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<第四章 第2話>
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<第四章 第2話>
ほぼ同時だった。引き金を引いたのは。
運が良かった。ルビー・クールには、あたらなかった。頭の近くをかすめたが。頭部のななめ上、半メートルほど先を、敵の銃弾は通過した。
一方、ルビー・クールの放った弾丸は、相手の頭部を撃ち抜いた。
部下たちが口々に、「副隊長」と絶叫した。
副隊長の後方にいた五名の党員が倒れ、絶叫した。
倒れたのは、党員だけではなかった。党員たちの後方にいた党友が三名ほど、倒れて悲鳴をあげた。
これが、徹甲弾の威力だ。
おそらく、副隊長の頭部を貫通した徹甲弾は、そのすぐ後ろにいた男の肩を貫通した。その後方にいた三列目の党員の胸を貫通し、四列目の党員の腹を貫通した。五列目の党員の腰を貫通したあと、六列目の党友の太ももを、そして七列目の党友のすねを貫通し、八列目の党友の足の甲にあたった。完全に見えたわけではないが、そんなところだろう。足に関しては、貫通ではなく、かすっただけかもしれない。
動揺が広がった。正面に陣取る中隊に。突然、多くの負傷者が発生したからだ。
負傷して絶叫している仲間に対し、どう対処していいかさえわからず、皆、オロオロとしている。彼らの中には、応急手当の知識を持った者がいないようだ。出血を止めようとする者も、ほとんどいない。
視線を転じた。左ななめ前方の部隊で、リボルバーの銃口を向けている男がいた。おそらく、中隊の副隊長だ。銃口を向けてはいるが、まだ発砲していない。二十メートル強の距離があるため、慎重に狙いをつけているようだ。
ルビー・クールが、先に発砲した。
命中した。副隊長の頭部に。
その直後、副隊長の左ななめ後方にいた男たちが、一斉に倒れた。悲鳴をあげながら。人数は、七名か八名だ。この徹甲弾は、二十メートル以上の距離があっても、八名前後の人体を貫通できるようだ。
視線を転じた。今度は、右ななめ前方の中隊だ。
発砲した。ルビー・クールが。リボルバーを手にしている男に向かって。
今度も、見事に命中した。男の頭部に。
その男の右ななめ後方の男たちが、悲鳴をあげながら倒れた。数は、八名前後だ。
ルビー・クールのリボルバーには、まだ三発の徹甲弾が残っている。有効に使わなければ。そう思った。
無産者革命党は、極貧テロ組織のため、拳銃の所持数が少ない。そのため、拳銃は幹部しか持てない。しかも、拳銃が一種の権威財となっているため、平の党員は、拳銃を使用することはできない。
中隊長が死亡したあとは、中隊長の所持していた拳銃は、副隊長が使用する。副隊長が死亡すれば、中隊でナンバースリーの地位の者が使用する。ナンバースリーの次には四番目、そのあとは五番目の地位の者が、拳銃を手にするはずだ。
無産者革命党は、すべての人間の平等を主張しているが、党内では、幹部と平の区別があり、幹部間には序列がある。平等と序列が、なぜ矛盾しないのか、外部の人間にとっては、わかりずらい。だが彼らの理論では、矛盾しないようだ。
ルビー・クールは、梁の中央に移動した。左膝を梁の上につき、転落防止のため、左手で梁をしっかりとつかんだ。
正面の中隊を見据えた。中隊長のリボルバーが、次に誰の手に渡るのかを待った。
やせた長身の男が、リボルバーを手にした。
この男が、その中隊でナンバースリーの地位だ。
ルビー・クールは、発砲した。
長身の男は、頭部を撃ち抜かれて、絶命した。
後方にいた男たちが、一斉に悲鳴をあげて、崩れるように倒れた。その数、八名前後。
ルビー・クールは、梁の左手に向かって移動した。左端まで来ると、左ななめ前方の中隊に、発砲した。リボルバーを所持している男を狙って。
一名死亡、八名負傷だ。
今度は、梁の右端まで移動した。
参謀ジャン=ジャックと、その部下百名は、すでに移動していた。絞首刑台の右手側にある出入り口の近くだ。孤児院の子どもたちも引き連れている。アンジェリカは、ジャン=ジャックのそばにいる。
彼らが移動したため、梁の右端からジャン=ジャックまでの距離は、三十メートル強ほどだ。この距離だと、ルビー・クールの射撃の腕では、命中率は五割程度だ。孤児院の子どもたちも近くにいるため、ジャン=ジャックを銃撃するのは、やめておいたほうがいい。
ルビー・クールは、視線を転じた。右ななめ前方の中隊に。
発砲した。リボルバーを手にした男に。頭部を撃ち抜いた。
徹甲弾は、八名ほどの身体を貫通した。負傷者たちが絶叫した。
これで、リボルバーの残弾数はゼロになった。
左膝をたて、右膝を梁の上についた。ロングスカートの左裾を、左膝の上までまくった。白い手製の弾丸ベルトが露出した。左太ももに巻いた弾丸ベルトも、十八発入りだ。そのうち徹甲弾は六発。
回転弾倉を開けて、空薬莢を排出した。
そのとき、ジャン=ジャックが叫んだ。
「赤毛の女は、弾切れだ! 今がチャンスだ! 全員、総攻撃だ! 拳銃を所持している者は撃て! 武器のない者は、瓶や石を投げつけろ!」
まずい、まずい、まずい。先ほどの命令よりも、具体的だ。早く弾丸を装填しなければ。
思わずルビー・クールは焦り、かえって弾丸の装填が遅くなった。
早く、早く、早く。そう思って焦ると、指が震えて、弾丸が弾倉に入らない。
