。
 右の太ももだけではなく、左の太ももにも、弾丸ベルトを二本巻いている。左の足首の外側にもホルスターを装着し、三十二口径のリボルバーを収めてある。
 すでに徹甲弾は十二発使ったため、残りは十二発だ。
 十月の市民ホール占拠事件のときは、弾丸ベルトを、左右の太ももに、一本ずつしか巻いていなかった。二挺のリボルバーに装填そうてんしてある弾丸を含めて、身につけていた弾丸数は四十八発。そのため、百五十名のテロリスト相手に、苦労した。そのときの経験を、踏まえることにした。二ヶ月ぶりの平民区への訪問となった今回は、弾丸ベルトを左右二本ずつ巻いておいた。まさか、一万人と戦うはめになるとは、想像もしていなかったが。
 ルビー・クールは、徹甲弾を弾丸ベルトから抜き取り、回転弾倉に詰め始めた。
 ジャン=ジャックは驚愕きょうがくの表情で、怒鳴り散らした。
 「なんなんだ! おまえは! なんでそんなにたくさんの弾丸を身につけているんだ! それに、その弾丸は、なんなんだ! ふつうの威力じゃないだろ!」
 ルビー・クールが、怒鳴り返した。わざと大声で、広場中に聞こえるように。徹甲弾を、装填しながら。
 「知らないなら、教えてあげるわ! この弾丸は、軍用の徹甲弾よ! 貫通力が、ふつうの拳銃弾より、はるかに優れているわ! 人間の身体なんて、何人でも、スパスパと貫通して穴を開けるのよ!」
 ジャン=ジャックが怒鳴り返した。
 「なんでおまえが、そんなものを持っているんだ!」
 「決まってるでしょ! あなたのような悪人どもと、戦うためよ!」
 「我々は悪人じゃない! 我々は革命家だ!」
 「違うわ! あなたたちは、革命家の名をかたるただの犯罪者よ! なぜなら、罪なきおんな子どもまで殺すからよ」
 「罪なら、ある!」
 ジャン=ジャックが声を張りあげた。
 「貴族は我々を抑圧し、資本家は我々を搾取している! ゆえに、貴族や資本家は、おんな子どもであっても殺すべき罪人なのだ!」
 「その話は、聞き飽きたわ! 二ヶ月前の南二区の市民ホールでね!」
 ジャン=ジャックは、絶句した。まさか、ルビー・クールが市民ホール占拠事件の際に、現場に居合わせたとは、思いもよらなかったのだろう。
 「おまえは、人質の生き残りだったのか!」
 「違うわ。あたしが人質を解放したのよ。百五十名のテロリストと一人で戦ってね」
 ジャン=ジャックは、また、絶句した。
 ルビー・クールは、好機と見て、たたみかけた。
 「あなたたちは、もう終わりよ。ここで、あたしに殺されるか、治安出動した帝国陸軍に殺されるか、そのどちらかよ」
 そこで、ひと呼吸置いた。
 大きな声で、叫んだ。広場にいる一万人全員に、聞こえるように。
 「あなたたちも知ってのとおり、帝都防衛軍は五十万人よ! 兵士が所持する歩兵銃の徹甲弾は、あたしの拳銃の徹甲弾より、はるかに貫通力が高いわ! 帝国陸軍が治安出動すれば、あなたたちは皆殺し! 死にたくなければ、帝都から早く脱出したほうが良いわよ!」
 帝都のすぐ隣には、帝国陸軍の中央基地がある。帝都を守る最終防衛部隊のため、通称、帝都防衛軍と呼ばれている。だが実際には、大規模戦争が起きると、十万人を残して、四十万人が戦場に派遣される。そのため、帝都防衛軍という通称は、実態と一致していない。
 法律上は、帝都で警察が収拾できないほどの暴動や革命が発生した場合、帝都防衛軍の一部が、治安出動することになっている。
 とはいえ、帝都防衛軍が治安出動するのは、早くても四日目以降だろう。最初の三日は、警察大臣が、警察力で暴徒を鎮圧しようとするはずだ。三日以内にそれができなければ、帝都防衛軍が治安出動するはずだ。六月のゲート襲撃事件のあと、ある新聞の社説に、そうした予測が論じられていた。
 ジャン=ジャックが怒鳴り散らした。
 「帝都防衛軍の治安出動なんて、そんな話聞いたことがない! ハッタリだ!」
 ルビー・クールも、怒鳴り返した。広場中の男たちに聞こえるように。
 「あなた、法律を知らないの? 帝国の法律では、そうなってるのよ!」
 ジャン=ジャックは、押し黙った。
 ルビー・クールが、たたみかけた。
 「子どもたちを解放しなさい! そうしたら、あなたたちの逃走を黙認するわ」
 数秒間、ジャン=ジャックは沈黙した。考えているのだ。最善の策を。
 ジャン=ジャックが、大声で怒鳴った。広場中に聞こえるような大声で。
 「すべての党員、党友にぐ! 今が、革命のときだ! 革命の狼煙のろしを上げよ! あの赤毛のビッチに、全員で総攻撃だ! ありとあらゆる手段で、攻撃せよ! 赤毛のビッチを殺せ! それが、我々の革命の第一歩だ!」
 ルビー・クールは、広場の群衆に視線を向けた。
 先ほどまでとは、広場の空気が一変していた。
 まずい、まずい、まずい。これはまずい。
 ジャン=ジャックの一喝いっかつで、広場の党員・党友の戦意は、高まってしまった。
 あと一押しで、中央付近の三個中隊は、戦意を喪失して逃げ出すところだったのに。
 ルビー・クールは、心の中で、頭を抱えた。
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