早くしなければ。ルビー・クールは心の中で、悲鳴をあげた。
ほぼ同時だった。引き金を引いたのは。
運が良かった。ルビー・クールには、あたらなかった。頭の近くをかすめたが。頭部のななめ上、半メートルほど先を、敵の銃弾は通過した。
一方、ルビー・クールの放った弾丸は、相手の頭部を撃ち抜いた。
部下たちが口々に、「副隊長」と絶叫した。
副隊長の後方にいた五名の党員が倒れ、絶叫した。
倒れたのは、党員だけではなかった。党員たちの後方にいた党友が三名ほど、倒れて悲鳴をあげた。
これが、徹甲弾の威力だ。
おそらく、副隊長の頭部を貫通した徹甲弾は、そのすぐ後ろにいた男の肩を貫通した。その後方にいた三列目の党員の胸を貫通し、四列目の党員の腹を貫通した。五列目の党員の腰を貫通したあと、六列目の党友の太ももを、そして七列目の党友のすねを貫通し、八列目の党友の足の甲にあたった。完全に見えたわけではないが、そんなところだろう。足に関しては、貫通ではなく、かすっただけかもしれない。
動揺が広がった。正面に陣取る中隊に。突然、多くの負傷者が発生したからだ。
負傷して絶叫している仲間に対し、どう対処していいかさえわからず、皆、オロオロとしている。彼らの中には、応急手当の知識を持った者がいないようだ。出血を止めようとする者も、ほとんどいない。
視線を転じた。左ななめ前方の部隊で、リボルバーの銃口を向けている男がいた。おそらく、中隊の副隊長だ。銃口を向けてはいるが、まだ発砲していない。二十メートル強の距離があるため、慎重に狙いをつけているようだ。
ルビー・クールが、先に発砲した。
命中した。副隊長の頭部に。
その直後、副隊長の左ななめ後方にいた男たちが、一斉に倒れた。悲鳴をあげながら。人数は、七名か八名だ。この徹甲弾は、二十メートル以上の距離があっても、八名前後の人体を貫通できるようだ。
視線を転じた。今度は、右ななめ前方の中隊だ。
発砲した。ルビー・クールが。リボルバーを手にしている男に向かって。
今度も、見事に命中した。男の頭部に。
その男の右ななめ後方の男たちが、悲鳴をあげながら倒れた。数は、八名前後だ。
ルビー・クールのリボルバーには、まだ三発の徹甲弾が残っている。有効に使わなければ。そう思った。
無産者革命党は、極貧テロ組織のため、拳銃の所持数が少ない。そのため、拳銃は幹部しか持てない。しかも、拳銃が一種の権威財となっているため、平の党員は、拳銃を使用することはできない。
中隊長が死亡したあとは、中隊長の所持していた拳銃は、副隊長が使用する。副隊長が死亡すれば、中隊でナンバースリーの地位の者が使用する。ナンバースリーの次には四番目、そのあとは五番目の地位の者が、拳銃を手にするはずだ。
無産者革命党は、すべての人間の平等を主張しているが、党内では、幹部と平の区別があり、幹部間には序列がある。平等と序列が、なぜ矛盾しないのか、外部の人間にとっては、わかりずらい。だが彼らの理論では、矛盾しないようだ。
ルビー・クールは、梁の中央に移動した。左膝を梁の上につき、転落防止のため、左手で梁をしっかりとつかんだ。
正面の中隊を見据えた。中隊長のリボルバーが、次に誰の手に渡るのかを待った。
やせた長身の男が、リボルバーを手にした。
この男が、その中隊でナンバースリーの地位だ。
ルビー・クールは、発砲した。
長身の男は、頭部を撃ち抜かれて、絶命した。
後方にいた男たちが、一斉に悲鳴をあげて、崩れるように倒れた。その数、八名前後。
ルビー・クールは、梁の左手に向かって移動した。左端まで来ると、左ななめ前方の中隊に、発砲した。リボルバーを所持している男を狙って。
一名死亡、八名負傷だ。
今度は、梁の右端まで移動した。
参謀ジャン=ジャックと、その部下百名は、すでに移動していた。絞首刑台の右手側にある出入り口の近くだ。孤児院の子どもたちも引き連れている。アンジェリカは、ジャン=ジャックのそばにいる。
彼らが移動したため、梁の右端からジャン=ジャックまでの距離は、三十メートル強ほどだ。この距離だと、ルビー・クールの射撃の腕では、命中率は五割程度だ。孤児院の子どもたちも近くにいるため、ジャン=ジャックを銃撃するのは、やめておいたほうがいい。
ルビー・クールは、視線を転じた。右ななめ前方の中隊に。
発砲した。リボルバーを手にした男に。頭部を撃ち抜いた。
徹甲弾は、八名ほどの身体を貫通した。負傷者たちが絶叫した。
これで、リボルバーの残弾数はゼロになった。
左膝をたて、右膝を梁の上についた。ロングスカートの左裾を、左膝の上までまくった。白い手製の弾丸ベルトが露出した。左太ももに巻いた弾丸ベルトも、十八発入りだ。そのうち徹甲弾は六発。
回転弾倉を開けて、空薬莢を排出した。
そのとき、ジャン=ジャックが叫んだ。
「赤毛の女は、弾切れだ! 今がチャンスだ! 全員、総攻撃だ! 拳銃を所持している者は撃て! 武器のない者は、瓶や石を投げつけろ!」
まずい、まずい、まずい。先ほどの命令よりも、具体的だ。早く弾丸を装填しなければ。
思わずルビー・クールは焦り、かえって弾丸の装填が遅くなった。
早く、早く、早く。そう思って焦ると、指が震えて、弾丸が弾倉に入らない。
早くしなければ。ルビー・クールは心の中で、悲鳴をあげた。
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